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第2部 情報通信分野の現状と課題
政策フォーカス 「2030年頃を見据えた情報通信政策の在り方」最終答申の概要

政策フォーカス
「2030年頃を見据えた情報通信政策の在り方」最終答申の概要

1 検討の背景・経緯

コロナ禍でのデジタル化の進展等により、国民生活や経済活動における情報通信の果たす役割やその利用に伴うセキュリティの確保が一層重要なものとなっている。一方で、海外のプラットフォーム事業者等の存在感の高まり、近年の米中の緊張関係等の国際情勢の変化を背景とした情報通信分野のサプライチェーンリスクといった課題が顕在化している。

このような状況の中、総務省では、2021年9月、情報通信審議会に「2030年頃を見据えた情報通信政策の在り方」について諮問し、同審議会の下に設置した情報通信政策部会総合政策委員会においてSociety5.0の実現や経済安全保障の確保に向けた情報通信政策の在り方について議論を行い、2022年6月、一次答申が示された。

今後我が国は労働力不足や国内市場の縮小が見込まれており、ますますデジタルの活用が重要となる。しかしながら、我が国のデジタルの活用は、IMDデジタル競争力ランキング2022では63か国・地域中29位、データ利活用部門63位に低下しており、デジタルを使いこなせていない状況が続いている。一方、AIやロボット技術等の進展により、サイバー空間を取り巻く環境は新たな局面を迎えており、元来、我が国が得意だったハードウェア技術もサイバー・フィジカルシステムの実現にあたって重要性を高めている。

こうしたことから、我が国の情報通信産業が成長し続け、国際競争力を向上するとともに豊かな国民生活の実現に貢献し、また健全なインターネット環境を実現できるよう、今後の社会経済・技術の変化を見据えた情報通信政策の在り方を検討するため、2023年1月から、同委員会において審議が再開された。同委員会では、「2030年の来たる未来の姿」を描き、2030年の未来を迎え、デジタルの機能や能力を発揮できるよう、また、2030年の未来に備えて、安全に情報通信インフラの提供、安心して様々なサービスを享受できるよう、今後我が国がなすべき方向性等について審議が行われ、2023年6月、「2030年頃を見据えた情報通信政策の在り方」最終答申が示された。

図表1 2030年頃の来たる未来に向け我が国が取り組むべき方向性

2 「2030年頃を見据えた情報通信政策の在り方」最終答申の概要

(1)2030年頃の来たる未来の姿

少子高齢化による労働人口減少等の社会経済環境の変化、AIやロボット等の情報通信技術の進展を踏まえると、2030年頃には、サイバー空間とフィジカル空間とが高度に融合・一体化し、また、サイバー空間が新たな「社会」の一形態にもなり、これまでの生活空間が拡張される未来が予想され、人はより本質的な活動に集中でき、あるいは全国どこにいてもそれぞれのライフスタイルやニーズに合った豊かな暮らしを営むことができるといった、Society5.0の実現が期待される。

ア AIと人間の協働(AIエージェント)

AIと人間、AIと環境、AIとAIなどの相互連携によって、フィジカル空間における生活、経済活動をサポートし、より豊かな生活を実現。

イ サイバー・フィジカルシステムの高度な融合

① ロボット等を活用し、サイバー空間からフィジカル空間へフィードバック(反映)することで、安全性や効率性を向上。

② サイバー空間経由で遠隔のフィジカル空間の活動(生活、経済活動)に参加することで、足りない部分を相互に補う、あるいはフィジカル空間にある制約から解放されて社会経済活動に参加(存在の遠隔化)

ウ 新たな生活・経済活動の場の登場(メタバース等)

アバターを通じて、フィジカル空間ならではの様々な制約から解放されて、サイバー空間で生活あるいは社会経済活動を行う。

【関連データ】2030年頃の来たる未来の姿

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(2)2030年頃を見据えた我が国が向き合う課題と今後の方向性

ア AIの急速な進化への対応

現在の生成AIは、米国中心に開発・提供されており、学習データに偏りがあることから、予測精度の低下や地域的バイアス等が課題。また、「AIを使いこなす」ことが生活者の利便性、あるいは社会・経済活動における生産性を左右するため、若者はもとより全ての国民が一定程度使いこなせることが重要。

