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第1部 特集 ICTが導く震災復興・日本再生の道筋
第2節 グローバルに展開するICT市場

(4)途上国においてICTを経済発展・課題解決のために活用している事例


 このように、成長・課題解決のためにICTを活用する動きは、先進国にとどまる動きではない。モバイルインフラを金融など多目的ネットワークに活用する取組、難民の食糧支援に活用する事例や、他のインフラに先んじて整備を進めるなどの取組などが進んでいる。ここでは、途上国においてICTを経済発展・課題解決のために活用している事例として、携帯電話の普及がめざましい開発途上国における事例を取り上げる(図表1-2-3-4)。

図表1-2-3-4 インドネシア・フィリピン・コートジボワール・ケニア・シリアの携帯電話普及率(2000〜2010年)
図表1-2-3-4 インドネシア・フィリピン・コートジボワール・ケニア・シリアの携帯電話普及率(2000〜2010年)のグラフ
(出典)ITU,“ICT Data and Statistics (IDS)”

ア 携帯電話を金融サービスインフラとして活用 (ケニア)
 ケニアの携帯電話事業者であるSafaricomは、2000年(平成12年)に英国の携帯電話大手ボーダフォンが40%の株式を取得し、Michael Joseph氏が2010年(平成22年)までCEOをつとめた。2000年(平成12年)、Joseph氏がCEOに就任した時点では、Safaricomの携帯電話加入者は約1.7万人であり、また、ケニアの市場規模もせいぜい約5万人程度を想定していたという7。しかし、2010年(平成22年)には、Safaricomの加入者は約1,200万人に、ケニアの加入者数は約2,500万人(携帯電話普及率61.6%)にまで達し、わずか10年間で環境が激変している。
 また、Safaricomでは、2007年(平成19年)3月から「M-PESA」と呼ぶモバイルバンキングサービスを提供している。ケニアは、多くの世帯が銀行口座を持たない一方で、携帯電話が非常に普及している特徴を有しているため、提供地域として選定された。M-PESAは、著しい普及を遂げ、2010年(平成22年)には利用者数は約1,400万人まで増加しており、ケニアの個人(成人)の約40%が利用するアプリケーションまでに成長した(図表1-2-3-5)。これにより、同社の全収入に占めるM-PESAの割合は12.4%にも及んでいる(図表1-2-3-6)。
 このように、ケニアにおいては、携帯電話の普及と金融サービスインフラの不備を背景に、携帯インフラが多目的ネットワークとして活用されている。

図表1-2-3-5 SafaricomにおけるM-PESAの普及状況
図表1-2-3-5 SafaricomにおけるM-PESAの普及状況のグラフ
(出典)総務省「情報通信産業・サービスの動向・国際比較に関する調査研究」(平成24年)(Safaricom Ltd “M-PESA Key Performance Statistics (16/May/2011)”により作成)

図表1-2-3-6 Safaricomの売上高とM-PESAの寄与率
図表1-2-3-6 Safaricomの売上高とM-PESAの寄与率のグラフ
(出典)総務省「情報通信産業・サービスの動向・国際比較に関する調査研究」(平成24年)(Safaricom Ltd “FY 2011 Results Announcement (18th May 2011)”により作成)


イ 携帯電話を他のインフラに先んじて整備・活用する動きも (インドネシア)
 インドネシアにおいては、携帯電話の急速な普及とともに、ソーシャルメディアの普及が著しい。例えば、米国の大手ソーシャルメディアであるFacebookのユーザー数は、米国、ブラジル、インドに次ぐ世界4位となっている(図表1-2-3-7)。

図表1-2-3-7 Facebookのユーザー数(2012年5月現在)
図表1-2-3-7 Facebookのユーザー数(2012年5月現在)のグラフ
SocialBakers(http://www.socialbakers.com/facebookstatistics/)により作成

