多くの重要なデジタルサービス・インフラ等において海外事業者の存在感が高まっている一方、今日の世界情勢の不安定さ等に鑑みれば、信頼のできる内外事業者との連携等による安定的・セキュアなサプライチェーン網の確保とともに、特に重要なデジタルサービス・インフラ等においては、我が国の自律性の確保・向上が重要な課題である。
経済安全保障推進法9では、国民の生存に必要不可欠な、又は、広く国民生活・経済活動が依拠している重要な物資について、特定重要物資として指定し、その安定供給確保に取り組む民間事業者等を支援することを通じて、サプライチェーンの強靱化を図ることとしている。インターネットその他の高度情報通信ネットワークを通じて電子計算機(入出力装置を含む。以下同じ。)を他人の情報処理の用に供するシステムに用いるプログラム (以下「クラウドプログラム」10という。)は、クラウドサービスの機能を決定する要素であり、特に、今後、企業の基幹システムや行政サービス、社会インフラの制御等の重要領域に拡大する見込みである基盤的なクラウドサービスについて、国内に事業基盤を有する事業者により提供されることは、経済安全保障や国際収支の観点から重要である。このため、クラウドプログラムを特定重要物資に指定し、競争力の高いクラウドサービスを提供する上で重要な技術の開発又は基盤クラウドプログラムの開発に必要となる高度な電子計算機の導入等の取組に関する供給確保計画を認定し、計画の取組への支援を行っている。2025年4月現在、計11件の供給確保計画の認定を行っている。
重要なデジタル基盤に関して、我が国の競争力を強化することは、これらデジタル基盤への我が国の自律性強化に資することになる。
例えば、異なるベンダーの機器やシステムとの相互接続を可能とするオープンな無線アクセスネットワークであるオープンRANは、様々なベンダーの製品を採用可能とすることによるサプライチェーンリスクの低減や、柔軟かつ拡張性の高い無線アクセスネットワークの構築、基地局市場の活性化による価格の適正化等が可能となるほか、日本の通信事業者やベンダーの強みを生かした国際展開に寄与することが期待されている。基地局市場全体では、日本のグローバル市場シェアは数%にとどまるが、オープンRANは、相対的に日本のシェアが高い分野であり11、今後の伸長が期待される。
オープンRANに関する政策的対応として、総務省では、2024年8月に取りまとめた「AI社会を支える次世代情報通信基盤の実現に向けた戦略 - Beyond 5G推進戦略2.0 -」や2025年6月に策定した「デジタル海外展開総合戦略2030」を踏まえ、オープンな規格を用いた基地局機器の相互接続・運用試験環境の高度化、AIを活用したRAN制御の効率化に関する研究開発や「安全性・信頼性を確保したデジタルインフラの海外展開支援事業」によるオープンRANの海外展開支援等を実施している。
9 経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律(令和4年法律第43号)
10 クラウドプログラムは、個別の機能を実現するためのアプリケーションソフトウェアとアプリケーションを実行するために共通的に必要となる機能を実現するためのソフトウェア(基盤クラウドプログラム)に分けられる。
11 第Ⅰ部第1章第3節2(1)イ「グローバル市場におけるシェア・動向」参照