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第1部 特集 ICTが導く震災復興・日本再生の道筋
第3節 デジタルネットワーク完成が導くメディア新展開

(1)スマートテレビの加速


 スマートテレビは、単にインターネットに接続しウェブ閲覧等ができるテレビを超えて、映像コンテンツをいつでも、どこでも、誰とでも視聴することができるなど、新たなサービスモデルの構築を指向するものと考えられるが、「スマートテレビ」との語句は、放送事業者、メーカー、ネット企業など様々な主体により、若干異なる意味合いのもとで使用されている。本項では、まず、スマートテレビをひとまず放送受信機としての機能を有する端末にインターネット接続を通じて何らかの機能拡張を図るものとして捉え2、「インターネット接続を通じて、ウェブ・ソーシャルメディアの利用、アプリの利用、デバイス間連携などの機能拡張を実現するテレビ端末ないしセット・トップ・ボックス」と広義に定義した。その上で、その動向を分類すると、例えば、どのようなビジネスモデルを指向しているかという観点からは、図表2-3-2-1のように類型化することができるだろう。

図表2-3-2-1 主なスマートテレビの動向
図表2-3-2-1 主なスマートテレビの動向の図(1)
図表2-3-2-1 主なスマートテレビの動向の図(2)
(出典)総務省「情報通信産業・サービスの動向・国際比較に関する調査研究」(平成24年)

 ここでは、まず、保有する動画コンテンツを中心に既存の放送受信機や様々なセットトップボックス(ゲーム機を含む)を幅広く展開することを指向するものと、新たなプラットフォームの立ち上げを指向するものに大別した。その上で、前者については、①マルチプラットフォーム展開モデル、②ソーシャル連携モデルに分類し、後者については、推進主体別に、①放送局主導プラットフォームモデル、②ネット企業主導プラットフォームモデル、③メーカー主導プラットフォームモデルに分類した。以下、前者はマルチプラットフォーム展開モデルについてインターネット動画配信が定着している海外事例を、後者は放送局主導プラットフォームモデルの代表例としてNHKが進めているハイブリッドキャストについて紹介する。なお、前者のうちソーシャル連携モデルについては、次項(放送とソーシャルメディアの融合・連携の進展)で紹介する。

ア インターネット動画配信の拡大(マルチプラットフォーム展開モデル)
 インターネット動画配信型サービスについては、特に海外において、動画配信メディアとして定着しつつあり、我が国においても、平成24年4月から地上民放キー局5社と電通が共同で実施している「もっとTV」が、対応テレビ端末に対するインターネット経由の動画配信中心のサービスを提供する(スマートフォン、タブレット端末での展開も検討中としている。)など、取組が活発化している。ここでは、海外の代表的事例として、米国のNetflix、Hulu及びBBC(iPlayer)の動画配信サービスを紹介する。

●Netflix(米国)
 米国のNetflixでは、オンラインDVDレンタル事業を行いつつ、インターネット経由でオンライン視聴を提供するストリーミングサービスを実施しており、パソコンのほか、スマートフォン、タブレット端末やゲームを経由して視聴可能となっている。会員数は、米国内で2,341万人に達しており( 2012年(平成24年)第1四半期)、米国外も含めると同時期で2,648万人に達する。北米地域において、ピーク時のダウンストリーム・トラヒックの約3割を占めるまでに成長している。なお、同社が一定期間定額視聴型のオンライン映画配信を強化したことにより、米国の民間調査機関が公表したオンライン映画市場のシェア推移では、同社のシェアが2010年(平成22年)の0.5%に対して2011年(平成23年)は44.0%と急上昇し、Appleを上回ったところである。

図表2-3-2-2 北米地域でのインターネット帯域使用割合(2011年秋)
図表2-3-2-2 北米地域でのインターネット帯域使用割合(2011年秋)のグラフ
Sandvine Network Demographics North America, Fixed Access (Downstream), Peak Period Top Applications by Bytes (2011 Fall)
(出典)総務省「情報通信産業・サービスの動向・国際比較に関する調査研究」(平成24年)

図表2-3-2-3 Netflix会員数の推移(米国内)
図表2-3-2-3 Netflix会員数の推移(米国内)のグラフ
(出典)総務省「情報通信産業・サービスの動向・国際比較に関する調査研究」(平成24年)

図表2-3-2-4 米国オンライン映画市場シェアの推移
図表2-3-2-4 米国オンライン映画市場シェアの推移のグラフ
(出典)総務省「情報通信産業・サービスの動向・国際比較に関する調査研究」(平成24年)

