総務省トップ > 政策 > 白書 > 26年版 > ネット依存傾向の国際比較
第1部 特集 ICTがもたらす世界規模でのパラダイムシフト
第3節 安心・安全なインターネット利用環境の構築

1 ネット依存など新たな課題とインターネットリテラシーの重要性1

(1) ネット依存傾向の国際比較

第4章第1節でも述べたようにスマートフォン、タブレット端末等の普及に伴い、私たちの生活は大きく変わりつつある。他方で、こうした端末やソーシャルメディアの利用時間の増加に伴い、常にインターネットに触れていないと不安に感じるといった「ネット依存」と呼ばれる課題やそれに伴う現実の社会生活への影響も指摘もされているところである。本項では、それら課題について「Young20」と呼ばれる判定方法を用い、本章第1節同様に6か国の国際ウェブアンケート調査にて比較し、我が国の状況を国際的な見地から分析を行う。「Young20」とは、1990年代にネットゲームやチャットにのめり込む人たちが社会問題化したため、1998年にピッツバーグ大学の心理学者Young氏によって開発され、決められた20問のインターネット利用状況に関する設問に対し、5段階(まったくない(1点)、まれにある(2点)、ときどきある(3点)、よくある(4点)、いつもある(5点))で回答し、合計100〜20点で「70点以上(ネット依存的傾向高)」「40-69点(ネット依存的傾向中)」「20-39点(ネット依存的傾向低)」の3区分に分類する手法であり、我が国を始め世界的にも多く使用されている手法である2

分析においては、主に「70点以上(ネット依存的傾向高)」に着目するが、「70点以上」に分類された者が必ずしも医学的な治療が必要になる依存である訳ではないこと3に加え、今回の調査は、他国と比較した上で日本の特徴を示すための国際ウェブアンケート調査であり、ウェブアンケートの性格上、紙の調査票形式よりもネットの利用傾向が高く出る可能性が大きいことは留意する必要がある。

ア ネット依存傾向の国際比較

まず、国際ウェブアンケート調査を行った6か国を、年齢層別及びスマートフォン保有別にネット依存傾向の比較を行う。その結果を見てみると、6か国共通で10-20代のネット依存傾向が高い層が多くなり、年齢層が上がるにつれてその依存傾向の割合が小さくなった。また、スマートフォンの有無でみるとスマートフォン保有者の方が依存傾向が高くなり、こちらも6か国共通の結果となった。

また、前述の依存傾向が最も高く出た10-20代を国別に比較してみると、我が国は1割強がネット依存傾向が高い結果となったものの、フランスに次いでこの値は低く、米国や英国は2割前後となった。さらに、スマートフォン保有者のみに限定しても我が国は特段依存傾向は高くはならず、他の年齢層でも同じ傾向である点を踏まえると、我が国が特筆してネット依存傾向が高い訳ではないことがうかがえる結果となった(図表4-3-1-1)。

図表4-3-1-1 ネット依存傾向の国際比較(年齢別・スマートフォン保有別)
(出典)総務省「ICTの進化がもたらす社会へのインパクトに関する調査研究」(平成26年)
「図表4-3-1-1 ネット依存傾向の国際比較(年齢別・スマートフォン保有別)」のExcelはこちらEXCEL / CSVはこちら

他方で、プライベートな用途での携帯電話(スマートフォン及びフィーチャーフォン)若しくはタブレット端末の利用シチュエーションを、6か国で比較してみると、全般的には韓国及びシンガポールが多くの場面で携帯電話若しくはタブレット端末を利用していると回答しており、我が国においてはスマートフォン保有者に限定してみると全般的に多くの場面で利用が高まる傾向となった。また、我が国が顕著に低い傾向になったのは「食事中(複数人の場合)」であり、そのような場面で携帯電話若しくはタブレット端末の使用を控えている傾向がうかがえる。

さらに、これを前述で依存傾向が高くなった10-20代に限定してみると、全体に比べ差が出たのは就寝前の携帯電話若しくはタブレット端末利用が各国共通で2割ほど高くなった点である(図表4-3-1-2)。

図表4-3-1-2 プライベートな用途での携帯電話若しくはタブレット端末の利用シチュエーション
(出典)総務省「ICTの進化がもたらす社会へのインパクトに関する調査研究」(平成26年)
「図表4-3-1-2 プライベートな用途での携帯電話若しくはタブレット端末の利用シチュエーション」のExcelはこちらEXCEL / CSVはこちら

では、インターネット利用目的の違いによる傾向はどうだろうか。インターネット上の主なコンテンツは図表4-1-1-16でも取り上げたようにSNS等に代表される「コミュニケーション」、動画視聴やニュース閲覧等の「情報収集・コンテンツ利用」、インターネットを介した「オンラインゲーム」、ネット通販やネットオークションに代表される「買い物」等が挙げられる。今回の調査では、回答者におけるインターネットを利用する最大の目的がこれらのどれかを聞いた上で、その嗜好に基づいて分析を行った。

