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第1部 特集 ICTが導く震災復興・日本再生の道筋
第2節 「スマートフォン・エコノミー」〜スマートフォン等の普及がもたらすICT産業構造・利用者行動の変化〜

(1)ICTビジネスエコシステム間競争


ア インターネットを巡る従来のエコシステム
 ICT産業は、従来から、水平分業型、いわゆるレイヤー型の産業構造、事業構造が主流であるとされている。現在、パソコンでインターネットの各種サービスを利用する場合、例えば電子商取引サイトやコンテンツ配信サイトを利用する場合には、パソコンを自ら購入し、通信事業者と契約してインターネットに接続しサイトを閲覧、購入したい商品やコンテンツを選択、クレジットカード決済や代金引換で商品を購入するという流れになるが、パソコンの製造・販売、通信事業者、電子商取引サイトはそれぞれ関連なく行われるケースが大半である。
 他方、我が国で多数の利用者が存在する携帯インターネットにおける電子商取引やコンテンツ配信では、端末購入も、サイトへのアクセスも、代金支払いも通信事業者経由で行うことができ(例外もある)、「垂直統合型」と呼ばれるサービスの提供確認が主流となっている。
 このように、我が国のインターネットを通じた財・サービスの提供に係る構造は、大きくは、パソコン・インターネットの「レイヤー完全分離」と、従来型携帯インターネットの「キャリア主導型垂直統合」、2つの「エコシステム」の並立状況であったといえよう。

図表2-2-2-1 パソコンインターネットと従来型携帯インターネットのサービス提供の仕組
図表2-2-2-1 パソコンインターネットと従来型携帯インターネットのサービス提供の仕組の図


 キャリア主導型垂直統合のエコシステムは、2G携帯の時代に既に形成されていたものであり、我が国には多くの端末メーカーの参入を促し、ICT産業の拡大に貢献した。その後、3G携帯の普及とi-モード等の提供により、上位レイヤーにおける多様なコンテンツ・アプリ開発を促進し、携帯電話を中心としたICT産業の拡大を更に加速することとなった。一方、海外では、Nokiaを中心としたベンダー主導型水平分業エコシステムが形成され、その後Vodafone Live!等のプラットフォーム構築の動きはあったが、我が国にみられる上位レイヤーでの高い成長性を有する産業の形成には至っていない。その後、海外では、Wi-Fi整備の進展と共にキャリア・ネットワークを介さないパソコン・インターネットをベースとしたスマートフォンやタブレット端末が普及し、インターネット上のコンテンツやアプリケーションをそれらの携帯で楽しむスタイルが確立しつつある。

図表2-2-2-2 国内外のモバイル産業における産業構造変化の変遷
図表2-2-2-2 国内外のモバイル産業における産業構造変化の変遷の図
(出典)総務省「情報通信産業・サービスの動向・国際比較に関する調査研究」(平成24年)

イ スマートフォン等の普及によるエコシステムの多様化
 スマートフォン等の普及は、インターネット上のエコシステムの多様化をもたらしつつある。例えば、Apple社の場合、もともとの事業基盤としてはメーカーとしての色彩が強く、収益も端末販売が主であるといわれているが、コンテンツやアプリのプラットフォーム(iTuneやApp Store)をApple社が運営し、全体としてのユーザーサービスの向上を目指している。iPhoneにダウンロードするコンテンツやアプリは、ウェブ経由で入手する場合を除き、同社のプラットフォームを経由する必要がある。また、加入者のID管理や課金はApple社自身が行い、我が国においても移動体通信事業者は経由していない。
 Google社の提供するAndroid端末の場合、同社は検索システムの提供を中心に、それに伴うインターネット広告に収益基盤を置いているといわれるが、Android OSを携帯端末メーカー各社に提供し、当該OSを搭載した端末からの検索アクセスの増加や、アプリストアの運営による収益増を目指している。なお、同端末においては、アプリストア以外から入手したアプリの使用も可能であり、課金についても我が国においては移動体通信事業者による料金回収代行も提供されている。
 その他、MicrosoftやNokia、RIMなど、他のスマートフォンやスマートフォン向けOS提供事業者も、それぞれ特徴のあるエコシステム構築を目指しており、特に多くのケースで、魅力的なユーザーインターフェースを実現する基礎となるOSと、アプリストア等を利用する場合のID登録・有料課金システム利用を中核にしたエコシステムの構築を図る一方で、ネットワークは3G回線でもWi-Fiでもアクセス可能となるなど、水平分離か垂直統合か単純には捉えられない状況が生じつつある。

