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第1部 特集 ICTがもたらす世界規模でのパラダイムシフト
第3節 我が国ICT産業の国際競争力強化に向けた方向性

(2) ICT企業における方向性

我が国ICT事業者における現在の海外展開の状況については、ソフトウェア業は2割強、SIer/情報サービス業、通信業は4割弱が海外展開を行っている9。また、情報通信機器業、電気機器業、精密機器業などは約6割が海外展開を行っており、いわゆる製造業ほど海外展開を積極的に行い、全レイヤー通じて現地法人を設置した展開を行っている状況である(図表2-3-2-29)。

図表2-3-2-29 ICT産業別の現在の海外展開状況
(出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略に係る成功要因及び今後の方向性に関する調査研究」(平成26年)
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一方で、海外展開の手法や目的については、全てのレイヤーにおいて最も多い手法は単独事業、すなわち自社による展開が多い結果となったが、通信や情報通信機器、電気機器等の分野では合併や企業買収、業務委託等の手法も取られる傾向が伺える。また、目的については、事業拡大・市場の拡大が全レイヤー通じてトップであるが、情報通信機器、電気機器、精密機器等の分野において、コスト低減、販路・技術・人材の獲得といった目的が上位レイヤーに比べ相対的に高い傾向を示し、安い人件費や海外の優秀な技術・人材・販路を志向している状況が見てとれる(図表2-3-2-30)。

図表2-3-2-30 現在の海外展開手法と展開目的
(出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略に係る成功要因及び今後の方向性に関する調査研究」(平成26年)
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現在の海外展開国については、中国及び米国が全業種共通で高い傾向を示し、全般的に情報通信機器や電気機器が複数の地域に海外展開をしており、ソフトウェア産業は中国及び米国に限られる状況にある。また、データセンター事業も含まれるSIer/NIer・情報サービスはタイやシンガポール、マレーシアといったASEAN地域への展開が相対的に高い傾向が見られる(図表2-3-2-31)。

図表2-3-2-31 現在のICT分野別海外展開状況
(出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略に係る成功要因及び今後の方向性に関する調査研究」(平成26年)
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また、現在最も重視している国や地域を聞いてみたところ、1位に中国、2位に米国が入り、共に突出して回答が多く図表2-3-2-31と同様の結果となり、3位にインド、4位以降ではタイ、ベトナム、シンガポール、インドネシア等のASEAN諸国が入ってくる。一方、今後最も有望視している国や地域については、前述では3位であったインドが1位に入り、3位にベトナム、4位にブラジル、5位にミャンマーが入っており、多くのICT企業が今後の成長性が見込まれるアジアASEAN地域を志向していることがうかがえる(図表2-3-2-32)。

図表2-3-2-32 現在最も重視している国と今後有望視している国
(出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略に係る成功要因及び今後の方向性に関する調査研究」(平成26年)
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さらに、今後有望視する理由を尋ねたところ、米国に加えインド・中国・ブラジルについては過半数の回答者が「市場規模が大きい」と答えており、多くの人口を抱えていることによるこれら地域の市場の広さを期待しているものと考えられる。一方で、ベトナム、ミャンマー、インドネシア、タイ、シンガポールのASEAN諸国においては「市場の成長性が高い」が最も多く、今後の高い成長性に期待する意見が多い。また、ミャンマー及びベトナムについては「人件費が安い」も一定数の回答者がいることも特徴的である(図表2-3-2-33)。

図表2-3-2-33 各地域における海外展開理由
(出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略に係る成功要因及び今後の方向性に関する調査研究」(平成26年)
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加えて、これらの国や地域の国籍企業に対する認識を「競合国」か「協調国・連携国」どちらで認識しているか、現状と2020年の見通しの2つの観点で聞いてみたのが図表2-3-2-34である。

図表2-3-2-34 海外企業に対する現在と2020年における競合・協調認識10
(出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略に係る成功要因及び今後の方向性に関する調査研究」(平成26年)
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これをみると米国企業は競合でもあり協調でもあると答えており、これは全レイヤーともに現状でも2020年でも同様の傾向であった。韓国企業においては、端末レイヤーのみ競合・協調が共に高く、当該企業に対する意識が強いことがうかがえ、中国企業においては、競合意識がやや強い傾向となった。

一方で、インド・ASEAN諸国の企業は現状より2020年において競合・協調意識が高まる傾向にあり、前述の高い市場の成長性に伴い、今後留意すべき技術力や競争力を持った企業が、当該地域において増えていくことを、我が国企業が意識しているものと考えられる(図表2-3-2-34)。

また、2020年頃を意識した上で今後の国内投資と、国内雇用の見通しを聞いてみたところ、現在海外展開を行っている企業も行っていない企業も、約3割の企業が拡大する意向を示し、縮小の約1割に比べ海外展開を志向している結果となった。また、国内雇用についても4分の1の企業が今後も拡大傾向を示し、こちらも縮小傾向の1割台より多い結果となった(図表2-3-2-35)。

図表2-3-2-35 我が国ICT産業における国内投資と国内雇用見通し
(出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略に係る成功要因及び今後の方向性に関する調査研究」(平成26年)
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加えて、2020年時点の海外展開手法の見通しを聞いてみたところ、約3割が輸出の増加を回答しており、海外企業における直接投資も同業種への投資を中心に拡大見込みであると回答があった。さらに、この拡大と答えた回答者において前述同様に国内投資、国内雇用の見通しを聞いてみたところ、前者は4割弱、後者は3割強の回答者が拡大すると回答しており、海外展開を促進することに伴い国内投資や国内雇用も増加すると考える企業が多いことがうかがえる結果となった(図表2-3-2-36)。

