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第1部 特集 新時代に求められる強靱・健全なデータ流通社会の実現に向けて
第1節 データ流通・活用の新たな潮流

2 メタバース、デジタルツイン

(1) メタバース

ア メタバースとは

通信ネットワークの大容量化・高速化、コンピューターの描画性能の向上、デバイスやソフトの進化(高解像度化、小型化)等に伴い、「VR(Virtual Reality 仮想現実)」、「AR(Augmented Reality 拡張現実)」、「MR(Mixed Reality 複合現実)」、「SR(Substitutional Reality 代替現実)」などのXR(クロスリアリティ)技術においては、これまでにない臨場感を味わうことが可能となった。このような中、新型コロナウイルス感染症拡大に伴い様々な経済的・文化的活動が制限されるようになり、自宅にいながらバーチャルに人々が集い、イベント等を通じて同じ時間を共有できる、リアル世界と仮想空間が連動した新たな価値の発信・体験・共有が可能な「メタバース」に注目が集まるようになった。

世界のメタバース市場は、2022年に655.1億ドルだったものが2030年には9,365.7億ドルまで拡大すると予想されており、今後の成長を見込んだ参入も相次いでいる。

メタバースは現時点では明確な定義は確立されていないものの、総務省の報告書9では、メタバースを「ユーザー間で“コミュニケーション”が可能な、インターネット等のネットワークを通じてアクセスできる、仮想的なデジタル空間」とし、①利用目的に応じた臨場感・再現性がある10、②自己投射性・没入感がある、③(多くの場合リアルタイムに)インタラクティブである、④誰でもが仮想世界に参加できる(オープン性)等の性質を備えていると整理している。

メタバースの認知度について各国の消費者にアンケート調査11を実施したところ、我が国では「知っている」(「内容や意味を具体的に知っている」、「なんとなく内容や意味を知っている」、「言葉は聞いたことがある」の合計)との回答が6割となり(図表3-1-2-1)、年代別にみると、30代(68.0%)が最も高くなった。他国と比較すると比較すると認知度は低いが、「メタバース」という用語は一般消費者にも広まりつつある。

一方、我が国でメタバースを「使っている(過去に使ったことがある)」と回答した割合は2.8%となっており、現状では実際に利用した経験がある消費者は少ないという結果となった(図表3-1-2-2)。

図表3-1-2-1 メタバースの認知度(各国比較)
(出典)総務省(2023)「ICT基盤の高度化とデジタルデータ及び情報の流通に関する調査研究」
「図表3-1-2-1 メタバースの認知度(各国比較)」のExcelはこちらEXCEL / CSVはこちら

【関連データ】メタバースの認知度(年代別)

出典:総務省(2023)「ICT基盤の高度化とデジタルデータ及び情報の流通に関する調査研究」

URL:https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r05/html/datashu.html#f00042別ウィンドウで開きます(データ集)

図表3-1-2-2 メタバースの利用経験(各国比較)
(出典)総務省(2023)「ICT基盤の高度化とデジタルデータ及び情報の流通に関する調査研究」
「図表3-1-2-2 メタバースの利用経験(各国比較)」のExcelはこちらEXCEL / CSVはこちら
イ 活用事例

我が国でもメタバースへの認知度は上がりつつあり、メタバース上での音楽イベントやショッピング等エンターテイメントの分野で各種サービスの提供が進みつつある。また、メタバース空間での学習や雇用の機会の提供、実在都市と仮想空間が連動したまちづくり等にメタバースを活用する試みも始まっている。

(ア)エンターテイメント(株式会社NTTコノキュー)

NTTコノキューは、バーチャル空間上で音楽ライブの視聴やアバター姿での散策、ユーザー同士のチャット等を行うことができるメタバースサービス「XR World」、メタバース空間でのライブ配信ができる「Matrix Stream」、AR街歩きアプリの「XR City」等を提供している。「Matrix Stream」は、アバターを用いてYouTubeで動画配信等の活動を行うバーチャルYouTuber(VTuber)の配信にも利用されている。

(イ)教育(東京大学メタバース工学部)

