近年、AIの技術開発は急速な進展を遂げており、2022年11月に提供を開始したOpenAI社のChatGPTを始めとするAIサービスが普及している。特に生成AIは、偽・誤情報の拡散等の懸念やリスクも存在するが、生産性の向上や労働力不足の解消等、多大な便益をもたらすことが期待されており、世界でAIの可能性に向ける注目が格段に高まっている。
こうした中、生成AIに関する国際的なルールの検討を行うため、2023年5月のG7広島サミットの結果を踏まえ、生成AIについて議論するために「広島AIプロセス」が立ち上がった。同年12月の閣僚級会合では「広島AIプロセス包括的政策枠組み」をとりまとめ、G7首脳で承認を行った。広島AIプロセスについては、引き続き「広島AIプロセスを前進させるための作業計画」のもとG7各国が中心となり、OECDやGPAI及び国連等の多国間の場における協調と協力も得て更なる前進を図ることとしている14。
国内では、AI技術の急激な変化や国際的な議論を踏まえ、政府の司令塔として2023年5月にAI戦略会議を立ち上げ、様々な課題に関して幅広い知見を有する有識者のもと集中的に議論を行っている。総務省及び経済産業省は、AI戦略会議でとりまとめられた「AIに関する暫定的な論点整理」(2023年5月)を踏まえ、2024年4月に「AI事業者ガイドライン15」第1.0版の策定・公表を行った。なお、AI事業者ガイドラインは、AIを巡る動向や課題、国際的な議論等を踏まえ、適宜更新を行うこととしており、同年11月には時点更新(第1.01版)、2025年3月には、RAGやマルチモーダルなAIの普及といった国内外の最新動向を踏まえた更新(第1.1版)を行った。
国内外のAIに関するルール整備が進む中、2024年8月には、AIに係る法制度の要否を含む制度整備の議論を行う場として、AI戦略会議の下で第1回AI制度研究会16が開催された。本研究会が2025年2月にとりまとめた「中間とりまとめ17」を踏まえた、「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」が第217回国会(常会)にて成立した(令和7年法律第53号)。本法律では、AIのイノベーション推進とリスク対応の両立を基本的な考え方として、政府の司令塔機能強化のための「AI戦略本部」の設置、政府が推進すべきAI政策の基本的な方針を定めた「AI基本計画の策定」、AIの適正性確保のための国際規範に即した「指針」の整備、国による調査・情報収集、事業者への助言等が規定されている。
さらに、上述のとおりAIの技術開発及びAIの活用が官民において急速な進展を遂げていることから、政府の様々な業務への生成AIの利活用促進とリスク管理を表裏一体で進めるため、デジタル庁が総務省、経済産業省等と協力し、「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン」(令和7年5月27日デジタル社会推進会議幹事会決定)18の策定に向けた検討を行い、2025年5月にデジタル社会推進会議幹事会において決定・公表された。
14 G7における議論については、第Ⅱ部第2章第8節5(1)「G7・G20」、(2)「広島AIプロセス」、(10)「GPAI」等も参照。
15 AI事業者ガイドライン
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/ai_network/02ryutsu20_04000019.html
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/ai_shakai_jisso/20240419_report.html
16 AI制度研究会 https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/ai_kenkyu/ai_kenkyu.html
17 中間とりまとめ https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/index.html
18 https://www.digital.go.jp/resources/standard_guidelines