総務省トップ > 政策 > 白書 > 24年版 > 情報通信産業の地域への展開
第1部 特集 ICTが導く震災復興・日本再生の道筋
第5節 地域成長力をけん引するICT

(1)情報通信産業の地域への展開


ア 情報通信産業誘致に向けた自治体の取組状況
 自治体の企業誘致への取組状況をみると、63.9%の自治体が企業誘致に取り組んでいる。しかし、都道府県については、回答したすべての団体が積極的に取り組んでいると回答しているのに対し、町村については、46.8%にとどまり、自治体の規模等に応じて、企業誘致全般への取組状況に大きな差があることがわかる(図表1-5-2-1)。

図表1-5-2-1 企業誘致全般への取組
図表1-5-2-1 企業誘致全般への取組のグラフ
(出典)総務省「地域におけるICT利活用の現状及び経済効果に関する調査研究」(平成24年)

 また、企業誘致に取り組む自治体のうち、企業誘致に当たり対象分野を絞っている団体は48.9%であったが、情報通信産業に特に誘致に取り組んでいる自治体は36.0%を占めている(図表1-5-2-2)。情報通信産業に特に取り組んでいる自治体としては、都道府県が85.0%と高いのに対し、町村は、17.2%にとどまり、自治体の規模等に応じて取組状況に差がみられる。

図表1-5-2-2 情報通信産業の誘致への取組
図表1-5-2-2 情報通信産業の誘致への取組のグラフ
(出典)総務省「地域におけるICT利活用の現状及び経済効果に関する調査研究」(平成24年)

 誘致施策の具体内容をみると、一般には税制面等の優遇、助成措置、雇用者の人件費助成が多い。情報通信産業に特化した支援の内容をみると、税制面等の優遇、助成措置、雇用者の人件費助成の重点化・拡充が多いほか、通信回線の助成や無償提供が比較的多いのが特徴である(図表1-5-2-3)。

図表1-5-2-3 情報通信産業誘致施策の具体内容
図表1-5-2-3 情報通信産業誘致施策の具体内容のグラフ
(出典)総務省「地域におけるICT利活用の現状及び経済効果に関する調査研究」(平成24年)

イ 情報通信産業の地域展開事例
 情報通信産業は、首都圏への一極集中がいわれて久しい。そのような中でも、沖縄県のように情報通信関連産業を基幹産業と位置付け、集積に成功した地域も存在する。特に、近年の、クラウドサービスの普及やスマートフォンなどモバイルの進展は、全国における高速・超高速ブロードバンド網の整備とあいまって、地域的制約にとらわれず、データセンターやスマートフォン・アプリ開発など、新たな雇用を生み出すポテンシャルを有していると考えられる。ここでは、情報通信産業が地域において展開され、新たなポテンシャルを見いだしている事例を取り上げる。

(ア) 全国に広がる地方型データセンター誘致
 クラウドサービスの普及や東日本大震災を契機とした事業継続計画(BCP)の需要増加などを背景として、全国でデータセンターの立地が相次いでいる。特に、震災後の首都圏での電力供給事情の悪化により、首都圏以外のデータセンターを利用することに関心が高まっている。このような背景の下、北海道、中国地方、九州などでも本格的なデータセンターの拡張が始まっている。今後こうした地方型センターの利用も拡大する可能性があり(図表1-5-2-4)、自治体もデータセンター誘致に向けて取組を進めている(図表1-5-2-5)。例えば、データセンター誘致施策に際し、支援施策を有している自治体は、22道府県82市3に及ぶ。

図表1-5-2-4 国内コロケーション市場4 データセンター所在地別 売上額予測:2010年(平成22年)〜2015年(平成27年)
図表1-5-2-4 国内コロケーション市場 データセンター所在地別 売上額予測:2010年(平成22年)〜2015年(平成27年)のグラフ
(出典)IDC Japan(2012年(平成24年)2月)

図表1-5-2-5 データセンター誘致に向けた自治体の取組事例
図表1-5-2-5 データセンター誘致に向けた自治体の取組事例の図
(出典)総務省「地域におけるICT利活用の現状及び経済効果に関する調査研究」(平成24年)

