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第1部 特集 ICTが導く震災復興・日本再生の道筋
第2節 「スマートフォン・エコノミー」〜スマートフォン等の普及がもたらすICT産業構造・利用者行動の変化〜

トピック ガラケーはスマホに「負けた」のか?


 スマートフォン登場以降の急速な普及に伴い、販売が縮小しつつある従来型携帯電話について、国内市場のみをターゲットにワンセグやお財布ケータイなど様々な機能を搭載した多種多様な端末を開発・提供するいわゆる「ガラパゴス型携帯(ガラケー)」であるが故に、世界市場をターゲットに展開されているスマートフォンに「駆逐」されたとの見方がある。ここでは、従来型携帯電話とスマートフォンの関係について、「1 何故ユーザーはスマートフォンを選択したか」、「2 何故国内で成功したiモード等は通信事業者による海外展開に成功していないのか」、「3 何故日本の端末メーカーはAppleやSamsungなどのようにスマートフォンで先行できなかったのか」、との3つの視点から検証する。

1.何故ユーザーはスマートフォンを選択したか

 本節で分析したように、携帯電話及びスマートフォンの新規契約はスマートフォン中心という状況であり、特に若年層を中心に、スマートフォンへの移行が進んでいる。上記3(2)のウェブ調査結果に示すとおり、スマートフォンがパソコンとほぼ同等のウェブ閲覧機能等を有していることが、スマートフォン購入の重要な動機となっていると考えられる。また、端末・サービス全体としてユーザーが享受できるメリットが勝っている点がみて取れる一方、Wi-Fi接続機能やテザリング機能といった通信機能の充実については、比較的低位にある。
 スマートフォンへの移行には、インターネット、とりわけウェブの利用の充実が大きく影響しており、従来からグローバルに展開するインターネット上で様々なコンテンツ事業者やアプリケーション事業者、ハード事業者を巻き込みつつエコシステムを構築し商品・サービスの魅力を高める戦略をとってきた米国のインターネット系企業に一日の長があったのではないかと考えられる。なお、米国において、通信事業者が2011年(平成23年)10月−12月期に大幅減益(AT&T 対前年同期比-52.9%、Verizon 対前年同期比-12.1%)に見舞われたが、これはスマートフォンの販売に必要な奨励金等の負担やデータ通信容量の大幅な増大への対策が主因と指摘されており、裏返していえば、スマートフォンがユーザーの高い支持を得ているが故に、負担を負ってでもニーズのあるスマートフォンを販売せざるを得ない状況にあるもといえる。このような状況下では、携帯電話が「コモディティ化」するなかで、卓越した技術を有するだけでなく、それをユーザーにとって魅力ある商品に作り上げ、利益を得る新たなビジネスモデルを構築し得るかどうかが、ICT産業内の各企業の成長の鍵となる。
 ただし、従来型携帯電話(PHSを含む)の世帯保有率は89.4%、従来型携帯電話によるインターネット利用の人口普及率も52.1%に達し、スマートフォン普及には世代間格差が大きいが従来型携帯電話によるインターネット利用は幅広い世代で使われており、利用者の支持を失ったとまではいえないことに留意が必要である。
 図表2-2-1-3に示す2009年(平成21年)から2011年(平成23年)にかかるスマートフォンの世界市場の変化をみれば、日本市場が台数ベースで1.4倍に留まるのに対し、その他の地域は2倍〜4倍以上に拡大している。従来型携帯電話ユーザーからスマートフォンユーザーへの移行により、電子商取引の利用などインターネット経由の商品・コンテンツの購入等が刺激される側面があることも考えあわせれば、単純に「ガラケーがスマホに『負けた』」と捉えるよりも、スマートフォンが世界で移動体通信関連の新たな市場を開拓し、ICT産業のみならず幅広い部門に経済波及効果を生みつつあると捉え、その潮流をいかにメーカーをはじめとする我が国の企業が取り込むかを前向きに考える方が適切と思われる。
 スマートフォン・タブレット端末の普及をきっかけに、電子商取引の分野など移動体通信とは関係の薄かった業界からも専用端末による参入の動きが活発化しており、今後さらに国際的に激しさを増すと予想される競争環境において、従来の枠組を超えた統合・連携を含め我が国のモバイル産業が「攻め」の戦略に転ずることが望まれる。

