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第2部 基本データと政策動向
第7節 ICT研究開発の推進

(3)電磁波センシング基盤技術

NICTでは、ゲリラ豪雨・竜巻に代表される突発的大気現象の早期捕捉・発達メカニズムの解明に貢献することを目的として、風、水蒸気、降水等を高時間空間分解能で観測する技術の研究開発を実施している。平成29年度は、フェーズドアレイ気象レーダーを活用したゲリラ豪雨等の早期捕捉や予測精度向上に関する研究開発及びフェーズドアレイ気象レーダーの二重偏波化に関する研究開発を他機関との連携により実施した。また、地デジ放送波の高精度受信から豪雨の早期検出等に有用な水蒸気量を観測する技術(図表6-7-6-2)に関しては、システムのパッケージ化、面的な水蒸気観測を目指した観測網の整備を開始した。

図表6-7-6-2 地デジ放送波を用いた水蒸気量観測の原理

さらにNICTでは、天候や昼夜によらず地表面を詳細に撮像できる航空機搭載合成開口レーダー(SAR)の研究開発を進めており、平成29年度は、画質(空間分解能等)を高めた次世代航空機搭載合成開レーダー(Pi-SAR3)の製作に取り組み、海上の移動体検出・波浪計測、地表面の微小変化抽出、送電インフラの状況把握技術等の実証のためのフライト実験を実施し、情報抽出技術の更なる高度化を実施した。また、災害対応機関へのデータ提供を目的として新燃岳の噴火に伴う緊急観測を平成29年11月16日に実施した。

この他、NICTでは、気候変動予測精度向上や大気環境診断のための衛星センサの研究開発を実施している。平成29年度は、風観測を可能にする衛星搭載ドップラー風ライダーのための単一波長高出力パルスレーザ、サブミリ波サウンダーのための2THz帯受信機の開発等を実施した。また、通信/放送/測位/衛星利用などに影響をおよぼす太陽活動や地球近傍の電磁波環境などの監視を行い「宇宙天気予報」を配信している。平成29年度には、9月6日に11年ぶりに発生した大規模太陽フレアについて、いち早く警報を発信し衛星運用者・航空運用者等に対処を促すなどの活動を行った。また、これまで長年にわたる宇宙天気予報の発信とその精度向上に対する研究開発活動に対し、第3回宇宙開発利用大賞総務大臣賞を受賞した。

政策フォーカス 次世代の人工知能技術の研究開発

総務省では、所管の国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)を通じて、長年にわたり自然言語処理技術や脳情報通信技術といったAI中核技術の研究開発に取り組んできた。具体的には、NICTユニバーサルコミュニケーション研究所において主にビッグデータ解析技術や多言語音声翻訳技術等の研究開発(図表1)を、NICT脳情報通信融合研究センター(CiNet)では脳の仕組みを解明し、その仕組みを活用したネットワーク制御技術、脳機能計測技術等の研究開発(図表2)を行っている。

図表1 NICTユニバーサルコミュニケーション研究所の研究概要
図表2 NICT脳情報通信融合研究センターの研究概要

近年、科学技術は大きな進展を遂げており、特に、情報通信技術(ICT)の急激な進化により、情報、人、モノ、など、あらゆる「もの」が瞬時に結び付き、相互に影響を及ぼし合う新たな社会経済が生まれている。このようなオープンイノベーションによって、既存の産業構造や技術分野の枠にとらわれることのない革新的な価値創造が可能となり、その結果として新しいビジネスが生まれ、人々のライフスタイルにも変化が起こり始めている。とりわけ、人工知能(AI)に関する技術革新はグローバルかつダイナミックであり、Internet of Things(IoT)、ビッグデータ(BD)、ロボティクス等の最新技術と相まって、知識や価値の創造プロセスを大きく変貌させつつある。

一方、我が国は、少子化や高齢社会への対応、持続的な経済成長の実現、災害発生時における安心・安全の確保等の様々な課題を抱えている。これらの社会課題に対して、AI技術は多様な分野で新たな価値を創出し、持続的な経済成長、より豊かな国民生活の実現を支える基盤技術であり、我が国の国際競争力を強化する上で極めて重要な技術であり、人類が築いてきた膨大な知識体系や人間活動における言葉・会話をコンピュータに処理させることにより解決に導くことが期待されている。