 このような背景下、インドネシアは、島しょ国家であり、首都と地方との所得格差が大きいと言われているが、携帯電話については、都市部のみならず、地方においても普及が見られる。中には、携帯電話が、他の社会インフラに先んじて整備・普及が進められている事例も存在する。
 例えば、インドネシアのほぼ中央部に位置するスラウェシ島の無電化村であるベカエ村で2010年(平成22年)に日立総合計画研究所が実施した現地調査8によれば、テレビ、冷蔵庫や洗濯機などはほとんどないが、二輪車、携帯電話、発電機はほぼ全世帯が所有していたという。無線網に関しては、山間部にも発電機を備えた基地局が設置されており、不安定ながらも通話できる。しかし無電化村のため、村内では携帯電話を充電できないことから、各家庭では携帯電話の充電池を3個所有し、利用中の1個を除く2個の充電池を県都のセンカン市まで二輪車で2 時間かけて移動して充電しているという。つまり携帯電話とは充電に往復4時間を費やしてでも保有したい必需品となっている。ちなみに、住民が利用しているのはプリペイド式の中古の携帯電話であり電話機の価格は約1,500円、加えて毎月の通話料が数百円程度である。この金額は月収9,000円の家庭にとっては大きな出費であるが所有せざるを得ない理由が存在する。ベカエ村はテレビもラジオもほとんどない村であり、ニュースは口コミが主たる流通経路である。陸の孤島になりやすい環境だからこそ、情報の価値が高い。町にいる友人や知人に聞いたり、情報サービスの利用によって、どの農産物を販売したら仲買人に高く買ってもらえるのか、どんな農薬が販売されているのかなどを知ることが、農家としては経営上不可欠なのだという。
 このように、電力や水道など他の社会インフラ整備に先んじて携帯電話の普及が広がるなど、先進諸国とは異なる発展の経路をたどっている。

ウ 携帯電話を難民の食糧支援に活用 (シリア、コートジボワール、フィリピン)
 携帯電話は、開発途上国においても急速に普及しつつあるが、食糧支援のために、携帯電話を利用する試みが進められている。
 WFP(United Nations World Food Programme:国連世界食糧計画)は、2009年(平成21年)、シリアのイラク人難民1,000世帯を対象に、携帯電話を活用した食料引換券プロジェクトを試験的に実施した。携帯電話を食糧支援に活用する試みは、当時、世界初であったという。対象となるイラク人難民は、携帯電話のショートメッセージ(SMS)で、「仮想食料引換券」を使用できるようにする暗証コードを受信した上で、政府指定の店で、米、小麦、レンズ豆、ヒヨコ豆、食用油、魚の缶詰、チーズ、卵などと交換することができた9
 また、2011年(平成23年)には、WFPは、コートジボワールにおいて選挙後の騒乱によって被害を受けた貧しい人々への食糧支援を提供すべく、携帯電話を利用した現金支給スキームを立ち上げた。具体的には、最大都市でもあるアビジャン内のアボボ地区及びヨポウゴン地区における10,000以上の家族に対して、SIMカードが配布され、SMSを受信することで、近くの「キャッシュポイント」で現金をおろすことができる試みである。本事業においては、160万米ドル(約1億3,000万円)が用いられ、各家庭では、月々75ドル(約6,000円)を受け取り、これは、5人家族の平均的な食費に相当するという。他にも、同様の取組は、2009年(平成21年)のフィリピンにおける台風災害における支援時でも実施されている10


7 The Aspen Institute,“Safaricom Limited, Crafting a Business and Marketing Strategy for a New Market”(http://www.caseplace.org/d.asp?d=7)を参照。
8 日立総研レポート「インドネシアの地方集落の生活実態を通じてみるインフラニーズ」(http://www.hitachi-hri.com/research/organ/pdf/vol6_1_4.pdf)を参照。
9 WFP 日本事務所「WFP、シリアで試験的に携帯電話を活用した食料引換券プロジェクト-イラク人難民対象」(2009年(平成21年)10月28日)(http://www.wfp.or.jp/pr/detail.php?seq=319)を参照。
10 WFP,“Cash-By-Text Pilot Goes Live In Philippines” (http://www.wfp.org/stories/cash-text-pilot-goes-live-philippines) を参照。
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