東京大学は、すべての人々が最新の情報や工学の実践的スキルを獲得して夢を実現できる社会の

実現を目指し、デジタル技術を駆使した工学分野における教育の場として、2022年10月に、「メタバース工学部」を設立した(図表3-1-2-3)。2022年度には、工学分野におけるダイバーシティ&インクルージョンを基本コンセプトとする新しい学びの場及び工学キャリアに関する情報を提供することを目指し、中高生を対象にした「ジュニア工学教育プログラム」と、社会人の学び直しを目的とする「リスキリング工学教育プログラム」を開講し、メタバースを活用したプログラムを提供した。

図表3-1-2-3 東京大学メタバース工学部
(出典)東京大学
(ウ)雇用創出・多様な働き方の実現(パーソルマーケティング株式会社)

パーソルマーケティングは、メタバースで働く人材を提供する事業を始めている。現在の人材市場には、高齢者や子育て中の方、身体的特徴を有する方等が働きたい場合でも、それに合う仕事をなかなか紹介できていないという課題がある。距離や時間、身体的特徴を超えられるメタバースを活用することで、より多くの人が働けるようになる社会を目指している。

メタバース上での仕事としては、案内業務や接客業務等が存在する。2022年12月には、豊田市が主催するメタバース上での就活イベントにて、在宅介護を行っている人等をイベントの案内スタッフとして提供した。今後は長期的に働くことができる場所の創出を目指している。

(エ)地域活性化(KDDI株式会社)

現実の都市をメタバースとして仮想空間上に再現し、その空間でイベントを実施して都市のタッチポイントや都市体験を拡張する試みが複数の地域で展開している。

例えば、KDDIは、2019年から開始している魅力的な渋谷のリアルの都市を、5GやXRなどのテクノロジーを用いてより活性化させることを目的としたプロジェクトの中で、2020年から「渋谷区公認 バーチャル渋谷」の取組を行っている。バーチャル渋谷は、渋谷の都市をメタバース上で再現し、ハロウィーンフェスや音楽ライブなど各種イベントを実施している(図表3-1-2-4)。2023年には、他のプラットフォームとも接続するオープンメタバースの実現に向けて、バーチャル渋谷等の都市連動型メタバースを中心に、メタバースとWeb3やデジタルツインなどと接続するサービス群の提供を開始した。

また2021年11月からメタバースや都市連動型メタバースのガイドラインを策定・運用するバーチャルシティコンソーシアムを設立。2022年4月にはバーチャルシティガイドラインを発表した。今後、リアルの都市との更なる連携強化や経済圏・生活圏の拡張を目指している。

図表3-1-2-4 バーチャル渋谷
(出典)渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト
(オ)諸外国での活用事例

各国でも様々な分野でメタバースの活用が進みつつある。

例えば、米国では、VictoryXR,Inc.が、大学をメタバース上で再現し、その中で授業を行うことができるプラットフォーム「Metaversity」を提供している。2023年3月時点で、米国の10以上の大学がMetaversityを導入しており、有機化学や解剖学、物理学などの講座において、メタバース内で3Dモデルを表示した授業が行われている(図表3-1-2-5)。

図表3-1-2-5 Metaversity(米国)
(出典)VictoryXR,Inc.等が提供する各種公開情報

地域活性化の事例としては、2022年10月、アラブ首長国連邦のシャルジャ首長国が、メタバース「Sharjah Verse」を提供する計画を発表している。本メタバース上で同国の観光地などを再現して観光ツアー等を実施することで、地元の観光産業の強化や雇用の創出等を企図している。

また、2023年1月、韓国のソウル市は、ソウルをメタバース上で再現するプロジェクト「メタバースソウル」を開始すると発表した。本プロジェクトは、2026年まで3つの段階に分けて実施される予定で、第一段階では住民票発行や税務相談等行政サービスのメタバース上での提供、第二段階では不動産投資と関連させたサービスの提供による市の開発促進、第三段階ではAR技術等も活用したソウル市のインフラ管理に活用することを想定している(図表3-1-2-6)。