●Hulu(米国)
 米国においてNBC、ABC、FOX等が共同出資により設立され、無料インターネット動画配信サービスを提供しているHulu社では、人気テレビ番組や映画等を提供しており、プライムタイムのドラマ視聴ができるのが魅力の一つとなっている。2010年(平成22年)6月から有料サービス「Hulu Plus」を開始しており、同サービスは、無料版よりもタイトル数が多く、高画質動画もある。本サービスにおいても、パソコンだけでなく、スマートフォン・タブレット端末やゲーム端末からも視聴可能となっている。視聴者は約3,100万人に達しており、有料サービス「Hulu Plus」の加入者も150万人に達している(図表2-3-2-5)。

図表2-3-2-5 Hulu Plus加入者数の推移
図表2-3-2-5 Hulu Plus加入者数の推移のグラフ
(出典)総務省「情報通信産業・サービスの動向・国際比較に関する調査研究」(平成24年)

●iPlayer(BBC/英国)

 英国では、BBCの提供するiPlayerが、2007年(平成19年)12月の開始以来成功を収めている。同サービスは、BBCが視聴権料収入により運営されているサービスであり、無料でテレビ番組及びラジオ番組がインターネット経由で提供されている。また、リアルタイム視聴に加え、過去7日のBBCの番組を見逃し視聴としても提供されている。端末は当初パソコンのみを対象として開始されたが、現在はそれに加えモバイル端末、タブレット端末、ゲーム機や、ネットワーク接続機能を搭載したコネクテッドTV(IPTVなど)でも配信されている。また、ケーブルテレビ事業者のVirgin Mediaでは基本サービスとして提供されている。
 2011年(平成23年)における利用回数は、テレビとラジオを合わせて19億4,000万回に上っている。また、同年12月の月間利用回数では、全体で1億8,700万回(前年同期比で29%増)であったが、うちコネクテッドTVでの利用は700万回(同1000%以上増)、モバイル端末では1,300万回(同163%増)、タブレット端末では1,000万回(同596%増)で、これら3つの端末での利用が全体の16%を占めている。同サービスは、子会社(BBC Worldwide)を通じて、16か国で試行展開されている。
 なお、英国内では、2011年(平成23年)第1四半期には、35%の成人がテレビの見逃し視聴をインターネット経由で行っており、その比率は2009年(平成21年)の同時期と比較して12%増加している(図表2-3-2-7)。

図表2-3-2-6 iPlayerの端末別利用比率
図表2-3-2-6 iPlayerの端末別利用比率のグラフ
(出典)BBC公表資料

図表2-3-2-7 英国におけるテレビの見逃し視聴(Catch Up TV)の比率
図表2-3-2-7 英国におけるテレビの見逃し視聴(Catch Up TV)の比率のグラフ
(出典)Ofcom Communication Market Report:UK 2011年(平成23年)8月


コラム 放送事業者と新聞社の共同事業による放送番組の海外展開とネット動画配信の連携

 放送番組の海外展開と、ネット動画配信を連携して展開する新しいアプローチの事例も登場している。日本経済新聞社と東京放送ホールディングスは、平成24年4月に民法上の任意組合「日経・TBSスマートメディア」を設立し、アジア向けの英語放送「ChannelJAPAN」 を開始した。同番組では、日本の最新情報をアジアの放送局やインターネットサイトを通じて放送・配信する事業として、日本の経済やビジネス、 流行、文化など最新情報を提供する一時間番組を英語で制作し提供している。我が国のユニークな技術トレンドを情報にすることで、海外展開におけるコンテンツと一般企業の相互連携が強まることも期待されるところである。
 提供先の海外の放送事業者は、開始時点ではCNBC ASIA(アジア各国・地域)、CNBC TV18(インド)、非凡電視台(台湾)の3放送局で、3局の視聴世帯は合計で 5,327万世帯(平成24年春現在)に達する。このように、多数の国に配信する番組製作を行っているため、それぞれの国の放送番組に求められる番組基準やフォーマットへの対応に取り組んでいる。

 提供形態は、広告枠を「日経・TBSスマートメディア」側が保有、日本側で広告を付与する形で番組提供を行っている。また、インターネットを通じてストリーミング配信及びアーカイブ配信を広告付で配信しており、日本を含む世界各国で視聴を可能としている。
 同社では、今後、国内のスマートフォンユーザー等に対してモバイルコンテンツを提供する事業にも取り組むとしており、異業種連携、放送・インターネット連携の両面で今後の展開が期待される。


