平成21年版 情報通信白書

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第1部 特集 日本復活になぜ情報通信が必要なのか

第1章 情報通信と成長を結ぶ経路

みんなでつくる情報通信白書コンテスト 一般の部 優秀賞受賞コラム

パソコン恐怖症からの脱出
 
執筆 大石 里美さん(主婦・静岡県静岡市)
大石 里美さん

 仕事を解雇された後、元上司の勧めもあってパソコンを習い始めた。
 それまでの私といえば、携帯電話も持たず、「パソコン」などという物に関われば、何かしらの犯罪に巻き込まれるものと決め付けていた。
 そんな偏見を持った自分だったから、最初の頃は大変だった。パソコンに指一本置くことに対しても、冷や汗が出る。機械が怖くて質問しようにも、何を聞けばいいのか判らない。今思えば、全く理解していないので当たり前のことなのだが、先生にしたらいい迷惑だったと思う。「この生徒は、やる気があるやら無いのやら」と。
 パソコンは以前、夫が買ったものを使うことにした。しかし、これが大変だった。いざ授業が始まると、何の設定もされていない。セキュリティーはおろか、インターネットやメール接続、事務的手続きさえ済んでいないではないか!「いつも偉そうな事ばかり言うくせに」と、夫のいい加減さに少し呆れた。その後、何度震える手でつながりの悪いサポートセンターに電話をかけたかわからない。
 先生の考えは、あくまでも「自分でやらなければ覚えない」という方針だった。私のために心を鬼にしてやってくれているんだ、と自分に言い聞かせ、アクセスしても成功しない日々でも頑張った。へこたれそうになると、「これが終われば前へ進める。楽しいことが出来るんだ!」と自分を励ました。
 だが、所詮は無理だった。自分が120%理解して初めて他人に説明出来るものを、ど素人の私が専門業者のようにどうして出来よう。
 ある日私は、先生の前で大泣きしてしまった。せきを切ったような涙は、もう止まらなかった。「私はただ文章が書きたいだけなのに。絵を入れたいだけなのに。それを習うことすら出来ない。もう、日本語じゃないパソコン用語なんて見たくない!」
 難しい専門用語だらけの毎日に心身共に衰弱してしまった私は、とうとうパソコン教室に行かなくなった。そんな私の背中をそっと押してくれたのが、元上司だった。
 「パソコンが出来るようになったら仕事を捜しましょうね」
 私にとって、この言葉は嘘だと分かっていても涙がでるほどうれしかった。
 私は復活した。それからは順調だ。ワープロソフト、表計算ソフト、インターネットの勉強も終わった。こんな楽しい世界があることを生きてるうちに知ることができて、本当によかったと思う。私は主婦であるゆえ、閉塞的な日々を送らざるを得ない。パソコンが、唯一社会と関わらせてくれる手段なのだ。
 「どうなることかと思いましたが、上達しましたね」と先生は笑う。努力は無駄では無かった。次は「ジオログ」に挑戦だ。まだまだ私の世界は無限に広がる。

 第2節 情報通信と成長を結ぶ「経路」

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