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第1部 特集 ICTが導く震災復興・日本再生の道筋
第2節 グローバルに展開するICT市場

(2)諸外国・国際機関での戦略的取組


 (1)で述べたような国際的な認識の下、諸外国においては、ICTを成長・イノベーションへの鍵と位置付けて、ICTのインフラ整備や利活用に対し、戦略的な取組を行っている例が多い(図表1-2-5-1)。特に、多くの国が我が国と比較してブロードバンド普及が進んでおらず、ブロードバンド・インフラ整備を成長戦略の軸として掲げるとともに、医療、教育等を含めたICTの利活用についても、多くの国で取組がなされているのが特徴である。
 ここでは、戦略的取組に取り組んでいる国・地域について、政策面を含め紹介する。

図表1-2-5-1 諸外国におけるICT戦略の例
図表1-2-5-1 諸外国におけるICT戦略の例の図
各種資料により作成

ア ASEANにおける取組
 2010年(平成22年)10月のASEAN首脳会議では「ASEAN連結性マスタープラン」が採択された。同マスタープランは、2015年(平成27年)までのASEAN共同体実現に向けた連結性強化のためのプランであり、15の優先プロジェクトが掲げられているが、物理的連結性の柱の一つとしてICTが挙げられている。また、同マスタープランを踏まえ、2011年(平成23年)1月のASEAN情報通信大臣級会合では、ASEAN ICT マスタープラン2015が策定された。ASEAN域内のICTの発展と、包括的で活発な統合されたASEANの構築におけるICTの利活用を計画することを目的としている(図表1-2-5-2)。

図表1-2-5-2 ASEAN連結性マスタープラン及びASEAN ICTマスタープランの主な目標
図表1-2-5-2 ASEAN連結性マスタープラン及びASEAN ICTマスタープランの主な目標の図

 これらのプランでは、最先端のブロードバンド・インフラの整備とICTの利活用促進を通じて、経済成長へのICTの貢献、自国ICT産業の育成やイノベーションの創出が掲げられている。
 ASEAN連結性マスタープラン及びASEAN ICT マスタープランに掲げられている主な目標に沿って、ASEAN各国でも、最先端のブロードバンド・インフラの整備及び新たなICT利活用の促進に向けた取組が進められている。例えば、ASEAN各国(インドネシア、マレーシア、シンガポール、タイ、ベトナム)においても、以下のような取組が進められている(図表1-2-5-3)。

図表1-2-5-3 ASEAN各国における戦略的取組例
図表1-2-5-3 ASEAN各国における戦略的取組例の表
各種資料により作成

イ オーストラリアにおける取組
 2009年(平成21年)4月、オーストラリア政府は全国域で光ファイバ網を新規に構築し、ブロードバンド利活用の拡大を図る「国家ブロードバンド網(NBN: National Broadband Network)」計画を発表し、同計画に基づく取組が進められている。
 NBN計画は2020年(平成32年)までに国内の93%の建物にFTTHによる100Mbps〜1Gbps級のサービスを、そのほか7%のルーラル地域や遠隔地域の建物には、固定無線アクセスあるいは衛星通信による12Mbpsのサービスを提供することを目標としており、計画の総投資額は約359億AUD(約3兆1,064億円)に及ぶと推計されている。NBNは計画発表と同時に設立された政府系事業者NBN Coにより運営され、NBN Coは2011年(平成23年)2月に締結された協定によりインカンバント事業者Telstraなど既存事業者のインフラを用いて光ファイバ網を構築し、完成次第これらの事業者から順次既存インフラ利用者の通信をNBNに移管する。NBNの建設及び稼働はタスマニア州で先行して実施され、2010年(平成22年)8月に同地で商用サービスの提供が開始されている。オーストラリア本土でも2011年(平成23年)5月から試験サービスが開始されている。
 また、オーストラリア政府は2020年(平成32年)までにNBNを全国域で本格的に稼動させることに併せ、オーストラリア経済を世界を主導するデジタル経済にすることを目標とした政策方針「国家デジタル経済戦略(the National Digital Economy Strategy)」に着手している。同戦略ではオーストラリア経済の生産性拡大及び国際競争力の維持が掲げられ、以下の達成目標が示されており、政府はこれらの目標に資する個別プロジェクトを策定、NBNの利活用促進を支援している。
 ①世帯ブロードバンド普及率でOECD加盟国の5位以内に入ること。
 ②オンラインで事業を行う企業・団体の比率でOECD加盟国の5位以内に入ること。
 ③被雇用者の少なくとも12%がテレワークで就業すること。
 さらに、同戦略ではNBNを利活用した医療、教育、環境関連サービスを促進することによって社会厚生を改善することも重要視されており、以下の達成目標が掲げられている。
 ④老人、母子、慢性病患者等の最優先の消費者に対し、電子個人健康データを提供可能とすること。加えて、2015年(平成27年)までに49万5,000件の遠隔医療を実施し、2020年(平成32年)までにすべての医療従事者の25%が遠隔医療を実施すること。
 ⑤教育機関がオンライン教育の導入を推進すること。加えて利害関係者と協働して関連サービスを開発すること。
 ⑥国民の4/5がオンライン行政サービスを利用すること。
 ⑦企業及び団体の過半がスマートグリッドを活用すること。