このため、日本人にとって使いやすい生成AIの利用環境の構築(日本文化等を反映した日本語によるAI基盤モデル(foundation Model))に資する取組や、国民がAI等のデジタルツールを巧みに活用する能力の習得に向けた取組が必要。

イ ビジネス変革の促進・カーボンニュートラルへの対応

所有から利用への価値観の変化、既存のビジネス変革やカーボンニュートラルへ対応が求められる中、グローバル展開を前提にしたサイバー・フィジカルシステムの高度化によるDXやGXの実現等が必要となっている。サイバー・フィジカルシステムを本格的に実現させるためには、サイバー空間からフィジカル空間への接点となる「アクチュエータ」が重要。

我が国は、技術開発で先行するものの、製品化やサービス化で遅れを取ってビジネス展開で敗れるとの指摘がある。海外では、国家戦略として自国に有利なグローバル・スタンダードを普及させようとする動きも少なくなく、我が国でも能動的に官民が連携してルール形成を進めるなどの取組が必要。

また、サプライチェーンのグローバル化により、地域・業種・業態などの壁を越えたエコシステム実現のため、相互運用性の確保などの国際標準化も重要になるが、その際、何のために標準化するのかの戦略も必要。昨今、互換性や品質の確保といった製品にリンクした標準化活動だけではなく、環境などの社会課題やサービス水準などの上位レイヤーでの標準化も重要。

サイバー・フィジカルシステムの実現では、イノベーションを生み出すスタートアップが成長スピードを維持し続けることも重要。例えば、レイトステージにおける投資やスタートアップと技術や人材等をもったスピード感のある事業会社との連携などが有効。

ウ 情報通信インフラの環境変化への対応

2030年頃の社会基盤となるBeyond5Gの実現に向けた取組を強化・加速するため、我が国が強みを有する技術分野を中心として、社会実装・海外展開を目指した研究開発を戦略的に推進していくことが必要。

情報通信インフラを提供する事業者が多様化し、設備構造も複雑化する中で、情報通信インフラがディペンダブルであるよう、end to endで超高速・低遅延等のメリットをユーザが享受できるよう、ユーザ視点に立った将来の情報通信インフラの在り方についての検討が必要。

経済安全保障の観点からも、政府はステークホルダーの一員として、支援と規制の両面で主体的に関与していくことが必要。サイバーセキュリティ上のリスクや調達上のリスク等を低減・排除することも重要であり、サプライチェーンの強靭化を通じた自律性の向上に向け、経済合理性も配慮しつつ、サプライヤーの多様化を含め、信頼できる機器や部品などの調達方法についての検討が必要。

エ 新たな社会空間であるサイバー空間の整備への対応

メタバースが表現の自由やプライバシーが保護されたオンライン上の公共空間「Public Space」であり、その運営が民主的になされること等について、国際社会での共通認識とすることが必要。

また、メタバース内で適用されるルールやアバター等のポータビリティ等を把握・検証しつつ、国際的なルール形成を官民・省庁間で連携して推進していくことが必要。

我が国は、アバター等のコンテンツに関する技術や知的財産等が豊富にあることからも、メタバース関連のグローバル市場のルール形成に積極的に取り組むことが重要。

オ 健全なサイバー空間の確保への対応

国家による介入やビッグ・テック企業へのデータ集中、フィルターバブルやエコーチェンバー等によるネットの分断、「アテンション・エコノミー」等による偽・誤情報の流通等の懸念が深刻化。

表現の自由の確保などの観点から民間による自主的な取組を基本とし、プラットフォーム事業者による適切な対応や透明性・アカウタビリティの確保、既存メディア等が連携したファクトチェックの取組、国民のICTリテラシーの向上など、幅広い関係者による自主的な取組、さらに事業者からのエビデンスを含んだ説明を踏まえた国による対策といったように、ステークホルダー間、国際間での連携強化、社会全体による不断の努力が不可欠。また、偽・誤情報は、リテラシーの低い人が拡散する傾向にあるため、全世代に対するリテラシー向上に向けた取組が重要。

【関連データ】「2030年頃を見据えた情報通信政策の在り方」最終答申の概要

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