平成21年版 情報通信白書

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第1部 特集 日本復活になぜ情報通信が必要なのか

第2章 世界経済の変動と日本の情報通信

(1)次の成長に向けた3つの構造変化

 今後の情報通信産業の成長の可能性を考えるに当たり、構造変化の胎動を3点例示する。第一に、情報通信のマクロの市場構造の変化に注目し、今後の成長が期待される情報流通市場を展望する。第二に、情報流通市場の中でも、社会的に特に関心が集まるメディア部門の構造変化を展望する。第三に、利用者側の変化に注目し、ネットワーク環境の構造変化を展望する。

ア 情報通信市場のコンテンツ化

●最大規模に成長したコンテンツ・アプリケーションレイヤー
 図表2-1-3-1は、日本の情報通信市場を垂直的なレイヤー構造でとらえ、上から「コンテンツ・アプリケーション20」「プラットフォーム21」「ネットワーク22」「端末23」の4つのレイヤーに分類し、レイヤー毎に平成19年時点の市場規模を推計したものである。その結果、平成19年において、「コンテンツ・アプリケーション」が約33兆円、「プラットフォーム」が約4兆円、「ネットワーク」が約19兆円、「端末」が約26兆円となり、「コンテンツ・アプリケーション」の規模が最大という結果になった。なお、固定通信、移動通信、放送の各サービスに含まれるプラットフォーム機能(課金、認証等)はすべて「ネットワーク」へ、コンテンツやアプリケーションの専業事業者が担うプラットフォーム機能はすべて「コンテンツ・アプリケーション」へ、それぞれ便宜的に配分しているため、「プラットフォーム」のレイヤーはやや過小評価となっている。橙色の市場は、平成17〜19年の年平均成長率が10%超となっており、成長市場と認識できる24
 
図表2-1-3-1 情報通信産業のレイヤー別市場規模(平成19年)
図表2-1-3-1 情報通信産業のレイヤー別市場規模(平成19年)
(出典)総務省「ICTの進展が社会経済に及ぼす効果の計量分析」(平成21年)

●成長期待の高い上位レイヤー
 図表2-1-3-2は、4つのレイヤー別に、平成17〜19年の市場規模の推移をみたものである。年平均成長率でみると「ネットワーク」(1%)と「端末」(1.2%)のレイヤーが低成長にとどまっているのに対し、「プラットフォーム」(23.8%)と「コンテンツ・アプリケーション」(8.6%)は、高成長となっている。特に、「コンテンツ・アプリケーション」は最大規模のレイヤーでありながら10%近い成長率となっており、今後の情報通信産業の主役を担っていくことが期待される。
 
図表2-1-3-2 情報通信産業のレイヤー別市場規模の推移
図表2-1-3-2 情報通信産業のレイヤー別市場規模の推移
(出典)総務省「ICTの進展が社会経済に及ぼす効果の計量分析」(平成21年)
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●経済のコンテンツ化が進展
 従来は、技術的制約もあって、テキスト情報は主に新聞や雑誌等の出版物、音楽情報はCD等のパッケージソフトやラジオ放送、映像情報はDVD・ビデオ等のパッケージソフトやテレビ放送といったように、コンテンツとネットワークが縦割り的に対応し、それぞれの流通経路により消費者に提供されてきた。しかし、デジタル化や通信・放送の融合の進展によって、いったんデジタル化されたコンテンツは、ネットワークを選ばずに自由に情報流通させることが可能となり、マルチユースも容易になっている。既に、報道やエンターテインメントが中心になっていたコンテンツに、医療、教育、行政等の公的コンテンツも含め、あらゆるコンテンツが加わるようになり、「経済のコンテンツ化25」とも呼ぶべき構造変化の潮流が生じている。今後もこの流れが強まることが予想され、情報通信産業の上位レイヤーにおける「情報流通市場」とも呼ぶべき市場に、成長期待が集まることになるだろう。

イ ネットのメディア化

●急速に台頭するインターネット広告
 次に、情報流通市場の中でも、特に社会的な関心が集まりやすいメディア部門に注目してみよう。図表2-1-3-3はいわゆる「4マス媒体」(テレビ、ラジオ、新聞、雑誌)とインターネット広告の広告費合計と名目GDPのそれぞれの伸び率(対前年比)の推移を示したものである。その結果、広告費の伸びは景気変動と連動する傾向が強いことが分かる。
 
図表2-1-3-3 名目GDPと広告費の前年比の推移
図表2-1-3-3 名目GDPと広告費の前年比の推移
以下の統計資料により作成
名目GDP:内閣府四半期別GDP速報
広告費:電通「2008年(平成20年)日本の広告費」
(2005年以降は改訂データを使用)
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/toukei.html#qe

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 従来から「4マス媒体」の広告費の伸びは景気変動に強く影響を受けることが知られていたが、これまでの景気循環で成り立っていたその関係は、平成14年以降の景気拡大局面の中で平成17年頃から乖離しつつある。
 図表2-1-3-4は、広告費の内訳の推移を示したものである。平成14年頃からインターネット広告が急成長し、平成16年にはラジオを、平成18年には雑誌を上回り、さらに新聞に迫る勢いとなっている。国民や企業に向けた情報流通を担い、経済的にも文化的にも非常に重要な役割を果たすメディアにおいて、インターネットというメディアが急成長し、既存メディアと肩を並べる存在になりつつあるという大きな構造変化が生じている。
 
