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第2部 基本データと政策動向
第4節 放送政策の展開

5 放送政策に関する諸課題

近年、情報通信技術の進展により、新しい放送サービス・機器の登場及び魅力ある地域情報の発信は、日本の経済成長の牽引及び地方創生の実現に貢献するものとして期待されている。また、国内はもとより諸外国においても、ブロードバンドの普及はインターネットでの放送番組の動画配信など放送コンテンツの視聴環境に変化を生じさせ、視聴者の様々なデバイス(機器)によるコンテンツの視聴ニーズも大きくなっている。

このような環境変化等を背景として、放送に関する諸課題として、①今後の放送の市場及びサービスの可能性、②視聴者利益の確保・拡大に向けた取組、③放送における地域メディア及び地域情報確保の在り方、④公共放送を取り巻く課題への対応、等について検討することを目的に、総務省は平成27年11月から「放送を巡る諸課題に関する検討会」5を開催し、平成28年9月に「第一次取りまとめ」を取りまとめた(図表6-4-5-1)。

図表6-4-5-1 第一次取りまとめの全体イメージ

この取りまとめを受け、平成28年10月、総務省は、情報通信審議会に①ブロードバンドを活用した放送サービスの高度化の方向性、②放送サービスの高度化を支える放送・通信インフラの在り方、③放送コンテンツの適正かつ円滑な製作・流通の確保方策等について、総合的な検討を行うため「視聴環境の変化に対応した放送コンテンツの製作・流通の促進方策の在り方」について諮問した。平成29年7月20日には、地方の放送事業者を含めた多くの放送事業者が同時配信を実施しやすくする環境整備を図るため、複数の放送事業者が連携した実証事業を通じて、災害情報などを提供するための配信システムの検討や、通信需要の推計を行うこと、また、放送コンテンツの適正取引の推進にあたっては、取引実態を反映して、地上テレビジョン放送事業者に加え、衛星放送事業者、ケーブルテレビ事業者等を「放送コンテンツ製作取引適正化に関するガイドライン」の対象範囲とするといった中間答申が示された。総務省においては中間答申等を踏まえ、平成29年度にテレビ向け4K同時配信や視聴データの利活用といったブロードバンドの活用による放送サービスの高度化に向けた実証事業や、「放送コンテンツ製作取引適正化に関するガイドライン」について、その適用対象範囲を拡大する改訂を行った。

また、新たな時代の公共放送(NHKの業務・受信料・経営の在り方)については、引き続き、「放送を巡る諸課題に関する検討会」において、公共放送としてのあるべき姿について検討が進められている。

また、規制改革推進に関する第2次答申(平成29年11月29日規制改革推進会議)や「新しい経済政策パッケージ」(平成29年12月8日閣議決定)において、放送事業の未来像を見据えて、放送用に割り当てられている周波数の有効活用等について、検討を行うこととされた。これを受け、平成30年1月30日に、「放送を巡る諸課題に関する検討会」の下に「放送サービスの未来像を見据えた周波数有効活用に関する検討分科会」が開催され、放送用周波数の有効活用等について、平成30年夏の取りまとめに向け、検討が進められている。

さらに、衛星放送について、新たな4K8K実用放送の開始やインターネットによる動画配信サービスの拡大等、衛星放送を取り巻く環境は大きく変化しつつあることを踏まえ、我が国の衛星放送を取り巻く現状と課題を整理するとともに、放送の高度化に伴う衛星放送の将来的な在り方等について検討することを目的に、平成30年2月8日に、「放送を巡る諸課題に関する検討会 放送サービスの未来像を見据えた周波数有効活用に関する検討分科会」の下に「衛星放送の未来像に関するワーキンググループ」が開催され、平成30年夏までに一定の方向性を得るよう検討が進められている。

政策フォーカス 4K・8Kの推進について

1.4K・8Kとは

現在、放送サービスの高度化の一環として、4K・8K放送を推進している。4Kは現行のハイビジョンに比べて4倍の画素数、8Kは16倍の画素数を有しており、4K・8K放送により、視聴者の方に超高精細で立体感と臨場感ある映像をお楽しみいただくことが可能となる。さらに、輝度の表現を拡大するHDR(High Dynamic Range imaging)という技術を取り入れることにより、いわゆる白飛びや黒つぶれしていた輝度差の激しいシーンでも大幅に自然な表現が可能となる。欧米、アジア等の諸外国においてもDIRECTV(米)やSky UK(英)といった衛星放送事業者やNetflix(米)などネット配信サービス事業者が4Kサービスへの取組を進めており、コンテンツの高精細化が世界の潮流となっている。

また、4K・8Kは、放送分野のみならず、医療、防犯、美術などの分野においても課題解決の手段として活用されている他、映像関連市場の活性化、ひいては関連産業分野の国際競争力の向上につながり、2020年までの経済効果は36兆円になるとの試算がある等、我が国の経済成長に寄与するものと期待されている(図表1)。このように大きなポテンシャルを秘めている4K・8Kについては、政府戦略の一つとして2020年に全国の世帯の約50%で視聴されることを目指す(「日本再興戦略」改訂2016(2016年6月閣議決定))とされ、また、スポーツを核とした地域活性化の起爆剤として、4K・8K等の高度な映像・配信技術等の活用(未来投資戦略2017(2017年6月閣議決定))が掲げられている。政府のみならず、放送事業者、受信機メーカー販売店及びその他関係組織・団体がそれぞれの強みを活かし連携しながら4K・8Kの推進に取り組むことが期待される。

