総務省トップ > 政策 > 白書 > 30年版 > 滴滴出行
第1部 特集 人口減少時代のICTによる持続的成長
補論 中国の事例

(4)滴滴出行

滴滴出行(ディーディーチューシン)は配車アプリ等を手掛けるベンチャー企業で、アプリケーションを通じて4億5000万人以上の利用者にサービスを提供している。1日当たりの乗車数は約2500万件に達し、2100万人を超えるドライバーと車両オーナーが滴滴出行のプラットフォーム上で収入を得ているという。

2012年に設立された滴滴出行は、利用可能地域を中国全土に拡大しており、現在、約400都市をカバーしている。主に、①順風車、②快車、③タクシー、④専用車、⑤代行―などといった配車サービスを提供している。

なお、ソフトバンクは2018年2月9日、滴滴出行と日本のタクシー事業者向けサービスにおけて協業することを発表した。この協業はタクシー事業者とドライバーの稼働率向上を目的としたもので、滴滴出行の持つAI(人工知能)技術を活用してタクシー配車プラットフォームの構築を目指すという。

コラムCOLUMN 3 ICT利活用による地方経済活性化事例

〔プラットフォームの例〕

1 衣服生産の需給マッチングの事例(熊本県 シタテル株式会社)

(1)背景

衣服に関するニーズは多様化するとともに、ファストファッションの台頭等、商品化のスピードも加速している。一方で、従来の大量生産の仕組の中では、小ロットの生産できめ細かくニーズに対応することは困難であった。また、国内で縫製工場を手掛ける企業は中小企業が多く、ユーザーのきめ細かいニーズをくみ上げ、新規に営業していくことが営業リソースの面から困難であった。実際に、全国の縫製工場の数は30年前と比較して3分の1ほどに縮小していた。

(2)プラットフォームの概要

衣服の生産を必要とする不特定多数の個人・アパレル事業者等(以降、クライアント)からの依頼と、熊本・九州を中心とした全国の縫製工場を結びつける衣服生産プラットフォームを展開した。このプラットフォームにより、工場の閑繁や生産対応可能なアイテムの種類、ロット数や納期など、工場の生産能力やリアルタイムの稼働状況を「見える化」すること可能になった。そのうえで、「見える化」の結果をもとに、クライアントが要求する品質・価格・納期等の条件を満たす最適な縫製工場に迅速にマッチングしている。

(3)プラットフォームを導入したことによる効果

プラットフォームを用いた需給のマッチングを推進することで、縫製工場の余剰リソースを活用と、服づくりに困っていた人のオーダーが「循環」し経済効果を生み出した。同社の創業・設立2014年3月から2017年12月までで、登録事業者数(需要側)は100社から5,400社に、連携工場(供給側)は5工場から300工場に拡大した。その結果、当該事業における市場流通総額は5,000万円から約30億円と大きく拡大した。また、登録事業者が増えることによりマッチングの効率・精度も向上し、平均量産生産リードタイムが約70日から46日へと短縮されている。

2 林業・建築業の6次産業化の例(岐阜県東白川村)

(1)背景

同村では農林業を村の基幹産業に位置づけている。林業においては、水源のかん養、災害防止、リフレッシュ空間等、森林の公益的機能が見直されつつある。一方で、森林を育て守ることは、ほとんどが林家6に委ねられており、林業従事者の減少や高齢化により、必要な施業が行きとどいておらず、生産性の面からも、公益的機能維持の面からも阻害要因となっている。また、外材、代替材の進出による国産材需要の減少という課題もあり、それに伴う林業の採算性の低下が農山村での林業離れを促進し、森林の機能が低下するという状況に陥っていた。

(2)プラットフォームの概要

林業における主要顧客である住宅建築者のニーズを把握することにより、住宅建築受注の課題を解決し、ICTを活用した国産材を利用した住宅建築の受注を拡大させるプラットフォームを整備した。具体的には、村内建築業の営業窓口を一本化し、間取り描画と概算建築費をリアルタイムに表示するプラットフォームを構築した。間取り描画システムでは、ユーザーが求める住宅を図化し、概算建築費算出システムでは、国産材を使った場合の建築費をリアルタイムで提示する。また、ユーザーのマイページでは、工務店や設計士に対して相談する等、双方向のコミュニケーションが可能である。