ウ 米国における取組
(ア) 「国家ブロードバンド計画」による戦略的展開
 米国においては、2010年(平成22年)3月16日に公表された「国家ブロードバンド計画」(Connecting America: The National Broadband Plan)に基づく取組が進められている。同計画は、2009年(平成21年)2月に成立した「米国再生・再投資法」(The American Recovery and Reinvestment Act of 2009 (Recovery Act))に従って進められており、①世界一のブロードバンド環境の実現、②世界一のワイヤレスブロードバンド環境の整備、③全国民へのブロードバンド・サービス(ユニバーサルサービス)の提供、④教育・医療等でのブロードバンドの利用、⑤公共安全ネットワークの確保、⑥グリーンICTの利用、といった6つの目標を達成するため、ベンチマークを確立し、先端的なICTを米国の社会経済全体にもたらすことを目指している。
 2011年(平成23年)2月には、国家電気通信情報庁(NTIA)がFCC、各州等との協力により作成した「国家ブロードバンド・マップ (National Broadband Map)」が公開された(図表1-2-5-4)。同マップはNTIAが「State Broadband Data & Development Program」を通じて交付した補助金を使って各州がISPから収集したデータをまとめたもので、ブロードバンド・サービスの提供地区やサービスに使われている技術、広告上の最高通信速度、ISP名などの記録を検索することが可能なものである。
 また、国家ブロードバンド計画の提言に基づき、FCCは、ユニバーサルサービス基金(USF)を改革し、高コスト地域支援プログラム制度をルーラル地域のブロードバンド普及支援に充てることを決定し、2011年(平成23年)11月18日にはそのための規則を発表した。同規則においては、従来から音声電話サービスの提供を義務付けられていた適格電気通信事業者(ETOs)に対して、ブロードバンド・サービスの提供を義務付けるとともに、従来の音声電話を支援する高コスト地域支援プログラムから、コネクトアメリカ基金、モビリティ基金を創設する段階を経て、最終的にコネクトアメリカ基金に一元化した。これにより、高コスト地域におけるブロードバンドの提供を支援する段階に移行していくこととしている。コネクトアメリカ基金を含む高コスト地域支援の規模は、6年間は、年額45億ドル(約3,600億円)を超えないものとされている。
 FCCは、現在ブロードバンドへのアクセスがない700万人にサービスを提供することを目指しており、また、今後6年間のブロードバンド網構築は50万人分の雇用を創出する効果13があると試算している。

図表1-2-5-4 米国「国家ブロードバンド・マップ」
図表1-2-5-4 米国「国家ブロードバンド・マップ」の写真
(出典)米国「国家ブロードバンド・マップ」ウェブサイト
http://www.broadbandmap.gov/technology