2.何故国内で成功したiモード等は通信事業者による海外展開に成功していないのか

 ドコモのiモードなど我が国の移動体事業者によるインターネット接続サービスは、モバイルインターネットの先駆者としてコンテンツ事業者などサードパーティとのエコシステムの構築に成功し広範に普及した事例として評価を受けており50、現在、スマートフォンの分野で成功を収めているiPhoneも、ドコモのiモードにと同様に垂直統合型エコシステムを構築し成功した事例として評価する向きもある。また、現在も、着メロや着うたなど、我が国特有の様々なコンテンツ提供サービスが展開されており、一定の成功を収めている。ただし、iモード等の成功ゆえに、スマートフォンを軸とした新たなプラットフォームによる仕組の構築が遅れた面も否定できず、逆に国内でもスマートフォンの動向をいち早く取り入れてサービス展開した移動体事業者がシェアを伸ばす結果となっている。
 また、我が国の携帯電話インターネットについては、一時期通信事業者が海外展開に取り組んでいたが、現在まで成功したとはいいがたい状況にある。この点について、海外のユーザーは小さな携帯電話画面で階層の深い操作を好まず、海外のユーザーの要求を満たしていなかったといわれている。また、サードパーティの取り込みに成功していないことや、海外では、通信事業者が必ずしも主導権をとる立場になく、通信事業者主導型のモデルでは海外への展開に限界があったとの指摘もある51図表1)。

図表1 日本と海外の通信事業者の事業構造の相違(オランダとの比較)
図表1 日本と海外の通信事業者の事業構造の相違(オランダとの比較)の図
(出典)Richard Tee, Annabelle Gawer,"Industry architecture as a determinant of successful platform strategies; a case study of the i-mode mobile Internet service", European Management Review, 2009

 我が国では、スマートフォンにもワンセグやお財布ケータイなどの機能を盛り込み、通信事業者独自の各種マーケットを設けるなど、現在のモバイルインターネットの仕組をスマートフォンにも移設する取組がみられる。本節で分析したとおり、高齢者向けの利用促進などの側面では、国内の利用者ニーズに細かく対応した方向も伸びる可能性があるが、他方、スマートフォンの分野では、グローバルに広がるインターネット上で、国境を越えたエコシステムを構成し競争が展開されている。移動体事業者の視点からいえば、このような競争環境の中で、「ガラスマ」が、国内外の様々なコンテンツ・アプリケーション事業者や端末メーカーとの関係でどうエコシステムを構築し、国内の利用者に魅力的なサービス提供と国際展開可能なモデルへの発展をどう両立できるかも、大きなポイントといえるだろう。

3.何故日本の携帯端末メーカーはAppleやSamsungなどのようにスマートフォンで先行できなかったのか

 世界市場では、スマートフォン市場の拡大を背景に、Apple(iOS)とSamsungをはじめとする中韓台メーカー(AndroidOS)が国際的に大きくシェアを伸ばしており、我が国の携帯端末メーカーは市場拡大を成長につなげられていない。携帯電話の世界市場における我が国メーカーの存在感の低下については、スマートフォン普及以前からの傾向であり、課題となっていたが、これまでは、我が国の携帯端末メーカーが国内ではシェア上位を占めていたのに対し、スマートフォンでは、普及当初から国内でも海外メーカーがシェア上位に食い込んでいる点が異なっている。
 この点は、上記1.で述べたとおり、パソコン同等のウェブ閲覧機能、コンテンツ・アプリを含めたサービスの総合力、端末の魅力の点で、現在主流となりつつあるタッチパネル方式のスマートフォンが既存のフィーチャーフォンを上回っていることが主因と考えられるが、シェアを失っているのは我が国の携帯端末メーカーだけではなく、NokiaやRIM(ブラックベリー)など従来高いシェアを占めていた海外企業も大きくシェアを落とし、大幅減益に見舞われていることにも留意する必要があるだろう。
 それでは、何故日本の携帯端末メーカーが、日本国内でスマートフォンを実現できなかったのか。これは、まず前提として、現在主流となっているスマートフォンのインターフェースについては、Appleが主導した飛躍的な技術革新であり、ジョブスの指導力のみならず同社が戦略性の高い製品や領域を絞りこんで行う高水準な研究開発投資もその要因として指摘できるところである(図表2)。

