平成21年版 情報通信白書

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第1部 特集 日本復活になぜ情報通信が必要なのか

第1章 情報通信と成長を結ぶ経路

(2)「知力」の経路の実証

●教育・人材や知識・情報といった人的資本の蓄積は経済成長に寄与
 人的資本と経済成長との関係については、労働経済学や経済成長論の先行研究の中で1990年代以降広く取り組まれており、主として教育水準(識字率、就学率、教育年数等)を代理変数とする人的資本の蓄積16が所得の上昇や経済成長に寄与するという一定のコンセンサスが形成されている17。例えば、図表1-2-3-1(左側)は、人的資本として国連開発計画が作成している教育水準指数18をとった場合の一人当たりGDPとの関係を示す。成長に影響を与える人的資本以外の様々な要素をコントロールした後の一人当たりGDPと、人的資本のレベルとの間には正の相関がみられる傾向にある。
 一方、知識・情報の面での人的資本と経済成長との関係については、知識・情報量を計測することが困難であることから先行研究は限られる19が、図表1-2-3-1(右側)に示すように、科学技術知識の大まかな代理変数として科学技術文献数をとると、一人当たりGDPとの相関関係が認められる。
 
図表1-2-3-1 人的資本と経済成長との関係
図表1-2-3-1 人的資本と経済成長との関係
総務省の推計による
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●情報通信は人的資本の蓄積に寄与
 それでは、情報通信と人的資本との間にはどのような関係があるのだろうか。衛星通信やインターネット等を利用した遠隔教育の普及により、就学者の裾野を拡大することにつながる他、デジタル教材等による教育効果の向上等によって教育水準を効果的に引き上げることにつながると考えられる。一方、インターネットや企業内LAN等のネットワーク化が進んだことで、知識や情報の共有が一気に進み、「外部性」による恩恵を受けられるようになったことは、皆が実感していることだろう。図表1-2-3-2は、前述の教育水準指数及び科学技術文献数とインターネットの加入率の関係を示すが、正の相関が認められる。インターネットの加入率の代わりに、世界経済フォーラム作成のICT競争力指数を使っても同様の結果が得られた。したがって、情報通信の普及は、教育水準や技術知識と密接な関係があることが示唆される。
 
図表1-2-3-2 情報通信と人的資本との関係
図表1-2-3-2 情報通信と人的資本との関係
総務省の推計による
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 情報通信から教育・人材や知識・情報といった人的資本へ向けた因果関係の存在については、さらなる実証研究や事例研究に委ねる必要があるが、直感的には、情報通信の利用が人的資本の蓄積に有効に寄与することは理解が得られるであろう。世界銀行でも、「知識経済へ向けた教育(Education for the Knowledge Economy)」というプログラムの中に「ICTと教育(ICT and Education)」というメニューを設け、途上国等へ向けた教育へのICT導入支援を行っている。

●「知力の経路」は、知識経済時代により重要な役割を果たす
 このように、情報通信の利用が人的資本の蓄積を通じて成長へ寄与するという「知力」の経路が、「経済力」の経路とともに重要な役割を果たしていると考えられる。今日の知識経済時代においては、知的生産活動が成長のエンジンとなる側面がますます強くなっており、この経路はますます重要性を増していくこととなる。政策的にも、情報通信を経済成長に確実に結びつけるには、この経路の存在を十分意識して、教育の情報化やデジタルアーカイブの構築など、教育・人材や知識・情報を通じた人的資本の蓄積を加速化するような施策を重視すべきである。


16 国連開発計画(UNDP)が、世界各国の人材開発に関する指標(人材開発指標、男女参画指標等)を毎年作成して公表している。詳細は、UNDP(2008)“Human Development Reports”を参照
17 Barro(1991)をはじめとして、国や地域のデータを用いた多数の先行研究が存在する
18 国連開発計画(UNDP)が作成している指数で、各国の成人文盲率と初等・中等教育の就学率から作成されている
19 Chen and Dahlman(2004)をはじめとして、特許や科学技術文献数等のデータを用いた先行研究が存在する

 第2節 情報通信と成長を結ぶ「経路」

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