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第1部 特集 ICTが導く震災復興・日本再生の道筋
第5節 地域成長力をけん引するICT

(3)ICT利活用促進による地場産業強化


ア ICTによる地場産業強化に向けた自治体の取組状況
 自治体において、地場産業(企業、商業者、農林水産業者等)のICT利活用の促進に取り組んでいるかについて質問をしたところ、現在、自治体レベルでの取組が行われているとの回答があったのは、15.6%となっている(図表1-5-2-14)。特に、都道府県レベルでは、57.9%の団体で何らかの取組が行われているものの、市区においては、21.4%、町村においては、6.6%の団体となっている。また、地場産業のICT化に対する今後の取組意向については、今後取り組むとした団体は45.6%である。特に、都道府県レベルでは、75.0%もの団体が取組意向を示しているものの、市区及び町村レベルでは、それぞれ45.6%、43.7%に過ぎない。今後、ICTによる地場産業強化の可能性について、市区町村へも認知を高めていくことが求められよう(図表1-5-2-15)。

図表1-5-2-14 地場産業のICT利活用への取組状況
図表1-5-2-14 地場産業のICT利活用への取組状況のグラフ
(出典)総務省「地域におけるICT利活用の現状及び経済効果に関する調査研究」(平成24年)

図表1-5-2-15 今後、地場産業のICT利活用促進に取り組もうと思うか
図表1-5-2-15 今後、地場産業のICT利活用促進に取り組もうと思うかのグラフ
(出典)総務省「地域におけるICT利活用の現状及び経済効果に関する調査研究」(平成24年)

 また、取組団体に対して、地場産業のICT利活用について期待する効果を聞いたところ、新たな販売チャネルの獲得、域内での受発注の活性化、消費者サービスの向上などが多い(図表1-5-2-16)。

図表1-5-2-16 地場産業のICT利活用による期待効果
図表1-5-2-16 地場産業のICT利活用による期待効果のグラフ
(出典)総務省「地域におけるICT利活用の現状及び経済効果に関する調査研究」(平成24年)

イ ICT利活用による地場産品の販売促進事例
 このように、町村部では、必ずしもICT利活用による地場産業強化について関心が高いとはいえない状況にはあるが、地場産品の販売促進などでICTを利活用して、新規顧客層の開拓や販路拡大に成功している事例もある。

●漁業においてICTを活用、流通現場の「見える化」により、消費者に安心を提供(岩手県大船渡市)
 昨今、食の安全性に対する消費者の関心の高まりから、食品の生産履歴を把握するトレーサビリティの取組が広がってきた。特に、水産物については、東京電力福島第一原子力発電所の事故の影響などもあり、流通の「見える化」への消費者の関心が高まっていた。
 三陸産の魚介類をインターネットで通信販売する「三陸とれたて市場」(岩手県大船渡市)は、魚市場に水揚げされた魚介類の最新の水揚げ情報、調理場での加工作業の様子、漁業者へのインタビュー、養殖現場や水揚げの様子などの写真や動画を日々ホームページに掲載・配信し、水産物の仕入れから販売までの流通の「見える化」を図ることにより、消費者に安心を提供するとともに、販売を拡大している(図表1-5-2-17)。

図表1-5-2-17 漁業においてICTを活用、流通現場の「見える化」により、消費者に安心を提供
【三陸とれたて市場がマツカワカレイの水揚げをネット中継した様子】
図表1-5-2-17 漁業においてICTを活用、流通現場の「見える化」により、消費者に安心を提供の写真
(出典)総務省「地域におけるICT利活用の現状及び経済効果に関する調査研究」(平成24年)

 震災により、「三陸とれたて市場」も店舗を失ったが、平成23年6月には事業を再開した。インターネット通販により、市場では売りにくいサイズが異なる魚介類も販売可能となり、漁業者の収入増にも貢献している。岩手県大船渡市の漁師町、越喜来(おきらい)地区では、震災により572隻の漁船のうち500隻が失われ、人口は1割減少したが、漁業者10人で漁業生産者組合を結成するとともに、「三陸とれたて市場」と提携し、「儲かる漁業」に挑戦している。

ウ 地方に展開する産業(農林水産業など)のICT利活用促進による生産性向上・競争力強化
 ICTは、その情報発信力を活用した販路開拓等のみでなく、ICTを利活用することで、地場産業の生産性を向上し、競争力を強化する潜在力を有している。ここでは、農林水産業においてICTを利活用することで、生産力向上を図っている事例を取り上げる。

●ICTを活用してデータに基づいた高品質みかんの栽培に取り組む(和歌山県有田市)
 みかんの有数の生産地である和歌山県有田市。早和果樹園は有田市内にある6万平方メートルの農地で、高品質みかんの栽培とジュースやポン酢、ゼリーなどのみかんの加工品の生産販売を手がけている。生産、加工、販売の6次産業化を経営の柱として農業経営を行っており、高級ホテルや高級スーパー、ファーストクラスの機内食に採用されるなど評価を得ている。
 早和果樹園では、長年積み重ねてきたノウハウや熟練従業員による経験や勘に基づいて品質を重視したみかんを栽培しているものの、さらなる生産性の向上に向けて、作業の標準化やコスト管理、熟練従業員のノウハウ継承、農業経験のない新入社員の育成といった課題を抱えていた。
 そこで、農業クラウドを活用してICT農業の実証実験を平成23年夏に開始、管理農業による生産性向上、若手従業員の人材育成、経営力の向上に取り組んでいる(図表1-5-2-18)。このシステムは、栽培に係るデータを収集し、分析することで生育状況や作業内容、作業コストを「見える化」、いつ、どこで、どのような作業を行えばいいのかを適切に判断することを支援する。

図表1-5-2-18 ICTを活用してデータに基づいた高品質みかんの栽培に取り組む
図表1-5-2-18 ICTを活用してデータに基づいた高品質みかんの栽培に取り組むの図
(出典)総務省「地域におけるICT利活用の現状及び経済効果に関する調査研究」(平成24年)

 果樹園に配置したモニタリング用のセンサーを使って気温や降水量、土壌温度、土壌水分、日射量をサーバーに蓄積する。また、約5,000本のみかん樹木一本一本に情報タグを取り付け、作業員は園地を見回りながら樹木の育成状況や病害虫の発生状況を確認、スマートフォンで撮影したり、「枯れている」などの気付きを入力したりしてサーバーにアップロードする。さらに、スマートフォンのGPS機能を使って、従業員が園地で作業した時間を自動的に計測する。使った農薬や肥料の種類や量などのデータもデータセンターに送信する。こうして集められたデータによって、生育環境の推移や樹木単位で生育状況を把握、樹木1本当たりの人件費、資材費と収穫量も算出できるようになるともに、把握した情報に基づいて、樹木の剪定や水切りといった作業指示ができる。さらに、和歌山県果樹試験場にもデータを提供し、試験場が蓄積している各種の試験データと突き合わせて分析、効果的なみかん栽培の指導をする。
 こうしたICT農業によって、早和果樹園は糖度12度以上、酸度0.7〜0.8、袋が薄く柔らかいといった条件をクリアしたブランドみかんの発生比率を25%から70%に拡大することを目指している。また、実証実験で得られた作業ルールなどの結果を体系化し協力農家や地域へ活用することで、後継者不足や耕作放棄地の増加に悩む有田市のみかん園地の受け皿となり、地域活性化、収益力強化、ブランド力強化も期待されている。
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