イ オープンプラットフォームによるスマートテレビ実現に向けた動き
 スマートテレビに向けた取組については、放送事業者やビデオレンタル業者等が保有する映像コンテンツを複数の端末プラットフォームに展開する「マルチプラットフォーム」形式の事業が国内外で普及しつつある一方で、新たに受信端末プラットフォームを展開し、ネット上のマーケット等から映像コンテンツをダウンロード等して視聴するのみならず、放送番組連動型アプリケーションを通じた字幕の付与やソーシャルメディアとの連携など様々や機能の実現を図る「プラットフォーム創造型モデル」の取組も進みつつある。このような動きは、上記分類に述べたように、ネット系企業やメーカーによる独自プラットフォーム(OS)上に展開する動きに加えて、オープンな枠組で標準化が進められるブラウザ上で展開する動きが進みつつあり、総務省においても、オープンプラットフォームにおけるスマートテレビの展開に向けて、国際標準化や各種アプリケーションの開発に資する実証実験の実施、国際イベントの機会を活用したデモンストレーションの実施や普及啓発、国際展開の促進など支援を行っている。以下、我が国における取組事例としてNHKが開発を進めているハイブリッドキャストを紹介するとともにスマートテレビ・プラットフォームの国際標準化について説明する。

●ハイブリッドキャストとは
 ハイブリッドキャストは、NHK放送技術研究所が放送通信連携サービスのためのシステム基盤として開発を進めており、デジタル放送に通信経由でインターネットサービスを連携させた多様なサービスの実現を目指している。基本コンセプトは、現行の放送サービスである地上・BSなどのデジタル放送に合わせて、通信回線を用いて放送と連携した情報を提供するものであり、大容量情報の一斉配信に適した「放送」と、パーソナライズ化した情報を提供できる「通信」の双方の利点を生かした、「ハイブリッド」なサービス提供を目指している。受信機は、現行の地上デジタル放送受信機ではなく、機能拡張した専用受信機の導入が必要となる。

●ハイブリッドキャストで想定される放送と通信の連携形態
 想定される放送と通信の連携形態としては、以下の4形態がある。
 ①通信と放送を連携させたサービス:VOD(例:見逃し視聴)やSNS(視聴者が番組に関して意見交換する場の提供)など通信特有のサービスと放送を連携。
 ②放送番組と通信コンテンツを合成したサービス:放送番組を受信しながら、通信経由で視聴者個々の嗜好に応じた追加コンテンツを取得して受信端末上で番組に合成(例:スポーツ中継で、放送映像とは異なる角度の映像を通信経由で合成)。
 ③テレビと他の端末との連携サービス:テレビとパソコンやスマートフォン・タブレット端末が連携することで、より便利な番組視聴が実現(例:スポーツ中継でシーンにあわせて選手情報をスマートフォン上に表示、視聴者はスマートフォンの検索エンジン等でより詳しい情報を取得)。
 ④情報を確実、迅速に届けるサービス:災害時の第一報など重要情報が放送で提供された場合、通信経由のサービスを利用しているときでも放送を優先表示。

●アプリによる通信経由のサービスの実行
 通信経由のサービスは、アプリにより提供される。このため、受信機には国際標準化が図られる予定であるHTML5(第2章第2節2 コラム「HTML5について」参照。)対応のブラウザが搭載され、アプリはその上で実行する。なお、アプリを通じたサービス提供は、放送事業者自身が提供する場合と第三者がサービス事業者となる場合双方が想定されており、後者の場合には必要に応じて放送事業者が放送番組に関連するメタデータを提供する。また、アプリは、放送番組の視聴中のみ実行される「連動アプリ」と、特定の放送番組等に依存せずに実行できる「非連動アプリ」双方が想定されている。

●スマートテレビ・プラットフォームの国際標準化
 スマートテレビ・プラットフォームの国際標準化は、インターネット上のウェブ技術のオープンな標準化を進める民間標準化団体であるW3C(The World Wide Web Consortium)において議論されている。本件標準化については、2014年(平成26年)中の正式勧告に向けて検討が進められており、我が国では、2012年(平成24年)中に規格案を策定する予定である。
 総務省では、プラットフォームの国際標準化及びスマートテレビの普及・開発に向けて本格的に取り組む観点から、①スマートテレビの国際標準化に向けた基本機能の提案、②スマートテレビの様々なアプリケーションの開発に資する実証実験の実施、③様々な国際イベントの機会を活用したデモンストレーションの実施、普及啓発、国際展開の促進などを含めた包括的な基本戦略を平成24年6月に策定、公表したところである。

図表2-3-2-8 ハイブリッドキャスト(イメージ図)
図表2-3-2-8 ハイブリッドキャスト(イメージ図)の図
(出典)NHK放送技術研究所資料

図表2-3-2-9 アプリケーションによる放送・通信連携の例(手話画像合成)
図表2-3-2-9 アプリケーションによる放送・通信連携の例(手話画像合成)の図
(出典)NHK放送技術研究所資料


2 このため、パソコンのブラウザを通じた動画視聴や、単にインターネット接続を通じてウェブブラウザ機能を有するテレビは除外している。

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