総務省トップ > 政策 > 白書 > 24年版 > 通信における耐災害性の強化
第1部 特集 ICTが導く震災復興・日本再生の道筋
第4節 東日本大震災の教訓を踏まえたICT災害対策の強化

2 総務省における対応 ICTの耐災害性の強化


(1)通信における耐災害性の強化

ア 大規模災害等緊急事態における通信確保
 東日本大震災の発生により、国民生活や産業経済活動に必要不可欠な基盤として重要性を有する通信インフラにおいて、広範囲にわたり輻そうや通信途絶等の状態が生じたが、その発生状況は一律ではなく、今後、状況に応じた対策が必要とされるところである。例えば、輻そう状況については、発災地である東北と首都圏、そして音声通信とパケット通信とで、状況が異なっていた。東北と東京23区のトラヒック状況について音声とパケット別にみていくと、東北と東京23区ともにパケットについては、音声ほどには多くのトラヒックを発生していないことがわかる(図表3-4-2-1)。

図表3-4-2-1 携帯電話のトラヒック状況の推移
図表3-4-2-1 携帯電話のトラヒック状況の推移のグラフ

 これらの状況を踏まえ、総務省では平成23年4月から緊急事態における通信手段の確保の在り方について検討することを目的として「大規模災害等緊急事態における通信確保の在り方に関する検討会」を開催し、平成23年12月27日に最終取りまとめを実施した。最終取りまとめでは、緊急時の輻そう状態への対応、基地局や中継局が被災した場合等における通信手段確保、今後のネットワークインフラ及び今後のインターネットの在り方について、国・電気通信事業者等の各主体が今後取り組むべき事項をアクションプランとして整理したところである(図表3-4-2-2)。アクションプランにおいては、具体的に以下の事項について指摘されている。

図表3-4-2-2 最終取りまとめ「アクションプラン」に基づき今後取り組むべき事項
図表3-4-2-2 最終取りまとめ「アクションプラン」に基づき今後取り組むべき事項の図

(ア)緊急時の輻そう状態への対応の在り方
 音声通話は、緊急時の通信手段として重要な役割を有し、その利用を最大限確保することが必要であるため、ネットワーク全体としての疎通能力を向上させる取組を進めるとともに、音声通話の確保だけでなく、音声通話に利用が集中しないように、災害用伝言サービスなどの音声通話以外の通信手段を充実・改善するための取組や利用を促進するための適時適切な情報提供、輻そうに強いネットワークの実現に向けた研究開発など、各種の施策を総合的に推進する。

(イ)基地局や中継局が被災した場合等における通信手段確保の在り方
 被災した通信インフラの迅速な復旧を図るとともに、発災後の時間的経過を踏まえ、被災地や避難場所等のニーズに即した通信手段や緊急情報・復旧状況等の迅速な提供を行うことが、発災直後の救急対応や被災者等の安否確認・情報収集等に不可欠となるため、これらの措置を迅速に行うことが可能となるよう取り組む。

(ウ)今回の震災を踏まえた今後のネットワークインフラの在り方
 今回の震災では、被災エリアが広範囲に及ぶとともに、津波による局舎の流出・損壊や長時間の停電によるサービス停止など、従来の想定を超えた被害が発生していることを踏まえ、今後のネットワークの耐災害性の向上を進める。

(エ)今回の震災を踏まえた今後のインターネット活用の在り方
 今後インターネットトラヒックの増加が見込まれていることを踏まえた回線容量等の増強によるインターネット接続性の確保を進め、インターネットやクラウドサービスの活用の推進を図るとともに、災害発生時に備えた通信事業者の協力体制を構築する。

イ 災害等緊急時における有効な通信手段としての公衆電話の在り方
 公衆電話は、戸外における最低限の通信手段であり、全数が災害時優先電話であること、その設置されている区域が停電しても局給電がされること等から、東日本大震災においても重要な役割を果たしたところである。総務省では平成23年10月に「災害等緊急時における有効な通信手段としての公衆電話の在り方」について情報通信審議会に諮問し、「戸外における最低限の通信手段」としてのレベルを引き下げることとならないよう、現在の台数(10.9万台)の維持などを内容とした答申を平成24年3月に受けた。

ウ 通信インフラの耐災害性強化に向けた研究開発
 総務省では、平成23年度第三次補正予算及び平成24年度予算において、通信インフラの耐災害性の向上を進めるための研究開発を開始しているところである。平成23年度第三次補正予算においては、「大規模災害等緊急事態における通信確保の在り方に関する検討会」の結果に基づき、「災害時に携帯電話等に通信が集中した場合でも、通信処理能力の配分を柔軟化することで、安否確認等に重要となる音声通信等の疎通を優先する技術」及び「災害時に損壊状況を即座に把握し、生き残った通信経路を自律的に組み合わせて通信を確保する技術」の研究開発を開始した(図表3-4-2-3)。なお、その実施に当たり、独立行政法人情報通信研究機構が東北大学等に整備するテストベッドを通じて、被災地域の知見や強みを集約していくこととしている。

図表3-4-2-3 情報通信ネットワークの耐災害性強化のための研究開発(総務省平成23年度第三次補正予算)の概要
図表3-4-2-3 情報通信ネットワークの耐災害性強化のための研究開発(総務省平成23年度第三次補正予算)の概要の図

 また、平成24年度予算においては、災害時に確実な情報伝達を行うために必要となる情報通信ネットワーク基盤技術として、「災害時に有効な衛星通信ネットワーク」及び「通信処理能力を緊急増強する技術」について、研究開発・評価を実施している。この研究開発においては、前述のテストベッドを活用し、地震による影響を受けにくい衛星通信により、ニーズに応じた回線確保を円滑に図るため、一つの地球局で複数の通信方式に対応可能とする技術や、被災地で復旧活動等のために発生する大量の通信を迅速に確保する可搬型交換装置を実現する技術等の研究開発を進めるなど、災害時に確実な情報伝達を行うネットワークの実現を図っているところである(図表3-4-2-4)。

図表3-4-2-4 災害時の情報伝達基盤技術に関する研究開発イメージ
図表3-4-2-4 災害時の情報伝達基盤技術に関する研究開発イメージの図

エ 広域災害対応型情報通信技術の研究開発・実証
 総務省では、成果の早期展開や現地での実証実験の実施等により、東日本大震災の被災地の復興に資すべく、平成23年度予算において、以下の研究開発及び実証等を実施している。

(ア)災害に備えたクラウド移行促進セキュリティ技術の研究開発
 クラウドは、災害時における業務継続性等の確保に有用である一方、情報漏えい等情報セキュリティ上の課題やデータの保管場所・処理方法が不明確であることなどが指摘されていることから、その普及を促進するため情報漏えいを防止する技術等の研究開発を実施している。

(イ)広域災害対応型クラウド基盤構築に向けた研究開発
 広域災害時においても、異常を検知次第、全国の他のクラウドの空き状況や、通信回線の状況に応じて、異常があったクラウドから遠隔地の安全なクラウドに重要データを迅速に退避させ、業務処理を継続する高信頼かつ大幅に省電力なクラウド間連携基盤技術の研究開発を実施している。

(ウ)災害対応に資するネットワークロボット技術の研究開発
 ネットワークを通じた情報収集や情況分析を行うことにより、きめ細やかな動作を実現するネットワークロボット技術を災害対応ロボットの分野で活用することで、より円滑に作業可能な遠隔操作ロボットの実現が期待される。このため、ネットワークロボット技術の要素技術の研究開発と平行して、災害対応を想定した実証実験の実施に向けて検討を進めている。
テキスト形式のファイルはこちら

ページトップへ戻る