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第Ⅰ部 特集 広がりゆく「社会基盤」としてのデジタル
第1節 我が国の経済活性化・経済成長

2 デジタル分野での競争力向上に向けた取組

デジタル分野における競争力向上に向けた取組も重要な課題である。デジタル分野では、技術革新に伴い、しばしば大きなゲームチェンジが起きており、主流のサービスや担い手が劇的に変わってきた。このゲームチェンジの波を的確にとらえていくことがデジタル分野のビジネス展開において大きなカギを握ると指摘されている。デジタル分野の重要なサービス・インフラ等における我が国の自律性確保が重要な課題であることに鑑みれば、我が国の強みが生かせる形でアプローチするとともに3、次のデジタル基盤・サービスのカギを握る分野で、我が国の国際競争力を確保することが望まれる。

例えば、AIは、しばしば大きな技術革新が起きている分野でもある。「スケーリング則」という大規模投資が可能な者に有利な技術背景はあるが、その一方で、学習データや計算量がある程度限定的な小規模LLM開発は、個社へのカスタマイズなどモデルの多様性が求められる等、日本企業・組織が強みを発揮し得る分野と指摘され4、電力制約への対応、機密性の高い情報の取扱い等において、小規模モデルに優位性が出てくるケースも想定されている。さらに、新たなプレイヤーが技術革新を起こす可能性が存在し、幅広い応用が考えられる分野でもある。技術革新による潜在的なゲームチェンジの可能性を踏まえれば、引き続き、国産のLLMの開発とともに、AIを活用した事業展開や社会実装を進めつつ、技術革新に伴うゲームチェンジの波をとらえていくことが重要と考えられる5。既に、様々な日本企業がこうしたLLMの開発に取り組んでおり、国の施策もそれを後押ししている6

また、ロボットについても、AIの進展とも相まって、ゲームチェンジが起こりえる分野であり、日本においても様々な研究開発や社会実装に向けた取組が行われている7

さらに、次世代通信分野で取り組まれている事例としては、NTTが提唱するIOWN構想がある。IOWN Global Forumの組成・拡充や、海外での技術者育成への着手など、着実にグローバルでのエコシステム形成をはじめとした各種取組が進められている。

デジタル分野における競争力強化に向けた政府の取組としては、関係省庁において様々なレベルで対応がとられている。例えば、総務省においては、2023年3月にNICTに恒久的な基金を造成したうえで、新たに革新的情報通信技術(Beyond 5G(6G))基金事業を実施し、この中で、社会実装・海外展開に向けた研究開発プロジェクトを実施する「社会実装・海外展開志向型戦略的プログラム」等の3つのプログラムを設けている。



3 日本への信頼性を強みにしたビジネス展開という観点では、今日の世界情勢の不安定化や地政学的リスクを踏まえると、自国と同レベルで信頼できる国・地域へのデータ保管や事業基盤の整備、連携へのニーズが高まっており、この点で日本はかなり良い位置にあるとの指摘がある(慶應義塾大学総合政策学部 國領二郎教授へのインタビューによる。)ほか、日本の政治・行政の安定性は世界的に評価されており、投資先として魅力的な面もあることから、ビジネスの予測可能性を高めることも日本の存在感発揮につながる可能性があるとの指摘がある(東京大学公共政策大学院 鈴木一人教授へのインタビューによる。)。こうした日本のもつ信頼性・安定性を活かし海外事業者からの投資・連携を呼び込むことも、我が国が目指す可能性の1つであると考えられる。

4 Preferred Networks岡野原大輔代表取締役や株式会社ABEJA木下正文執行役員へのインタビューによる。

5 なお、大規模な投資や高度な技術が必要となるAI分野において、短期的には、海外事業者が主導する最先端のLLMに匹敵するモデルを我が国においてすぐに開発することは困難な面がある一方、様々な技術革新も起こりえる中、中長期的な視点では、我が国の経済安全保障や重要なデータ保護が必要な局面や、学習データ・学習手法等の透明性の担保、文化的観点や、我が国のAI技術力の向上等の観点からは、我が国として、汎用的な国産LLM(又は今後の技術革新により生まれる次世代型AI)の開発や利用にも並行して取り組んでいく必要性があるとも指摘されている(Preferred Networks岡野原大輔代表取締役へのインタビューによる。)。また、重要なデータ保護が必要な局面では国産の汎用LLMを利用すべきことに加え、自国でAI開発が難しい国は、安全保障上のリスクを念頭に置きつつも、安価な国外製AI導入を選定することが予想される中、日本も他国で流用可能な汎用LLM開発技術力を高め、品質やセキュリティの信頼の高さを武器としてAIモデルを海外に展開していく方向性についても指摘されている(東京大学公共政策大学院 鈴木一人教授へのインタビューによる。)。

6 第Ⅰ部第1章第2節1(3)ア「LLMの研究開発動向」参照

7 第Ⅰ部第1章第2節1(3)イ「AIロボティクスの研究開発・社会実装の動向」参照

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