図表3-1-2-6 メタバースソウル(韓国)
(出典)ソウル市等が提供する各種公開情報
ウ メタバースを巡る議論

メタバースの活用が始まりつつある中、普及に向けた課題等についても議論されている。

現在のメタバース市場は、国内外の多くのプラットフォーマーが存在しており、ワールド12提供事業者は、ターゲットユーザーを見定め、いずれかのプラットフォームを選定し、その上に「ワールド」を構築することが主流である(プラットフォーマー自体がワールドの提供者を兼ねることも多い)13。ワールド間、特に異なるプラットフォーム上に存在するワールド間には、互換性、相互運用性が存在しておらず、アイデンティティ、アバターを生成し、メタバース内で適用される禁止行為やデータの取扱い等をはじめとするルールは事業者が定める規約毎に異なる。このため、プラットフォーム等でデータ形式やデータ交換フォーマットが異なる場合、別のプラットフォーム上にあるワールドには持ち込めない可能性がある。

今後、国内外でメタバースが普及し、利用者にとって新たな生活空間としての営みが進展する中で、ユーザーのアイデンティティを示すアバター、アイテムなどを保持しながら、様々なプラットフォーム等を自由に行き来ができる環境が重要となる。このため、ユーザー利便の観点も踏まえ、複数のプラットフォームの規格を共通化させる「相互運用性」の確保に向けた標準化などの動きも始まっている。

また、メタバースにおいても、現実世界と同様、アバターの言動としてわいせつ表現や差別表現・誹謗中傷・脅迫・痴漢、アバターの身体的行動による加害行為としてつきまといやのぞき等のハラスメント・暴力、不正取引やなりすまし、また、アバターを操る人のプライバシーの保護などの問題が、国境を越えて発生する可能性がある。今後、あらゆる分野でのメタバース活用が浸透する過程で、現在の法律をそのまま運用可能かといった観点も含め、メタバース空間におけるルール形成の在り方について検討が始まっている14

エ 国内外におけるメタバースの推進施策

メタバースやデジタルツインの推進に向け、我が国を含め各国が取組を行っている。

我が国では、2022年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2022」15の中でメタバースも含めたコンテンツの利用拡大について言及し、同月に公表された「知的財産推進計画2022」16ではメタバース上のコンテンツ等をめぐる法的課題の把握と論点整理が行われた。また、総務省では、「Web3時代に向けたメタバース等の利活用に関する研究会」が開催され、主に情報通信に係る部分におけるメタバース等の利活用に向けた課題の検討が行われている17

諸外国をみると、米国やEUでは、メタバースの活用推進に向けて優先的に取り組む事項や議論すべき政策上の課題等を取りまとめたレポート等が公表されている。また、韓国は、メタバースをスマートフォンに次ぐ新たな産業として積極的に育成しようとしており、2022年1月、科学技術情報通信省は、「メタバース新産業先導戦略」を公表した(図表3-1-2-7)。

図表3-1-2-7 諸外国におけるメタバースの推進施策等
(出典)総務省「Web3時代に向けたメタバース等の利活用に関する研究会」(第7回)資料7-2より
「図表3-1-2-7 諸外国におけるメタバースの推進施策等」のExcelはこちらEXCEL


9 総務省「Web3時代に向けたメタバース等の利活用に関する研究会」中間とりまとめ
https://www.soumu.go.jp/main_content/000860618.pdfPDF

10 デジタルツインと同様に現実世界を再現する場合もあれば、簡略化された現実世界のモデルを構築する場合、物理法則も含め異なる世界を構築する場合もある。

11 日本、米国、ドイツ、中国の生活者に対するウェブ調査。年齢(20、30、40、50、60代以上)。性別(男性、女性)。回収数4,000件(日本1,000件、米国1,000件、独国1,000件、中国1,000件)。2023年2月実施。

12 プラットフォーム上で構築・運用される、メタバース個々の「世界」 https://www.soumu.go.jp/main_content/000860618.pdfPDF

13 総務省「Web3時代に向けたメタバース等の利活用に関する研究会」中間とりまとめ https://www.soumu.go.jp/main_content/000860618.pdfPDF

14 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/kanmin_renkei/dai3bunkakai/dai1/gijisidai.html別ウィンドウで開きます

15 令和4年6月7日閣議決定。https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2022/2022_basicpolicies_ja.pdfPDF

16 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/220603/siryou2.pdfPDF

17 https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/metaverse/index.html別ウィンドウで開きます
本研究会の詳細については、第2部第5章第6節「ICT利活用の推進」を参照。

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