平成21年版 情報通信白書

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第1部 特集 日本復活になぜ情報通信が必要なのか

第1章 情報通信と成長を結ぶ経路

(1) 社会関係資本の蓄積と成長

●情報通信は社会関係資本の蓄積を通じて成長に寄与
 「社会力」の経路は、社会関係資本の蓄積を通じた成長への寄与である。社会関係資本の具体的内容としては、その定義に諸説あるが、ここでは広く、我々の生活の基盤となる国や地域社会の「質」を示すものとする。具体的には、地域社会の紐帯(信頼、互酬性、ネットワーク20)、ガバナンス(組織や制度、社会等の統治)の2分野を考慮する21
 社会関係資本の特徴は、人的資本と同様に「外部性」が高いことや、市場で取引することが困難な社会の安心感や信頼感、透明性や公平性等の文化的・社会的側面が強い点である。このような要素は計測することが困難であるが、これまでの研究事例をみると、何らかの代理変数を利用して実証分析を行うと、経済成長に少なからず影響することが知られている。経済成長には、前述の「経済力」の経路のみでは必ずしも説明できない部分が存在することは直感的に理解できるものであり、「人的資本」に加えて「社会関係資本」も考慮することで、今日のグローバル競争の中での経済成長のメカニズムを理解する際の一助になると考えられる。
 この経路において、情報通信が社会関係資本の蓄積に寄与する具体的な方法としては、例えば以下が挙げられる。
J)【地域社会の紐帯】 情報通信の活用によって地域における紐帯が深まり、社会の信頼や安定が増す
K)【ガバナンス】 情報通信の普及を通じて組織や制度の透明性が高まり、非効率な経済活動が排除される


20 Putnam(1993, 2000)によれば、ソーシャルキャピタルとは、「人々の協調行動を活発にすることによって社会の効率性を高めることのできる『信頼』『規範』『ネットワーク』といった社会組織の特徴」をいう。「信頼」は、「知っている人に対する厚い信頼」と「知らない人に対する薄い信頼」を区別し、ソーシャルキャピタルの観点からは、後者の方がより広い協調行動を促進することにつながるため重要である。「規範」は、特に「互酬性」の規範を重視し、均衡のとれた互酬性(同等価値のものを同時に交換)よりも、一般化された互酬性(現時点では不均衡な交換でも将来均衡がとれるとの相互期待を基にした交換の持続的関係)が重要である。「ネットワーク」は、上司と部下のような「垂直的なネットワーク」とボランティアやサークルのような「水平的ネットワーク」があり、ソーシャルキャピタルの観点からは、後者の方が有効である。詳細は内閣府(2002)「ソーシャル・キャピタル:豊かな人間関係と市民活動の好循環を求めて」を参照
21 先行研究では、社会関係資本(狭義)は地域社会の紐帯を指すことが多いが、ここでは、広義の社会関係資本として、地域社会の紐帯とガバナンスの双方を含めることとした

 第2節 情報通信と成長を結ぶ「経路」

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