平成21年版 情報通信白書

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第1部 特集 日本復活になぜ情報通信が必要なのか

第3章 日本復活へ向けた3つの挑戦

(2)産業構造の情報化シフトによる成長率の上昇

●産業構造を情報化にわずかにシフトさせるだけでも、名目GDPが上昇
 以上のマクロ計量モデルによる推計結果は、投資の加速が成長率に及ぼす影響を、あくまで現行の産業構造を前提とした上で試算したものである。しかし、先進国の間では、外部効果の豊かな知識や情報への比重を高めた経済構造へのシフトが進んでおり、日本経済も情報化の効果を最大限に引き出すことが可能な産業構造に移行することで、さらなる成長率の上乗せが期待できる可能性がある。
 そこで、以下では、産業連関表を用いて、情報化に比重を置いた経済構造にシフトした場合の効果を推計する11。具体的には、現行の産業構造をベンチマークとして設定し、[1]情報通信産業部門(情報通信関連製造業を除く12)に、国内最終需要1%(約5兆円)の需要増があり、他産業部門に同額の需要減が生じるという「情報通信産業加重ケース」、[2]製造業の中でも最も波及効果の高い輸送機械産業部門に、国内最終需要1%(約5兆円)の需要増があり、他産業部門に同額の需要減が生じるという「製造業加重ケース」の2つのケースの試算結果と比較した。なお、試算にあたっては、国内最終需要の構成比のみが変更され、合計金額は不変であり、その他の条件(投入係数行列、輸入比率、輸出量)は、構成比も金額も不変となっている。また、需要増と需要減は、ベースラインにおける各産業の国内最終需要の構成比にしたがって配分している。
 ベースラインと2つのケースについて、日本経済全体の名目GDPに相当する粗付加価値額の変化を示した結果が図表3-1-3-4である。ベースラインと比べて、産出額でみると「情報通信産業加重ケース」は約0.3兆円増(0.03%増)、「製造業加重ケース」は約5.4兆円増(0.55%増)となり、粗付加価値額でみると、「情報通信産業加重ケース」は約0.3兆円増(0.06%増)、「製造業加重ケース」は約0.7兆円減(0.13%減)となる。つまり、国内最終需要の総額を固定したまま産業構造を1%のみ変化させた場合、情報通信産業にややシフトした場合は産出額も粗付加価値額もわずかに上昇するが、製造業(輸送機械産業)にややシフトした場合は産出額は大幅に増加する一方で粗付加価値額は減少する。
 
図表3-1-3-4 産業構造の微少な変化による名目GDPの変動
図表3-1-3-4 産業構造の微少な変化による名目GDPの変動
(出典)総務省「情報化投資及びICT関連資本の蓄積が日本経済に与える影響に関する調査」(平成21年)

 なぜこのような試算結果が得られるのだろうか。輸送機械産業は、他産業への波及効果が高くすそ野が広い一方で付加価値率が低く、輸送機械に加重した経済構造では、産出額は増大するものの名目GDPは低下する。情報通信産業(情報通信関連製造業を除く)は付加価値率が高く、情報通信に加重した経済構造では、産出額も名目GDPも増加する。増加幅は限定的ではあるが、追加的な資源配分が一切なくても、産業構造の構成比をわずか1%変化させただけで名目GDPが約0.3兆円増加するという結果は特筆に値する。

●産業構造変化を進めることにより、情報化投資の加速による成長率上昇に、さらなる上乗せを期待
 「製造業加重ケース」では特に輸送機械産業を対象としたが、これはあくまで日本の製造業の大黒柱を代理変数として示したものである。試算結果が示唆するのは、今後の日本経済の進むべき道として、製造業に回帰するよりも、経済の情報化に対応した産業構造への転換を進め、情報通信産業を製造業と並ぶ大黒柱として戦略的に強化した方が、GDPの観点からは期待できるということである。今般の世界不況により、大幅な輸出減が日本の製造業を直撃したが、輸出依存度を低め、内需拡大を図るためにも、産業構造の変化を進めることが重要となる。
 日本の進路に「情報化」を明確に位置づけ、その旗印の下に知識経済型の経済構造への体質転換を進めることに成功すれば、マクロ計量モデルで得られた情報化投資加速による2%台半ばという成長率の水準に、さらなる上乗せを期待することができるだろう。


11 推計の詳細については、付注10参照
12 「製造業加重ケース」との対比を行っていることや、情報通信市場のコンテンツ化が進展していること(第2章第2節を参照)を考慮して、情報通信製造業部門を除外して計算した

 第1節 Investment:情報装備率を高めるための「投資」

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