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第1部 特集 ICTが導く震災復興・日本再生の道筋
第2節 「スマートフォン・エコノミー」〜スマートフォン等の普及がもたらすICT産業構造・利用者行動の変化〜

トピック スマートフォン等の普及とO2O23の可能性


 インターネットの普及により、我が国の電子商取引市場は拡大を続けているが、スマートフォンやタブレット端末の普及は、電子商取引利用者の底辺の拡大をもたらすことが予想される。現在、電子商取引の分野では、既にO2Oと呼ばれる、ネット上の販売と実店舗による販売の連携・融合が注目を集め、ネット系事業者が物流網強化や「ネットスーパー」など対象品目の拡大を図るとともに、逆に実店舗系事業者もネットの活用に積極的になりつつある。

1 スマートフォン・タブレット型端末の出現により活性化する通販市場
 日経MJの「2010年度 eショップ・通信販売調査」24によると、総合売上高の伸び率は4.1%となり、前年度に比べ2.4ポイント増加した(前年度と比較可能な235社)。本調査によると、従来好調であったカタログショッピングやテレビショッピングに比べてインターネット通販の成長が目立っている。特に、スマートフォンの普及に伴い、携帯ネット通販の売上高が増加している。

図表1 総合売上上位5位
図表1 総合売上上位5位の表
(出典)総務省「O2Oに係る利活用の先進事例に関する調査研究」(平成24年)
(日経MJ「2010年度 eショップ・通信販売調査」2011年10月19日号により作成)

 この中でも、インターネットサイト、携帯電話向けサイトでの通信販売の売上げで著しい伸びを見せている企業がでてきている。上位企業をみると、総合1位のジャパネットたかたは「インターネットサイト」での売上げが対前年度比47.7%の増加を記録し、全体売上げの33.5%を占め、テレビ経由での売上げを超えた(テレビは全体の23.9%。売上高42,031百万円)。また、総合売上高2位のニッセンは、スマートフォンや携帯電話での売上げが前年比11.9%増となった。

図表2 インターネットサイト売上上位5位
図表2 インターネットサイト売上上位5位の表

図表3 携帯インターネットサイト売上上位5位
図表3 携帯インターネットサイト売上上位5位の表
(出典)総務省「O2Oに係る利活用の先進事例に関する調査研究」(平成24年)
(日経MJ「2010年度 eショップ・通信販売調査」2011年10月19日号により作成)

 一方、平成23年通信利用動向調査で端末別のインターネット人口普及率をみると(図表2-2-3-3参照)、従来型の携帯電話が52.1%であったのに対して、最近普及が進むスマートフォンも16.2%に達するとともに、スマートフォン移行により電子商取引利用が伸びる可能性が示されており、通販市場においては、従来のカタログ、テレビという販売手段に加え、インターネットや携帯電話・スマートフォンの果たす役割が大きくなっていくことが予想される。

2 食品分野における電子商取引の動向 〜ネット利用が進む20−40代での食料品利用は低い〜
 また、平成23年通信利用動向調査で電子商取引の利用率をみると、全体的に商品の購入経験がある20、30、40代においても食料品(食品・飲料・酒類)は比較的低い値を示している。ネットの商品購入に慣れた利用者であっても、日々口にする食料品については、おいしく、新鮮で、安全・安心なものを直接店舗に赴き、自分の目で確かめてから購入したいという意識が表れているのではないかとも考えられる。以下、従来電子商取引が進まなかった食料品においても、インターネットと実店舗を密接に連携させることで利用者を増やしている“ネットスーパー”の取組を、インタビュー調査結果等により紹介する。

図表4 電子商取引の利用率(年代別比較)
図表4 電子商取引の利用率(年代別比較)のグラフ
(出典)総務省「平成23年通信利用動向調査」

3 ネットスーパー 〜注文すると最寄店舗からその日のうちにいつもの食料品が届けられる〜

●ネットスーパーとは
 利用者がインターネットを通じて商品を注文すると、最寄の店舗からその日のうちに食料品・日用雑貨等が届けられるサービスのことである。現在、ネットスーパーには様々な業種から参入が増えており、スーパーマーケットの店舗運営を行っている「小売事業者」(例:イオンネットスーパー、ヨーカドーネットスーパー等)に加え、ECサイト等を運営するいわゆる「ネット事業者」(例:楽天ネットスーパー等)や商社が新規事業として参入する例も出ている(例:サミットネットスーパー等)。

