平成21年版 情報通信白書

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第1部 特集 日本復活になぜ情報通信が必要なのか

第3章 日本復活へ向けた3つの挑戦

(1)情報化投資の加速による成長率の上昇

●情報化投資を加速することで、2010年代に年平均で2%台半ばの成長率が可能
 総務省と(社)日本経済研究センターは、マクロ計量モデルを用いて、情報化投資の加速が2010年代の日本経済の成長に与える効果を推計する共同研究を行った。具体的には、情報化投資の効果を明示的に織り込んだ形で「需要」「家計」「企業」「財政・金融」「物価」の5ブロックからなる内生変数63、外生変数42のマクロ計量モデル7を構築し、企業投資の活発化が中期の経済成長率に及ぼす影響を、他のマクロ変数とのバランスをチェックしながら試算した。
 試算にあたっては、今般の世界不況の影響も考慮し、急減速した世界経済が2010年度には緩やかながら回復するという前提による「ベースラインシナリオ8」をベンチマークとして設定し、[1]投資促進策により、民間企業設備投資が2010年度から一様に上昇する9という前提に基づく「投資加速シナリオ」、[2]情報化投資促進策により、企業の投資加速が2010年度から情報資本の構成比を高めつつ進行する10という前提に基づく「情報化投資加速シナリオ」の2つのシナリオの試算結果と比較した。それぞれのモデルに基づき、2011〜20年の各種成長率や雇用等の主要指標をシミュレーションした結果が図表3-1-3-1である。
 
図表3-1-3-1 中長期的な経済予測シミュレーションの主要結果
図表3-1-3-1 中長期的な経済予測シミュレーションの主要結果
(出典)総務省「情報化投資及びICT関連資本の蓄積が 日本経済に与える影響に関する調査」(平成21年)
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 各シナリオによる2010年代の実質GDP成長率の予測値を図示したものが、図表3-1-3-2である。2010年代の実質GDPの平均成長率は、「ベースラインシナリオ」の1.6%に対し、「投資加速シナリオ」は2.2%、「情報化投資加速シナリオ」は2.4%となった。一方、名目GDPの平均成長率は「ベースラインシナリオ」の1.8%に対し、「投資加速シナリオ」は2.5%、「情報化投資加速シナリオ」は2.7%となった。情報化投資の大幅な加速が実現すれば、成長率は実質でも名目でも年平均で1ポイント弱の上昇が見込まれる。
 
図表3-1-3-2 各シナリオによる2010年代の実質GDP成長率の予測値
図表3-1-3-2 各シナリオによる2010年代の実質GDP成長率の予測値
総務省「情報化投資及びICT関連資本の蓄積が日本経済に与える影響に関する調査」(平成21年)により作成
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 なお、「投資加速シナリオ」と「情報化投資加速シナリオ」は、2010年代後半の実質成長率をみると、前者は成長が減速している(2.2%→2.1%)のに対し、後者は逆に成長が加速している(2.3%→2.5%)。潜在GDP成長率では、両者の成長けん引力の差がより明確となる。2010年代の年平均で、「投資加速シナリオ」は1.1%、「情報化投資加速シナリオ」は1.5%、2010年代後半に限るとそれぞれ1.3%と2.0%となり、差が拡大する。
 雇用面では、2010年代の平均就業者数は「情報化投資加速シナリオ」が「投資加速シナリオ」よりも8万人少なく、平均失業率も0.1ポイント高い。これは、情報化投資の加速で生産性が高まった分、同じGDPを稼ぐために必要な雇用が少なくて済むようになる結果である。このような生産性向上が着実に実現できれば、日本が直面する少子高齢化社会も脅威ではなくなるだろう。今回のシミュレーションでは考慮していないが、余剰となった労働力を活かして、将来性の高い情報通信技術や環境技術の新たな市場を創出する好循環を引き起こせば、一層の雇用増や成長率の上乗せも期待可能となる。

●情報化投資の「大幅」な加速が必要
 「ベースラインシナリオ」「投資加速シナリオ」「情報化投資加速シナリオ」による成長率の差は、各シナリオの前提となる投資の推移の差が大きく寄与している。民間企業設備投資の2011〜20年の年平均伸び率は、ベースラインの3.1%に対し、「投資加速シナリオ」では5.9%、「情報化投資加速シナリオ」では7.2%となる。投資額でみると、2020年時点でのベースラインとの投資額の差は、「投資加速シナリオ」では約30兆円、「情報化投資加速シナリオ」では約46兆円となる。一方、情報化投資の年平均伸び率は、ベースラインの3.0%に対し、「投資加速シナリオ」では5.9%、「情報化投資加速シナリオ」では9.3%となり、投資額の差では、「投資加速シナリオ」では約6.8兆円、「情報化投資加速シナリオ」では約17.5兆円となる(図表3-1-3-3)。
 
図表3-1-3-3 情報化投資加速シナリオにおける情報化投資額(実質)のシミュレーション
図表3-1-3-3 情報化投資加速シナリオにおける情報化投資額(実質)のシミュレーション
(出典)総務省「情報化投資及びICT関連資本の蓄積が日本経済に与える影響に関する調査」(平成21年)
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 「情報化投資加速シナリオ」では、情報資本の比率上昇が生産性向上を通じて売上高経常利益率を高めるとともに潜在成長率を高め、期待成長率の上昇を経て企業の設備投資マインドが改善する。その結果、設備投資の増勢テンポが高まり、「投資加速シナリオ」よりも投資の上昇幅が拡大する。
 投資額の推移が示唆するのは、「投資促進シナリオ」や「情報化投資加速シナリオ」における投資の加速は、中途半端なレベルではほとんど効果がなく、必要なのは「大幅」な投資加速だということである。1980〜2000年代の実績でみれば、民間企業設備投資の伸び率は、1980年代が8.0%、1990年代が−1.3%、2000年代が−4.0%となっており、情報化投資の伸び率はそれぞれ19.9%、5.2%、−0.7%となっている。すなわち、「失われた10年」の間に失われた情報資本の蓄積を取り戻し、1980年代の伸び率に準ずる程度の趨勢を回復することが必要となる。逆に言えば、それほどの投資増や情報化の加速を生み出さない限り、2010年代に2%台半ばの成長率を実現することは困難ということである。


7 マクロ計量モデルの概要は、付注9を参照
8 日本経済研究センターが2009年1月15日に公表した「第35回中期経済予測」(2008−2020年度)を、「ベースラインシナリオ」として用いた。予測の前提として、世界経済成長率は2020年でも4%台まで回復しない、為替レートは高止まりする、財政支出における公共投資抑制傾向は変わらない、などを仮定している。「投資加速シナリオ」及び「情報化投資加速シナリオ」においても、同様である
9 「ベースラインシナリオ」に比べ、民間企業設備投資の伸び率が2010年代平均で約3ポイント上昇(金額換算で年平均3兆円程度上積み)すると仮定している
10 「ベースラインシナリオ」に比べ、情報化投資比率(民間企業設備投資に占める情報化投資の比率)が2010年代平均で約2ポイント上昇(情報化投資の伸び率で年平均約6ポイント、金額換算で年平均約1.75兆円程度上積み)すると仮定している

 第1節 Investment:情報装備率を高めるための「投資」

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