平成21年版 情報通信白書

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第1部 特集 日本復活になぜ情報通信が必要なのか

第3章 日本復活へ向けた3つの挑戦

2 国民的課題に対処するための情報通信利活用(横展開)

 前述の内閣府の「国民生活に関する世論調査」は、情報通信の利用を念頭に置かない一般的な国民の意識調査であったため、国民の不安が高い課題での情報通信利用が低いことは、ただちに情報通信サービスの提供に問題があることを意味しない。そこで、第2章第2節でみた情報通信利活用に関する7か国間の国際比較を活用し、日本の情報通信利活用の実態を、特に国民的課題に関連した分野に注目して分析することとした。情報通信利活用の調査では、既出のとおり10分野を設定しているが、国民的課題との関連では、特に「医療・福祉」「雇用・労務」「教育・人材」「行政サービス」の4分野に注目する。

●日本では、情報通信システム・サービスの認知率は高いが、実際には利用されていない
 日本の情報通信利活用の実態を分析する上で、7か国間比較において情報通信利活用が進んでいる国の1つであったデンマークとの比較が有効となる。図表3-2-2-1は、情報通信利活用の10分野における情報通信システムやサービスの認知率と利用率を、日本とデンマークの両国について示したものである。
 
図表3-2-2-1 情報通信利活用における分野別の認知率と利用率
図表3-2-2-1 情報通信利活用における分野別の認知率と利用率
(出典)総務省「ICT関連動向の国際比較調査」(平成21年)
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 国際比較によると、日本では、「医療・福祉」「雇用・労務」「教育・人材」「行政サービス」の4分野での情報通信の利用率が、ICT先進国との比較で特に低いことが判明した。その理由として、そもそも該当する分野の情報通信システム・サービスが国民に知られていないことが考えられる。しかし、日本とデンマークの認知率をみると、10分野の平均でそれぞれ68.4%、69.1%となり、ほとんど変わらない。また、分野別にみても大きな差があるという状況にはない。国民的課題に関連した4分野では、日本での認知率は「医療・福祉」は59.2%、「教育・人材」は63.1%、「雇用・労務」は69.5%、「行政サービス」は72.7%と、約6割以上の国民が具体的なシステムやサービスを認知しており、「知ってはいるが、使っていない」という実態が浮かび上がる。

●利用者側のニーズと提供される情報通信システム・サービスにミスマッチが存在
 なぜ、日本では「知ってはいるが、使っていない」という状況が生じているのだろうか。「医療・福祉」「教育・人材」「雇用・労務」「行政サービス」の4分野で提供されている具体的な情報通信システムやサービスについて、効果を上げるためにどのような問題を乗り越える必要があるか、同アンケート調査で尋ねた結果を日本とデンマークで比較したものが図表3-2-2-2である。4分野を通じ、「身近にICTシステム・サービスが整備・提供されていない」「ICTシステム・サービスを利用する際のセキュリティが心配」「自分にとって必要ない、ニーズに合っていない」とする回答が多くなっている。また、「行政サービス」では、この3つの回答に加え「ICTシステム・サービスの利用時の使い勝手が悪い・操作が難しい」とする回答が多かった。他方、デンマークでは、日本とは異なり、ICTシステム・サービス利用時のセキュリティや利用時の使い勝手・操作性については問題として意識されている割合は低い。
 
図表3-2-2-2 「医療・福祉」「雇用・労務」「教育・人材」「行政サービス」における情報通信利活用の課題
図表3-2-2-2 「医療・福祉」「雇用・労務」「教育・人材」「行政サービス」における情報通信利活用の課題
(出典) 総務省「ICT関連動向の国際比較調査」(平成21年)
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 これらの回答結果をみると、国民的課題に直結するような情報通信システム・サービスであるものの、その需要と供給にミスマッチが存在していることがうかがえる。例えば、あまり必要としていない利用者向けに手厚くサービス提供され、本当に必要としている利用者の周囲には提供されていなかったり、提供されていてもニーズに合わず、使い勝手が悪く複雑な操作を要したり、セキュリティが不安であるなど、利用者視点に立った設計がされていない可能性がある。

●高齢者に必要なはずの情報通信サービスが高齢者に利用されていない
 次に、年齢層別の利用状況について、同様に「医療・福祉」「教育・人材」「雇用・労務」「行政サービス」の4分野で分析したものが図表3-2-2-3である。まず「医療・福祉」について、デンマークでは高齢層になるほど利用率が高くなる「右上がり」の傾向が出ているが、日本では、若年層と高齢層の双方で利用率が落ち込む「山型」となり、二国間の違いが際立っている。「教育・人材」については、両国とも10代の利用率が高く、高齢層になる程利用率が低くなる「右下がり」の傾向を示しているが、デンマークの利用率は日本を大きく上回っている。「雇用・労務」では両国とも若年層と高齢層の双方で利用率が落ち込む「山型」を示しているが、これもデンマークの利用率が大きく上回る。「行政サービス」では、日本は年齢層が上がるほど利用率があがる「右上がり」の傾向だが、デンマークは10代を除き、利用率に大きな差のない「水平型」であり、やはり日本を大きく上回る利用率となっている。
 
図表3-2-2-3 「医療・福祉」「教育・人材」「雇用・労務」「行政サービス」における年代別の情報通信の利用率
図表3-2-2-3 「医療・福祉」「教育・人材」「雇用・労務」「行政サービス」における年代別の情報通信の利用率
(出典)総務省「ICT関連動向の国際比較調査」(平成21年)
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 ここで注目すべき点は、デンマークにおける高齢層の利用率の高さである。日本と比較して、4分野すべてにわたり、50代や60代以上の利用率が非常に高い。特に高齢者のニーズが強いと考えられる「医療・福祉」では、60代以上では実に5割超の利用者が情報通信を活用した医療・福祉関連のサービスを受けていることが特筆に値する。
 日本とデンマークにおいて、「医療・福祉」や「教育・人材」等が国民的課題に挙げられることには変わりがないが、二国の大きな違いは、そのようなサービスが、情報通信を活用する形で高齢者に提供されているか否かである。仮に日本でもデンマークと同様に、高齢者向けに国民的課題に関連するサービスが提供されていたとすれば、日常生活における不安や悩みの様相は大きく変わるのではないかと考えられる。

●北欧やアジアの情報通信の利活用先進国の事例を学ぶべき
 以上見てきたとおり、デンマークと日本の情報通信利活用の実態には大きな相違があることが判明した。日本が、情報通信の利活用を底上げし、「医療・福祉」「教育・人材」「雇用・労務」「行政サービス」を中心とした国民的課題の解決に積極的に貢献し、ひいては国民生活の不安解消につなげていくためには、第2章第2節でみたようにデンマーク、スウェーデン、シンガポール、韓国といった北欧、アジアの利活用先進国の先進事例を学ぶことが必要である。例えば、各分野における情報通信システム・サービスの利用率がなぜ高いのか、なぜ世代間格差が小さいのか、システム・サービスの内容にどのような特徴があるのか等について、具体的な事例を把握することで、日本の情報通信利活用を大きく改善することにつながるであろう。
 このような考えに立ち、次項では、利活用先進国の先進事例の紹介を行う。

 第2節 Collaboration:国民的課題を克服するための「協働」

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