平成21年版 情報通信白書

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第2部 情報通信の現況と政策動向

第5章 情報通信政策の動向

(3)国際機関及び多国間関係(アジア・太平洋地域関係を除く)における国際政策の展開

ア 戦略的な国際標準化活動の強化
 技術革新が著しいICT分野で、欧米に加えて中国や韓国が積極的に標準化に取り組む中、今後、我が国が国際競争力を強化していくためには、諸外国のニーズを踏まえて、海外展開のターゲットとなる技術やシステムを明確化し、産学官が連携して、国際標準化から、技術の製品化、システムの他国への売り込みまでの一連の活動を戦略的に進めることが不可欠である。
 このため、平成19年8月に情報通信審議会に「我が国の国際競争力を強化するための研究開発・標準化戦略」について諮問し、20年6月には、
[1] 我が国が重点的に国際標準化活動に取り組むべき技術分野におけるICT標準化戦略マップ及びICTパテントマップの策定方針
[2] 国際標準化活動に携わる人材の育成方法
[3] 産学官の連携によりこれらの活動を統括するICT標準化・知財センターの設置
等の国際標準化活動の強化策等が答申として取りまとめられた。
 総務省は、今後、ICT標準化・知財センターを中心として、戦略的な国際標準化活動の強化を図ることとしている(図表5-6-1-2)。
 
図表5-6-1-2 ICT国際標準化戦略
図表5-6-1-2 ICT国際標準化戦略

イ 国際電気通信連合(ITU)活動への参加
電気通信に関する国連の専門機関である国際電気通信連合(ITU)は、
[1] 無線通信部門
 (ITU-R:ITU Radio communication Sector)
[2] 電気通信標準化部門
 (ITU-T:ITU Telecommunication Standardization Sector)
[3] 電気通信開発部門
 (ITU-D:ITU Telecommunication Development Sector)
の3部門からなり、周波数の分配、電気通信技術の標準化及び開発途上国における電気通信分野の開発支援等の活動を行っている。我が国は、各部門へ研究委員会の議長・副議長及び研究課題の責任者を多数輩出し、勧告を提案するなど、積極的に貢献を行っている。

(ア)ITU-Rにおける取組
 ITU-Rでは、あらゆる無線通信業務による無線周波数の合理的、効率的、経済的かつ公正な利用を確保するため、周波数の使用に関する研究を行い、無線通信に関する標準を策定するなどの活動を行っている。近年では第4世代移動通信システム(IMT-Advanced)の標準化活動が活発に進められている。
 2009年2月からは、IMT-Advancedの無線インターフェース技術提案の募集が開始され(募集期間:2009年2月から10月まで)、2011年頃の勧告化に向けた検討が進められている。また、IMT-Advanced等を導入する際に、国際的に調和のとれた周波数の使用となるよう、2007年世界無線通信会議(WRC-07)で特定されたIMT(第3世代及び第4世代移動通信システム)の候補周波数における周波数アレンジメントについても検討が行われているところである。これらについて、我が国からも寄与文書を提出するなど、積極的に貢献している。
 その他の取組としては、我が国は、衛星デジタル放送の高度化に関する情報通信審議会における審議(平成20年7月答申)を受け、蓄積型放送サービス等の新たな放送サービスの提供を可能とする放送伝送路でのIPパケット等の可変長パケット伝送技術の国際標準化へ向けて、積極的に取り組んでいる。

(イ)ITU-Tにおける取組
 ITU-Tでは、通信ネットワークの技術、運用方法に関する国際標準の策定や、これに必要な技術的な検討を行っている。
 2008年10月には、南アフリカ(ヨハネスブルグ)において、次研究会期(2009年から2012年まで)のITU-Tの活動方針を決定する世界電気通信標準化総会(WTSA-08)4が開催され、以下の事項が決定された。
 具体的な標準化活動を行う研究委員会(SG:Study Group)の体制の見直しにおいては、検討課題を整理することにより、SGの数が13から10に削減された。また、技術的事項に加えて実現すべきサービスにも着目した標準化活動が必要であるとの日本からの提案を受けて、IPTVやホームネットワーク等の新しいサービスの標準化を検討できるSG体制が整えられた。
 各SGの議長・副議長の選出においては、我が国から議長2名及び副議長7名が立候補し、全員が選出された(日本の総合電機メーカーの出身者として初めてSG議長に選出された1名を含む。)。
 加えて、ICT利用による気候変動対策に関する決議や、ITUマーク制度(基準認証、相互接続性の確認に向けた取組)の導入に向けた決議、大学等の学術機関の研究者のITU-Tへの積極的な参加を促進する新たな決議が採択された。