(イ) 連邦政府によるクラウド戦略
 オバマ政権では、電子政府におけるクラウド技術の活用を進めている。2009年(平成21年)9月には、電子政府の効率化や経費節減を目的として、複数のベンダーのクラウドサービスを検索、購入することができる政府機関向けクラウド提供サイトの「Apps.gov」が開設された。また、2011年(平成23年)2月には、「Federal Cloud Computing Strategy」を公表、連邦政府のIT支出800億ドル(約6.4兆円)のうち200億ドル(約1.6兆円)部分について、クラウドコンピューティングによる潜在的な置き換えの対象とし、クラウドの活用を進めるとしている。

エ EUにおける取組
 EUにおいては、欧州経済戦略「欧州2020」及び欧州デジタル・アジェンダによるEU全体の取組が進められている。

(ア) 欧州経済戦略「欧州2020」
 欧州委員会は、2010年(平成22年)3月、今後10年間の欧州経済戦略「欧州2020」を発表した。同戦略において、欧州委員会は、成長のための3つの要素(賢い成長、持続可能な成長、包摂的成長)を挙げ、EU並びに各国家のレベルでの具体的な行動を通じて取り組むべき主な成長促進課題を提示している。この3大成長の実現のために、「5大目標」(雇用、R&D、環境、教育、貧困)が設定されており、更に5大目標の実現手段として、7つの「最重要イニシアチブ」が設定された。同イニシアチブのうち、「欧州デジタル・アジェンダ」(The Digital Agenda for Europe)がICT分野に対応している。

(イ) 欧州デジタル・アジェンダ(The Digital Agenda for Europe)
 欧州委員会は、2010年(平成22年)5月、欧州デジタル・アジェンダの行動計画を記したコミュニケーションを発表した。その中では全体目標として、「超高速インターネット及び相互接続可能なアプリケーションを基盤とする『デジタル単一市場』の創設から、持続可能な経済的、社会的便益が得られるようにすること」を掲げている。また、目標として、2013年(平成25年)までに、すべてのヨーロッパ人が基礎的なインターネットを利用可能とし、また、2020年(平成32年)までに、①すべてのヨーロッパ人が30Mbps以上の高速インターネットを利用可能とするとともに、②50%以上のヨーロッパの世帯が100Mbps以上のインターネット接続に加入することを掲げている。このデジタル・アジェンダの目標を実現するための公的補助の促進や各国との連携がブロードバンド戦略の課題となっている。
 2011年(平成23年)1月には、EUの国家補助ガイドラインに基づき、ブロードバンドの普及に関連する公的基金の補助申請20件の承認を発表した。補助金の総額は18億ユーロ(約1,800億円)超にのぼり、カタルーニャ、フィンランド、バイエルンなどの地域におけるブロードバンドの普及に充てられた14。また、2011年(平成23年)10月には、高速ブロードバンド網の敷設、およびブロードバンド利用サービスにかかわるプロジェクトに対して、2014年(平成26年)から2020年(平成32年)の間で約92億ユーロ(約9,100億円)の支援を行う提案が欧州委員会から発表された。支援は政策金融、助成の形式で行われる15

オ EU各国における動き
 このような動きを踏まえて、欧州各国でも取組が進められている。

(ア) 英国
 英国においては、2010年(平成22年)に公表された「国家基盤計画」や「超高速ブロードバンド整備計画」を踏まえ、両計画が細部にわたり実行される段階となった。

A 「国家基盤計画」
 2011年(平成23年)11月、英国財務省は、オズボーン大臣による秋季財政経済演説(Autumn Statement)に併せて「国家基盤計画(National Infrastructure Plan)2011」を公表した。2010年(平成22年)10月に公表されたのが「国家基盤計画(2010年計画)」であり、今回のものはその改定版に当たる。運輸、エネルギー、上下水道の各分野と並んで情報通信関連施策が取り上げられている。2011年(平成23年)計画においては、初版で掲げられた民間投資促進による超高速ブロードバンド整備や、民間投資が期待できない地域への政府資金投入、民間への政府保有周波数の開放等についての進捗状況が明記されたほか、モバイルネットワークサービスのカバー率及び品質の向上のための投資(1.5億ポンド(約190億円))、都市向けブロードバンドファンドの創設(1億ポンド(約120億円))などが新たに盛り込まれた。