その結果を見てみると、6か国共通で「コミュニケーション」をネット利用目的として挙げているユーザーがネット依存傾向が高い結果となった。また米国、英国及び韓国においては「オンラインゲーム」を指向しているユーザーも依存傾向がやや高めになった(図表4-3-1-3)。

図表4-3-1-3 ネット依存(各国のスコア比較:利用目的別)
(出典)総務省「ICTの進化がもたらす社会へのインパクトに関する調査研究」(平成26年)
「図表4-3-1-3 ネット依存(各国のスコア比較:利用目的別)」のExcelはこちらEXCEL / CSVはこちら

さらに、これらを我が国のみスマートフォンの保有・未保有に分けて分析を行ってみると、サンプル数が一部少ないため単純比較には留意が必要であるが、スマートフォンを保有しており「コミュニケーション」を嗜好するユーザーの依存傾向が高い結果となった(図表4-3-1-4)。

図表4-3-1-4 ネット依存傾向(日本のスマートフォン保有別)
(出典)総務省「ICTの進化がもたらす社会へのインパクトに関する調査研究」(平成26年)
「図表4-3-1-4 ネット依存傾向(日本のスマートフォン保有別)」のExcelはこちらEXCEL / CSVはこちら

また、SNS利用における設問のうち、依存に関連する設問を取り出してみてみると、6か国共通で高くなったのは「通知などが気になってよく見てしまう」である。加えて、我が国より他国の方が全般的にSNS等に対する負担が高く認識されている傾向が表れている(図表4-3-1-5)。

図表4-3-1-5 SNSなどの利用に対する認識
(出典)総務省「ICTの進化がもたらす社会へのインパクトに関する調査研究」(平成26年)
「図表4-3-1-5 SNSなどの利用に対する認識」のExcelはこちらEXCEL / CSVはこちら

さらに、前述のインターネット利用の最大目的別に対して、携帯電話(フィーチャーフォン及びスマートフォン)・パソコンの1日当たりの平均利用時間を比較してみると、パソコンの利用時間は6か国共通で携帯電話より多い結果となったが、韓国及びシンガポールは携帯電話と同程度の利用時間となり、第1節で述べたようにスマートフォンの普及率が高いこの2国はより生活に携帯電話が密着していることがうかがえる。また、利用目的別においてはオンラインゲームを嗜好するユーザーが各国共通でPCの利用時間が長くなる傾向が見られた。

我が国の特徴に着目すると、顕著な傾向だったのは「コミュニケーション」を指向するユーザーにおいて携帯電話を使用する時間が約103分と他セグメントと比べても特に長くなった点で、他国を見ても我が国の特徴的な結果となった(図表4-3-1-6)。

図表4-3-1-6 携帯電話及びPCの利用時間比較(分)
(出典)総務省「ICTの進化がもたらす社会へのインパクトに関する調査研究」(平成26年)
「図表4-3-1-6 携帯電話及びPCの利用時間比較(分)」のExcelはこちらEXCEL / CSVはこちら

なお、睡眠時間について、スマートフォン保有者が未保有者に対して若干低い結果が出たものの、厚生労働省の「健康づくりのための睡眠指針2014」によると必要な睡眠時間の成人の目安としては6時間以上8時間未満とされており、平均値としてはそれを割り込んではいない点も留意しておく(図表4-3-1-7)。

図表4-3-1-7 睡眠時間
(出典)総務省「ICTの進化がもたらす社会へのインパクトに関する調査研究」(平成26年)
「図表4-3-1-7 睡眠時間」のExcelはこちらEXCEL / CSVはこちら

これら結果を踏まえると、我が国においてはSNSなどのコミュニケーションを嗜好するユーザーにおいては、スマートフォン等の端末使用時間が長くなり、相対的に依存が高くなりやすい傾向がうかがえる。

イ 現実生活への影響

ネット利用による現実生活への影響については、日本では、「ネットのしすぎで運動不足になっている」、「仕事や勉強や趣味や運動の時間を削ってネットをしていることがある」、「常に端末をそばにおいていないと不安に感じる」の順で回答率が多い傾向を示し、各国ともほぼ同じ傾向となった(図表4-3-1-8)。

図表4-3-1-8 リアル生活への影響
(出典)総務省「ICTの進化がもたらす社会へのインパクトに関する調査研究」(平成26年)
「図表4-3-1-8 リアル生活への影響」のExcelはこちらEXCEL / CSVはこちら