(3)プラットフォームを導入したことによる効果

周辺の既存顧客だけでなく東京都の顧客からも受注するなど、新規顧客の獲得に貢献した。結果、平成21年度〜27年度の実績で、国産材を利用した住宅建築の受注件数は153件に達し、売上高約40億円を達成した。また、最近3年間で、村の森林組合木材出荷量が約48%、建設業の売上が約70%、村民の一人あたり所得が約16%増加している。

3 ヘルスケア分野の情報プラットフォームの例(福岡県福岡市)

(1)背景

少子高齢化が進展する中、在宅を基本とした生活を継続するため、医療・看護・介護関係者の連携による切れ目のない在宅医療・介護サービスの拡充が求められている。そのためには、保険者である同市が地域の自主性や特性に応じて包括的なケアを行うことが望ましいが、実際は多様な主体が様々なサービスを断片的に提供している状況である。また、健康寿命の延伸に向け、疾病予防と健康増進、介護予防を中心とした取組みについても効果的に進めていく必要がある。

(2)プラットフォームの概要

自治体が保有する住まいや医療、介護、健康状況や生活支援に関する情報と、外部機関の持つ多様な情報を集約するプラットフォームを構築する。プラットフォーム上の分析用に最適化されたデータを基に、地域ニーズや課題の「見える化」行い、エビデンスに基づく施策の立案や、本人同意に基づく在宅ケアに係る専門職間の連携を支援する。加えて、地域で暮らしていく上で必要となる社会資源やサービスの情報を集約・収集し、幅広く提供するための仕組みも構築する。

(3)プラットフォームを導入したことによる効果

在宅ケアの充実による介護離職減少や健康寿命延伸により、2020年度には高齢者の就業率を1%増加させることを目指す。これに伴い、36億円/年の経済効果があると推計している。また、エビデンスに基づく医療・介護予防の推進により後期高齢者に係る医療費の増加を、2020年度には5%改善することを目指す。実現すれば、4億円/年の医療費負担軽減につながると見込まれる。

〔シェアリングサービスの例〕

1 雇用創出の事例(宮崎県日南市)

(1)背景

人口減少・少子高齢化が進展している中で、地域の限られたリソースをいかにして総合的に活用し、 若者世代に魅力あるまちづくりをしていくのかという課題を抱えていた。また、若者の働く場が少ないことや都市部との所得格差などの課題を抱えている。

(2)シェアリングサービスの概要

ア クラウドソーシング

クラウドソーシングを活用したワーカーの育成を図った。活用の際には広報誌や、新しい働き方に関する啓発セミナーの開催等により市民に情報発信をするとともに、対象者には市のコワーキングスペースを無料開放するなどの支援を実施した。

イ スペースシェア

市の空きスペースを活用し、 コワーキングスペースやインキュベーション施設に活用した。

(3)シェアリングサービスの効果

ア クラウドソーシング

全国からウェブサイトの記事作成・校正等の仕事を受注することにより、平均月収2〜3万円/人、最高月収15万円程度を確保することができている。平成30年3月現在でICT関連企業が12社進出しており、クラウドワーカーがICT関連企業に入社した例もある。

イ スペースシェア

コワーキングスペースは企業合宿やテレワーカー育成プロジェクトの活動拠点として利用されており、IT関連企業がサテライトオフィスをオープンするまでの仮事業所としても活用されている。また、インキュベーション施設は起業して間もない事業所のスタートアップ拠点として活用されている。

2 地域の交通の充実の事例(北海道天塩町)

(1)背景

総合病院など生活インフラが約70km離れた稚内市に所在しており、自動車で片道1時間かかる状況であった。公共交通機関を使って移動する場合は、バス、鉄道を乗り継ぎ3時間を要し、日帰り往復が不可能であり、運転できない交通弱者の交通手段確保が重要な課題であった。