このような状況を踏まえ、安倍総理大臣の指示を受け、平成28年4月に政府におけるAIの司令塔として「人工知能技術戦略会議」(議長 安西祐一郎 日本学術振興会理事長)が設置された。そして、同会議が司令塔となって検討を進め、平成29年3月31日には、同会議において「人工知能技術戦略」と「人工知能の研究開発目標と産業化のロードマップ」が取りまとめられ、関係府省が連携しつつ、いわゆる「AI3センター(情報通信研究機構、理化学研究所、産業技術総合研究所)」の緊密な連携の下、AI中核技術の研究開発と社会実装に取り組むこととされた。

情報通信審議会 情報通信技術分科会 技術戦略委員会では、この動きに合わせ、我が国が強みをもち、国民生活や社会経済活動における実用化と産業創出が喫緊の課題となっている自然言語処理技術及び脳情報通信技術の社会実装推進と、その駆動力となるユーザ企業等の多様な現場データ、言語、脳情報、宇宙等の重要分野の良質なデータを戦略的に確保するとともに、異分野データを連携させて、安全で利便性高く人工知能で利活用し、価値創出を図るための環境整備(「ICTデータビリティ」)の推進について検討を行うため、平成28年12月に「新たな情報通信技術戦略の在り方」(平成26年諮問第22号)の検討を再開した。自然言語処理技術及び脳情報通信技術の社会実装推進については、「次世代人工知能社会実装WG」を設置して、次世代人工知能の社会実装戦略を重点的に検討することとした。同委員会における検討を踏まえ、平成29年7月20日に、「新たな情報通信技術戦略の在り方」第3次中間答申として、『次世代AI×ICTデータビリティ戦略』と『次世代人工知能社会実装戦略』(図表3)が一体的に取りまとめられている。

図表3 「次世代AI×ICTデータビリティ戦略」と「次世代人工知能社会実装戦略」

『次世代AI×ICTデータビリティ戦略』では、AIを利活用するサービスにおいて我が国の企業が競争力を確保するため、情報通信研究機構(NICT)の研究成果を活用して日本語の自然言語処理技術によるプラットフォームの構築を進める「IoT/BD/AI情報通信プラットフォーム」社会実装推進事業を通じ、様々な分野でデータ収集を促進するとともに、プラットフォームの高度化を図っていくことが適当と提言されている。

総務省では、平成29年度から「IoT/BD/AI情報通信プラットフォーム」社会実装推進事業を開始しており、①災害医療分野、②保健・衛生分野、③社会インフラ・防災分野、④警備セキュリティ分野において膨大な量の情報の整理や要約等を行うとともに、分野間での情報連携を実現する高度自然言語処理プラットフォーム(図表4)の構築を目指している。併せて、利用者ニーズを踏まえた利活用モデル(各分野におけるユースケースや標準作業手順等)を作成し、自治体等が参加する実証実験を通じて、利活用モデルの有効性を検証することとしている。

図表4 高度自然言語処理プラットフォーム

このほか、高度自然言語処理プラットフォームの利活用に関するアイディアソン等を通じて利用者からのニーズを把握し、高度自然言語処理プラットフォームの機能向上を進めるとともに、高度自然言語処理プラットフォームの機能やサービスを利用可能とするAPI(Application Programming Interface)を一般に広く公開して、国内外の様々な利用者による高度自然言語処理プラットフォームの試用を促すことにより、高度自然言語処理プラットフォームの社会実装とその利活用(図表5)を推進していくこととしている。

図表5 高度自然言語処理プラットフォームの利用イメージ

また、『次世代人工知能社会実装戦略』においては、2020年代までに通信量が1,000倍以上に増加する中で、サービスごとに伝送速度、伝送遅延、同時接続数等、多種多様な要件が求められ、それら多様なサービスのきめ細やかな要件理解とネットワーク状況に応じたダイナミックなリソース(帯域や処理能力等)割当ての自動化技術の開発による革新的なネットワーク統合基盤を構築することが必要とされている。また、自然言語処理技術及び脳情報通信技術の社会実装を促進するために、学習データの収集による「データビリティの向上」、個々の企業の技術を結びつけるための「プラットフォーム技術の標準化・共有化」、研究と市場を双方向に繋ぐ「推進体制の整備」の重要性が挙げられている。

総務省では、同戦略を踏まえて、平成30年度より、Society5.0時代における通信量の爆発的増加や多種多様なサービス要件に対応するため、AIによる要件理解等を行い、ネットワークリソースの自動最適制御を実現可能とする「革新的AIネットワーク統合基盤技術の研究開発」に取り組むとともに、世界的に認められた「おもてなし」に代表される日本の対人関係観を反映した「よりそい」型対話を実現可能とする「高度対話エージェント技術の研究開発・実証」に取り組むこととしている。

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