平成21年版 情報通信白書

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第1部 特集 日本復活になぜ情報通信が必要なのか

第2章 世界経済の変動と日本の情報通信

(2)情報通信の「利活用」の国際比較

ア 評価手法

●「利活用」の10分野を設定し、各分野の情報通信サービスの利用状況について7か国でウェブ調査を実施
 次に、世界最高水準の情報通信基盤をどれだけ有効に利用できているかを把握するために、情報通信システムやサービスの利活用の進展度を評価する。情報通信の「利活用」については、「基盤」のように多数国間で国際比較可能な定量データがほとんど存在しないため、前述の調査対象7か国の国民利用者を対象にウェブアンケート調査を実施し7、統一的に国際比較を行うこととした。その際、情報通信の「利活用」の対象分野として、[1]医療・福祉、[2]教育・人材、[3]雇用・労務、[4]行政サービス、[5]文化・芸術、[6]企業経営、[7]環境・エネルギー、[8]交通・物流、[9]安心・安全、[10]電子商取引の10分野を設定し、各分野の全体的な利活用状況とともに、各分野に含まれる具体的な情報通信システム・サービスを3件ずつ例示し8、それぞれの利活用状況についても尋ねている。
 アンケートでは、まず各分野に該当する情報通信システム・サービスについて「利用したことがある」「利用したことはないが、名前や内容は知っている」「名前や内容を知らない」の選択を求め、「利用したことがある」の回答率を利用率とした。次に、各分野に含まれる具体的な情報通信システム・サービスの利用率を把握するため、各分野で「利用したことがある」と回答した利用者に対して、例示した3件の情報通信システム・サービスごとの利用状況を尋ね、「利用したことがある」の回答率を利用率とした。

イ 総合ランキング

●情報通信の「利活用」で立ち遅れる日本
 各国における10分野の利活用状況を総合的に比較するため、各分野の利用率9を合計した平均値から各国の利活用に関する偏差値を算出した。その結果、図表2-2-2-5に示すとおり、最も利活用が進んでいるのはシンガポール、次いでデンマーク、韓国、スウェーデンとなり、日本は7か国中5位となっている。なお、上位4国と下位3国との間には11ポイントを超える差があり、上位4国を利活用先進国、下位3国を利活用後進国と位置付けることができる。
 
図表2-2-2-5 情報通信の「利活用」に関する国際ランキング
図表2-2-2-5 情報通信の「利活用」に関する国際ランキング
(出典)総務省「ICT関連動向の国際比較調査」(平成21年)
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ウ 分野別の評価

●「医療・福祉」「教育・人材」「雇用・労務」「行政サービス」「企業経営」の5分野の遅れが顕著
 図表2-2-2-6は、各国の偏差値を利活用の10分野ごとに示したものである。日本は「医療・福祉」「教育・人材」「雇用・労務」「行政サービス」「企業経営」の5分野の偏差値が30台と低く、利活用の遅れが顕著である。他方、「交通・物流」では日本が最も偏差値が高く、「文化・芸術」「電子商取引」「安心・安全」「環境・エネルギー」でもほぼ平均的な評価となっている。
 
図表2-2-2-6 情報通信の「利活用」に関する分野別の偏差値
図表2-2-2-6 情報通信の「利活用」に関する分野別の偏差値
(出典)総務省「ICT関連動向の国際比較調査」(平成21年)
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 1位のシンガポールを見ると、「教育・人材」「行政サービス」「企業経営」の3分野で最も偏差値が高く、そのほかの分野も全般的に高評価である。2位のデンマークは、「雇用・労務」「環境・エネルギー」「電子商取引」の3分野で最も偏差値が高く、「医療・福祉」「行政サービス」「文化・芸術」でも高評価である。3位の韓国は「医療・福祉」「文化・芸術」「安心・安全」の3分野で最も偏差値が高いのが特徴的である。
 図表2-2-2-7は、利活用の各分野の1位国と日本における利用率を比較したレーダーチャートである。1位国をみると、「電子商取引」(82.9%、デンマーク)と「行政サービス」(68.3%、シンガポール)の利用率が特に高いほか、「雇用・労務」「交通・物流」「教育・人材」「文化・芸術」の4分野では利用率が5割を超えている。一方、「医療・福祉」「企業経営」「環境・エネルギー」「安心・安全」の4分野は利用率が3〜4割にとどまっており、国際的にも本格的な利活用の拡大はこれからという状況にある。
 
図表2-2-2-7 情報通信の「利活用」に関する利用率の1位国と日本の比較
図表2-2-2-7 情報通信の「利活用」に関する利用率の1位国と日本の比較
(出典)総務省「ICT関連動向の国際比較調査」(平成21年)
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 こうした中で、日本の利用率は、偏差値の低い「医療・福祉」(17.0%)、「教育・人材」(17.4%)、「雇用・労務」(35.0%)、「行政サービス」(29.3%)、「企業経営」(13.8%)の5分野で1位国との差分が25〜40ポイントと、大きく遅れている状況にある。他方、「電子商取引」(66.8%)、「交通・物流」(60.7%)、「文化・芸術」(45.7%)における利用率は比較的高くなっている。

エ 具体的な情報通信システム・サービスの利用率

●年金シミュレーション、遠隔教育、テレワーク、電子確定申告・納税等の利用率の低さが顕著
 図表2-2-2-8は、利活用の各分野において例示した具体的な情報通信システム・サービスの利用率について、日本と1位国との差が20ポイント以上と、10ポイント以内のものを示している。まず、差が20ポイント以上のものをみると、病院や診療所の電子カルテやインターネットで年金シミュレーションができるシステムといった「医療・福祉」、インターネットを利用した在宅学習システムや校内LANによるデジタルコンテンツを教室で利用できるシステムといった「教育・人材」、インターネットを利用して、求人情報等を提供するシステムやテレワークシステムといった「雇用・労務」、行政窓口に出向かず電子申請や確定申告・納税手続きができるシステムといった「行政サービス」の分野において、日本の利用率が1位国を大きく下回っていることが分かる。
 
図表2-2-2-8 具体的な情報通信システム・サービスの利用率に関する日本と1位国の比較
図表2-2-2-8 具体的な情報通信システム・サービスの利用率に関する日本と1位国の比較
(出典)総務省「ICT関連動向の国際比較調査」(平成21年)
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 次に、1位国との利用率の差が10ポイント以内のものをみると、携帯端末を使った観光案内といった「文化・芸術」、インターネット等での気象情報提供といった「環境・エネルギー」、ICカードを利用した電子乗車券、宅配状況確認システム、高度道路情報システムといった「交通・物流」の分野がみられ、日本でのこれらのシステム・サービスの利用率は1位国と比較して遜色ない状況である。


7 アンケート調査の実施の詳細については、付注6参照
8 各分野で尋ねた情報通信システム・サービスについては、付注7参照
9 「企業経営」に関しては、回答者のうち就業者(「経営者・会社役員」「会社員(事務職)」「会社員(技術職)」「会社員(その他)」「自営業」「専門職」「公務員」)のみの利用率を用いている

 第2節 総合評価で立ち遅れる日本の情報通信

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