B 「超高速ブロードバンド整備計画」
 英国政府は2010年(平成22年)、欧州で最も優れた超高速ブロードバンド・ネットワークを2015年(平成27年)までに構築する目的で、民間投資だけでは整備が見込めないエリアに5.3億ポンド(約660億円)の投資を決定した。国内90%の世帯・企業に24Mbps以上の超高速ブロードバンド・ネットワークへのアクセス提供を目指している。今後、2017年(平成29年)までにその投資額を8.3億ポンド(約1,000億円)に増やす予定となっている。2012年(平成24年)1月には、文化・メディア・スポーツ省(DCMS)は、超高速ブロードバンド敷設事業について、実施を希望している地方自治体の47プロジェクトのうち、15の事業計画「Local Broadband Plan」を承認し、具体的な事業実施が開始されることになったと発表した16

C 内閣府によるクラウド等ICTを活用した行政サービス改革
 内閣府は、2011年(平成23年)3月、政府の新ICT戦略を発表した。また、同年10月には具体的なアクションプランでもある「政府新ICT戦略の戦略的導入計画」を公表17し、向こう4年間でICT支出を約14億ポンド(約1,700億円)削減するととともに、よりよい公共サービスをデジタルで提供するとの目標を示した。
 新ICT戦略では特にエンドユーザー・デバイス、クラウドコンピューティング、ICT能力や政府のグリーンICT戦略の分野に力点が置かれている。また、2015年(平成27年)12月までに、中央政府の新ICT支出の50%をクラウドコンピューティング・サービスに移行する計画となっている。特に、クラウドについては、「政府クラウド戦略18」を公表、政府情報システムのクラウドコンピューティング化の推進を明確に打ち出し、各政府機関へのクラウドコンピューティングの導入や既存アプリケーションの再利用により、中央政府の支出を2015年(平成27年)までに1.2億ポンド(約150億円)削減する目標を掲げている。2012年(平成24年)には、各政府機関へのクラウドコンピューティング導入を進めるためカタログサイト「CloudStore」のベータ版が公開されるなど、取組が進められている(図表1-2-5-5)。

図表1-2-5-5 英国・クラウドカタログサイト「CloudStore」の画面
図表1-2-5-5 英国・クラウドカタログサイト「CloudStore」の画面の写真
(出典)英国「CloudStore」ウェブサイト

(イ) フランス

A 新たな国家デジタル経済計画「デジタル・フランス2012-2020」

 フランスにおいては、2008年(平成20年)に発表された「デジタル・フランス2012」等に基づき、取組が行われてきた(図表1-2-5-6)。この「デジタル・フランス2012」を引き継ぐものとして、2011年(平成23年)11月30日、フランス経済・財政・産業省は新たな国家デジタル経済計画「デジタル・フランス2012-2020」を発表した。本計画では2008年(平成20年)の超高速ブロードバンド普及促進とともに、各種利活用サービスやアクセス機会の増大を図るため、5つの主目標の下で57の具体的目標を提示している。

図表1-2-5-6 デジタル・フランス2012の成果
図表1-2-5-6 デジタル・フランス2012の成果の表
フランス経済・財政・産業省「デジタル・フランス2012-2020」概要資料により作成

 5つの主目標は、①デジタル化によるフランス経済の競争力強化、②すべての国民のデジタル網へのアクセス、③デジタル・コンテンツの生産・提供の活発化、④デジタル・サービス、デジタル利用の多様化、⑤デジタル経済のガバナンス刷新、とされている。また、57の具体的目標のうち、特に重要視されている項目は以下の5つである。
 ①中小企業を含む100%の企業がデジタル・サービスを利用
 ②超高速ブロードバンドへの接続人口を2020年(平成32年)には70%、2025年(平成37年)には100%
 ③モバイル超高速ブロードバンド・サービスに対し、2020年(平成32年)までに450MHz分の周波数を新たに割当て
 ④すべての地上デジタルチャンネルをHDTVにし、少なくとも一つの3Dチャンネルを創設
 ⑤各種行政手続のうち、利用頻度の高いものは2013年(平成25年)まで、それ以外も2020年(平成32年)までにはすべてデジタル化