(ウ)ITU-Dにおける取組
 ITU-Dでは、開発途上国における電気通信分野の開発支援を行っている。2006年3月には、ITU-Dの総会である世界電気通信開発会議(WTDC-06)が開催され、今後の活動指針となるドーハ宣言及び行動計画が採択された。同行動計画には、インフラ整備、技術開発、人材育成、災害時の支援等に関するプログラムが盛り込まれ、これらのプログラムに基づき、様々なプロジェクトの実施や各種ワークショップの開催といった活動が積極的に進められている。
 また、WTDC-06においては、我が国の提案により、途上国におけるITU技術標準の作成・活用能力の向上に取り組むべきことを内容とする決議が採択された。これを受け、アジア・太平洋諸国及びアラブ諸国等において標準化活動に従事する政府職員等を対象とした標準化格差是正に関する研修を、平成19年度及び20年度に実施した。

ウ インターネットガバナンスフォーラム
 インターネットガバナンスフォーラム(IGF)は、世界情報社会サミット(WSIS)チュニス会合の結果に基づき、国際連合が事務局を設置し、インターネットに関する様々な公共政策課題について議論するフォーラムである。我が国は、政府・ビジネス部門・市民社会などのマルチステークホルダーによる「対話の場」としてのIGFの役割を積極的に支持している。

 2006年11月、アテネ(ギリシャ)において第1回会合が行われ、2007年11月の第2回会合では、第1回会合の議題であった、自由な情報流通・表現の自由、インターネットにおけるセキュリティ、多様性、アクセスに加えて、「重要なインターネット資源」が新たな議題として取り上げられた。また、第2回会合の議長総括では、10億人が利用するまでに拡大したインターネットを次の10億人が速やかに利用できるようにすることの重要性や、IPv6の活用、サイバー犯罪に関する各国制度の調和等の重要性等が挙げられ、今後もこれらの重要課題について議論を継続していくこととされた。
 2008年12月にはハイデラバード(インド)において、「すべての人のためのインターネット」をテーマに第3回会合が行われ、次の10億人へのインターネットアクセス拡大、サイバーセキュリティと信頼性の向上、重要なインターネット資源の管理、新たな課題等のメインセッションが行われ、総務省からは、IPv6やICTと気候変動に関する取組を紹介した。

エ 世界貿易機関(WTO)におけるドーハ・ラウンド交渉
 2001年11月から開始された世界貿易機関(WTO:World Trade Organization)ドーハ・ラウンド交渉では、サービス貿易分野において最も重要な分野の一つとされている電気通信分野について、電気通信市場の一層の自由化に向けた積極的な交渉が展開されている。我が国は、WTO加盟国の中で最も電気通信分野の自由化が進展している国の一つであることから、諸外国に対して、一律に課せられている外資規制等の措置について、撤廃・緩和の要求を行っている。同ラウンド交渉は、2006年夏に各国の意見対立によりいったん中断されたが、2007年1月末に再開された。その後、2008年内の妥結を目指し、同年7月、サービス貿易分野も含め、閣僚級会合が開催され、集中的な交渉が行われたが、農業分野における対立等を主因として、依然として妥結に至っていない。

オ 経済協力開発機構(OECD)
 経済協力開発機構(OECD:Organization for Economic Co-operation and Development)では、情報・コンピュータ・通信政策委員会(ICCP:Committee for Information, Computer and Communication Policy)における加盟国間の意見交換を通じ、情報通信に関する政策課題及び経済・社会への影響について調査検討を行っている。OECDの特徴は、他の国際機関に比べ、最新の政策課題につき経済的な観点からより客観的・学術的な議論を行う点にある。ICCPは、通信規制政策、情報セキュリティ、プライバシー等の分野において特に先導的な役割を果たしている。
 2008年6月には、「インターネット経済の将来」をテーマに韓国のソウルでICCP閣僚級会合が開催され、我が国の発案に基づき、ICTの利活用による地球環境問題等のグローバルな社会課題への対応等が盛り込まれた「ソウル宣言」が採択された。
 また2008年11月に開催されたICCPの配下の作業部会において、我が国からインターネット上の違法・有害情報からの青少年保護に関するプロジェクト提案を行い、承認された。同プロジェクトにおいて、2009年4月にAPEC TELとの合同シンポジウムを開催し、今後、上記課題に対して更なる国際協力の促進を実現するため、適切な政策枠組の策定に向け議論が進められる予定である。


4 参考:ITU世界電気通信標準化総会(WTSA-08)の結果:http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/2008/081031_8.html

 第6節 国際戦略の推進

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