図表1 4K・8K技術の市場規模

2.4K・8K放送に関する取り組み

(1)総務省による取り組み

総務省においては、2014年2月から「4K・8Kロードマップに関するフォローアップ会合」を開催し、同年9月には中間報告を公表した。その後、4Kについては、実用放送等の開始やコンテンツ制作の進展など同報告に沿った取組を着実に推進してきた。さらに、2015年7月に取りまとめられた第二次中間報告においては、4K・8Kの将来を展望し、その対象期間を2025年頃まで延長すること等を内容とする「4K・8K推進のためのロードマップ」の改定を行った(図表2)。

図表2 4K・8K推進のためのロードマップ

総務省では、ロードマップに沿って、BS・東経110度CS6による4K・8K実用放送(新4K8K衛星放送)の開始に向け、2016年度に放送事業者認定等のための制度整備を実施し、2017年1月、BS・東経110度CSにおいて、2018年12月1日以降に実用放送を開始する予定のNHK、民放キー局系5社を含む11社19番組の認定を行った(図表3)。また、衛星放送用受信設備や4K・8K放送の番組中継装置にかかる技術的条件の検討や伝送路の光化の支援のための補助制度を創設した。

図表3 BS・東経110度CSにおける4K・8Kに関する認定

(2)事業者による取り組み

これまでに、ロードマップに沿って、2015年からCS(通信衛星を利用した一部のCS放送)やケーブルテレビ等において4K実用放送が開始された。特に、ケーブルテレビにおいては、同年5月に、4K-VOD(Video On Demand)の実用サービスが、同年12月に4K実用放送である「ケーブル4K」が開始されている。この「ケーブル4K」は、ケーブルテレビ業界初の「全国統一編成による4K放送」のコミュニティチャンネルであり、当初39社のサービス提供から始まり、2018年4月1日時点では82社が提供中であり、将来的には計140社以上のケーブルテレビ局がサービスを開始する予定である。

またBSにおいては、2016年から4K・8K試験放送が開始され、特に8K試験放送は世界初の試みとして実施された。2017年4月には、我が国初の東経110度CS左旋波7による4K試験放送が開始された。さらに、2018年の新4K8K衛星放送開始に向け、放送事業者や受信機メーカーの間では受信環境整備が着実に進められている。

3.4K・8K放送の普及に向けて

BS・東経110度CSによる4K・8K実用放送の開始に向け、4K受信機は徐々に広がりを見せている。4K受信機については、2018年2月期の発売台数は14.2万台、2月期のテレビ出荷台数に占める割合は38.8%となり、9ヶ月連続で3割を超えた。また、同期の4K受信機の出荷金額は241億円で、テレビ全体の出荷金額349億円に占める割合が69.1%となり、2ヶ月ぶりに7割を下回った8

なお、BS・東経110度CSによる新4K8K衛星放送では、現行の方式とは異なる新しい伝送方式が採用されることから、視聴するためには当該方式の受信が可能な対応受信機(チューナー)等が必要である。しかし、2018年4月現在、この対応チューナーは販売されておらず、今後、実用放送開始にあわせて発売することが想定されている。また、従来の右旋円偏波9の電波に加え、左旋円偏波の電波が用いられることから、受信アンテナの交換が必要になる場合もある。よって、新しいサービスであるBS・東経110度CSによる4K・8K放送に関する情報や、視聴するために必要な対応等について消費者をはじめ多くの方々にわかり易く丁寧に伝えることが重要となることから、総務省や関係団体・事業者が連携して4K・8K放送に関する周知リーフレットや動画等を制作し、家電販売業界等へ提供するとともに、2017年4月には、放送業界、機器製造業界及び家電販売業界等の関係団体・事業者が連携し周知・広報等を推進する「4K・8K放送推進連絡協議会」を立ち上げ、同年11月の第3回連絡協議会において「4K・8K放送に関する周知・広報計画(アクションプラン)」を取りまとめ公表した。その具体的な取組の一環として、同年12月1日には、「新4K8K衛星放送開始1年前セレモニー」が開催され、サービス名称やロゴの発表のほか4K8K推進キャラクターとして深田恭子さんを任命するなど、メディアを通じた周知・広報活動を行った。

東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開催される2020年には、全国の多くの方々に4K・8Kの躍動感と迫力のある映像で楽しんでいただけるよう、今後も、関係団体・事業者と連携し、周知・広報等に積極的に4K・8Kを推進していく。



5 放送を巡る諸課題に関する検討会:http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/housou_kadai/index.html別ウィンドウで開きます

6 東経110度CS:BSと同一の東経110度の静止軌道上において、衛星基幹放送に使用されている通信衛星

7 東経110度CS左旋波:東経110度CSの左旋円偏波のトランスポンダ(送信機)より発射される電波(周波数)

8 出典:(一社)電子情報技術産業協会 統計

9 右旋円偏波・左旋円偏波:電波の進行方向に対して右回りに回転している電波を右旋円偏波、左回りに回転している電波を左旋円偏波という。

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