図表2-2-2-3 スマートフォン市場における多様なエコシステム形成の動向
図表2-2-2-3 スマートフォン市場における多様なエコシステム形成の動向の表
(出典)総務省「情報通信産業・サービスの動向・国際比較に関する調査研究」(平成24年)

ウ 米国の主なネット系事業者の「エコシステム」比較
 スマートフォン、タブレット端末の登場により、各企業は、どのようにそれぞれのエコシステムを構築しようとしているのだろうか。ここでは、米国の主なネット系事業者のうち、スマートフォン、タブレット端末の普及の関連の深いApple、Google、Amazonの3社を取り上げ、その戦略を概観する。

●Appleのエコシステム
 iPhone、iPadの浸透により、株式時価総額1位になるなど、スマートフォン・タブレット端末普及により企業価値が高まっているApple社であるが、同社の現在の主要な収益源は、iPhone、iPadをはじめとする主力端末製品の販売であるといわれる。しかし、各製品の販売と同時またはその間の期間で、iTunes(音楽・動画配信)、iBooks(電子書籍配信)やApp Store(アプリストア)といったプラットフォームや関連コンテンツの提供を開始している。端末に搭載されるアプリとマーケットとの間の連携性を確立し、対象コンテンツの範囲を音楽、動画、電子書籍と広げ、端末利用を通じて得られるユーザーの便益全体を向上させるとともに、事業としての収益性も同時に高めているところである。
 なお、App Storeの運営については、iPhone、iPad端末の魅力を高めて、ユーザーや開発者をそのエコシステムの中に取り込むことが主目的ともいわれている。なお、前述したように、マーケットを通じてアプリやコンテンツを購入するためには、Apple社に登録し、同社を通じた決済を行う必要がある。

図表2-2-2-4 Appleの例
図表2-2-2-4 Appleの例のグラフ
(出典)総務省「情報通信産業・サービスの動向・国際比較に関する調査研究」(平成24年)

●Googleのエコシステム
 Google社は、検索、地図、メールなどウェブ上で各種サービスを提供し、それをグローバルに広がるインターネット利用者に無料で提供している。主要な収益源は、各サービスへのユーザートラヒックに基づく広告収入(AdWords等)であり、多様なサービスやアプリ等がユーザーにとっての魅力になっている。近年は、パソコン、スマートフォン・タブレット端末、テレビなどの各種端末でオープンOSプラットフォームを横断的に構築し、多様なコンテンツを提供可能とする戦略を指向しており、同社のアプリストアを経由しないアプリ配信を可能とするなど、Apple社と比較してオープンな仕組であるといわれている。なお、同社のストア等を通じてアプリ、コンテンツを購入する場合には、基本的には同社に登録し課金システムを利用する必要があるが、我が国の移動体通信事業者が提供するAndroid端末においては、通信事業者が提供する料金課金・回収代行を使用することも可能となっている。

図表2-2-2-5 Googleの例
図表2-2-2-5 Googleの例のグラフ
(出典)総務省「情報通信産業・サービスの動向・国際比較に関する調査研究」(平成24年)

●Amazonのエコシステム
 Amazon社は、電子商取引、電子書籍、クラウドサービスが主力事業であり、これらのサービスを提供するプラットフォームの強化を指向している。当初、事業の収益性は低かったが、現在は、全般的に利益率が低いといわれる小売・流通業界において一定の利益率を維持している。最近では、インターネットによるコンテンツ配信機能の強化を図りつつ、電子書籍端末のKindleの開発・販売も手がけており、同端末は競合するiPad等に比べて、機能を絞り込み価格を抑える一方、米国内では通信コストは同社が負担するなど普及に向けた取組を進めており、米国内ではタブレット端末でiPadに次ぐシェアを確保しているといわれている。このように、同社では、レイヤーの枠を超えたエコシステム構築を図る事業展開を進めている。

図表2-2-2-6 Amazonの例
図表2-2-2-6 Amazonの例のグラフ
(出典)総務省「情報通信産業・サービスの動向・国際比較に関する調査研究」(平成24年)
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