総務省トップ > 政策 > 白書 > 30年版 > 地域の人々をつなぐICT利用事例
第1部 特集 人口減少時代のICTによる持続的成長
第3節 多様な人々の社会参加を促すICTによるコミュニケーション

(3)地域の人々をつなぐICT利用事例

ソーシャルメディアを活用して困りごとと支援意向を結びつける仕組みが増えてきている。O2O(オンラインtoオフライン)型の地域SNSや、日常の家事などの困りごとを抱えている人とサービスを提供したいとをつなぐシェアリングサービスなどである。これまで、地域における共助は自治会などのコミュニティや地方自治体が中心となり進めてきたが、現実社会のコミュニティへの参加率が下がる中で、それを補完するものとしてオンラインでの共助の仕組みは極めて重要になろう。このような仕組みは、運営主体が地方自治体と連携している例が多く、地域の人々をオンラインでつないでいる。

次に、地域内の共助のためにICTを利用している事例を紹介する。これらは、地域情報の共有だけにとどまらず、現実社会のつながりを補完し、参加者の助け合いを促すようなプラットフォームとして機能して、オンラインで生まれたつながりを現実社会での交流や共助につなげる取組である。

図表4-3-4-4 地域の人々をつなぐICTの活用事例
ア 地域づくり研究所を中心とした住民のニーズ発見(熊本県山江村)

山江村では以前から、東京大学大学院情報学環須藤研究室との共同研究を通じて外部からの意見などを取り入れた村づくりの取組を推進してきた。その中で、地域の行政と村民をつなぐ部局の必要性が認識されるようになり、2016年に山江村地域づくり研究所を設置した。

図表4-3-4-5 村民による地域づくり研究所でのミーティング
(出典)山江村地域づくり研究所提供

地域づくり研究所を設置したことにより、住民からの声を聞く窓口が一本化された。地域の情報化に関する様々なことを聞いて、担当する課に回す。役場ではどうしても縦割りの組織で壁があったが、それを取り払うような役割を果たしている。また、各区に整備したタブレット端末を貸与し活動する情報化推進員には、地区の情報について何でも良いから投稿してもらっている。情報化推進員から上がってきた情報は役場の企画調整課長に見てもらい、担当課に振り分けている。このように地区の村民のニーズを具体的に吸い上げるためにもICTの活用が重要だと考えている。

ICTの活用は、鳥獣被害のような地域の課題にも役立てることができる。住民から電話で鳥獣被害の連絡があっても、電話では状況を上手く説明できず、コミュニケーションに時間がかかっていた。タブレット端末を利用すれば写真や位置情報を同時に取得して共有できるので、状況の把握がしやすいというメリットがある。

さらに、地域づくり研究所は村民の集まる場所としても機能している。「100人委員会」という村民主体の部会では、村の今後をどうしていきたいか村民同士が議論を重ねている。村民の間に、「できることは自分たちの手でやろう」という気運が高まっている。地域づくり研究所では電子黒板やタブレット端末などのツールをいつでも無料で使えるようにしており、村民の議論の場としても利活用されている。

イ 地域SNSによる都市コミュニティでの情報共有(東京都江東区、ピアッツァ株式会社)

江東区では、従来から住民のニーズが高かった「必要な時に必要な情報が欲しい」への対応や、孤立しがちな子育てへの不安を払拭するための情報提供を検討していた。検討の結果、2017年11月に、SNSを軸としたコミュニティづくりで実績のあるピアッツァ株式会社3と包括的な連携協定を締結し、取り組むことになった。江東区が発信する情報を「PIAZZA」内に配信することで、行政情報を住民に直接配信できるようになった。また、江東区子育て情報ポータルサイトと「PIAZZA」を相互に連携し、子育て関連情報をリアルタイムで住民が知ることが可能になった。区からの情報に加え、「近所の遊び場」「地域のイベント」「子供用品のおさがり」など住民同士が有益な情報を交換することで、近所のつながりを作ることが可能になる。

図表4-3-4-6 PIAZZA
(出典)PIAZZA株式会社

さらに、PIAZZAは2018年3月に「PIAZZA」ユーザーグラフデータを用いて、街のコミュニティを数値化した「Community Value」という定量指標を開発した。Community Valueは、ユーザー間のユニークなつながりの数、当月のユーザー活動(投稿、コメント、いいねなど)、アクティブユーザー数といった、PIAZZAアプリのユーザー間のデータに基づき、その時点での街のコミュニティを数値化したものであり、個人のソーシャルキャピタルを表現した値とも言える。今まで曖昧だったコミュニティが数値化されることでKPIとして管理でき、施策ごとにPDCAが回せることで、街でのコミュニティがより拡大・継続しやすくなった。江東区は、Community Valueを本取組における事業のKPIとして活用している。

図表4-3-4-7 Community Value
(出典)PIAZZA株式会社
ウ シェアリングエコノミーによる地域内の共助環境作り(奈良県生駒市、株式会社AsMama)

奈良県生駒市と、株式会社AsMama(アズママ)は「子育て支援の連携協力に関する協定」を締結し、生駒市における市民の交流の場づくりと、子どもの送迎・託児の共助環境作りを行っている。

AsMamaは、「子育てシェア」というSNSサービスを提供しており、基本的には顔見知りの知り合いに子どもを預け、そのお礼を支払うしくみとなっている(気兼ねしないよう1時間500円〜700円というルールを設けているが、依頼する側と受ける側が合意した金額に変えることも可能である)。人とのつながりを作ったり、子どもを預ける場合の依頼、対価の合意、支払までも手渡しだけではなく、カード決済などはSNS上で行うことが可能である。登録料、手数料は無料となっており、万一のときのために支援者には保険が適用される。様々な福利厚生サービス提供会社とも連携しており、料金助成やクーポンを利用することが可能である。AsMamaのめざす社会をともに創りたいと思う個人や団体に、無料で研修機会を用意し共助サポーター「ママサポ」として認定している(全国で680名を認定/2018年3月末時点)。また、ワークショップや交流会を開催するためのノウハウをAsMamaがママサポに提供して、地域のお世話役として活動するママサポと地域の親子とが友だちになれる場を提供している。

子育て・教育分野を中心に全国でも先進的な取組を進める生駒市では、子育て世代への支援や子育てを切り口にしたまちづくり等の分野でAsMamaと相互に協力することにより、地域で子育てを支え合える環境づくりが一層進むと考えている。具体的には、生駒市は、AsMamaとの連携により、一歩先行く子育て施策とそのPRによって、大阪の子育て世代の移住が進むこと、高齢者がAsMamaのサポーターになることで、高齢者のまちづくりへの参画が進むこと、高齢者の多い地域への子育て世帯の移住促進により地域コミュニティを深めてニュータウンの再生・空き家の解消を進めること、子育て世代の孤立の緩和、働きたい女性の選択肢の増加などを進めたいと考えている。

なお、総務省では、毎年、ICT で地域活性化を実現した先進事例を「ICT 地域活性化大賞」として表彰しているが、AsMama と自治体との協力の取り組みは、2017年度の総務大臣賞に選ばれている。

図表4-3-4-8 生駒市とAsMamaの協定締結
(出典)生駒市ウェブサイト
図表4-3-4-9 AsMamaと自治体との連携
(出典)AsMamaウェブサイト


3 ピアッツァは、地域SNSアプリ「PIAZZA」を開発運営。これまで勝どき・豊洲・武蔵小杉・流山・八千代の5エリアにおいて展開してきた。地域密着型のコミュニティ運営によって、特に子育て世帯を中心としたコミュニティの活性化を実現している。

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