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第1部 特集 人口減少時代のICTによる持続的成長
第2節 新たなエコノミーの形成

第2節 新たなエコノミーの形成

1 ビジネスエコシステムの変化

前節で述べたGPTとしてICTが社会・経済において変革をもたらす過程について、ビジネスエコシステムの変化として俯瞰してみる。ビジネスエコシステムとは、まさにビジネスの「生態系」であり、企業や顧客をはじめとする多数の要素が集結し、分業と協業による共存共栄の関係を指す。そして、ある要素が直接他の要素の影響を受けるだけではなく、他の要素の間の相互作用からも影響を受ける1

企業や組織は、何らかのあるいは複数のビジネスエコシステムにおいて存在している。そのため、あらゆる業種や複雑な関係性を網羅的に表すことは困難であることから、近年の市場トレンドを踏まえ、新たなICTの発展がもたらす、ビジネスエコシステムの変化の起点や現象の関係性について整理した(図表2-2-1-1)。

図表2-2-1-1 新たなICTの進展によるビジネスエコシステムの変化の視点
(出典)総務省「ICTによるイノベーションと新たなエコノミー形成に関する調査研究」(平成30年)

まず、ビジネスエコシステムの変化の起点となる要素として3つ挙げられる。

1つ目が「オープン化の進展」である。オープン化とは、従来情報システムやソフトウェアの分野で用いられてきた概念であり、自社や特定のベンダー等の独自仕様で構成されたシステムを標準規格などで置き換えたり、仕様や接続方法を外部に公開したりすることを意味する。近年は、新たなICTの発展により、様々なオープン化の形態が進展しており、その典型例として第3章3節で紹介するAPI(アプリケーションプログラミングインターフェイス)が挙げられる。

2つ目が「多様なプレーヤーの参加」である。市場の成熟化等を背景に、多様な要素を組み合わせた新たな付加価値を提供する上で、一企業で完結させることがより難しくなっていることから、既存の業種や業界を超えた連携が不可欠になり、多様なプレーヤー(ステークホルダー)が事業等に参加することが当たり前になりつつある。ICTは、これらの多様なプレーヤーの参加や連携を促進する(つなぐ)機能を担っている。

3つ目が「交換する価値形態の多様化」である。AI・IoT時代では、「データ」や「モノ」、「処理」など従来の貨幣価値とは異なる価値形態の交換が行われつつある。新たなICTの進展を背景に、新たな価値形態の交換、すなわち経済における新たな「血液」により、新たな財・サービスを生み出される。

上記の要素が相俟って、多様なステークホルダーがそれぞれの目標や目的を実現する中で、様々な機能やアプリケーションや統合化を提供するデジタルプラットフォームを通じて、多様な取引関係が生まれつつある。この変化を、ビジネスの基本的な構成要素である企業(Business)と消費者(Consumer)の関係性で表すと図表2-2-1-2のとおりとなる。

図表2-2-1-2 新たなICTの進展によるビジネスエコシステムの変化
(出典)総務省「ICTによるイノベーションと新たなエコノミー形成に関する調査研究」(平成30年)

ICTを「ビジネスエコシステムにおける多様な取引を支える広義のプラットフォーム」として捉えると、従来ICTは広告やEコマース(決済)など主としてお金の流通やそれを補完する情報の流通に係る機能を提供し、その上で企業や産業間の取引(BtoB:Business to Business)や企業と消費者間の取引(BtoC:Business to Consumer)が発展してきた。

現在、そして今後は、新たなICTがモノや情報(データ)など新たな価値形態の取引を支えることで、多様な企業や業種間におけるBtoBの取引が進展し、業種を超えたサービス展開やバリューチェーンの構造に変化が生じると予想される。さらに、消費者視点の重要性が増すとともに、消費者自身が生産者となり経済活動の一旦を担うようになり、企業と消費者間の取引においては、企業から消費者へに加えて、消費者から企業へ(CtoB:Consumer to Business)の方向もユーザー情報を中心に進展するなどしている。さらに、消費者間の取引(CtoC:Consumer to Consumer)が新たに加わる。このように、BtoB、BtoC、CtoCなど各形態で、相互につながり合うことで多様な取引関係が構築される。これらについては第3節から第5節でそれぞれ述べる。

こうした関係構築は、業種や産業レベルでみると、同一産業内に留まらず、業種の垣根を越えて進展しつつある。すなわち、新たなICTやデジタル化の進展が起爆剤となって、産業の多様性の拡大につながっている。この現象について、次頁で俯瞰する。



1 一般に「外部ネットワーク効果」あるいは「間接的ネットワーク効果」と呼ばれる。

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