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第1部 特集 ICTがもたらす世界規模でのパラダイムシフト
第2節 ICTのさらなる利活用の進展

(3) 教育におけるICT活用事例

教育分野におけるICT利活用の推進には、授業の双方向性を高め、児童生徒の主体性、意欲・関心や知識・理解を高める等の効果があるという特徴があり、特に、ICTを活用した授業は活用しない授業と比較して、学力が向上することが指摘されている。教育の情報化は世界最高水準のICT国家実現の基盤となるものであり、我が国の次世代を担う子どもたちが、早い段階からICTに親しみ、情報活用能力を向上させ、新しい知的価値、文化的価値を創造できる21世紀型の社会を構築することが重要である。

教育におけるICT利活用に関して、総務省では、平成22年度から小学校10校を対象に、さらに、平成23年度からは中学校8校、特別支援学校2校を加え、全児童生徒に1人1台のタブレットPC、全ての普通教室への電子黒板の配備、無線LAN環境等によるICT環境を構築し、モデルコンテンツの開発等を行う文部科学省「学びのイノベーション事業」と連携して、情報通信技術面の検証を行うフューチャースクール推進事業を平成25年度まで行った(図表4-2-3-18)。

図表4-2-3-18 「フューチャースクール推進事業」及び「学びのイノベーション事業」のスケジュール
(出典)総務省「教育分野におけるICT利活用推進のための情報通信技術面に関するガイドライン(手引書)2014」

一方、大学教育でのICT利活用については、欧米を中心に、オンライン講座を幅広く公開し、修了認定を行うMOOCs(Massive Open Online Courses)と呼ばれる取組が始まっており、我が国も進めている。

以上の背景に加え、教育分野で重要な役割を担う地方公共団体のICT利活用のアンケートの結果を示しつつ、本項では我が国における教育でのICT活用の動向について先進的な事例を紹介する。

ア 教育についての地方公共団体アンケートの結果

教育分野についての地方公共団体アンケートの結果では、現状では運営又は参加・協力している取組として、「電子黒板・デジタル教科書」(69.5%)、「デジタルミュージアム等による地域文化振興」(20.5%)、「学校間の遠隔教育」(8.9%)が挙げられている。また、現状との比較で今後実施する予定又は検討している取組を見ると、「eラーニングによるICTリテラシー向上」(4.9%)が目立つ(図表4-2-3-19)。

図表4-2-3-19 教育についてのアンケートの結果
(出典)総務省「地域におけるICT利活用の現状に関する調査研究」(平成26年)
「図表4-2-3-19 教育についてのアンケートの結果」のExcelはこちらEXCEL / CSVはこちら

「電子黒板・デジタル教科書」、「学校間の遠隔教育」の結果が高く出ていることについては、平成22年度からの総務省「フューチャースクール推進事業」、平成23年度からの文部科学省「学びのイノベーション事業」の実施以降、小学校、中学校を中心とした学校教育において、こうした取組が積極的に行われていることとの関連が考えられる。なおICTリテラシーに関しては、第6章第3節中の「電気通信サービスに関する消費者行政」にある「地域における青少年の安心・安全な利用環境の整備」を参照されたい。以下先進的な事例の紹介を行う。

イ ICT利活用の先進的な事例
(ア)タブレット端末の教育利用の広がり(スマイルゼミ)

フューチャースクール推進事業等を背景に、学校におけるタブレット端末の教育への利用が注目されるようになり、タブレット端末等の一般家庭への普及が進みつつあることを踏まえて、フューチャースクール推進事業の成果を元に一般サイトでタブレット端末用教材を公開する取組や、民間事業者によるタブレット端末での家庭学習サービスが広がっている。民間サービスでは、市販のタブレット端末への教材提供型や専用タブレット端末型等があり、専用タブレット端末型についてソフトウェアベンダの株式会社ジャストシステムの「スマイルゼミ」を取り上げる(図表4-2-3-20)。

図表4-2-3-20 スマイルゼミ
(出典)総務省「ICTの進化がもたらす社会へのインパクトに関する調査研究」(平成26年)

同社では、平成24年12月より小学生向け、平成25年12月より中学生向けにタブレット端末使用の家庭学習サービスを提供している。同社では以前から小学校向け学習・授業支援ソフトを展開してきたが、この取組を通じて近年の家庭学習重視の傾向を捉えたことと、一般家庭へのタブレット端末普及とがサービス開始の契機となった。

