平成21年版 情報通信白書

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第1部 特集 日本復活になぜ情報通信が必要なのか

第3章 日本復活へ向けた3つの挑戦

2 先進国の中では最低水準の情報化投資

●情報資本の伸びは先進国の中で最低水準
 今日の世界経済は、情報通信技術の発展・普及によって情報流通の劇的なスピード向上とコスト低下が実現し、グローバルに知識経済への移行が進んでいる。先進諸国はイノベーションを誘発し、情報の共有と創造を加速することによって、知識集約型で高付加価値な産業を基盤とする経済に脱皮しつつあり、いかに素早く知識経済になるかということが国際競争力を左右する時代となっている。しかしながら日本は、この知識経済の時代をとらえ、情報化を早急に進めることに成功しているとは言い難い。
 図表3-1-2-1は、欧米先進国(米、英、独、仏、デンマーク)に日本を加えた6か国5について、情報資本の伸びに関する国際比較を示したものである。成長への寄与度の高い情報資本の95年以降の伸びは、デンマークでは約6倍、米英では約4倍だが、日本は2倍強にとどまり、6か国の中で最低となっている。1995年代までは、日本も各国と遜色ない水準にあったが、その後の「失われた10年」の間に差が広がったと考えられる。例えば、2007年における民間設備投資に占める情報化投資の比率は、米国の約37%に対し日本は約22%にとどまっている(第4章第2節を参照)。
 
図表3-1-2-1 情報資本の推移の国際比較
図表3-1-2-1 情報資本の推移の国際比較
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●情報資本による経済成長への貢献でも日本が先進国の中で最低水準
 情報資本の伸びに関する相違は、経済成長に対してどのような影響を及ぼしているであろうか。情報資本の経済成長への寄与度を、日米欧6か国で同様に比較してみよう。図表3-1-2-2は、各国の経済成長率を要因分解したものであるが、情報資本の寄与度は1980〜95年から1995〜2005年にかけて、各国ともほぼ増加する傾向にあるが、日本は横ばいにとどまっている。情報化投資額の伸びが低調なため情報資本の蓄積も進まず、その結果、経済成長率を押し上げる効果が十分に発揮できなかったという状況にある。
 
図表3-1-2-2 情報資本による実質GDP成長への寄与の国際比較
図表3-1-2-2 情報資本による実質GDP成長への寄与の国際比較
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●投資が足りないのは情報通信利用産業
 情報通信基盤は世界最先端であるはずの日本が、なぜ情報資本でこれだけ先進国に引き離されているのだろうか。その原因は、主として情報通信利用産業にある。図表3-1-2-3は、産業別の情報資本の推移を示したものである。日本の情報通信産業の情報資本の伸びは6か国中5位の水準ではあるが、米国と比較しても遜色ない程度の情報資本の蓄積を示している。
 
図表3-1-2-3 業種別にみた情報資本の伸び
図表3-1-2-3 業種別にみた情報資本の伸び
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 しかし、情報通信を利用する側の産業は、すべての産業において、6か国中最下位または最下位に準ずる水準となっている。特に、卸・小売・運輸、個人向けサービス、社会サービスについては、日本と他の5か国との乖離が大きく、サービス業を中心に情報資本の蓄積が先進国の中で最も遅れた状況にある。

●情報通信利用産業の生産性低迷が成長率鈍化の主因
 図表3-1-2-4は、総要素生産性(TFP)の上昇率の業種別動向についての6か国間比較を示したものである。日本における生産性上昇率の95年以降の減速は、全産業に占めるシェアが高い電子機器を除く製造業と卸・小売・運輸の両部門における減速が主たる要因となっている。一方、情報通信産業の生産性上昇率は95年以降も高水準を維持しており、日本経済の牽引役となっている。なお、欧米では、95年以降の生産性上昇に、電子機器を除く製造業や卸・小売・運輸部門等の情報通信利用産業も寄与している国が少なくない状況にある。
 
図表3-1-2-4 生産性の上昇率の業種別動向
図表3-1-2-4 生産性の上昇率の業種別動向
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 一方、図表3-1-2-5は、1995年から2005年までの10年間における情報化投資の伸びと生産性の上昇との関係を示したものである。製造業では情報化投資の伸びが高いほど生産性成長率も高い傾向にあるが、サービス業では情報化投資の伸びが必ずしも生産性の上昇に結びついていない。これらのサービス業(卸・小売・運輸、金融・対事業所、個人向けサービス、社会サービス)が占める就業者のシェアは6割超に達し、サービス業の動向が全体の生産性の水準を大きく左右している。
 
図表3-1-2-5 情報資本の伸びと生産性上昇との関係
図表3-1-2-5 情報資本の伸びと生産性上昇との関係
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 このように、近年の経済成長率の停滞は、情報通信を利用する側の製造業やサービス業等に大きな原因があるのではないかと考えられる。
 良く指摘されるとおり、情報資本の上昇が比例的に生産性を高めるとは限らず、その成否は情報資本の使い方に依存する。例えば、情報化投資に伴い、組織改革や人的資本の充実、情報通信の導入効果の検証といった経営努力を実施した企業に限って、生産性上昇の果実が得られるといった趣旨の研究成果が数多く報告されている6。情報通信と成長力を結ぶ経路を強化するには、単に情報化投資を加速するだけではなく、それをいかに賢く利活用するかという「智恵」が重要になってくると言える。情報通信は、情報や知識の蓄積・利用促進に加え、情報や知識が利用者間で共有されることによりその効果が飛躍的に拡大するという「ネットワーク外部性」を有しており、その効果によって生産性上昇に大きく寄与する可能性が高い。その潜在力を十分に発揮させるには、生産性の低いサービス業をはじめとする情報通信利用産業において、情報通信の徹底活用を進めていくことが重要となるだろう。


5 KLEMSデータベースによる推計を行ったが、第2章第2節で比較したICT先進7か国のうち、データ入手の面で問題のあったスウェーデン(時系列データが不足)、韓国(データの一部の変動が大きく不安定)、シンガポール(データが得られない)の3か国を除外し、代わりに独、仏の2か国を追加した
6 Brynjolofsson and Hitt(1988)をはじめとして、企業レベルデータを用いた多数の先行研究が存在する。日本の例は、篠崎(2007年)等を参照

 第1節 Investment:情報装備率を高めるための「投資」

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