B 「国家超高速ブロードバンド計画」の進展

 2010年(平成22年)に発表された「国家超高速ブロードバンド計画」の施策が適用段階に入り、通信事業者や地方自治体によるネットワーク構築計画が開始されている。地方での光ファイバ網構築について、政府は、人口密度は高くないが「収益性は確保」できる地域では、通信事業者間の共同投資によるカバレッジ拡大が望ましいとしており、2011年(平成23年)7月と11月にそれぞれ国内の2事業者が共同で500万〜1,000万世帯のカバー計画を発表している。また、地方自治体の地域基盤構築プロジェクトへの支援については、助成予算20億ユーロ(約2,000億円)のうち9億ユーロ(約900億円)が地方自治体の主導する光ファイバ網整備計画に充てられることが決定、2011年(平成23年)7月から関連プロジェクトの公募が実施されている。

(ウ)ドイツ
 ドイツにおいては、2010年(平成22年)11月に閣議決定された、2015年(平成27年)までのICT戦略「デジタルドイツ2015」(Deutschland Digital 2015)に基づく取組が進められている。ブロードバンド政策については、2009年(平成21年)に公表された「ドイツ政府のブロードバンド戦略」の内容が踏襲されており、2014年(平成26年)までに全世帯の75%で、50Mbps以上の接続を可能とし、できるだけ早期にドイツ全域において可能とすることを目標としている。
 連邦経済技術省によると、2012年(平成24年)3月現在、1Mbps以上の基本的ブロードバンドに接続可能な世帯の割合が99%以上に及んでおり、50Mbps以上のブロードバンドに接続可能な世帯の割合は48%に達したと発表している19。また、2012年(平成24年)5月に施行された改正電気通信法では超高速ネットワーク整備促進のための制度が盛り込まれており、これにより連邦経済技術省は2015年(平成27年)(遅くとも2018年(平成30年))までには、50Mbps以上の接続が全国で可能となると見込んでいる。
 なお、「デジタルドイツ2015」については、毎年モニタリングレポートを作成し、各項目の進捗状況を把握するとともに、日本を含む他のICT先進国14か国との比較を行い、ドイツの現在位置を確認している。2011年(平成23年)12月に発表されたレポート「デジタルドイツ2011」では、2010年(平成22年)、ドイツは15か国中6位という結果であった。


カ 中国での取組

(ア) 第12次5か年計画の公表
 2011年(平成23年)3月に開催された全国人民代表会議において、「国民経済・社会発展第12次5か年計画」綱要が採択された。同計画綱要では、「戦略的新興産業の育成(第10章)」において、新世代情報技術産業として、新世代移動通信、次世代インターネット、三網融合(通信と放送の融合)、物聯網(Internet of Things;モノのインターネット)、クラウドコンピューティング等を重点的に発展させるとしている。同計画綱要を受け、現在、各省庁において、各分野における第12次5か年発展計画の制定作業が進められている。このうち、ここでは、通信業及び物聯網についてそれぞれ取り上げる20


 ①通信業の第12次5か年発展計画
 2012年(平成24年)5月、工業情報化部が「通信業の第12次5か年発展計画」を制定した。同計画は、通信業について、国の基礎インフラとして経済と社会の発展を支える戦略的産業であり、他産業と融合してその発展を誘導し、経済構造の転換を促進するといった点で重要であるとしている。同計画の主な目標は図表1-2-5-7のとおりである。

図表1-2-5-7 通信業の第12次5か年計画における主要目標
図表1-2-5-7 通信業の第12次5か年計画における主要目標の表

 ②物聯網の第12次5か年発展計画
 中国においては、2009年(平成21年)以降、温家宝総理の提唱を受けて、物聯網の研究等が進められてきたが、2011年(平成23年)11月、工業情報化部が「物聯網の第12次5か年発展計画」を制定した。同計画は、物聯網が経済発展や社会の成長を促進するものであることから、目標や重点を明確化し、その成長・発展を加速化させるとしている。同計画の主な目標は図表1-2-5-8のとおりである。