図表2-1-3-4 インターネット広告と4マス媒体広告費の推移
図表2-1-3-4 インターネット広告と4マス媒体広告費の推移
電通「2008年(平成20年)日本の広告費」(2005年以降は改訂データを使用)により作成

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●クロスメディアの動きが新しい市場を創出する可能性
 このようにメディア市場で大きな地殻変動が生じているが、報道機関としても社会的に重要な役割を担う既存メディアとの関係において、インターネットの台頭がゼロ・サムゲームに終わるのであれば広告市場としての成長につながらない。図表2-1-3-5は、「4マス媒体」とインターネット広告の広告費合計と、セールスプロモーション費(いわゆる販売促進費)の推移を示したものである。セールスプロモーション費は広告費合計の約半分の規模26に達し、これらが互いに連動することで新たな市場を創出できる可能性がある。
 
図表2-1-3-5 広告費合計とセールスプロモーション費用の推移
図表2-1-3-5 広告費合計とセールスプロモーション費用の推移
電通「2008年(平成20年)日本の広告費」(2005年以降は改訂データを使用)により作成

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 既に、既存の「4マス媒体」の高い告知力を活かした「プッシュ型」の情報流通と、インターネットから入手する詳細な商品情報や割引クーポン等の「プル型」の情報流通を組み合わせ、購買行動への円滑な移行を促すための「クロスメディア」(媒体間連携)が潮流となっており、従来まで区別されていた広告宣伝費と販売促進費が融合する動きを見せている。このような広告市場の構造変化を捉えて、広告宣伝と販売促進をミックスしたビジネスモデルの構築に成功すれば、大きなビジネスチャンスを獲得することになるだろう。

ウ ネット利用端末の多様化

●ネット接続端末の多様化が進展
 最後に、利用者側の変化に注目し、ネットワーク環境の構造変化を展望しよう。インターネットを利用するための端末としては、パソコンや携帯電話・PHSが代表的である。図表2-1-3-6は、情報通信機器の世帯普及率を示すが、平成20年末でパソコンの世帯普及率は85.9%、携帯電話・PHSは95.6%に達している。一方で、新たな動きとして、ネット接続が可能なゲーム機、テレビ、家電(情報家電)が急速な勢いで普及しつつあり、世帯普及率がそれぞれ20.8%、15.2%、5.5%に達している。あらゆる端末からネット接続が可能となる環境の実現へ向けて、端末の多様化が着実に進展している。
 
図表2-1-3-6 情報通信機器の世帯普及率の推移
図表2-1-3-6 情報通信機器の世帯普及率の推移
総務省「平成20年通信利用動向調査」により作成
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/statistics05.html
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●モバイルインターネットが定着
 また、インターネットを利用するための二大端末としてパソコンと携帯電話・PHSに注目し、それぞれのインターネット利用率の推移を示したものが、図表2-1-3-7である。平成20年末で、携帯電話・PHSからのインターネット利用率は62.6%に達し、パソコン(68.9%)に迫る勢いとなっている。究極のパーソナル端末である携帯電話・PHSを利用したモバイルインターネットが利用者の間でも定着し、今後のコンテンツ・アプリケーションの展開に大きな潜在力をもたらしている。
 
図表2-1-3-7 インターネット利用端末別の利用率の推移
図表2-1-3-7 インターネット利用端末別の利用率の推移
総務省「平成20年通信利用動向調査」により作成
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/statistics05.html
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●新たなビジネスチャンスの掘り起こしに期待
 総務省の推進してきたu-Japan政策では、「いつでも、どこでも、何でも、誰でも」ネットワークに簡単につながるユビキタスネット社会の実現を目指しているが、「何でも」つながる社会では、端末の制約から解放され、ネットワークに接続して情報をやりとりできる端末の範囲が飛躍的に拡大することが期待されている。パソコンやモバイル端末に加え、家電製品、衣服やめがね等の日用品、自動車やロボット、さらには電子タグの活用により食品、書類、廃棄物等に至るまで、身の回りのあらゆるものがネットワーク接続の対象となる。
 図表2-1-3-6図表2-1-3-7に見られる端末の多様化は、家庭の情報化を促すものであり、ユビキタスネット社会を実現するために最も重要な要素である。ネットワークにつながるさまざまな機器が家庭内に普及し、家庭外でも接続可能なモバイルインターネットが広がることは、大きなビジネスチャンスをもたらすことになるだろう。このような環境変化を捉えて、利用者の中に眠るニーズを掘り起こし、付加価値の高い機器やサービスを創出する企業が、次代の情報通信市場をリードすることになる。


20 情報通信に関わるサービスやコンテンツの制作及び供給に関わる事業、情報通信システムに関するアプリケーションやソフトウェアの開発・運用等に関わる事業に該当するレイヤー
21 ユーザ認証、機器(端末)認証、コンテンツ認証などの各種認証機能、ユーザ認証機能、課金機能、著作権管理機能、サービス品質制御機能などを提供するレイヤー
22 通信と放送を含むネットワークを経由した伝送事業に該当するレイヤー
23 ユーザが利用する情報通信端末や機器・装置等の製造事業に関するレイヤー
24 市場規模推定に際して用いたソースについては付注4を参照
25 日本経済研究センター(2009)『ネットの台頭とメディア融合』を参照
26 日経広告研究所『有力企業の宣伝費』によれば、上場企業等の主要企業では、販売促進費が広告宣伝費の約2倍に達している

 第1節 課題に直面する日本の情報通信

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