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第1部 特集 ICTが導く震災復興・日本再生の道筋
第2節 「スマートフォン・エコノミー」〜スマートフォン等の普及がもたらすICT産業構造・利用者行動の変化〜

(3)高齢者のタブレット端末利用の可能性


 今後の日本は高齢者の比率が高まることが見込まれ、高齢者がICT機器・サービスを有効に利用できるようになれば、その生活の質の改善や市場拡大の効果が期待される。現時点ではICTを利用していない高齢者は多いが、それは高齢者向けの機器・サービスが出ていないからであって、潜在需要はありうるのではないか。そして、タブレット端末は、使いやすさの点で、高齢者のICT利用を増加させる潜在的な可能性があるのではないか。タブレット端末自体は高齢者を狙ったものではなく、現在の利用者は30代〜40代が中心で高齢者ではないが、タブレット端末を使ったサービスの試みの中には、高齢者でも容易に使えそうなものが昨今増えてきている。
 例1:大規模小売店のなかには、通信会社・機器メーカーと組んで、タブレット端末を顧客に配るサービスを始めたところがある。家にいながら店舗の商品情報が表示され、そのまま注文をすることもできる43
 例2:図書館のなかには電子図書館サービスの実証実験としてタブレット端末への電子書籍配信をしている例がある。タブレット端末で電子書籍を借り出し、そして返すことで図書館に来なくても利用ができるようになる44
 例3:あるケーブルテレビ会社は、タブレット端末をテレビのリモコンにするサービスをメーカーと共同で始めた。ケーブルテレビのリモコンは複雑でわかりにくいが、タブレット端末にして必要な機能だけを画面に表示するようにすれば、大幅に使いやすくすることができる45
 例4:ある通信キャリアが提供を開始したタブレット端末は、月額500円の基本料金で提供されている46
 これらのサービスはいずれも高齢者向けを特別に意識しているわけではないが、いずれも統合的なサービス提供により簡便なサービス利用を可能にすることを主眼にしており、今後高齢者向けのサービスとして大きく伸びる可能性を秘めていると考えられる。
 現段階では、平成23年通信利用動向調査によれば、タブレット端末の人口普及率が約4%にとどまっている状況のなかで、実際に高齢者がタブレットを使いこなす事例はまだ多くないが、その可能性を実証するため、対象を高齢者に限定して、タブレット端末による統合的なサービス、機能に対するニーズや利用意向についてウェブアンケート調査(一部郵送アンケート調査)を行い、その結果を分析した47
 調査においては、高齢者の潜在需要を引き出すに当たり、例えば、「孫と気軽にテレビ電話で今日一日のことを話せる」、「簡単な操作で血圧や脈、体温などが介護センターに送られ、健康管理してくれる」、「災害時に自動的に立ち上がり、自分の場所に適した災害・避難情報を届けてくれる」、「市役所や銀行に行かなくても、年金や保険料などの手続きや振り込み支払ができる」など、通信サービスや機器の提供だけではなく、利用方法やサポートを含めてパッケージとして高齢者が使いやすいサービスを提供することが重要との仮説に立ち、設計を行った。また、高齢者の利用には、その周囲のサポートが鍵を握るとの考え方から、子どもに対しても調査を行った。なお、本件調査はウェブ調査であるため、パソコンからインターネットを利用している高齢者を対象としており、パソコンの利用時間が週20時間程度以上の回答者が半数を超える点に留意を要する。

ア 高齢者に対する調査結果
 タブレット端末にいくつかのサービスが提供された場合の利用意向を質問した結果を示したのが図表2-2-3-12である。結果としては、どの項目においても、利用意向があるとの回答が50%を超えており、特に「災害時の自動対応」や「血圧・歩数などの健康管理」に対しては、20%以上の回答者がある程度の金額を支払ってでも利用したいと考えていることがわかる。

図表2-2-3-12 タブレット端末で統合的に提供されるサービスの利用意向
図表2-2-3-12 タブレット端末で統合的に提供されるサービスの利用意向のグラフ
(出典)総務省「スマートフォン及びタブレットPCの利用に関する実態及び意向に関する調査研究」(平成24年)

 次に、初心者でもタブレット端末を使いやすくなるような機能・サービスに関する利用意向を直接質問した結果を示したのが図表2-2-3-13である。有用だという回答が多いのは、「(業者が対応してくれるので)詐欺やウイルスがほとんどない」「(パソコンのようにフリーズするようなことがほとんどなく)動作が安定している」といった項目である。

図表2-2-3-13 タブレット端末の統合的な機能の有用さ
図表2-2-3-13 タブレット端末の統合的な機能の有用さのグラフ
(出典)総務省「スマートフォン及びタブレットPCの利用に関する実態及び意向に関する調査研究」(平成24年)

イ 高齢者の子どもに対する調査結果

 タブレット端末で、各種サービスが利用できるとしたら、それが親にとって役に立つかどうかを聞いた結果が図表2-2-3-14である。高齢者と同じ項目について質問しているが、高齢者が有用と答えた比率より全体的に上回っている点が特徴的である。役に立つという回答が最も多いのは「災害時の自動対応」で、これは高齢者本人に対する調査と同じ傾向を示している。

図表2-2-3-14 タブレット端末で親に使わせたいサービス
図表2-2-3-14 タブレット端末で親に使わせたいサービスのグラフ
(出典)総務省「スマートフォン及びタブレットPCの利用に関する実態及び意向に関する調査研究」(平成24年)

