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第2部 情報通信の現況・政策の動向
第2節 情報通信政策の展開

(3) 電波利用環境の整備

ア 生体電磁環境対策の推進

総務省では、電波の人体への影響に関する調査を実施し、人体の防護のため、電波法令により国際ガイドラインと同等な電波の強さの安全基準を定めている29。これまでの調査・研究では、この安全基準を下回るレベルの電波と健康への影響との因果関係は確認されていないが、今後も科学的に安全性の検証を積み重ねていくことが重要であることから、総務省では、継続的に電波の安全性評価を行っていくこととしている。

この安全基準のうち、携帯電話端末のように、頭のすぐそばで使用する無線機器に対しては、人体側頭部における比吸収率(SAR:Specific Absorption Rate30)により電波の許容値を規定してきたが、今般、スマートフォンやタブレット端末など、側頭部以外の人体の近くで使用する無線機器が一般的なものとなっていることから、当該許容値の規定の対象範囲をそれらの無線設備にも拡大すべく、情報通信審議会からの「人体側頭部を除く人体に近接して使用する無線機器等に対する比吸収率の測定方法」についての一部答申(平成23年10月)31や電波監理審議会の省令改正についての答申(平成25年7月)32を受け、無線設備規則等の一部の改正を行った(平成25年8月23日公布、平成26年4月1日施行)。

また、近年における動向として、電波防護に関する国際的なガイドラインである国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP:International Commission Non-Ionizing Radiation Protection)の「時間変化する電界、磁界及び電磁界によるばく露を制限するためのガイドライン」(平成10年4月)が、低周波電磁界領域について平成22年11月に改訂された。「生体電磁環境に関する検討会」においても、最新のICNIRPのガイドラインを踏まえた電波防護指針の在り方についての検討の必要性が提言されている。

これらを踏まえ、総務省では、関連の国際的な検討動向や電波利用状況の変化等を踏まえた電波防護指針の在り方について、平成25年12月に情報通信審議会へ諮問33を行った。現在、検討が行われており、平成26年12月頃に一部答申がなされる予定である。

また、近年、スマートフォン等の無線端末によって高速かつ大容量通信を可能とするサービスが開始されており、新たな無線通信方式であるLTEによる無線サービスが急速に普及している。そのため、総務省は、平成24年度における電波の植込み型医療機器に与える影響に関する調査として、LTE方式の携帯電話について影響測定を実施した。現在使用されている植込み型医療機器の中から選定した25台(植込み型心臓ペースメーカ13台、植込み型除細動器12台)を対象に、スクリーニング測定(携帯電話端末実機よりも厳しい条件)を経た上で携帯電話端末実機を用いた影響測定を実施したところ、影響の発生は確認されなかった。これを踏まえ、総務省は、平成25年12月に「各種電波利用機器の電波が植込み型医療機器へ及ぼす影響を防止するための指針」を改訂し、その対象をLTE方式の携帯電話端末にも拡張し、携帯電話端末と植え込み型医療機器との離隔距離を15cm程度にするといった、従来の携帯電話に関する指針を適用することとした34

同様に、近年利用が拡大しているスマートフォン等の無線端末の中には、一台の端末内に携帯電話と無線LANなどの複数種類の電波を備え、同時に放射する機能を有するものが少なくないため、平成25年度には、携帯電話(W−CDMA方式)と無線LAN(IEEE802.11n方式)の電波が同時に端末から発射されたときの植込み型医療機器への影響について、実機による影響測定を実施した。現在使用されている植込み型医療機器の中から選定した30台(植込み型心臓ペースメーカ14台、植込み型除細動器16台)を対象に、スクリーニング測定を経た上で、携帯電話端末実機を用いた影響測定を実施したところ、影響の発生は確認されなかった。これを踏まえ、総務省は、平成26年5月に「各種電波利用機器の電波が植込み型医療機器へ及ぼす影響を防止するための指針」について、指針の対象の「携帯電話端末」にはスマートフォン等の無線LANを内蔵した携帯電話端末も含むことを明確にする改訂を行った35

また、現在医療機関における携帯電話等の使用については法的規制が無く、各医療機関において独自のルールが定められている。近年の携帯電話等及び医療機器の性能向上により、医療機器から一定の距離を確保する等の安全対策等を行うことを前提に、医療機関内においてさらに電波利用機器の活用を推進することが可能であることから、各医療機関においてICT機器の積極的活用を図ることが望ましいと考えられる。

こうした状況を踏まえ、電波環境協議会に有識者、関係団体や総務省、厚生労働省等から構成される「医療機関における携帯電話等の使用に関する作業部会」が設置され、医療機関内での携帯電話等の使用の在り方に関する指針の作成に向け、検討が開始されることとなった。平成26年1月に第1回会合が開催36されたところであるが、今後は、同年夏頃を目途に報告書や指針を策定・公表し、国内外へ積極的に周知を図っていく予定である。