図表1-2-5-8 物聯網の第12次5か年発展計画における主要目標
図表1-2-5-8 物聯網の第12次5か年発展計画における主要目標の表

(イ) ブロードバンド戦略
 2011年(平成23年)12月、全国工業情報化工作会議において、苗○(土偏に于)工業情報化部部長は、2012年(平成24年)の重点任務の一つとして「ブロードバンド中国戦略」を推進することを明らかにした。
 これを踏まえ、2012年(平成24年)3月に、国家発展改革委員会と工業情報化部は、「ブロードバンド中国戦略」の策定に関する通知を発表した。同通知において、中国政府各部門は、共同で「ブロードバンド中国戦略」の検討チームを設立し、関係各方面の意見を聴きつつ、5月に「ブロードバンド中国戦略」の実施方案を完成し、6月頃に国務院に上程することとされた。
 また、2012年(平成24年)5月、温家宝総理が主催した国務院常務会議において、情報化の発展及び情報セキュリティの保障の推進に関する若干の意見が採択された。同意見において、「ブロードバンド中国」プロジェクトを実施することが確定され、情報ネットワークのブロードバンド化を加速し、都市部におけるFTTHの普及を推進し、行政村におけるブロードバンドのユニバーサルサービス化を実現することとされた。

(ウ)三網融合
 通信網、ラジオ・テレビ放送網及びインターネットを融合させる「三網融合」については、2010年(平成22年)1月に温家宝総理が主催した国務院常務会議において、その取組を加速推進することが決定された。また、同年から2012年(平成24年)までを試行時期とし、通信サービスとラジオ・テレビ放送の相互参入のテストを行い、融合が円滑に展開できる政策及び体制面の検討をすることとされ、2013年(平成25年)から2015年(平成27年)までを本格サービスの展開時期とし、試行結果を総括した上で、融合発展を全面的に実現することを内容とする目標が策定された。2010年(平成22年)7月には北京、上海、深セン(土偏に川)、大連等の12都市を、また、2011年(平成23年)12月にはこれに追加して42都市21をテスト実施のためのモデル都市とすることが発表されている。


キ 韓国での取組
 韓国では、1995年(平成7年)の情報化促進基本法制定を踏まえ、「第1次情報化基本計画」(1996年(平成8年))、「Cyber Korea 21」(1999年(平成11年))、「e-Korea Vision 2006」(2002年(平成14年))、「u-Korea基本計画」(2006年(平成18年))等のICT戦略を策定しながら、ICT政策を政府全体として推進してきた。
 特に、1997年(平成9年)に韓国はIMF危機を迎え、経済破綻からの立ち直りが喫緊の課題となったことが、ICTによる経済復活を目指すことに対する国民的コンセンサスの形成へとつながり、ブロードバンドの整備、電子政府による効率性と透明性の向上、教育情報化の推進に一層力を注ぐことになったとの指摘もある。
 現在、2008年(平成20年)に策定された「国家情報化基本計画」(2008〜2012)等に基づき取組がなされている。同基本戦略では、「創意と信頼の先進知識情報社会」を目指し、5大目標(2大エンジン、3大分野)と20のアジェンダ、72の課題が盛り込まれている。
 また、2009年(平成21年)には、「ITコリア未来戦略」を公表している。同戦略は、韓国の未来の成長動力であるIT産業に対する総合的な未来ビジョン及び実践戦略を、李明博大統領に対して報告したものであり、従来の国内インフラ整備から、ICTと他産業との融合を進める政策へ方向性を転換したものである。同戦略では、IT融合産業、ソフトウェア、主力IT機器、放送・通信、インターネットを5大核心戦略として推進することとされた。2009年(平成21年)から2013年(平成25年)までの5年間で189.3兆ウォン(約13兆円)(政府:14.1兆ウォン(約1兆円)、民間:175.2兆ウォン(約12兆円))を投資することとし、未来の韓国経済の成長を牽引し、2013年(平成25年)の潜在成長率を0.5%上昇させることを目標としている。
 特徴的であるのは、韓国が「国家情報化基本計画」等を通じて、国内におけるICT基盤整備・利活用に努めるとともに、「ITコリア未来戦略」等を通じて、ICT産業を国家の主力産業として位置付け育成するという国内外両面での取組を進めていることが挙げられる
 このような取組により、2009年(平成21年)、リーマンショックの影響によって韓国のGDP成長率が0.3%にとどまる中でもICT産業は3.9%成長を確保し、2010年(平成22年)ではGDP成長率が6.2%のところICT産業は13.7%の成長を遂げるなど、韓国経済のGDP成長にICT産業は寄与している(図表1-2-5-9)。

