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第1部 特集 日本復活になぜ情報通信が必要なのか第2章 世界経済の変動と日本の情報通信
(3)情報通信の「安心」の国際比較
ア 評価手法 ●「安心」の10分野を設定し、各分野の情報通信利用の安心感について7か国でウェブ調査を実施 次に、世界最高水準の情報通信基盤を国民がどの程度不安なく利用できているかを把握するために、情報通信利用にあたっての安心感を評価する。情報通信の「安心」については、主観的な価値判断であるとともに、「利活用」と同様に多数国間で国際比較可能な定量データがほとんど存在しないため、前述の調査対象7か国の国民利用者を対象にウェブアンケート調査を実施し10、統一的に国際比較を行うこととした。その際、情報通信の「安心」に向けた課題となる対象分野として、[1]プライバシー、[2]情報セキュリティ、[3]インターネット上の商取引、[4]違法・有害コンテンツ、[5]知的財産権、[6]ICT利用におけるマナーや社会秩序、[7]情報リテラシー、[8]地理的ディバイド、[9]地球環境や心身の健康、[10]サイバー社会に対応した制度・慣行の10分野を設定し、各分野の全体的な安心感について尋ねている。 アンケートでは、分野ごとの全体的な安心感を把握するため、各分野の具体的な課題を3件ずつ例示した上で11、各分野について「不安はない」「どちらかといえば不安はない」「どちらともいえない」「どちらかといえば不安である」「不安である」の選択を求め、「不安はない」「どちらかといえば不安はない」の回答率の合計を安心感とした。 イ 総合ランキング ●情報通信の利用に「安心」と感じる国民が少ない日本 各国における10分野の安心感を総合的に比較するため、各分野の回答を「不安はない」から「不安である」まで5段階で得点化し、10分野の合計得点から各国の安心感に関する偏差値を算出した。その結果、図表2-2-2-9に示すとおり、最も安心感が高かったのはデンマーク、次いでスウェーデン、英国、米国、シンガポールとなり、日本は韓国に次いで7か国中最下位となっている。なお、上位5国と下位2国との間には15ポイントを超える差があり、日本と韓国が特に安心感が低い結果となった。
図表2-2-2-9 情報通信の「安心」に関する国際ランキング
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●文化的背景や国民性も考慮した慎重な分析が必要 この調査結果については、慎重に評価することが必要である。なぜなら、「安心」や「不安」は国民の主観的意識であり、文化的背景や国民性が影響する可能性があるためである。例えば、OECDが公表している国民の生活満足度12に関する国際比較をみると(図表2-2-2-10)、日韓両国は生活満足度についてOECD諸国平均を大きく下回る一方で、デンマーク、スウェーデン、米国、英国はOECD諸国平均を上回り、特に北欧2国はトップクラスとなっている。
図表2-2-2-10 国民の生活満足度の国際比較(現在及び未来)
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また、同じくOECDが公表している犯罪被害率と治安への不安度13の関係を見ると(図表2-2-2-11)、日本は犯罪被害率が低いにもかかわらず、治安への不安度が高い傾向がある。このことから、日本には国際的にみれば安全な環境を享受しているにもかかわらず、不安は高いという国民性が存在することがうかがえる。
図表2-2-2-11 犯罪被害率と治安への不安度の関係
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●情報通信利用の安全が必ずしも安心に結びついていない このように、日本の情報通信の利用者は、文化的背景や国民性もあいまって、客観的には安全な社会基盤が整備されているにもかかわらず不安と感じる利用者の割合が高いという結果が出ている可能性がある。図表2-2-2-12はその例を示すものであり、パソコンのボット感染度でみた安全面では、日本が最も高い評価となっているにもかかわらず、「安心」の総合指標(図表2-2-2-9を参照)は最も低い結果となっている。
図表2-2-2-12 パソコンのボット感染度と「安心」の総合指標の関係