図表5 ネットスーパー事業者と取組
図表5 ネットスーパー事業者と取組の表
(出典)総務省「O2Oに係る利活用の先進事例に関する調査研究」
(平成24年)
(各種メディア掲載記事により作成)

●利用者層
 小さな児童のいる子育て中の主婦、共働き世帯、自営業者など、日中忙しく自分の時間がとりにくい人が利用している。イオンでは会員の8割が女性で、就学前児童のいる30、40代の女性の利用が多くなっている。イトーヨーカドーでも30〜40代の利用が7割である。 新たな利用者層も出てきており、イトーヨーカドーでは最近は高齢者も利用するようになってきている(2008年(平成20年)〜2011年(平成23年)で毎年2〜3%ずつ増。現在では約15%の利用率。)。その他にも「外出が面倒」という人も利用してもらえるという。ネットで注文すればその日のうちに商品が手元に届く便利さを味わうと繰り返し利用するようになるとのことである。雨・雪などの天候不順な日には注文が殺到することもある。また、リピート率も高く、イトーヨーカドーの場合には、8〜9割に達するとのことである。
●購入品目
 購入されているのは、店舗に並んでいる食料品(米・野菜・魚・肉等)、飲料、日用品の他、かさばったり重量があり自分で運ぶことが困難な商品が多い。イオンでは食料品の売上げが全体の半分以上を占めている。また、イトーヨーカドーでは、飲料や、オードブルのような予約品はネットスーパーでの売上が実店舗よりも高くなる場合もあるとのことである。
●普及の背景
 利用者が増えつつある背景については、全国規模での有線・無線ブロードバンド環境の整備、さらに、スマートフォンやタブレット型端末など、パソコン以外のインターネット接続用端末が増えたことが大きいとのことである。
 スマートフォン・タブレット型端末は、パソコンと比べて、電源を入れてすぐネットに接続できることや、より携帯性に優れることから、気軽に利用でき、利用場所も広がっている。タブレット端末を片手に冷蔵庫の中身をみながら注文したり、昼休み時間にスマートフォンから注文をし、その日の夜に商品を受け取るような利用がされている。また、スマートフォン・タブレット型端末は、キーボードではなくタッチパネルから情報を選択、入力することができるため、ICT機器の操作に慣れていない人でも利用できることがより利用を促進している。
●実績
 事業者に実績を尋ねたところ、ネットスーパーの売上数、会員数等がこの1、2年で急速に伸びているとのことである(回答事業者)。具体的数値について回答のあったイトーヨーカドーでは、平成13年3月にサービスを開始し、2007年(平成19年)には売上げ50億円・会員17万人であったが、2011年(平成23年)2月期には350億円・116万人(前期比50億円増)に達した。さらに2012年度(平成24年度)中には420億円を目標としている。同社では、店舗売上げの1割がネットスーパーからの注文となった例も出てきており、インターネットは従来の補完的な位置付けから売上げに貢献する有効な手段として、店舗側の期待も大きく事業に積極的に取り組んでいる。

図表6 イトーヨーカドーネットスーパー実績
図表6 イトーヨーカドーネットスーパー実績の表
(出典)総務省「O2Oに係る利活用の先進事例に関する調査研究」
(平成24年)
(イトーヨーカドー資料により作成)

