平成21年版 情報通信白書

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第1部 特集 日本復活になぜ情報通信が必要なのか

第3章 日本復活へ向けた3つの挑戦

(2)日本が直面する国民的課題

●国民の日常生活での悩みや不安は、年金、医療、雇用、教育などの生活直結テーマに集中
 u−Japan政策が理念として掲げる「課題解決型のICT利活用」を推進するためには、いったん情報通信という視点や立場から完全に離れ、日本国民が何を課題として認識し、どのようなニーズがどこに所在するのかを、十分に認識しておくことが必要となる。
 そこで、国民的課題を把握するために、国民の悩みや不安に着目してみよう。内閣府の「国民生活に関する世論調査」では、国民の日常生活での悩みや不安を継続的に調査しているが、図表3-2-1-2は、悩みや不安を感じている国民の比率を示したものである。いわゆるバブル期末期の平成3年以降、同比率はほぼ一貫して上昇を続けており、平成20年調査では70.8%に達している。日本国民の実に7割強が生活に悩みや不安を抱えていることとなり、見過ごすことができない状況にある。
 
図表3-2-1-2 日常生活での悩みや不安がある国民の比率の推移
図表3-2-1-2 日常生活での悩みや不安がある国民の比率の推移
(出典)内閣府「国民生活に関する世論調査」(平成20年)

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 悩みや不安の具体的内容は何であろうか。図表3-2-1-3がその内容を示すが、回答が多い順に、「老後の生活設計」(57.7%)、「自分の健康」(49.0%)、「今後の収入や資産の見通し」(42.4%)、「家族の健康」(41.4%)、「現在の収入や資産」(32.6%)、「家族の生活(進学、就職、結婚など)上の問題」(27.8%)などとなっている。また、これらの選択肢すべての回答比率が、前回調査(平成19年7月)と比べて上昇している。
 
図表3-2-1-3 日常生活での悩みや不安
図表3-2-1-3 日常生活での悩みや不安
(出典)内閣府「国民生活に関する世論調査」(平成20年)

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 このような悩みや不安を背景に、国民は政府に対して具体的にどのようなことに取り組むべきと考えているのだろうか。図表3-2-1-4は、「今後政府はどのようなことに力を入れるべきだと思うか」という設問に対する回答を示す。その結果、実に72.8%が「医療・年金等の社会保障構造改革」を挙げており、関心の高さがうかがわれる。また、「高齢社会対策」(57.2%)、「物価対策」(56.7%)、「景気対策」(56.1%)の3つが50%を超えており、以下、「雇用・労働問題」「自然環境の保護」「犯罪対策」「税制改革」「教育改革・青少年対策」「少子化対策」が3割超となっている。このように、社会保障(医療、年金、高齢化・少子化対策等)、経済(物価、景気、税制等)、雇用・労働、環境、治安、教育などの政策に対し、国民のニーズが高いといえる。
 
図表3-2-1-4 政府に対する要望
図表3-2-1-4 政府に対する要望
(出典)内閣府「国民生活に関する世論調査」(平成20年)

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●課題解決型の情報通信利活用を進めるためには、「横展開」への取組が重要
 以上確認したとおり、国民の悩みや不安は、少子高齢化社会の到来や経済危機などの社会情勢を踏まえ、年金、医療、雇用、景気、教育などの生活直結テーマに集中しているのが実態である。ここには、例えば情報格差といったような情報通信に直接関係するようなテーマは顔を出さない。したがって、日本の情報通信の現状が直接国民の不安に結びつくような事態とはなっていないが、逆に情報通信がこれらの生活直結テーマの不安解消に十分に役立っているのだろうかという疑問が湧く。情報通信技術はあらゆる分野で活用することが可能な“general purpose technology”であり、情報化やネットワーク化が進んだ今日において、年金や医療といった分野であってもシステムやアプリケーションといった面での情報通信サービスへの依存度は増しているはずである。悩みや不安といったものは、仮に問題自体の解決が進まなかったとしても、十分な情報開示や丁寧な説明・相談等によって軽減される部分も少なくないと考えられ、そういった面でも情報通信による貢献が期待できる。
 平成15年に策定されたe−Japan戦略II1や平成16年末に策定されたu−Japan政策でも、医療や教育等の公的サービスを中心とした利活用の必要性は再三指摘され、積極的な利活用推進策が進められてきた。そういった事情も考慮すると、これらの分野において情報通信サービスの利用率が低迷する背景に、国民利用者の需要とサービス提供側の供給にミスマッチが存在することが危惧される。つまり、医療や教育等における国民利用者や関係者のニーズを的確にくみ取った情報通信サービスが、十分に提供されていないという実態があるのではないだろうか。課題解決型の情報通信利活用が進み、情報通信産業があらゆる産業の基盤として「真に役に立つ」ためには、まずは世論調査で確認したような国民的課題に対してどのようなソリューションが効果的に提供できるかが鍵となろう。すなわち、情報通信利活用の「横展開」への取組が特に重要となる。
 次項では、以上を基本認識として、国民的課題に関連した分野における情報通信利活用の実態を分析する。


1 e-Japan戦略IIでは、医療、食、生活、中小企業金融、知、就労・労働、行政サービスの先導的7分野の利活用を進めていくこととされていた

 第2節 Collaboration:国民的課題を克服するための「協働」

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