近年、世界情勢は、地政学的な緊張の高まりや経済の不安定化など大きく変動しており、その見通しの不確実性や不透明性さが高まっているといわれている。
例えば、国際連合が、地政学リスクと世界の経済政策の不確実性に関連する新聞記事の数等を踏まえて評価した指数によれば、地政学リスクについて、近年、ウクライナ戦争やガザ情勢の悪化を契機に大きく上昇した。また、世界の経済政策の不確実性の指数も、新型コロナウイルスの世界的流行やウクライナ戦争等を契機に大きく上昇し、いずれも高止まりの状況にある(図表Ⅰ-1-4-1)。これら地政学的リスクや世界経済の不確実性は引き続き高い状態が続く可能性がある。実際に世界で発生した武力紛争の数は増加しており、今後も緊張が高まる可能性が懸念されている(図表Ⅰ-1-4-2)。
また、地球規模での温暖化の進行等による異常気象の発生増加や災害の激甚化など、自然環境も変化を続けており、大雨の年間発生回数は増加傾向であるなど、豪雨災害の激甚化が懸念されている(図表Ⅰ-1-4-3)。さらに、日本における地震に関しては、特に南海トラフではM8〜M9クラスの地震が30年以内に80%程度の確率で発生する(2025年3月15日現在)1ことが懸念されているほか、首都直下地震が起きた場合は、都市化が進む中で地震被害がより深刻化するリスクが高まっている。
加えて、日本では、少子高齢化による人手不足が年々深刻化しており、特に地方でより顕著に影響が出ている。また、世界の経済成長に比べて、日本経済は低迷が続いている。例えば、人口変化については、日本では少子高齢化が進行し、65歳以上人口が総人口に占める割合である高齢化率が上昇している(図表Ⅰ-1-4-4)。同時に、生産年齢人口に対する65歳以上の人口の割合も増加している。この影響は特に地方において顕著であると予想されており、さらに、都市部への人口偏在が今後一層進むことが予想されている(図表Ⅰ-1-4-5)。経済面では、日本経済は、1990年代初頭のバブル崩壊以降、長期的な停滞が続き、低い経済成長率となっているほか、労働生産性も低迷している。OECDのデータによると、日本の時間当たり労働生産性は、長期間OECD加盟国中低い水準に位置している。
今後、デジタル技術の進展とデジタルサービスの高度化や普及等に伴い、社会基盤としての役割を担うデジタル分野は一層拡大していくと考えられる。さらに、AIやロボットをはじめとするデジタル技術が進展をとげ、社会に浸透・活用されることで、少子高齢化や人口減少に直面する我が国において、社会課題の解決・軽減に向けた効果も期待できる。
一方で、デジタル技術がますます社会経済活動に浸透し、社会基盤として存在感が増すほどに、負の影響もより一層大きくなる恐れも高まっている。加えて、今後、AIが更に高度化し、将来的には、汎用人工知能(Artificial General Intelligence:AGI)23と言われる水準に発展するという見方もある中、AIを含むデジタル技術のリスクも一層増大の恐れもある。
社会生活や企業活動において、進展するデジタル技術の恩恵を十分に享受できるよう、更なる技術開発や利活用を推進しながらも、並行してデジタル技術や利用の進展により拡大を招く恐れがある脅威に対応を打ち続けていくことが重要である。
【関連データ】都道府県別の2050年の生産年齢人口と高齢者人口
URL:https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r07/html/datashu.html#f00066(データ集)
【関連データ】主要国の時間当たり労働生産性のランキングの推移(OECD加盟国)
URL:https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r07/html/datashu.html#f00067(データ集)
【関連データ】OpenAIが描くAGI進化に至るロードマップ
URL:https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r07/html/datashu.html#f00068(データ集)
1 地震調査研究推進本部「南海トラフで発生する地震」〈https://www.jishin.go.jp/regional_seismicity/rs_kaiko/k_nankai/〉(2025年3月15日参照)
2 例えば、OpenAIは2024年7月、汎用人工知能(Artificial General Intelligence:AGI)の実現に向けた進捗状況を示す5段階のロードマップを発表したと報道された。報道によれば、OpenAIのサム・アルトマンCEOは今後10年程度でレベル5に達すると推測している。
3 Bloomberg(2024/7/11)「OpenAI Develops System to Track Progress Toward Human-Level AI」
4 国際連合「World Economic Situation and Prospects 2025」〈https://www.un.org/development/desa/dpad/publication/world-economic-situation-and-prospects-2025/〉
5 気象庁「大雨や猛暑日など(極端現象)のこれまでの変化」〈https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/extreme/extreme_p.html〉棒グラフ(緑)は各年の年間発生回数を示す(全国のアメダスによる観測値を1,300地点あたりに換算した値)。折れ線(青)は5年移動平均値、直線(赤)は長期変化傾向(この期間の平均的な変化傾向)を示す。