●工夫
 各社とも利用増のために様々な工夫を凝らしている。まず、実店舗とそん色ない品数をそろえることで利用者が店舗と同じ感覚で買い物できるように近づけている。また、配送便数も増やしている。例えばイトーヨーカドーは10便/日であり、注文したその日のうちに商品が届くレベルを超えた、利用者の需要に応えるきめ細やかな対応が可能になっている。
 配送料負担は利用者にとってのハードルとなっている。そのため、各社とも一定購入額を以上になると配送料を無料にしたり、購入金額が少ない場合でも少額配送料にする工夫を行っている。
 また、ICTに不慣れな人でも利用しやすくするため、イオンはシャープ・NTT西日本と共同でネットスーパー注文専用のAndroid端末を開発した(2012年(平成24年)2月)。さらに操作について不明な場合には、訪問・リモート・電話で対応している。また同社では紙ベースのカタログも提供し、利用者にとって使いやすいアクセス方法を選べるようにしている。

図表7 A touch Ru*Run
図表7 A touch Ru*Runの写真
出典:A touch Ru*Runのウェブサイトより

●効果
 利用者にとっては「普段利用している店舗からインターネットを経由して注文・配達してもらえるサービス」であり、実生活(リアル)の延長線上で認識しやすい。よって高齢者の方等でも、利用にあたって心的ハードルが低い。さらに、スマートフォン、タブレット型端末等の簡単にネット接続できる機器が出てきたことから、操作・接続での技術的ハードルが下がっている。このため、これまでインターネットで購入経験がなかった人でもネットスーパーは利用するようになっている。
 参入事業者にとっては、実店舗よりも広い商圏から利用者を獲得・維持できるサービスと捉えられている。ネットスーパーは実店舗と比較すると売上げ規模はまだ小さいものの、前述のとおり売上は着実に伸びてきており、イトーヨーカドーでは店舗売上げの1割を超える店舗が増加してきている。スーパー全体の売上が現状維持の中、ネットスーパーは成長分野として注目されるようになっている。
 さらに、従来のPOSでは、商品の購入情報しか得られなかったが、ネットスーパーの場合、来店状況、購入率、リピート購入率など、個々の利用者の購買行動データが入手でき、利用者の属性等と関連して分析できることもネットスーパーならではのメリットとなっている。これらの情報は店頭における品揃え・サービス向上に活用されている。特にネット企業の場合には、これまでECサイト運営経験を踏まえ各種情報の分析にも長けており、実店舗へのフィードバックへ積極的である。

4 今後の課題 
 総合スーパーマーケットのみならず、食品スーパーや地方立地スーパー等、スーパーマーケットを運営する国内小売業者は、各社の特徴を生かしてネットスーパー事業に参入する可能性がある一方で、海外の電子商取引事業者も含め、ネット系事業者においてもネットスーパー事業に高い関心を示している。
 また、近年我が国でも地方都市及び都市部においても社会問題化している買い物困難な人々(いわゆるフードデザート問題)への対応策として、ネットスーパーは有効な手段の一つとなる可能性がある。しかし、前述した通信利用動向調査の結果(図表4 電子商取引の利用率)をみても、40代までと50代以降には利用率に大きな格差が存在している。

 ICT利活用が得意でない高齢者に対して、現在はネットスーパー運営事業者が利用しやすい端末を提供したり、使い方の支援などを個別に対応している状況にあるが、一層の利用者拡大には、端末操作が不慣れな人に対して入力支援を行ったり、操作スキルを身につける講習を行うなどのフォローを社会全体で取り組んでいくことが不可欠との指摘もある。

 ネットスーパーは、個人がどこにいても質の高く豊かな生活を送ることができる一助になるとともに、実店舗の売上増に貢献しつつある。社会的課題の解決と成長に向けて、今後の展開が期待される。


23 O2O(Online to Offline, Offline to Online)とは、主として電子商取引の分野でオンラインとオフラインの購買活動の連携・融合や、オンラインでの活動が実店舗などでの購買に影響を及ぼすことを指し、近年マーケティング分野で注目を集めている。かつては「クリック&モルタル」といった言葉で、オンラインと実店舗との連携・融合を示していたが、購買活動におけるオンライン・オフラインという区別はなくなりつつある点を強調する趣旨で使われることが多いといわれている。

24 日経MJ 10月19日号掲載
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