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第1部 特集 人口減少時代のICTによる持続的成長
第2節 ICTによる生産性向上方策と効果

(2)ICTによる生産性向上の事例

ICTによる生産性向上とは具体的にどのようなものか。ここでは、前述した生産性向上の考え方を踏まえ、企業が抱える主な経営課題として「高コスト構造」「人材不足」「製品・サービス」を例として取り上げ、ICTによる解決領域について、図表3-2-3-4のとおり整理した。ICTによる解決領域の観点からは、前述した直接的な生産性向上に係る方策の他、労働投入量を増やすための労働参加の促進等も挙げられる(詳細は第4章参照)。

図表3-2-3-4 主な経営課題とICTによる解決領域
(出典)総務省「ICTによるイノベーションと新たなエコノミー形成に関する調査研究」(平成30年)

具体的な業種を想定した、企業の経営課題の背景、ならびに今後の展開が期待されるAI・IoT等の先進的なICTによる課題解決策を例として説明する。

ア 高コスト構造

業種や業務の性質上、人手に依存する等で労働集約的であったり、大規模な開発を要したりする場合などでは、人件費や調整費が膨らむことで、構造上、業務が高コスト化してしまう。後者の例としては、医薬品製造業における医薬品一剤あたり開発コストの上昇が挙げられる3。このような経営課題に対するICTによる課題解決策の例としては、業務の省力化や業務プロセスの効率化が考えられる。

業務の省力化の例

農林業では、遠隔操作、また将来的には自動制御機能を備えたロボット・建機等を導入することによって、業務量を省力化することが期待できる。既に、農作業用ロボットやサービスロボットを機能(サービス)と一緒に貸し出すRobot as a Service(RaaS)事業の実例もあり、今後企業等にとってロボット導入に係る障壁は下がるであろう。また、特定の業務に係る障壁が下がることで、参入促進や新たなサービス提供の余地も生まれ、業態として脱高コスト化が進展することも予想される。

業務プロセスの効率化の例

医薬品製造業では、創薬の効率の向上を図るために、既存の化合物の情報等の多様なデータを大量に収集・蓄積したビッグデータをAIで解析することにより、効果的な創薬が実現する。

イ 人材不足

労働人口減少により、今後多くの企業において人材不足が加速するであろう。特に大きく影響を受ける労働集約型の農林水産業や建設業、運輸・流通業やサービス業においては、既に経営課題として顕在化している。日本銀行が発表している全国企業短期経済観測調査(短観)の業種別計数によると、2014年以降は全ての業種において人手は「不足」となっており、特に建設業や運輸業、対事業者サービス業、対個人サービス業において深刻であることがわかる(図表3-2-3-5)。同課題は、人員数(労働の量)を確保できない、また各業種や業務に必要な人材(労働の質)を確保できないとの両面を有する。こうした人材不足により、売上の規模や収益性を維持できなくなるなど、企業としての持続性が失われてしまう。この課題に対する、ICTによる解決策としては「業務の省力化」、「業務プロセスの効率化」が考えられる。また、労働投入を増やす観点というから、ICTを通じた「労働参加の促進」が挙げられる。

図表3-2-3-5 業種別の雇用人員判断DI(「過剰」−「不足」)
(出典)総務省「ICTによるイノベーションと新たなエコノミー形成に関する調査研究」(平成30年)(日本銀行「企業短期経済観測調査」より作成)
「図表3-2-3-5 業種別の雇用人員判断DI(「過剰」−「不足」)」のExcelはこちらEXCEL / CSVはこちら
業務の省力化の例

前述した農業分野のロボットの例に加え、定型的なホワイトカラー業務をロボットによって置き換えるRPA(Robotic Process Automation)の導入も進展しつつある。これにより、これまで省力化が困難であった業種・業務も含めて省力化が進むことが予想される。RPAの導入の他、例えば小売業においては、店舗における人手不足等の課題を賄うため、自動レジの導入をはじめとするいわゆる「無人化」も進みつつある。こうした省力化や無人化により、有人によるサービスや価値提供を再設計することで付加価値増にもつながる。例えば、小売店舗において、店員は顧客の相談や対応に注力し、その場で発注・決済等を行うことで、在庫管理やレジスペースを持たずに売場面積を有効活用できるととともに、顧客には新たな体験価値を提供することができる。

業務プロセスの効率化の例

建設業では、測量、設計・施工計画、施工・施工管理、検査という業務プロセスが存在する。建設現場をドローンで撮影し、その映像や測量データに基づく設計をAIにより自動化することができれば、測量と設計・施工計画のプロセスは一体化することが可能になり、業務プロセスが効率化される。このように、AI・IoTを利用することにより、さまざまな業種における業務プロセスを効率化することが可能となる。

労働参加の促進の例(詳細は第4章第4節第5節参照)

ICTによる労働参加の促進の代表例としてはテレワークが挙げられる。AI・IoTやAR(拡張現実)、VR(仮想現実)、高精細映像伝送等を通じて、充実したテレワーク環境を実現し、既存従業員の労働参加を促進することが可能になる。また、訓練・トレーニング環境の充実による同様の効果も期待できる。例えば運輸業など、実際の乗り物を利用して訓練を行う時間を確保できない場合、AIとVRを組み合わせたインタラクティブな訓練システムを導入することによって、実際の環境と遜色ない状況で訓練を行えるようになる。

ウ 製品・サービスのコモディティ化

機能や品質面で大差のない製品・サービスが多く流通し、競合する商品同士の差別化特性(機能、品質、ブランド力など)が失われ、価格や買いやすさだけを理由に消費者による選択が行われる、いわゆる「コモディティ化」は、参入が比較的容易な小売・卸売業や、規制緩和等を背景にコスト・料金による競争が進展するエネルギー・インフラ業等の業種において経営課題となる。こうした課題に対するICTによる解決策の例としては、ICTを利活用して既存の製品・サービスの高付加価値化を図る、あるいは新規製品・サービスを開発するなどで新規事業収入を見込むことが考えられる。

既存製品・サービスの高付加価値化の例

保険業では、従来加入者ごとの保険内容の変更は難しかった。しかし、スマートフォンアプリやウェアラブル端末からバイタルデータを取得してユーザーの健康状態を把握したり、カーナビゲーションやドライブレコーダーから自動車の利用データをしたりすることにより、加入者ごとに保険料(割引率)を算出することが可能になる。その結果、顧客のニーズや実態に見合った保険メニューや保険料を提案することができるため、他の生命保険や自動車保険より付加価値の高いサービスを提供することができる。

新規製品・サービスの展開の例

観光業では、業務効率化のためにサービスロボットを受付やポーターとして利用する事例がみられる。一方、自社でサービスロボットを導入することによって観光業におけるロボット活用に関するデータやノウハウを蓄積することができれば、同業種の他企業、あるいは他業種の企業向けに、新規製品・サービスとして提供することも可能になるであろう。



3 http://www.jpma.or.jp/opir/sangyo/201412_1.pdfPDF

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