イ 電磁障害対策の推進

各種電気・電子機器等の普及に伴い、無線利用がこれらの各種機器・設備から発せられる不要電波に対する電磁的な妨害対策が重要となっている。

総務省では、情報通信審議会情報通信技術分科会に設置された「電波利用環境委員会37」において調査・検討が行われ、国際無線障害特別委員会(CISPR:Comité International Spécial des Perturbations Radioélectriques)における国際規格の審議に寄与するとともに、国内における規格化に向けた取組の推進等を通じて、不要電波による無線通信システムへの妨害や電気・電子機器への障害の防止等を図っている。

平成26年3月には、情報通信審議会において、CISPRの諸規格のうち、「工業、科学及び医療用装置からの妨害波の許容値及び測定法」を国内規格として採用する場合の技術的諸問題について審議を行い、電子レンジ、電磁誘導加熱式調理器(IH調理器)、超音波洗浄機、超音波加工機及び超音波ウェルダー等の技術的条件について、電源端子妨害波電圧による許容値の導入、磁界強度による許容値の適用、測定距離や電界強度の許容値の見直し等に関する一部答申を受けた。

近年、世界的なエネルギー問題等に対応したスマートコミュニティや持続可能な車社会の実現に向け、家電製品や電気自動車等において、無線技術により迅速かつ容易に充電することを可能としたワイヤレス電力伝送システムを導入するニーズが高まってきている。この導入にあたっては、システムが他の無線機器への混信を与えた場合の社会への影響が大きいことや、人体への安全性が確保されることを十分に考慮する必要がある。そのため、平成25年6月、情報通信審議会情報通信技術分科会の電波利用環境委員会の下に、「ワイヤレス電力伝送作業班38」を設置し、他の無線機器との共用及び電波防護指針への適合性等について検証した上で、システムから放射される漏洩電波の許容値や測定法等の技術的条件の検討を行っており、平成26年7月目途で答申がなされる予定である。

ワイヤレス電力伝送システムの実用化には、漏えい電波を低減する技術等の研究開発を促進する必要があるが、従来、高周波利用設備の制度においては、実験を目的とした設備の漏えい電界強度の許容値の緩和措置が広帯域電力線搬送通信設備に限定されていた。

こうした状況を踏まえ、総務省は、平成25年12月、関係省令及び告示を一部改正し、高周波利用設備においてワイヤレス電力伝送システムが含まれる各種設備の許容値を、漏えい電界強度の低減技術の検証その他の実験用に限り、工業用加熱設備と同等の値とするなど、ワイヤレス電力伝送システムの実験の実施を推進した。

ウ 無線機器の信頼性確保

技術基準適合証明等は、無線設備が電波法に定める技術基準に適合している旨の証明であり、当該証明を取得することにより、免許手続きが不要となったり簡略化される制度である。

近年の技術の進展に伴い、無線設備のモジュール化やチップ化が進み、技術基準適合証明等を取得した設備を組み込んだロボット掃除機などの製品が数多く製造・販売されている。

現状では、モジュール化された設備を対象に技術基準適合証明等を取得していることから、当該証明等を取得したことの表示である技適マークは、モジュール化された設備に付すこととなりモジュールを組み込んだ製品の外観には付されず、利用者が直接的に技適マークを確認できないことが課題となっていた。

総務副大臣主催の「電波の有効利用の促進に関する検討会」(平成24年4月〜12月)において、利用者が製品の外からも技術基準への適合性を確認でき、安心して製品を使用可能とするため、技術基準適合証明等を受けた無線モジュールを組み込んだ製品の外観に、内蔵されている無線モジュールに付されている技適マークを転記することを可能とすることの必要性が指摘された。

また、スマートフォンの普及等に伴い、携帯電話端末の液晶パネル・外装等を交換するニーズが増加している中で、製造業者等以外の第三者である修理業者が携帯電話端末等の修理や交換を行おうとする場合、「変更の工事」に該当しない範囲内であるか明確でないため技術基準適合性の表示を維持したまま修理可能か判断できないという問題が、「電波有効利用の促進に関する検討会 報告書(平成24年12月)」や「携帯電話修理事業連絡会 要望書(平成25年11月)」において指摘されている。

これらの検討を踏まえ、総務省は、①「技術基準適合証明」等の表示の転記を認める規定、②総務大臣に登録を行った修理業者が、修理の適切性を自己確認し、技術基準への適合性を表示可能とする、第三者による携帯電話端末等の修理に係る規定等を盛り込んだ電波法の一部を改正する法律案を平成26年2月に国会に提出し、同年4月に成立した。

エ 電波の混信・妨害の予防

電波利用が拡大する中で、混信・妨害を排除し良好な電波利用環境を維持していくことはますます重要な課題となってきている。このため総務省では、電波の監視、混信・妨害の排除に加え、それらの原因となり得る機器への対応も強化している39

