総務省トップ > 政策 > 白書 > 24年版 > 読者参加コラム ICTを日本の国際競争力につなげるには?
第1部 特集 ICTが導く震災復興・日本再生の道筋
第3節 ICT国際展開がけん引する成長のポテンシャル

読者参加コラム ICTを日本の国際競争力につなげるには?


 SNSのミクシィ、Facebookに開設した専用ページ「みんなで考える情報通信白書」では、最初のテーマとして「ICTによる日本の国際競争力の強化」についてご意見を募集し、多くのコメントをいただいた。
 これまで高い国際競争力を持ち、日本経済を支えてきた家電や情報通信等のICT分野で、日本企業の国際競争力の低下が懸念されている。ICTを再び、日本の産業の強みとするには何が必要なのだろうか。「みんなで考える情報通信白書」に寄せられた多くのご意見20を基に考えてみた。

1.なぜ日本の国際競争力は低下したのか 〜「ガラパゴス化」とは何だったのか〜
 日本のICT産業の停滞を表すキーワードとしてしばしば登場するのが「ガラパゴス化」である。ガラパゴス化とは、世界に先駆けて高度な情報通信技術を開発・実用化しながら、それが汎用性に乏しい「独自の進化」をしてしまうために、世界市場への進出に失敗する現象を指している。
 この「ガラパゴス化」については、「間違った技術開発が行われた結果」と受け取られがちだが、SNSでは別の見方をとるコメントが多く寄せられた。独自の技術開発そのものが悪いのではなく、それを世界に広めようとする積極性や戦略が不十分だったのではないか、という指摘である。

→ 携帯電話の業界でよく使われる「ガラパゴス化」ですが、独自の技術で最先端を進むこと自体は歓迎すべきことだと思います。重要なのは、インターフェースの標準化を無視して独自仕様にしたから、世界から孤立してしまったことでしょう。
→ ガラパゴス化するかどうかは、独自に発展したものを他のマーケットに広めないかどうかで決まると思います。
→ 多様性を受け入れる事ができるビジネスモデルの構築が重要。一つひとつの問題に技術的に対応しようとするから、ガラパゴス化する。世界との競争は、技術ではなくビジネスモデルやデザインを含む総合力で勝負するべきだと思います。

 これらの指摘は、近年の日本のICT産業が抱える課題をよく示しているといえるだろう。しかし、問題が単に技術の優劣の問題ではなく、技術をどのように生かし、ビジネスにつなげるかという「考え方」や「実行力」にあるのだとすれば、その解決策も単なる技術開発の強化では十分でなく、より幅広い視点での総合的な取組が必要になる。

2.現状打開に必要な「思考転換」
 「みんなで考える情報通信白書」には、現状を打開するには様々な面で「日本人のものの考え方を変える」ことが必要との意見が多く寄せられた。その多くに共通しているのは、日本が持つソフト資源(技術、人材、社会構造など)にもっと自信を持ちつつ、グローバル市場を視野に置いてその活用法・展開法を考える積極思考への転換が重要との認識である。

→ やみくもに欧米に合わせるのではなく、日本流をグローバルに広げるという意識が大切だと思います。
→ イノベーション等の欧米諸国の発想が輸入され、それらに振り回されているきらいがある。日本はもう一度、自国を見直すところから始めるのが、最も国際競争力を産み出せると考える。
→ 日本で成功したモデルが海外で通用するとは限らないので、「はじめからグローバルを見据えたプロダクト(サービス)デザイン」を行うことが必要と考えています。

 また、日本人の「まじめさ」がかえって足かせになっているのでは、との指摘もあった。あまりに生真面目な思考や判断が優先され過ぎる社会では、冒険やトライアルの余地がなくなり、新しいものを生み出す力が削がれてしまう。多様な人材による前向きな試行錯誤と失敗を柔軟に社会が認め、積極的にチャンスを与えることが、新たな競争力を生みだすことにつながるはずである。

→ 日本人の真面目な気質が、海外展開に向けて必要なダイナミックな判断を阻害しているのではないでしょうか。日本が持つ能力をどのように適用すれば競争力になるのかをもっと気楽に柔軟にとらえてやってみて、それを鷹揚に受け止める環境が整備されれば、日本発の国際進出はもっと増やせるのではないでしょうか。
→ 開発者、マーケターの間でコーディネートする人材がうまく配置されていない。新興国に「くそまじめなエリート」だけでなく、「いい加減なやつ」も送りこめないものか。
 人材については、ICTに幼い頃から親しんでいる若い世代(デジタルネイティブ世代)をもっと活用すべき、との意見が多く見られた。若者の感性が活かせ、若者が意欲的に取り組める仕事の場を広げることが、ひいては日本のICT産業の活性化、国際競争力強化につながるのではないか。

→ 20代の若者の活力を蘇らせる必要がある。新しい文化や技術は、若者文化の果実であるポップカルチャーの中から生まれてくる。そのためには、20代の若者が安心して稼ぐことができる環境が必要。
→ 世界で最先端と言われる日本のサブカルチャー分野で活躍する人たちは、自分の目的のために進んでいると思います。競争力強化が目的ではなく、興味が増すような環境を提供することが重要ではないでしょうか。