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また、図表2-2-2-13は、Symantec社による「Norton Online Living Report 2009」による12か国(日本、米国、カナダ、英国、フランス、ドイツ、イタリア、スウェーデン、中国、インド、オーストラリア、ブラジル)を対象とした利用者調査の結果を示したものである。日本は、「自分のコンピュータへ遠隔から誰かに侵入されたことがある」という回答で最低の11%となっているにもかかわらず、「自分の個人情報の安全性に不安がある」という回答は最高の55%となっている。このように、日本の情報通信の利用者は、安全が必ずしも安心に結びついていない傾向が見られ、安全対策を徹底するとともに、利用者の安心を高めるための普及啓発策等が必要と考えられる。
図表2-2-2-13 「パソコンへの侵入経験」と「個人情報の安全性」の関係
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ウ 分野別の評価 ●日本は全分野にわたって情報通信利用に関する安心感が低い 前述のように、安全な情報通信基盤であるにもかかわらず、日本の利用者は不安を感じる傾向が強いことに留意しつつ、安心・安全の10分野別に各国の安心感の偏差値を見てみよう(図表2-2-2-14)。すべての分野において日本と韓国の安心感が特に低く、その他の国は偏差値が50以上であり、二極化する傾向となっている。日本は全分野にわたって偏差値が40以下であり、「情報リテラシー」の偏差値が特に低くなっている。
図表2-2-2-14 情報通信の「安心」に関する分野別の偏差値
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各分野の安心感(「不安はない」「どちらかといえば不安はない」と回答した割合)について、全分野で1位国となったデンマークと日本を比較したレーダーチャートが図表2-2-2-15である。これをみると、デンマークは全分野について回答者の4割超が安心と感じており、中でも「インターネット上の商取引」(67.9%)、「プライバシー」(65.3%)、「情報セキュリティ」(58.8%)、「情報リテラシー」(51.4%)では、5割を超えている。一方、日本は、ほとんどの分野で安心感が10%前後と低調で、「プライバシー」「情報セキュリティ」「違法・有害コンテンツ」「ICT利用におけるマナーや社会秩序」については、それぞれ7.0%、5.7%、8.4%、7.5%となっており、比較的安心感の高い「地理的ディバイド」でも21.4%にとどまっている。
図表2-2-2-15 情報通信の「安心」に関する安心感の1位国と日本の比較
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今回の調査では、具体的に発生しうる個別課題を多数例示した上で、「不安はない」「どちらかといえば不安はない」「どちらともいえない」「どちらかといえば不安である」「不安である」の5件法により回答を求める形となっており、このような質問形式では安心感が低く出る可能性も指摘されている14。また、「どちらともいえない」という態度留保の回答割合が相当程度あるため、安心感の水準の解釈には一定の留保が必要である。
10 アンケート調査の実施の詳細については、付注6参照
11 10課題の具体例は付注8参照 12 当該データはGallup(ギャラップ)社の世論調査の1つである「Well-Being(生活の質に対する満足)」をもとにしており、A.寿命全般、B.身体的な健康状態、C.精神的な健康状態、D.健康に関する行動(喫煙、食生活等)、E.仕事(満足度、仕事の適正、上司との関係、労働環境等)、F.その他基本的な生活関連事項(汚染されていない飲料水、薬、健康保険等への加入等)の6つの項目について、総合的に評価したランキングとなっている 13 当該データのうち犯罪被害率は、UNICRI(国連地域間犯罪司法研究所)及びUNODC(国連薬物・犯罪局)によって実施された「国際犯罪被害者調査」の結果を用いている。ここで被害の対象となっている犯罪は、[1]自動車盗難、[2]車上荒らし、[3]オートバイ盗難、[4]自転車盗難、[5]自宅侵入、[6]窃盗未遂、[7]置き引き・すり、[8]強盗、[9]性犯罪、[10]暴行・恐喝の10種類となる。また治安への不安度は同調査結果に掲載されている「暗くなった後の路上で『とても不安を感じる』または『不安を感じる』」に回答した割合である 14 例えば、通信利用動向調査(平成20年)では、インターネットを利用して感じる不安の有無について、「不安を感じている」「セキュリティ脅威への対策を行っているが、不十分であり、少し不安を感じている」を合わせると47.5%、「特に不安は感じない」「セキュリティ脅威はあるが、対策を行っておりそれほど不安は感じていない」を合わせると47.8%となっており、不安と安心が拮抗している
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