近年、携帯電話の急速な普及や電波監視の強化などにより、過去に社会問題となった不法三悪と呼ばれる無線局(不法市民ラジオ、不法パーソナル無線及び不法アマチュア無線)による重要無線通信等への混信・妨害が減少する一方で、電波法の技術基準に適合していない無線機器(以下「不適合機器」という。)等による無線通信への混信・妨害が問題となっている(図表6-2-3-6)。

図表6-2-3-6 無線通信に障害を与えた不適合機器の例

市場には無線局免許が不要な微弱無線局であると称して販売されている無線機器(FMトランスミッタ、ワイヤレスカメラ等)が大量に流通しているが、その中には、微弱無線局の基準を上回る出力の電波が発射されている不適合機器が多数含まれており、これまでも、その使用によって、重要無線通信への混信・妨害が発生している。また、海外からの輸入やネット販売等を通じて入手可能な国内では使用出来ないトランシーバ(FRS:Family Radio Service、GMRS:General Mobile Radio Service)やベビーモニタ―等による同様の混信も発生していることから、このような不適合機器の流通をいかに抑制するかが課題である。

このために、これまでにもポスター及びリーフレット等による周知・啓発活動を行うとともに、販売店等に出向き不適合機器の販売について自粛要請等を行ってきたところである。一方で、販売店等においては消費者への不適合機器に関する情報提供が少なく、消費者が不適合機器か否かを判別することが困難な状況となっていることから、依然として不適合機器が善意の消費者の手に渡り、他の無線局の混信源となる可能性が残されている。

このことから、総務省は、発射する電波が著しく微弱の範囲であるとして販売されている無線設備を購入して、電波の強さが電波法に定める範囲に適合しているかどうかの測定を行い、その結果を公表40する取組を平成25年度から実施している。また、公表と併せて、当該設備の製造業者、販売業者又は輸入業者に対し、電波法で定める技術基準の適合への改善を要請している。これにより、業者を指導し、消費者に注意喚起することで、不適合機器の流通が抑制され、混信・妨害の予防に資することが期待される。

この他にも、携帯電話事業者以外の者によって不法に設置されている携帯電話中継装置が、携帯電話基地局等からの電波を妨害する事例が発生しているが、これらの中継装置は「無線局の免許がいらない」と称して販売されていることから、一般の方がそれと知らずに設置し妨害の原因となっている。このような装置を原因とする障害の拡大を防止するため、販売者が販売する前に「設置には免許が必要」である旨告知すること(免許情報告知制度)を義務付けている(携帯電話事業者以外は、携帯電話中継装置を設置できない)41

さらに、無線局が他の無線局の運用を著しく阻害するような混信その他の妨害を与えた場合には、製造業者・販売取扱業者等に対して報告を徴収し、その事態を除去するために必要な措置をとることについて勧告・公表を行うことができる制度の活用についても検討を進めることとしている。

この他、LED照明等の電気機器、電子機器や放送受信ブースタ等から発射又は漏洩する電波による無線局への障害も引き続き発生していることから有害な漏洩電波を効率的に除去するための調査に取り組んでいる。



29 電波防護指針:http://www.tele.soumu.go.jp/j/sys/ele/body/protect/index.htm別ウィンドウで開きます

30 生体が電磁界にさらされることによって単位質量の組織に単位時間に吸収されるエネルギー量

31 情報通信審議会からの一部答申:http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban16_02000025.html別ウィンドウで開きます

32 電波監理審議会からの答申:http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/02kiban16_03000165.html別ウィンドウで開きます

33 情報通信審議会への諮問:http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/02kiban16_03000185.html別ウィンドウで開きます

34 平成24年度電波の医療機器等への影響に関する調査結果及び当該結果に基づく「各種電波利用機器の電波が植込み型医療機器へ及ぼす影響を防止するための指針」の改訂:http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/02kiban16_03000187.html別ウィンドウで開きます

35 平成25年度電波の医療機器等への影響に関する調査結果及び当該結果に基づく「各種電波利用機器の電波が植込み型医療機器へ及ぼす影響を防止するための指針」の改訂:http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/02kiban16_03000216.html別ウィンドウで開きます

36 医療機関内における携帯電話等の使用に関する検討の開始:
http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/02kiban16_03000192.html別ウィンドウで開きます

37 電波利用環境委員会:
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/policyreports/joho_tsusin/denpa_kankyou/index.html別ウィンドウで開きます

38 ワイヤレス電力伝送作業班:http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/policyreports/joho_tsusin/denpa_kankyou/wpt.html別ウィンドウで開きます

39 総務省電波利用ホームページ 電波監視の概要:http://www.tele.soumu.go.jp/j/adm/monitoring/index.htm別ウィンドウで開きます

40 無線設備試買テストの結果:http://www.tele.soumu.go.jp/j/adm/monitoring/illegal/result/別ウィンドウで開きます

41 免許情報告知制度は、不法市民ラジオ、不法パーソナル無線、不法アマチュア無線及び不法携帯電話中継装置に使用されるおそれの高い無線設備を対象としている。

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