(2)シェアリングサービスの概要

天塩町〜稚内市間を定常的に移動する自動車への相乗りを実現するため、同乗者が移動に要した費用(ガソリン代・高速道路代)を負担するシェアリングサービスを導入した。

〈相乗りを実現するシェアリングサービスのイメージ図〉
(出典)総務省「第1回 地方公共団体のシェアリングエコノミー活用に係るタスクフォース」資料3-2 天塩町説明資料

サービスには月に約30件の移動予定の登録があるため、ほぼ毎日、同乗可能な自動車が存在している。

(3)シェアリングサービスの効果

町内高齢者の約 12%が利用し、12ヵ月間で延べ153人が利用した。公共交通機関では稚内市へ行くためには1,800〜2,930円+宿泊代と片道3時間の移動時間が必要であったが、シェアリングサービスを利用することによって600〜800円と片道1時間の移動時間で済むようになった。公共交通機関にて追加輸送した場合は約2,626万円/年の費用が必要だが、相乗り利用の費用の場合は約120万円/年で済むと試算している。

3 男女共同参画社会実現の事例(長野県川上村)

(1)背景

子育て世代女性の7割が村外出身であり、高い自己実現意欲を有しているものの、家事や育児などに時間がかかるという課題があった。

(2)シェアリングサービスの概要

子育て世代女性の自己実現を図る時間創出を支援するため、子育て中の女性の家事・育児の一部を子育て期間を終えた地域住民等が分担する地域内相互扶助シェアリングサービスの実証実験を実施した。シェアリングサービスの広報や女性向け創業支援のアイデアコンテストには、クラウドソーシングを活用した。

(3)シェアリングサービスの効果

2カ月の実証実験中に村全体の子育て世代女性の約10%にあたる29名が依頼主(サービス利用者)として参加した。家事や育児を代行してもらうことで空いた時間を活用し、 村内イベントのチラシ・ポスターデザイン、個人販売用商品のパッケージ作業など、得意なスキルを活かした活動ができた。実証実験のアンケートによると、回答者全員が「引き続き利用したい」と回答しており、約7割が「家事・育児に追われているママの時間を作るというコンセプトが良かった」とも回答している。

4 観光振興の事例(長崎県島原市)

(1)背景

同市は豊富な観光資源がある一方、平成3年(1991年)雲仙岳噴火以前と比べると、観光入込客数は7割程度に低下していた。そこで、観光PR、観光施設管理、物販を一元的に行うため、市内観光組織を統合・移行しDMO7を設立し、運営する観光施設の魅力向上、収益力強化、対外的なPR力の強化、行政頼みの観光振興からの脱却を試みた。

(2)シェアリングサービスの概要

観光施設をシェアリングサービスのウェブサイト上に掲載し、 施設の一部分の貸し出し等ユーザー目線による新たな価値の発見と多面利用を促進した。加えて、住民の主体的な参加により、多様で地域性豊かな観光コンテンツを考案し、体験型観光のシェアリングサービスのウェブサイト8に掲載した。それらのコンテンツ面の強化に加えて、地域最大のイベントである花火大会における来場者の利便性向上のため、駐車場をシェアリングサービスで確保した。

(3)シェアリングサービスの効果

観光コンテンツ面では、観光施設をコスプレイベントやグランピングで利用するなどの新たな活用方法を見出すことができた。また、観光関係団体や市民が主体となることで、地元ならではの魅力ある体験型コンテンツの新たな開発と情報発信につながっている。駐車場のシェアリングについては、花火大会の会場周辺から計7か所36台分の駐車場ホストの申込みがあり、20台が利用した。月極駐車場が月額3,000円の地域において、イベント時には1日3,000円でも利用されており、未利用スペースの価値化と来場者の利便性向上に貢献した。



6 森林所有者のこと。

7 Destination Management Organizationの略。様々な地域資源を組み合わせた観光地の一体的なブランディング、ウェブ・SNS等を活用した情報発信・プロモーション、効果的なマーケティング、戦略策定等について、地域が主体となって行う観光地域づくりの推進主体。

8 観光客と、体験型観光を提供する事業者をマッチングするシェアリングサービスのこと。

テキスト形式のファイルはこちら

ページトップへ戻る