小学生向け講座は、学校の授業の予復習用の教材を提供し、中学生向けには、予復習への対応に加えて、学力向上を目的とした定期テスト対策や入試対策の教材を提供している。タブレット端末では、紙と異なり間違えた問題を何度も解くことができる。また、たとえば小学生コースでは算数の展開図を様々な角度から確認するなど実際に動かしながら理解することができる教材も可能であり、英語でもネイティブスピーカーの音声を確認しつつ学習ができる。タブレット端末の起動時間の短さは、すぐ勉強できる環境づくりに有効だった。ただし市販品ではネット閲覧やアプリ等に利用される可能性があり、学習に専念できるよう自社で専用端末を開発した。

同社は教材も自社開発し、同社のクラウドから問題が配信され、回答時間等も含めた生徒の回答結果等はクラウドに送信・蓄積される。この仕組みは自社教材の改善にも有効だが、成績等の個人情報の流出防止のためにセキュリティ面にも配慮したシステムを構築した。中学生向けの定期テスト対策では、テスト予定やテスト範囲を入力すると、それまでの履修結果とチェック用のテストの結果とを元に生徒の得意不得意がシステムで判断され、パーソナライズされた教材が提供される。小学生向け講座では、学習終了後に保護者にメール通知がされ、保護者のコメントが生徒に送信される。中学生向け講座では、保護者が自由に学習履歴を確認できる。保護者向けアンケートでは「子どもの学習効果があった」という回答は90%に上った。

(イ)日本の大学におけるMOOCsへの取組(東京大学)

オンライン講座を幅広く公開し修了認定を行うMOOCsでは、CouseraやedX等の欧米発の主要なプラットフォームがあり、我が国の大学からの参加も始まっている20。東京大学では2013年(平成25年)9月から、「From the Big Bang to Dark Energy21(宇宙物理学)」と「Conditions of War and Peace22(国際政治学)」をCourseraで開講した(図表4-2-3-21)。

図表4-2-3-21 Conditions of War and Peaceの画面
(出典)東京大学

講義は、各週10分の講義ビデオ×8〜10本の4週間分で構成され、受講者には宿題として選択式のクイズや演習問題、エッセイ作成が課された。各週の宿題の正答率と最終試験の結果による最終成績で6割以上の者に、講師のサイン付きのCourseraの履修証を発行している。宇宙物理学では、144の国と地域から48,406名が参加登録をし、3,754名が修了証を獲得した。国際政治学では、158の国と地域から32,285名が参加登録をし、1,629名が修了証を獲得した。大学独自のアンケート調査では、米国、インド、英国、ヨーロッパ諸国、ブラジル等からの参加者があり、8〜80歳が受講していた(図表4-2-3-22)。

図表4-2-3-22 東京大学のMOOCs講座の参加者の内訳
(出典)東京大学

2講座合計で同大学の学生数の2〜3倍相当の人間にリーチでき、修了生は留学生以上の人数になった。結果、①大学の国際的な広報、②全世界の希望者が受講可能になったこと、③国内地方都市の希望者に学習機会を提供することが実現できた。同大学では、今後についてはCourseraで新たな講座を開く予定であり、edXへの参加も発表している。我が国独自のMOOCsプラットフォームの構築については、株式会社NTTドコモとNTTナレッジ・スクウェア株式会社が共同で推進するgaccoが、JMOOC(日本オープンオンライン教育推進協議会)の公認を受けて平成26年4月から開講している。クイズやレポートを提出し所定の基準を満たすと講師から修了証が授与され、大学の単位、公的資格等を証明するものではないが、頑張ったことを認めてもらう喜びが得られるようになっている。

(ウ)反転授業とMOOCs

説明型の授業をオンライン教材にして事前学習の宿題にし、従来説明型の授業後の宿題にされていた演習や応用課題を教室の対面で行うという、反転授業(反転学習)が近年注目されている。この反転授業を大学でする際、MOOCsを活用して他大学の授業コンテンツを使う事例が近年見られる。

米国のサンノゼ州立大学ではMITがedXで提供している講座を用いて反転授業を導入した結果、通常授業では59%しか単位を取ることができていなかった必修科目において91%の学生が単位を取得することができた23。日本のMOOCsのプラットフォームであるgaccoでも、一部の講座でオンライン講座と対面授業を組み合わせた反転授業コースを提供している。東京大学の本郷和人教授の「日本中世の自由と平等」の講座で「反転学習コース」の受講者を募集したところ、定員を超える応募があり、大学レベルの講座に挑戦したいという学習意欲を持つ高校生からの応募もあった。

