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第1部 特集 ICTが導く震災復興・日本再生の道筋
第2節 「スマートフォン・エコノミー」〜スマートフォン等の普及がもたらすICT産業構造・利用者行動の変化〜

1 スマートフォン等の急速な普及がモバイル産業にもたらす新たな競争と成長


(1)スマートフォン等の急速な普及と端末市場の変化

 スマートフォン等の急速な普及は、世界の移動体通信事業及びその関連産業の視界を一変させつつある。Apple社は、iPhone、iPadの世界規模での販売拡大で一気に株式時価総額1位になり、Android OSを採用する端末を生産・販売する中国・韓国・台湾系企業が躍進する一方で、シェアを大きく落とす企業も出てきている。世界の携帯電話端末市場、とりわけスマートフォン、フィーチャーフォンというインターネット接続機能を有する高機能携帯電話端末市場で、どのような変化が起こっているのだろうか。本項では、まず、スマートフォンを、一部フィーチャーフォンを含む広義の概念2で捉え分析し、iPhoneやAndroid端末の登場により市場がどう変化したかを提示する。

ア スマートフォン世界市場の拡大見通し
 世界市場における携帯電話販売台数に占めるスマートフォン(フィーチャーフォンを含む)の比率は、2011年(平成23年)は約27%に達している(図表2-2-1-1)。スマートフォン比率は今後拡大を続け、2015年(平成27年)には世界市場において5割を超える見通しとなっている。また、スマートフォンの販売台数は、2011年(平成23年)の4億7,000万台から、2016年(平成28年)には13億台に、年平均22.5%での成長が予測されており、高い成長が見込まれる有望市場であることが示唆されている。

図表2-2-1-1 世界の携帯電話販売台数に占めるスマートフォンの販売台数の推移(推計)
図表2-2-1-1 世界の携帯電話販売台数に占めるスマートフォンの販売台数の推移(推計)のグラフ
ガートナー資料により作成

イ スマートフォン世界市場の変化
 次に、世界市場におけるスマートフォンの市場の変化(販売台数ベース)を、スマートフォンの普及が本格化した2009年(平成21年)から2011年(平成23年)について、OS単位、主要携帯電話端末メーカー単位で比較したものが図表2-2-1-2である。同期間で、スマートフォンの販売台数は、2.7倍と大きく拡大している。
 OSについては、2009年(平成21年)には、Symbian(Nokia製)が47%、北米を中心に普及しているブラックベリー端末に採用されているBlackBerry(RIM製)が20%であったのに対し、Android(Google製)が46%、iOS(Apple製)が19%と、ほぼ入れ替わっている状況にある。3年という短期間で、スマートフォン端末市場が急激に変化したことがわかる。なお、HHI(ハーフィンダール、ハーシュマン指数)を参考値として算出したところ3、2922(2009年)から3002(2011年)と、ほぼ変わらない数値であり、販売台数ベースでみる限り市場の競争状況に大きな変化はないものと推測される。

図表2-2-1-2 スマートフォン世界市場のシェア変化(台数ベース)
図表2-2-1-2 スマートフォン世界市場のシェア変化(台数ベース)のグラフ
ガートナー資料により作成

 他方、主要端末メーカー別の比較では、2009年(平成21年)ではOSの状況を反映しNokia社とRIM社が同程度のシェアを獲得していたのに対し、2011年(平成23年)では、Apple社とSamsung社がそれぞれ19%と上位に位置しており、HTC社やLG社などアジア系企業もシェアを伸ばしている。その結果、HHIは2374から1291と、競争が活性化されていることが示唆される数値となっている。なお、日本系企業では、2009年(平成21年)には10位以内に4社がランクされているが、2011年(平成23年)には1社に減少した。スマートフォンの世界市場が拡大するなかで、その果実を獲得できていない状況がうかがえる。
 このようなスマートフォン世界市場の急激な変化を、地域別に概観したのが図表2-2-1-3である4。ここでは、中国・韓国・台湾系企業は1つの区分で表示している。各地域において、iOS及びAndroid搭載端末の大幅な伸びが各市場の成長を牽引している状況がうかがえる。日本市場においても、全体の台数の伸びは1.4倍と他の地域と比較して小幅だが、その中で従来のフィーチャーフォンが後退しiOS及びAndroid搭載端末の伸びが顕著である。主要メーカー別比較に目を転じると、日本以外の地域においては、スマートフォンは、北米地域・欧州地域でも2倍以上、世界の成長センターであるアジア太平洋地域では、4倍を超える販売台数の伸びを示しているが、日本系企業も伸びてはいるものの、その大きな伸びの大部分をApple社及び中国・韓国・台湾系企業が得ている状況がうかがえる。なお、HHIについては、OSにおける北米地域が若干増加しているのを除きいずれも減少しており、全体として競争が活性化している状況がうかがえる。