●自然環境と立地環境を活かした「グリーンエナジーデータセンター」の誘致 (北海道石狩市5等)
 北海道石狩市は北海道の日本海側に位置し、年間平均6mの降雪と平均気温7.5度の冷涼な地であり、石狩湾新港地域は札幌市中心部へ車で30分の至近距離に位置している。
 北海道においては、雪氷エネルギーを活用した電力の超低消費型データセンターの誘致を目指し、産学官連携の「北海道グリーンエナジーデータセンター推進フォーラム」との共同で、「北海道データセンター立地アセスメント委員会」を設置し、道内工業団地42か所を対象に立地適地を検証 、北海道石狩市の石狩湾新港地域がデータセンター立地について、最も高い評価を受けた。
 このような背景の下、石狩市においても全国初となるデータセンター立地に特化した条例を施行するなど、北海道及び石狩市が連携してデータセンター誘致に取り組んだ結果、平成22年6月に民間データセンターの建設が決定、平成23年11月に開所した。同データセンターは、クラウドコンピューティングに最適化された国内最大級の郊外型大規模データセンターであり、北海道の冷涼な外気を活用した外気冷房によるエネルギー効率の向上等による低消費電力データセンターでもある。
 石狩市では、冷涼な気候はもとより、巨大地震や台風、雷などの自然災害の発生リスクが低い地理的優位性をアピールし、BCPなどへの対応を踏まえた郊外型データセンターの一層の誘致を進めている。立地を誘導している石狩湾新港地域では、大都市近郊の安価で広大な土地を活かしたスケールメリットにより、拡張性と柔軟性を兼ね備えたデータセンターが実現でき、高いコストパフォーマンスで海外のデータセンターと競争力を保持できる「石狩モデル」6の集積を目指している。石狩市では、データセンターが、投資規模が大きく、設備の増設・更新サイクルが短い業態であることから、固定資産税などの税収増加とともに、新たな雇用の創出にも貢献するものと期待している。

(イ) 地域間連携によるスマホアプリ開発(岐阜県、札幌市、仙台市)
 岐阜、札幌、仙台などの地域では、スマートフォン向けアプリやコンテンツ分野を中心とした交流を図っており、地域間の交流と連携により、新たな産業の創出に取り組んでいる(図表1-5-2-6)。

図表1-5-2-6 アプリ開発で地方が相互に補完し知見を共有するなど連携することにより、新産業の創出と地域価値の向上を推進
図表1-5-2-6 アプリ開発で地方が相互に補完し知見を共有するなど連携することにより、新産業の創出と地域価値の向上を推進の図
(出典)総務省「地域におけるICT利活用の現状及び経済効果に関する調査研究」(平成24年)(岐阜県庁資料等により作成)