図表1-2-5-9 韓国ICT産業の成長率
図表1-2-5-9 韓国ICT産業の成長率のグラフ
(出典)韓国行政安全部「情報化白書」(2011年(平成23年))

ク インドでの取組
 ICT産業におけるインドの飛躍は、インド政府の政策展開と密接に関わってきたと言われる。総合国家戦略である第10次5か年計画(2003年(平成15年)〜2007年(平成19年))においては、政府におけるICT戦略が明確に打ち出され、ICT生産額、輸出額、世界ソフト市場に占めるインドのシェア、インターネット利用者数、ICT産業雇用者数などの目標値が定められた。同計画を通じてインドのICT産業は飛躍的成長を遂げている。そして、第11次5か年計画(2008年(平成20年)〜2012年(平成24年))においては、①ネットワークの拡大、②ルーラル地域の電話、③ブロードバンド、④製造及びR&Dが掲げられている。特に、インドにおけるソフトウェア産業は、英語やICTを使いこなすことができるエリート層に裾野が限定されていることが課題との指摘もあり、インド政府の戦略的ICT政策は、産業の裾野を広げるための戦略的取組であるとも考えられる。
 実際、インドの通信市場をみると、携帯電話市場が急拡大しており(図表1-2-5-10)、人口普及率は約75.4%22となっている。また、ブロードバンドについても普及が進みつつある状況にある(図表1-2-5-11)。

図表1-2-5-10 インドにおける電話加入者数の推移
図表1-2-5-10 インドにおける電話加入者数の推移のグラフ
インドTRAI 資料により作成(2012年(平成24年)は2月末、そのほかの年は9月末のデータ)

図表1-2-5-11 インドにおけるインターネット・ブロードバンド加入者数の推移
図表1-2-5-11 インドにおけるインターネット・ブロードバンド加入者数の推移のグラフ
インドTRAI 資料により作成(2012年(平成24年)は2月末(「インターネット」はデータ未発表のため、不記載)、そのほかの年は9月末のデータ)

 2011年(平成23年)10月には、通信IT省において、情報通信分野において推進する政策方針案として、「ICTE分野の国家的諸課題を推進するため3つ組政策案」が、それに基づき、同月「テレコム政策2011案」、「IT政策2011案」が公表された23。このうち、テレコム政策については、2012年(平成24年)6月に「テレコム政策2012」として策定された。
 「テレコム政策2012」においては、電気通信が社会経済発展の重要な要素であるとの認識の下、インドが電気通信分野において世界的に指導的役割を効果的に果たすとともに、農村部や過疎地において手頃な価格と高品質の通信サービスを提供することに重点を置くことにより、均衡かつ包括的な経済成長の加速を通じた社会経済シナリオの変革を実現するとしている。
 特に、国内のICTインフラ普及について多くの記載がなされており、①2020年(平成32年)までに農村における電話普及率を39%から100%まで増加させるとともに、2Mbps以上の速度のブロードバンド接続を2017年(平成29年)までに1.75億件、2020年(平成32年)までに6億件実現し、需要に応じ最低100Mbpsの高速通信を実現すること、②2020年(平成32年)までに、通信技術を組み合わせることで全村落に高速かつ高品質なブロードバンド接続を提供すること、③ブロードバンド接続を含む通信は原則必要なものと認識し「ブロードバンドの権利」に向けて努力すること等が施策として掲げられている。
 また、「IT政策2011案」においては、あらゆる産業へのICTの展開、世界へのITソリューションの提供に焦点を置き、「グローバルITハブ」としてのインドの地位を強化充実すること、インド経済の急速、包括的かつ持続可能なエンジンとしてITを活用することを目指すとしている。
 特に、情報通信産業育成について多くの記載がなされており、具体的には、①世界的に競争力のあるIT及びITES24のためのエコシステムを構築するとし、IT及びITES産業からの収入を現在の880億ドル(約7.0兆円)から2020年(平成32年)までに3,000億ドル(約24兆円)に増加させ、現在590億ドル(約4.7兆円)の輸出額を同年までに2,000億ドル(約16兆円)まで拡大すること、②TierII(7大都市以外の州都を中心とした大都市)及びTierIII(地方の中規模都市)においてIT産業への投資を誘致するための財政的そのほか政策の策定、③ICT分野で1,000万人の技能を持つ人材の確保、④電子政府を通じたサービス提供の可能化、等が施策として掲げられている。


