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第1部 特集 新時代に求められる強靱・健全なデータ流通社会の実現に向けて
第1節 データ流通・活用の新たな潮流

(2) デジタルツイン

ア デジタルツインとは

現実空間を仮想空間に再現する従来からある概念として「デジタルツイン」がある。

デジタルツイン(Digital Twin)とは、現実世界から集めたデータを基にデジタルな仮想空間上に双子(ツイン)を構築し、様々なシミュレーションを行う技術である。

メタバースとデジタルツインは、存在する空間が仮想空間であることは共通であるが、その空間で再現するものが実在しているものかどうかを問わないメタバースに対して、デジタルツインは、シミュレーションを行うためのソリューションという位置づけであるため、実在する現実世界を再現している。また、メタバースは、現実にはない空間でアバターを介して交流したり、ゲームをしたりというコミュニケーションが用途とされることが多いのに対して、デジタルツインは、現実世界では難しいシミュレーションを実施するために使われることが多い。

街や自動車、人、製品・機器などをデジタルツインで再現することによって、渋滞予測や人々の行動シミュレーション、製造現場の監視、耐用テストなど現実空間では繰り返し実施しづらいテストを仮想空間上で何度もシミュレーションすることが可能となり、以下のようなメリットが期待できる。

生産の最適化や業務効率の向上:最適な機器や人員の配置、リードタイム短縮のためのプロセス改善などにより最適化できる。また、仮想空間でのシミュレーションによって視覚的に結果を確認することができるため、安全性の向上やリスク削減にも貢献する。

時間やコストの削減:物理的に試験をしたり試作品を作成したりするのに比べて、仮想空間上で容易にシミュレーションができるため、物理的な検証に費やしていた時間を大幅に削減することができる。

現実世界では不可能なシミュレーションが可能:現実世界では頻繁に発生しない現象を容易に発生させることができるため、大地震やイベントなど将来に備えた対策に役立てることができる。

イ 活用事例

デジタルツインは、航空産業や製造ラインなど、製造業のユーザーを中心に活用が始まり、現在では国土計画・都市計画、防災など幅広い分野で活用されている。

都市計画への活用として、例えば国土交通省は、2020年度から3D都市モデル整備・活用・オープンデータ化のプロジェクト「PLATEAU18」を推進しており、2021年8月には、全国56都市の3D都市モデルのオープンデータ化を完了している。「まちづくりのデジタル・トランスフォーメーション」推進のため、「現実の都市のデジタルツイン」を構築し、オープンデータとして公開することで、誰もが自由に都市のデータを活用できる状態を実現している。

防災分野では、静岡県が、2019年より、県内全域の地形や建物などを点群データという3次元情報として取得し、オープンデータとして公開する「VIRTUAL SHIZUOKA」の取組を進めている。「VIRTUAL SHIZUOKA」の情報や過去に撮影された航空写真などの情報と、災害で土砂崩れが発生した地点のドローン等で3次元計測したデータを比較して解析しており、2021年7月に発生した静岡県熱海市の土砂災害では被害状況の早期把握と2次災害の防止に活用された(図表3-1-2-8)。

図表3-1-2-8 バーチャル静岡
(出典)静岡県

農業分野では、デジタルツインを用いた農業プラットフォーム実現の取組が進められている。株式会社Happy Qualityでは、仮想空間上で栽培環境を再現したデジタルツインによるバーチャルプラットフォームを各農場に合わせてカスタマイズし提供している。プラットフォームの活用によって、様々なモニタリングやシミュレーションが可能となり、栽培環境の構築シミュレーションや遠隔栽培指導などスマート農業の実現と後継者不足に陥っている農業界の課題解決が期待される。

海外でも、インフラ管理、都市計画等様々な分野でデジタルツインの活用が進んでいる。

例えば、米国のオークリッジ国立研究所とパシフィックノースウェスト国立研究所では、デジタルツインを活用した水力発電システムのオープンプラットフォームの開発に取り組んでいる。実際の施設を監視しつつ、それをデジタルツインと比較することで、施設の堅牢な制御と最適化が可能になり、運用コストの削減、信頼性の向上、運用の複雑さの増大に対処することができると期待されている。オークリッジ国立研究所では、全米1億2,900万棟の建物のデジタルツインを作成し、電力会社や企業等に対してエネルギー効率を向上させる最善の方法についてシミュレーションに基づいた意思決定を行う方法も提供している(図表3-1-2-9)。

図表3-1-2-9 水力発電システムのデジタルツイン(米国)
(出典)オークリッジ国立研究所HP

また、上海市は都市の運営と管理にデジタルツイン技術を採用している19。建物、街灯、パイプ、植物など、実際のオブジェクトとその情報を反映するデジタルプラットフォームを開発し、ごみ処理や電動自転車の充電など生活安全問題を管理する上で効率性を発揮している。また、新型コロナ禍では、疫学調査のため近隣住民の正確な情報を地元の疾病管理予防センターに提供するなどパンデミックの制御と予防にも利用された。



18 https://www.mlit.go.jp/plateau/別ウィンドウで開きます

19 https://english.shanghai.gov.cn/nw48081/20220216/d4de492067ca497991823b9758001192.html別ウィンドウで開きます

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