 一方、日本の伝統的な社会のしくみに着目し、それをいかすことで、新たなイノベーションのしくみが作れるのではとの意見もいただいた。

→ 日本で育まれてきたネットワーク技術である「講」や「結」など、互酬経済を支える仕組みをICTと融合的に取り扱うことは、他国にないイノベーションアプローチを創出できると考えています。例えば、東日本大震災後のサプライチェーンの迅速な復興は、つながりのある企業の集まりが支え合う構図で成し遂げられました。これこそ現代の「講」構造ではないかと思います。

 新しい感性を持つ若い世代の人材に積極的にチャンスを提供して、試行錯誤の中から世界をリードできるICT製品やサービスを生みだす。そうして生まれた新事業の種を、日本ならではの現代の「講」構造で様々な企業が後押しし、世界に通用する事業に仕上げて戦略的にグローバル展開する。このような、世代や組織を超えたダイナミックな協業のしくみを機能させることが、ICTを活用した日本再活性化のひとつの処方箋としてみえてくる。
3.日本再活性化のために取り組むべきこととは
 では、このしくみを機能させ日本再活性化を図るために、これから具体的に何に取り組むことが必要だろうか。求められているのは、社会を挙げての総合的な取り組みであり、国が取り組むべきことも、企業が取り組むべきことも数多く挙げることができる。「みんなで考える情報通信白書」では、特に次の3点について多くの意見をいただいた。

(1)ICTリテラシー向上に向けた取組
 専門のICT技術者の育成はもちろんだが、ICTを仕事や社会で幅広く活用していくには、ICTユーザーである一般企業や市民のリテラシー向上が重要である。そのため、社員教育、社会教育、学校教育それぞれで、ICTリテラシー向上に向けた取組を充実させることが求められる。必要なのは、「情報通信技術を教える科目」の充実だけではなく、指導形態そのものをICTを活用した形に変えていくことであり、これによって指導形態とICT双方のイノベーションが期待できる。また、適切な指導を行える人材の育成も重要なポイントである。

→ 行政や教育分野など、最も保守的なところからICTで変革することが、この国の未来を変えると思います。底辺の底上げ、層を厚くすることが重要です。
→ ICTは教育の中で身近に柔軟に活用していく中でこそ、新しいイノベーションが生まれると思います。義務教育の早期の場にオンライン授業等ができるシステムを構築することで、地域格差も解消され様々なメリットが生まれると考えています。

(2)デジタル流通プラットフォームの整備
 ネット社会の産業の要となるのが、顧客管理や決済等を担うプラットフォーム機能である。特に国内のコンテンツ産業を育成するためには、海外の有力なプラットフォームに対抗できる国産プラットフォームの整備が必要との意見が多く見られた。

→ 販売・流通のプラットフォームの整備がキーポイントだと思います。短期的には痛みを伴うにしても、中長期的視点で、世界に開かれたデジタル・コンテンツの販売・流通プラットフォームの構築に取り組むことが重要だと思います。
→ 課金システムを含めた流通プラットフォームは必要では。例えば、アップストアのようなシステムが完全に日本を席巻したら、価格決定の主導権はプラットフォーム側に移り、コンテンツは下請化しかねない。

(3)行政の役割と情報公開
 もうひとつ、多くのご意見をいただいたのが、行政の役割、特に情報提供・情報公開の重要性についてである。行政機関が保有する様々な情報に自在にアクセスできることや、行政機関同士の連携を進めることが、社会や産業の変革、新産業創出の促進につながるとの指摘を多くいただいた。また、産業横断的にICTを活用したイノベーションを促進すること、行政自身がICT活用を進めコストダウンやスペックアップを進めることの重要性についても指摘をいただいた。

→ 社会の変革にはあらゆる情報がアクセスしやすく公開されることが重要です。国民すべてがスキルなしで必要な情報にアクセスできることが、新しい社会を作る礎となるからです。
→ 海外でビジネスを行うための情報が得にくいので、ICT部門の海外マーケットニーズや成功例・失敗例が検索できるデータベースがあると、スタートアップから大企業まで活用するのでは。
→ あらゆる産業のIT化と産業の高度化を優先すべきです。総務省が産業横断的にIT化を促進する土台を提供する「イノベーター」になることが重要です。そのためには、最も優れたITサービスと技術者を使い、従来とは比較にならないコストで体制、制度を構築することです。

 グローバル化が進むネット社会で日本の国際競争力を高めるためには、先進的な製品・サービスを生みだすための取組と並んで、教育や行政など社会の土台となる領域でICTを活用した変革を進めていくことが重要である。「みんなで考える情報通信白書」に寄せられたご意見からは、一見地道な取り組みも含め、社会全体でのICT利活用を戦略的に進めることの重要性を確認することができた。


20 寄せられたご意見については、情報通信白書ホームページに掲載している。
テキスト形式のファイルはこちら

ページトップへ戻る