コラム インドにおけるオフショアリングの状況

 インドの情報通信産業は、特にソフトウェアを中心として急速な成長を遂げており、2012年度(平成24年度)で、1,007億ドル25(約8兆円)に達すると予想され、国内GDPの7.5%に及ぶ(図表 1及び図表 2)。内訳をみると、輸出が691億ドル(約5.5兆円)を占めている。その背景としては、インドは、1991年(平成3年)から経済自由化政策を推進し、ソフト産業政策と欧米企業のグローバル化に伴うオフショアリングのニーズがかみ合って功を奏したことが挙げられており、既に2011年度(平成23年度)の世界のアウトソーシングの58%をインドが占めている26

図表1 インドの情報通信産業売上高及びGDP比
図表1 インドの情報通信産業売上高及びGDP比のグラフ
(出展)NASSCOM ウェブサイト

図表2 インドのソフトウェア生産の推移
図表2 インドのソフトウェア生産の推移のグラフ
DIT: Information Technology Annual Reportにより作成

 このように、オフショアリングを中心として輸出に成功してきたが、現在のインドにおけるICT戦略は、機器製造産業、国内情報化などへシフトしている。特に、インドにおいては、中間層を対象としたICT市場の大幅な拡大が見込まれており、オフショアリングを進めてきた企業についても、国内市場向け事業に取り組む例も出てきている。



13 米国連邦通信委員会(FCC) “FCC Creates Connect America Fund to Expand Broadband, Create Jobs” (http://www.fcc.gov/document/fcc-creates-connect-america-fund-expand-broadband-create-jobs) を参照。
14 欧州委員会 “State aid: Commission approves record amount of state aid for the deployment of broadband networks in 2010” (http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=IP/11/54&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en) を参照。
15 欧州委員会 “Commission proposes over €9 billion for broadband investment” (http://ec.europa.eu/information_society/newsroom/cf/item-detail-dae.cfm?item_id=7430&language=default) を参照。
16 英国文化・メディア・スポーツ省(DCMS) “A third of English councils set to go with broadband” (http://www.culture.gov.uk/news/media_releases/8816.aspx) を参照。
17 英国内閣府 “ICT Strategy Strategic Implementation Plan to deliver savings of over a billion pounds” (http://www.cabinetoffice.gov.uk/news/ICT-strategy-strategic-implementation-plan-deliver-savings-over-billion-pounds)を参照。
18 英国内閣府 “Government Cloud Strategy” () を参照。
19 ドイツ連邦経済技術省 “Rosler: Expansion of high-performance internet making rapid progress” (2012年) ()を参照。
20 通信業及び物聯網以外にICT関連では、2012年(平成24年)6月現在で、例えば、電子情報製造業、集積回路産業、インターネット産業、電子政府、電子認証サービス業などの第12次5か年発展計画が発表されている。
21 中国国務院「国○院○公○○于印○三网融合 第二○段○点地区(城市)名○的通知」(中国語)(http://www.gov.cn/zwgk/2011-12/31/content_2034910.htm) を参照。
22 2012年2月実績分、インド電気通信規制庁(TRAI)調べ
23 ほかに、エレクトロニクス分野に関する政策案として「エレクトロニクス政策2011案」が公表された。
24 Information Technology Enabled Servicesの略。情報通信技術を利用したアウトソーシング。
25 インド・ソフトウェアおよびサービス企業協会(NASSCOM)推計。
26 インド・ソフトウェアおよびサービス企業協会(NASSCOM)資料による。
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