図表2 グローバルICT企業の研究開発投資額
図表2 グローバルICT企業の研究開発投資額の表
EU委員会JRC "The 2011 EU Industrial R&D Investment Scoreboard"
"R&D ranking of the top 1400 World companies"よりICT産業企業の研究開発投資額上位25位を抽出
(出典)総務省「情報通信産業・サービスの動向・国際比較に関する調査研究」(平成24年)

 また、パソコン同等のウェブ閲覧機能等を実現するには、ネットワーク側に大きな負担を求めることになるが、米国のApple(iPhone)やGoogle(Android端末)とは異なり、通信事業者主導型エコシステムの下にある日本の携帯端末メーカーからそのような発想は具体化されづらかったことも推測される。
 他方、Samsungほかアジア系企業による海外展開が、何故日本のメーカーにできていないのかについては、Appleとの比較とは事情が異なる。2009年(平成21年)から2011年(平成23年)までのスマートフォン市場の地域別の伸びをみてもわかるように、アジア太平洋、北米、欧州、その他の地域いずれも、我が国の市場伸びを大きく上回っており、世界市場を視野に入れるかどうかで、製品のロットが大きく異なる(図表3)。このため、スマートフォンの分野(特に完成品分野)における我が国企業の優位性が失われつつある状況のなかで、製品企画段階から世界市場を視野にいれている企業と、「少量多品種」型の国内市場を重視している我が国の携帯端末メーカーでは、工場の立地条件以前に、製品のロットが大きく異なることが推測され、また設備投資の規模も大きな格差を生じていると推測される。

図表3 グローバルICT企業(機器製造)の設備投資額
図表3 グローバルICT企業(機器製造)の設備投資額の表
EU委員会JRC "The 2011 EU Industrial R&D Investment Scoreboard"
"R&D ranking of the top 1400 World companies"よりICT産業企業のうち機器製造産業企業の設備投資額上位25位(2010年実績)を抽出・推計
(出典)総務省「情報通信産業・サービスの動向・国際比較に関する調査研究」(平成24年)

 世界市場でみると、スマートフォンの本格普及により、寡占的構造にあった市場が大きく変動しつつあるともいえ、今後も大きな伸びが予想されるスマートフォン市場でのグローバル規模での競争はこれからも続く。我が国の携帯端末メーカーにおいても、生産拠点を海外に移すなど、世界市場を視野に入れた戦略をとる企業が増えつつあり、今後の推移が注目される。
 本節で分析したように、スマートフォンは2015年には世界の携帯端末市場の5割を突破することが見込まれるなど端末レイヤーにおいて大きな成長性が見込まれるとともに、データ通信の拡大を通じたネットワークレイヤーの市場拡大、各種アプリや電子商取引など上位レイヤーの市場拡大も期待される。その成長力を日本の成長力に取り込む観点から、世界の最先端を走りながら国内展開にとどまったいわゆる「ガラケー」に示される上記の課題も踏まえ、日本のICT産業におけるグローバル市場を視野に入れた経営戦略の強化が求められる。さらに、スマートフォンやタブレット端末から今後の成長が期待されるスマートテレビへの展開もにらみながら、HTML5に代表される、端末や様々な上位レイヤーのサービス展開の基盤となるプラットフォームの国際標準化を積極的に推進するなど、ユーザーが多様なサービス・機器を享受できる環境の整備に向けて官民一体となって取組を進めていく必要があるだろう。


50 例として、「プラットフォームリーダーに必要とされるものは何か」アナベル・ギャワー、マイケル・A・クスマノ 一ツ橋ビジネスレビュー平成16年SUM16ページ以下。
51 “Industry architecture as a determinant of successful platform strategies: a case study of the i-mode mobile Internet service” Richard Tee, Annabelle Gawer European Management Review(2009)
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