(エ)日本での教育への3Dプリンターの活用(さわれる検索)

3Dプリンターとは3Dのデータから立体を造形するプリンターであり、工業だけでなく教育や研究での利用も進んでおり、教育への3Dプリンターの活用での国内外の事例を紹介する。

日本の事例では、検索サイト運営企業のヤフー株式会社では、音声認識したキーワードを3Dプリンターで立体物として生成し、視覚障害のある児童生徒による物の形状の理解を支援するために学校に設置する取組を平成25年9月から行った。同社では、音声入力で認識したキーワードから3Dデータをデータベースから検索し、3Dプリンターで立体物を生成する「さわれる検索マシン」を開発し、筑波大学附属視覚特別支援学校に試験的に設置した(図表4-2-3-23)。

図表4-2-3-23 さわれる検索マシンと児童
(画像提供)ヤフー株式会社
(出典)総務省「地域におけるICT利活用の現状に関する調査研究」(平成26年)

初期に蓄積されたデータは110種類であり、児童生徒が希望したものが見つからなかった場合には、ネット上で不足分を募集し、データを集める仕組みを準備した。使用した機器は同年11月に筑波大学に寄贈されたが、その後は別の盲学校に貸出されて特別体験授業が行われた。平成26年3月のプロジェクト終了に伴い、「さわれる検索」アプリはソースコード共有コミュニティサイトGitHubでオープンソース化し、同社が権利を保有する3Dデータ140点は、3DプリンターメーカーMakerBot社の運営する海外の3Dデータ共有サイトThingiverseで公開された。

これらの取組を通じて、視覚障害のある児童生徒による物の形状の理解を支援するための授業の方法が試行され、さらには、音声認識の使用により、視覚障害だけではなく、言語や聴覚に障害のある人に音声言語を正しく使えるようにするための教育などへの展開が考えられるようになった。

(オ)文化財のデジタル化による地域文化の振興(秋田県)

各地でデジタルミュージアム等による地域文化振興が進められているが、秋田県では平成24年10月に県立図書館が中心となって「秋田県デジタルアーカイブシステム」が構築された。現在では秋田県内の県立図書館、県立近代美術館、県立博物館、県埋蔵文化財センター、県公文書館、あきた文学資料館が参加しており、約60万件の資料を横断検索できるサイトが利用可能になった。システムを通じ、県指定有形文化財の絵図等を、パソコン、タブレット端末、スマートフォン等から閲覧することが可能である。平成26年3月には県立公文書館の古文書絵図約700点の画像データが追加され、絵図の内容がより充実した。

アーカイブシステムはクラウドを採用しており、災害対策も強化されている。またアーカイブシステムに参加する県立図書館では電子書籍閲覧用のスマートフォンアプリを提供しており、通常の電子書籍に加えて、菅江真澄遊覧記といった絵図を自由にスクロール、拡大・縮小して閲覧できるようになっている(図表4-2-3-24)。

図表4-2-3-24 秋田県立図書館のスマートフォンアプリ
(出典)秋田県立図書館オープンライブラリー利用画面
(カ)今後について

世界最先端IT国家創造宣言では、2010年代中にはすべての小学校、中学校、高等学校、特別支援学校で教育環境のIT化を実現するとともに、学校と家庭がシームレスでつながる教育・学習環境を構築することとしている。

総務省では、平成26年度からは、教育情報化の全国展開を念頭に、学校・家庭のシームレスな教育・学習環境を実現するため、クラウド等の最先端技術を活用した、多種多様な端末に対応した低コストの教育ICTシステムの実証を「先導的教育システム実証事業」として行う予定である。また、世界最先端IT国家創造宣言では、教育でのICT利活用において、3Dプリンター等の将来を展望した技術を学生が習得できる環境について記載されている。

こうした動向について、本項で取り上げた事例が参考になると考えられるところであり、その他の事例についても今後の参考として重要になるものと見込まれる。



20 主要なMOOCsプラットフォーム等については第1章第3節2.(MOOCs)を参照のこと。

21 カブリ数物連携宇宙研究機構 村山斉機構長、2013年9〜10月に実施。

22 大学院政治学研究科 藤原帰一教授、2013年10〜11月に実施。

23 東京大学大学院情報学環・反転学習社会連携講座セミナー第1回「MOOCと反転授業で変わる21世紀の教育」(2013年10月23日開催) http://flit.iii.u-tokyo.ac.jp/seminar/001-2.html別ウィンドウで開きます

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