図表2-2-1-3 スマートフォン世界市場における地域別シェア変化(台数ベース)
図表2-2-1-3 スマートフォン世界市場における地域別シェア変化(台数ベース)のグラフ
ガートナー資料により作成

ウ 我が国のスマートフォン市場の変化
 我が国のスマートフォン市場5の状況については、OS単位のシェアは世界市場と同様、AndroidとiOSが大きくシェアを伸ばしている。その結果、平成23年の主要メーカー別シェアでは、Apple社の台頭が顕著となっている。他方、日本系メーカーも高いシェアを維持しており、日本国内においては、Android搭載端末の伸びを、Samsungの伸びはあるが、日本系メーカーが相当程度確保している状況にあることがうかがえる。

図表2-2-1-4 我が国のスマートフォン市場におけるメーカーシェア変化(台数ベース)
図表2-2-1-4 我が国のスマートフォン市場におけるメーカーシェア変化(台数ベース)のグラフ
ガートナー資料により作成

エ 主要ICT産業の平成23年決算状況
 このようなスマートフォンへの国内外市場での急速な普及も背景として、ICT産業を構成する各社の業績は大きく変動している。端末メーカーでは、Apple社とSamsung社の好業績が目立つ一方、我が国の端末メーカーは、スマートフォンのみが影響しているわけではないが、おおむね厳しい決算状況となっている。他方、移動体通信事業者は、売上高はおおむね増加傾向にあり、営業利益についても同様であるが、米国では、スマートフォンの販売奨励金の増加も影響し、大幅減益となる企業もあらわれている。その一方で、検索や電子商取引、ソーシャルゲームなどインターネット上のプラットフォームを提供する企業は、おおむね好調を維持している状況がうかがえる。他のレイヤーについては以下の項目でさらに分析するが、スマートフォン等の急速な普及は、世界的に携帯電話市場の成長及び活性化を促し、他のレイヤー、特にプラットフォーム企業については大きなチャンスをもたらしつつあると考えられる。

図表2-2-1-5 主要ICT産業(モバイル産業関連) 2011年度(平成23年度)決算状況
図表2-2-1-5 主要ICT産業(モバイル産業関連) 2011年度(平成23年度)決算状況の表
各社決算資料により作成


2 本項の携帯端末市場に関するデータはガートナー社調査を用いており、スマートフォンは、①仕様の全部若しくは仕様の一部を公開しているOSを採用している端末であること、②ソフトウェア開発者に対して、APIを利用可能なソフトウェア開発環境(SDK)が提供されているOSを採用している端末であること、③移動通信網に対応する端末であり、タブレット端末を除く、の3点を満たすものをスマートフォンとする同社の定義に基づいている。なお、②については、Symbian、Linux、Android、Windows Phone、RIM(BlackBerry OS)、iOSなどが該当する。ガートナー社ではSymbian OSやLinux OSが採用されているNTTドコモのFOMA端末(2004年(平成16年)以降)についても、NTTドコモが認めた第三者に対してAPIが利用可能なソフトウェア開発環境が提供されており、この条件に合致しているため、スマートフォンに含めている(一部例外あり)。

3 HHI(ハーフィンダール・ハーシュマン指数:Herfindahl-Hirschman Index)は、市場の独占度合いを測定する指標の一つであり、各事業者が市場で有するシェアを自乗し、それを加算して算出する。そのため、HHIはシェアの大きな事業者のシェア変動が大きく影響する。逆に、シェアの小さな事業者のシェア変動の影響は小さく、小規模な事業者の情報を欠いても指標の有効性が損なわれにくいという特長がある。また、HHIは、0(完全競争)〜10000(完全独占)の値をとり、10000に近づくほど市場集中度が高いことを示す指数である。HHIは、電気通信市場の競争評価においても活用されているが、本節での値は、個社ないしブランドごとに入手可能な数値を基に参考値として算出したものである。

4 日本及び中韓台の分類については、個々の企業の本社所在地、若しくは子会社の場合はグループ親会社の本社所在地によって行った。
日本:富士通、NEC、パナソニック、シャープ、ソニーエリクソン等
中韓台:Huawei、ZTE(中国)、Samsung、LG(韓国)、Acer、Asus(台湾)等

5 本項でのスマートフォンの定義(ガートナー社の定義に基づく)では、日本国内では、Symbian OSやLinux OSが採用されているNTTドコモのFOMA端末(平成16年以降)についても、スマートフォンに含めているため、本項の販売台数にはこれらの端末も含まれる。上記脚注22参照。
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