平成21年版 情報通信白書

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第1部 特集 日本復活になぜ情報通信が必要なのか

第2章 世界経済の変動と日本の情報通信

コラム デジタル財における「コモディティ化」とは

 「コモディティ化」とは、ある商品の普及が一巡して汎用品化が進み、競合商品間の差別化が難しくなって、価格以外の競争要素がなくなることをいう1。ニコラス・カー氏が2003年に論文『IT Doesn't Matter』でITのコモディティ化を論じ、大きな論争となった。この「コモディティ化」は様々な市場で観察されるが、特に情報通信産業のようなハイテク分野では、米ハーバード大のクリステンセン教授の主張する「持続的技術」と「破壊的技術」を重ね合わせると、示唆に富んだ議論となる。
 「持続的技術」とは、顧客のニーズを満たすべく、製品の性能向上を図るために行う改良・改善であり、「破壊的技術」とは、互換部品のモジュールを組み合わせて純正品より低価格・低性能の製品を実現する類の技術である。
 新技術に基づく初期の市場では、すり合わせ型の「持続的技術」によって先行企業が製品の性能向上を図り、顧客をつなぎ止めることが可能である。しかし、「持続的技術」による性能向上が繰り返され、製品性能が市場ニーズを超えて過剰になると、モジュール型の「破壊的技術」が登場し、純正品より低価格で必要十分な機能や品質が提供できる余地が拡大する。このような「持続的技術」と「破壊的技術」のイノベーションの過程を示したのが図表1である。
 
図表1 持続的イノベーションと破壊的イノベーション
図表1 持続的イノベーションと破壊的イノベーション
(出典)クレイトン・クリステンセン(2001)『イノベーションのジレンマ-技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』

 デジタル財では、「半導体の集積度は18カ月で倍増する」という「ムーアの法則」に代表される急速な技術革新によって、「破壊的技術」の進展のテンポが速まることとなる。その結果、デジタル財が「コモディティ化」し価格競争になると、図表1のような過程を通じて高コストの「持続的技術」から低コストの「破壊的技術」への世代交代が進みやすくなる。この世代交代のサイクルが速くなるにつれ、独占的地位や先行者利益の維持が容易ではなくなり、業界構造に大きな変化を迫るようになる。半導体やデジタル家電におけるイノベーション競争は、このようなプロセスの典型例ではないかと考えられる。
 先行者が陥るジレンマは、「持続的技術」で競争相手より優れた製品を提供し、価格を維持して利益率を高めようと努力すると、やがて市場ニーズを追い抜いてしまい、ユーザーが必要とする以上のものを提供することになって、「破壊的技術」の登場する余地を与えることである。
 なお、「脱コモディティ化」を図る差別化の方法としては、広告等を通じたブランド化や、「すぐに手に入る」等の配達サービス、「故障時の対応がよい」等のアフターサービス、自社製品群の規格共通化による囲い込み等があげられる。


1 「コモディティ化」の概念については、IT情報マネジメント用語辞典等を参考とした

 第1節 課題に直面する日本の情報通信

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(2)情報通信関連のハードウェアを中心に価格低下が進行 に戻る (3)新興国を含めたグローバル競争が本格化 に進む