 岐阜県では、ソフトピアジャパン(大垣市)を核として、岐阜県にICTを中心とした新産業を創造するための各種事業を推進している。平成21年度からは、今後のスマートフォン関連市場の拡大を見据え、「GIFU・iPhoneプロジェクト」、平成23年度からは施策対象をスマートフォン全体に拡げた「GIFU・スマートフォンプロジェクト」を推進しており、その一環として、平成23年12月に「GIFU・スマートフォンウィークin 仙台」を仙台市において開催した。岐阜県は、東北各地のアプリ開発者団体などとの交流を活発化させており、東日本大震災からの復興支援とともに、技術や人の交流を新産業起こしにつなげることを意図し、同イベントを仙台市で開催した。岐阜県では、青森県八戸市や会津大学(福島県)、秋田県など東北各地とのコラボレーションも計画しており、さらに多くの地方、様々な活動を巻き込んだネットワーク拡大を目指している。
 札幌市では、1980年代以降、ICT企業が相次いで設立され、2000年(平成12年)頃から「サッポロバレー」と呼ばれるようになった。平成22年9月には、ICT関連企業33社の他、大学や研究機関が参加した「北海道モバイルコンテンツ推進協議会」を設立し、高機能携帯電話(スマートフォン)などの普及で携帯端末コンテンツ市場が急成長する中、地域の企業が連携してソフト開発や販路開拓を進め、ビジネスチャンスの拡大に取り組んでいる。平成23年2月には「モバイルコンテンツサミット2011 in 札幌」が開催され、みやぎモバイルビジネス研究会(仙台)、福岡ゲーム産業振興機構(福岡)、岐阜県商工労働部情報産業課(岐阜)、大阪デジタルコンテンツビジネス創出協議会(大阪)など5道府県の団体・自治体関係者がビジネスチャンス拡大について意見交換を行った。
 仙台市では、市場が拡大している携帯電話などのモバイルインターネット分野への参入を目指し、仙台市内のソフトウェア開発会社や広告代理店、印刷会社、起業している大学生など業界を超えた企業や個人が参加した「みやぎモバイルビジネス研究会」が平成21年3月に設立され、市場動向や企業連携の可能性などの研究を行っている。平成24年2月には「モバイルコンテンツサミット2012 in 仙台宮城」が開催され、岐阜、札幌、仙台各地域の産業振興担当者などによるパネルディスカッションが開催された。
 このように、岐阜、札幌、仙台などの地域では、様々なイベント等を通じ、地方自治体や民間企業などの多様な主体による重層的な連携が生まれており、スマートフォン向けアプリやコンテンツ分野を中心とした新産業の創出に向けた取組が進んでいる。

(ウ)県自らソーシャルゲーム産業を創出・育成(高知県)
 高知県では、ソーシャルゲームの開発を支援し、新たなコンテンツ産業育成に取り組んでいる。自治体でのソーシャルゲーム振興は初めての取組であり、平成24年1月には第1回の作品の携帯電話向け配信が、大手ソーシャルゲームサイトから開始された(図表1-5-2-7)。この作品は、高知県と四国銀行で設立した高知コンテンツビジネス創出育成協議会が主催する「高知県ソーシャルゲーム企画コンテスト」の第1回入賞作を元にゲーム化されたものであり、入賞作品を、高知県出身の作曲家、漫画家による、作曲、作画の協力の上、県から助成を受けた県内のICTベンダー2社が開発、完成させた。平成24年6月には第2回の作品もリリースされた。
 高知県は大都市圏から遠く、不利な条件もあるが、ICT分野では、県全域に整備されたブロードバンド網を活用すれば全国に対抗できること、シナリオ・キャラクターの作成に著名な漫画家を輩出している「まんが王国・土佐」の強みをいかすことができること、開発に係る投資額が比較的小さいこと、ゲーム作成に使用される骨格部分のプログラムは汎用的なものが開発済みであることなど、県の強みがいかせ、弱みを克服できる条件が揃っていることから、ソーシャルゲーム産業の育成に取り組んでいる。このような産業育成の結果、Uターン・Iターンの雇用があり、県内イラストレーター20名余りが契約している。県としては、このような取組を進め、開発のノウハウを県内に蓄積していくことで、ソーシャルゲームやそのほかのコンテンツビジネスの起業化に向けた支援をしていく予定であり、産業クラスター化を図り、年商20億円の産業をつくることを目標としている。

図表1-5-2-7 高知県が主催する「ソーシャルゲーム企画コンテスト」(平成24年度)
図表1-5-2-7 高知県が主催する「ソーシャルゲーム企画コンテスト」(平成24年度)の写真
(出典)高知県庁資料


3  富士キメラ総研「データセンタービジネス市場調査総覧2012年版 上巻」(平成24年)を元に集計。
4 企業が使用する通信機器や情報発信用等のコンピュータサーバーを、通信事業者等の回線設備の整った施設に設置するサービス。
5 北海道石狩市ウェブサイト()
6 石狩市によれば、「石狩モデル」とは、首都圏にある従来型のデータセンターと比べて約半分のコストで建設や運用ができ、冷房電力だけに限れば、約90%削減が可能なデータセンターを指す。
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