また我が国において、Youngスコアの70点以上か未満で比較してみると依存傾向が高いとされる回答者ほど、全般的にすべての選択肢を選ぶ傾向にあり、前述3つの項目に加え「家族・友人・知人と過ごす時間を削ってネットをしている」、「フィーチャーフォンやスマートフォンでネットにアクセスできないと不安になる」が特に高い傾向を示し、昨今指摘されている歩きスマホに関連した「歩きながらフィーチャーフォンやスマートフォンを使っていて人や物にぶつかりそうになった」についても70点以上の層では同様に回答者が多くなっている。

一方、これらに該当しない人は全ての項目についてネット依存傾向が低い状況にある(図表4-3-1-9)。

図表4-3-1-9 リアル生活への影響(日本:ヤングスコア比較)
(出典)総務省「ICTの進化がもたらす社会へのインパクトに関する調査研究」(平成26年)
「図表4-3-1-9 リアル生活への影響(日本:ヤングスコア比較)」のExcelはこちらEXCEL / CSVはこちら

さらに、我が国において、インターネットの最大の利用目的のうち、前述で依存度が高い傾向に出た「コミュニケーション」と、回答者の多かった「情報コンテンツ」に絞り、「休日は自宅でインターネットを楽しむことが多い」かについて、依存度の比較を行った。これを見ると顕著な傾向として「休日は自宅でインターネットを楽しむことが多い」層ほどネット依存の傾向が高くなった(図表4-3-1-10)。

図表4-3-1-10 ネット依存によるリアル生活への影響(休日は自宅でインターネットを楽しむことが多い)
(出典)総務省「ICTの進化がもたらす社会へのインパクトに関する調査研究」(平成26年)
「図表4-3-1-10 ネット依存によるリアル生活への影響(休日は自宅でインターネットを楽しむことが多い)」のExcelはこちらEXCEL / CSVはこちら
ウ SNS及びスマートフォンによるメリット

一方で、SNSにおけるメリットについては、各国共通で全般的に回答者が多かったのは「情報が早く得られるようになった」「情報をたくさん得られるようになった」「家族・恋人・友人・知人等とのコミュニケーションが増えた」であり、その他の項目においても「新しく友人・知人が増えた」「疎遠になっていた知人との交流が復活した」などで一定の層でメリットを感じていると回答があった(図表4-3-1-11)。

図表4-3-1-11 SNS利用におけるメリット
(出典)総務省「ICTの進化がもたらす社会へのインパクトに関する調査研究」(平成26年)
「図表4-3-1-11 SNS利用におけるメリット」のExcelはこちらEXCEL / CSVはこちら

また、スマートフォン所有者に対して、スマートフォンで利用できなくなると不便と思うものを尋ねたところ、日本では殆どの日常行動において、5割以上が「なくなると不便」と回答しており、「コミュニケーションをとる」においては7割が回答するなど、フランスが低い傾向がみられるものの他国もほぼ同様の傾向がみられた(図表4-3-1-12)。このことからスマートフォンが我が国のみならず各国でも、生活の中で幅広く定着していることがみてとれる。

図表4-3-1-12 スマートフォンがないと困るもの
(出典)総務省「ICTの進化がもたらす社会へのインパクトに関する調査研究」(平成26年)
「図表4-3-1-12 スマートフォンがないと困るもの」のExcelはこちらEXCEL / CSVはこちら
エ 調査結果からの示唆

以上の結果から、我が国においてはコミュニケーションを指向するスマートフォンユーザーでネットの依存が高くなりやすい傾向となったものの、他国と比べると依存傾向が高い状況とはなっておらず、リアルとの生活やコミュニケーションを広く行っている層ほど依存傾向が低い結果となった。このことは、休日に外へ出かけることを始め、ネットだけに偏らない生活を行うことが大切であることを示唆している。

また、スマートフォンの普及に伴うインターネット利用の拡大は、コミュニケーションの多様化や円滑な情報伝達などの多くのメリットを利用者が感じており、これらメリットはインターネットが誕生しここまで普及した大きな背景であり、インターネットを単なる暇つぶしのツールとするのみではなく、目的を持ったインターネット利用を意識することも重要であるといえるだろう。

これらを踏まえ、インターネット及びスマートフォン等のメリットやリスクの両面を認識した上で、適切なバランスで活用をしていくことは、今後さらに浸透し生活に身近になっていくであろうインターネットを適切かつ効果的に活用していく上で重要であるといえよう。



1 本分析は、東京大学大学院情報学環 橋元良明教授の協力のもと行った。

2 アンケートの概要は巻末の資料編付注6-1を参照されたい。また具体的な設問は巻末の資料編付注6-2を参照されたい。なお簡略化したyoung8と呼ばれる8問での手法もある。

3 治療が必要となる「ネット依存」では、時間のコントロールができないことに加え、ネットを取り上げるとパニックになる、何とかして手に入れようとする「探索行動」が見られる等の症状があると指摘されている。

テキスト形式のファイルはこちら

ページトップへ戻る