 次に、タブレット端末を使いやすくなるような機能・サービスが親にとって有用であるかどうかとう質問について、「有用である」との回答の比率を示したのが図表2-2-3-15である。「設定不要」「詐欺やウイルスがない」といった項目が特に有用だと考えられていることがわかる。

図表2-2-3-15 タブレット端末で親に有用な機能・サービス
図表2-2-3-15 タブレット端末で親に有用な機能・サービスのグラフ
(出典)総務省「スマートフォン及びタブレットPCの利用に関する実態及び意向に関する調査研究」(平成24年)

 親がタブレット端末を使うことに対する阻害要因を質問した結果が、図表2-2-3-16である。最も多いのは「使い方が難しくて使えない」で、次いで「あとで面倒をみるのが大変」「タブレットの価格が高い」といった項目が続いている。使い方について、タブレット端末の使いやすさを訴求することの必要性が示されている。

図表2-2-3-16 親がタブレット端末を使うための阻害要因
図表2-2-3-16 親がタブレット端末を使うための阻害要因のグラフ
(出典)総務省「スマートフォン及びタブレットPCの利用に関する実態及び意向に関する調査研究」(平成24年)

ウ 支払意志額の推定
 高齢者やその子どもは、タブレット端末を利用した様々なサービスに対してどの程度の支払意志額を有しているのだろうか。高齢者及び子どもに、機能やサービスの様々な組み合わせに対して、タブレット端末の月額のレンタル料としていくらくらい払う用意があるかを質問し、コンジョイント分析を行い、その結果を示したのが、図表2-2-3-17である。

図表2-2-3-17 高齢者向けサービスの支払意志額(円)
図表2-2-3-17 高齢者向けサービスの支払意志額(円)のグラフ
(出典)総務省「スマートフォン及びタブレットPCの利用に関する実態及び意向に関する調査研究」(平成24年)

 グラフの赤い棒が高齢者の支払意志額を表す。例えば、左端の棒グラフの値の98とは、スーパーやコンビニの商品をタブレット端末から選ぶと配送してくれるサービスがあれば、月額98円ならタブレット端末のレンタル代として払ってよいと高齢者が考えていることを意味する。この料金は商品の配送代金ではなく、配送サービスが組み入れられた時のこのタブレット端末への月間支払意志額である。振り込み年金手続等が自宅でできることには127円を、血圧や歩数などの健康管理には98円をこのタブレット端末に払ってもよいと答えている。災害時の自動応答は202円と高く、孫とのテレビ電話は152円である。使い良さとサービスについては携帯のように買ってすぐ使えて設定が不要であることに155円、詐欺やウイルス対策ができていることに200円の支払い意志をみせている。これらを合計すれば1,000円以上に達する。この結果から判断すると、仮にタブレット端末をこれらのサービス込みで月500円程度で提供できるのであれば、インターネット利用に関心のある高齢者に対して、タブレット端末を使ってもらうことは十分可能であることになる。
 この調査では、高齢者ではなく、高齢者の子どもの世帯に対し、そのようなサービスが提供されているタブレット端末を親にプレゼントする気があるかどうか質問し、そのようなプレゼントに興味があると答えた子どもにも同じ調査を行っている。グラフの緑の棒グラフは子どもの場合の回答であり、若干の違いはあるものの、ほぼ同じパターンを描いている。子どもへの啓発を進めることによる高齢者へのタブレット端末普及の可能性が示されているといえよう。
 なお、同様の調査をパソコン未利用の高齢者に対して郵送調査で行ったところ、「災害時の応答」、「孫とのテレビ電話」、「子どもが同じものを持っていて相談しやすい」との項目はパソコン利用の高齢者よりも高く出ている。他方、「コンビニ配送」、「ATM手続」、「健康管理」は低く出ているが、これは、調査対象者が同種のサービスを利用したことがなく、利便性をイメージできないことが要因ではないかと考えられる。しかし、全体としての支払い意志額の総和は上記のウェブによる2調査とあまり変わらない。特に緑の棒グラフはパソコンを持たない人を含む高齢者の子供に対する調査結果に基づくものであり、それと同程度の支払意志額が出たということは、高齢者全般についてこのようなタブレット端末への潜在需要があることを示唆している。
 高齢者向けタブレット端末に関して、ここで述べたサービスはいずれも現在のパソコンで実現可能であり、リテラシーの高い人ならすでに現実に使っている。コンビニからの宅配や介護の見守りサービスなど部分的に実現しているものも多い。高齢者の子どもに対する調査では、調査対象のうちその親が自宅でパソコンを保有しているのは約56%であり、双方を考え合わせれば、様々なサービスを、タブレット端末を通じて、使いやすくする機能も含めて統合的に提供することにより、高齢者のICT利用をさらに促進する可能性が示されている。


43 イオン、NTT西日本、シャープの3社による、タブレット端末を使った家庭向けネットサービス「A touch Ru*Run(エータッチルルン)」。2012年3月12日開始。
44 札幌市中央図書館「電子図書館実証実験」2011年〜2012年
45 東京ケーブルネットワークとNECによるタブレットを「CATVのリモコン」とする加入者向け実証実験、2011年9月〜11月
46 NTT東日本による「光iフレーム2」2011年
47 本件調査は、総務省の委託により、慶應義塾大学田中辰雄准教授の協力を得て、富士通総研が行った(調査概要は付注9参照)。
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