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第1部 特集 人口減少時代のICTによる持続的成長
第3節 日米のICT投資の現状

2 ICTの経済成長への貢献

(1)成長会計分析

一般に、経済成長(付加価値の増加)は、生産要素である資本及び労働の増加、並びに、TFP(Total Factor Productivity:全要素生産性)の増加による部分に分解できる。付加価値の増加に対して、資本及び労働が投入量の効果を表すのに対して、TFPは生産の質による効果を表している。TFPは、生産要素以外で付加価値増加に寄与する部分であり、具体的には、技術の進歩、無形資本の蓄積、経営効率や組織運営効率の改善等を表すと考えられる。中長期的には、労働供給は人口の制約を受け、資本ストックを形成する投資は付加価値の範囲内となることを考えると、一国の経済を成長させていくには、TFPを高めることで付加価値を大きくする必要がある。

企業の生産活動を考えると、資本設備や労働力が投入されて、製品やサービスを生み出し、それをもとに得た利潤等が付加価値となる。付加価値が多く生み出されると、国全体としてGDPが増加し経済成長をもたらす。また、技術革新が起こると、資本や労働の投入要素が一定であっても、多くの付加価値を生み出すことができるようになり、生産要素(資本、労働)あたりの付加価値を高めることから、技術革新は生産性向上の源泉と考えられている。ICTはこのうち、ICT投資による資本蓄積及びICT分野における技術革新によるTFP(全要素生産性)の上昇により、経済成長に寄与している。

ICTが経済成長(付加価値の増加)や労働生産性にどのように貢献しているか、また、資本、労働及びTFPとの関係を図示したものが、図表1-3-2-1である。

図表1-3-2-1 経済成長及び労働生産性へのICTによる貢献
(出典)平成28年版情報通信白書を基に作成

図表1-3-2-2では、資本(ICT資本、非ICT資本別)、労働10、TFPそれぞれの実質GDPの成長率の貢献を計測する手法である成長会計分析を用い、日米の1996年から2015年までの成長率の貢献要素を5年ごとにまとめている。

図表1-3-2-2 日米の成長会計分析
(出典)総務省「我が国のICTの現状に関する調査研究」(平成30年)
「図表1-3-2-2 日米の成長会計分析」のExcel(1)はこちらEXCEL / Excel(2)はこちらEXCEL / CSV(1)はこちら / CSV(2)はこちら

先に述べたように、ICTはこれらのうち、ICT投資による資本蓄積及びICT分野における技術革新によるTFPの上昇により、経済成長に寄与している。

図表1-3-2-2では、TFP及びICT資本蓄積が全期間にわたりプラスの影響を与えていることから、我が国でもICTへの投資とその利活用が経済成長に一定程度貢献していることがわかる。しかし、それらを米国と比較すると、2010年までは低水準にとどまっている。

2011年から15年にかけては、我が国のTFPが米国よりも比較的高水準となっているが、以前の期間のTFPが低かった反動もあると考えられることから、今後この傾向が持続するかは予断を許さない。

続いて、我が国が米国と比較して成長率及びTFPが低水準にとどまった要因に迫るべく、我が国を情報通信産業11とその他産業(ICT利用産業)とに分け、5年ごとの成長率への貢献要素の推移をみる(図表1-3-2-3)。

図表1-3-2-3 日本の成長会計分析(情報通信産業とその他(ICT利用産業))
(出典)総務省「我が国のICTの現状に関する調査研究」(平成30年)
「図表1-3-2-3 日本の成長会計分析(情報通信産業とその他(ICT利用産業))」のExcel(1)はこちらEXCEL / Excel(2)はこちらEXCEL / CSV(1)はこちら / CSV(2)はこちら

情報通信産業とその他(ICT利用産業)とを比較すると、前者のTFPの値が全期間でプラスとなり、かつそれらが比較的大きい一方で、後者のTFPの値は小さいかマイナスとなっている。

ICT利用産業におけるICTの導入及び利活用を促進することで、それら産業のTFPの伸びを誘発し、一国としての経済成長(付加価値の増加)につなげることが必要である。ICTによる付加価値増加のためには、ICTに対応した人材の育成や企業組織の改編などの無形資産投資が重要となっていることは、1990年代のICT革命の分析にあたっても指摘されている12

留意点として、2010年代以降GDPの成長率が2000年代半ばまでと比較し伸び悩んでいるのは、日本でも米国でも同様である。先行研究でいくつかの理由が挙げられている。まず、経済のサービス化が進んでいることがある13。現行統計から計測されるTFP上昇率で見る限り、製造業に比べて規模の大きいサービス産業の生産性上昇率は低い傾向にある旨14が指摘されている。また、インターネット関連サービスが爆発的に増加しているにもかかわらず、GDP統計上のICT産業の付加価値シェアは、過去15年間多くの国で横ばいとなっていることから、インターネット関連で提供される無償サービスや新しいサービスにより創出された付加価値が現行統計で捉えきれていないとする指摘もある15。さらに、無形資産についても研究対象とされている無形資産の概念は会計的に認識されている項目よりも幅広いため、まとまった資産項目として把握することが難しく16、定義上の限界や計測の限界があり、国際的な課題である17との指摘もある。

換言すると、TFPを上昇させるには2010年代以降の新技術、産業構造・産業組織の変化に対応した付加価値創出が必要であるものの、現行のマクロ統計ではそれらが捉えきれていない可能性があると考えられる。



10 ここでは、労働を、労働量と労働の質に分けている。労働量は労働投入時間、労働の質は学歴や勤続等による質の向上を表す。

11 ここでの情報通信産業は、2016年度国民経済計算における経済活動別国内総生産の電子部品・デバイス製造業、電気機械製造業、情報・通信機器製造業、情報通信業を合計した。

12 篠﨑彰彦『インフォメーション・エコノミー』NTT出版(2014)P.118では、「ITを導入さえすれば、自動的に生産性が向上するわけではないという事実である。ソロー・パラドックスの解明という一連の研究過程で明らかになったことは、ITを導入してもうまくいく場合と行かない場合とがあり、効果を上げるには業務の見直しや人材の再訓練などを実施し、かつてITがない時代に形成された様々な「古い仕組みの見直し」が不可欠だということである。」としている。
その他、例えば宮川努/浅羽茂/細野薫編「インタンジブルズ・エコノミー 無形資産投資と日本の生産性向上」東京大学出版会(2016)P.5参照。

13 ここでのサービス化とは、所得水準の上昇に伴うサービス需要の増加がモノへの需要に比べて大きい結果第3次産業のシェアが上昇するのみならず、従来企業内や家庭内でまかなわれていた業務がアウトソースされ高度化し新しい事業として独立する、製造業でのサービス投入などが挙げられる。

14 森川正之『サービス立国論 成熟経済を活性化するフロンティア』日本経済新聞社(2016)P.79

15 経済同友会「豊かさの増進に向けた経済統計改革と企業行動 〜新たな指標群「GNIプラス」の提案〜」(2016)P.10

16 宮川努/浅羽茂/細野薫編「インタンジブルズ・エコノミー 無形資産投資と日本の生産性向上」東京大学出版会(2016)P.12

17 経済同友会「豊かさの増進に向けた経済統計改革と企業行動 〜新たな指標群「GNIプラス」の提案〜」(2016)P.14

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