図表2-3-2-36 国内投資・国内雇用見通し(海外展開を拡大すると答えた回答者)
(出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略に係る成功要因及び今後の方向性に関する調査研究」(平成26年)
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また、日本のICT産業の国際展開や国際競争力強化が進んだ場合の国内雇用への影響について尋ねたところ、全体的にプラスの効果があるとの評価が得られた。特にICTサービスや通信・通信機器、上位レイヤーでその傾向が強いことが示されている。一方、端末分野については、マイナス効果を示す回答比率が高いことも指摘された。これは製造業を中心に低廉な人件費やより消費地に近い場所での生産など拠点の最適化が進められることが背景にあると考えられる(図表2-3-2-37)。

図表2-3-2-37 国際展開が進んだ場合の国内雇用見通し
(出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略に係る成功要因及び今後の方向性に関する調査研究」(平成26年)
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これら海外展開については、①インターナショナル型(輸出型)、②グローバル型(世界統合型)、③マルチナショナル型(現地完結型)、④トランスナショナル型(世界最適型)の4つの形態に分類することができる(図表2-3-2-38)。

図表2-3-2-38 国際展開形態のモデル
(出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略に係る成功要因及び今後の方向性に関する調査研究」(平成26年)
  • 1つ目のインターナショナル型は、基本的に国内の製品・サービスをそのまま海外に輸出するモデルであり、従来の日本型輸出モデルが相当する。
  • 2つ目のグローバル型は、Google、Apple、Facebook、Oracle等の米国企業に代表されるように、世界共通の製品やサービスを規模の経済を武器に展開するモデルである。国内本社が経営をリードし、世界共通の価値を提供する傾向が強く、海外支社はそれに従って事業を行う。
  • 3つ目のマルチナショナル型は多国籍企業とも呼ばれており、各国・地域の市場に適応した製品やサービスを独立性の高い当該国・地域の支社が中心になって提供するもので、特に現地化の重要性が高い製品やサービスを提供する企業に相当するモデルである。
  • 4つ目のトランスナショナル型は本社と海外支社が機能を最適配置することによって、1社のように機能するモデルのことであり、ICT産業ではIBMがこの形態を採用している。

これらを踏まえ、我が国のICT事業者に現状および今後の将来目標を聞いてみたところ、現状ではインターナショナル型を主としている回答が多かったほか、端末レイヤーにおいてはグローバル型の比率も高く、現在でも世界共通の製品を志向している状況にある。

対して、将来への目標については全体的にトランスナショナル型への志向が強い傾向となった。またレイヤー別に見ると端末レイヤーが特にその傾向が強く、当該レイヤーを中心に事業環境の変化などを踏まえてリソースを最適配置しつつ、現地ニーズを踏まえた柔軟な市場展開が必要との認識が強いことがうかがえる(図表2-3-2-39)。

図表2-3-2-39 日本企業の将来目標
(出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略に係る成功要因及び今後の方向性に関する調査研究」(平成26年)
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また、我が国のICT企業が目指すべき方向性としては、「海外展開を促進して、今後の国内市場を維持する・活性化させるべき」、「新たな成長市場をいち早く獲得していくべき」の回答が特に多く、「企業規模を拡大していくべき」等の回答も多かった。これらのことからも、多くのICT企業が規模を拡大し、新しい成長市場に展開することが国内市場の維持・活性化にもつながることを認識していることが示唆される(図表2-3-2-40)。

図表2-3-2-40 今後の海外展開における方向性
(出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略に係る成功要因及び今後の方向性に関する調査研究」(平成26年)
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最後に、海外展開及び国際競争力強化における注目領域(重点領域)を尋ねたところ、世界共通展開重視、地域別展開重視のそれぞれの観点から以下に示すような結果となった(図表2-3-2-41)。

図表2-3-2-41 ICT各分野における海外展開の方向性
(出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略に係る成功要因及び今後の方向性に関する調査研究」(平成26年)
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食料・ITS・スマートタウン/インフラ・医療ヘルスケア等のICT利活用産業、及び4K/8K及びスマートテレビ・スマート家電・ウェアラブル等の次世代端末分野については、特定の地域に重視する展開を志向しており、セキュリティ、クラウド、データセンター、SDN/NFV、センサーネットワーク等のICTサービス分野及び、モバイルブロードバンド等の通信分野については、世界共通での展開が志向されている。

これら海外展開の方向性を地域別にみてみると、特に前述のスマートタウン/シティ及びスマートインフラ、食料・農業、医療ヘルスケア、防災等のICT利活用分野はASEAN地域が高く、同地域は固定ブロードバンドも高い傾向になった。

また、4K/8Kやスマートテレビ、スマート家電、ウェアラブル・ロボットなど次世代デバイス分野については米国が高い傾向にあるなど期待の高さがうかがえ、ITS/自動走行は米国に加えて欧州も顕著に高い傾向となり、後述第4章第1節でも述べるコネクティッドカー等に代表されるように自動車産業が盛んな背景もうかがえる(図表2-3-2-42)。

図表2-3-2-42 ICT各分野における海外展開の方向性(地域別)
(出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略に係る成功要因及び今後の方向性に関する調査研究」(平成26年)
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9 総務省アンケート調査(調査手法は本節*3参照)

10 横軸は当該国籍の企業に対する認識が「競合」と答えた回答者の比率であり、縦軸は「協調・連携」と答えた回答者の比率である(右下ほど競合認識が強く、左上ほど協調・連携認識が強いことを示す)

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