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第1部 特集 人口減少時代のICTによる持続的成長
第2節 ICTによる生産性向上方策と効果

(1)生産性向上の考え方

前節で述べたとおり、生産性を定量的に表す指標の一つとして「労働生産性」が挙げられる。労働生産性は、一定の労働投入量(労働人員数・労働時間数で表される総量)が生み出した経済的な成果(付加価値額)であることから、生産性向上に向けた基本的な考え方として、①労働投入量の効率化を図る、②付加価値額を増やす、に大きく分けることができる(図表3-2-3-1)。

図表3-2-3-1 生産性向上の基本的な考え方
(出典)総務省「ICTによるイノベーションと新たなエコノミー形成に関する調査研究」(平成30年)

これらの考え方について、企業の具体的な取組からみる。例えば、①は業務の省力化や業務プロセスの効率化を通じて、労働力を効率的に活用するための方策が挙げられる。省力化や効率化の余地が大きければ、その成果は比較的短期にかつ導き出しやすくなる。他方、②は既存製品・サービスの高付加価値化や新規製品・サービスの展開等を通じて、企業収益を増やすための方策が挙げられる。その成果は事業環境等によっては比較的長期かつ不確実性が増すと考えられる。

このように、生産性向上に向けた取り組みは、その性質や効果等の観点から、企業の考え方や志向が分かれるところであり、国によっても異なる。第1章第4節で述べたとおり、我が国企業は、主として業務効率化及びコスト削減を目的としたプロセス・イノベーションを強く意識しており、他方ビジネスモデル変革などのプロダクト・イノベーションについては米国企業と比べると意識が低い。すなわち、我が国企業は、前述の①の考え方を重視し、②の考え方は必ずしも根付いていない。

そのため、経営課題の解決の観点から、ICTの導入や利活用による生産性向上を図る上でも、我が国企業は主としてICTを業務効率化やコスト削減の実現手段(いわゆる「守りの」ICT)と位置づける傾向があり、ビジネスモデル改革等に基づく付加価値向上の実現手段(いわゆる「攻めの」ICT)の意識は、米国等他国企業と比較して低い。

図表3-2-3-2 日米企業のイノベーションの実現度(再掲)
(出典)総務省「ICTの現状に関する調査研究」(平成30年)

実際に、我が国企業がICT導入・利活用を通じて解決した経営課題についてみると、アンケート調査結果によれば、「業務プロセスの効率化」(48.3%)をはじめとするプロセス・イノベーションが、「ビジネスモデルの改革」などのプロダクト・イノベーションよりも上位に位置している(図表3-2-3-3)。このことからも、我が国企業は、ICTをプロセス・イノベーションの手段として位置づけている傾向が高いといえる。

図表3-2-3-3 国内企業がICTにより解決した経営課題の領域
(出典)総務省「ICTによるイノベーションと新たなエコノミー形成に関する調査研究」(平成30年)
「図表3-2-3-3 国内企業がICTにより解決した経営課題の領域」のExcelはこちらEXCEL / CSVはこちら

他方、我が国の今後の更なる生産性向上に向けては、プロダクトイノベーションも含めた多様な活路を見出しながら、ICTの導入及び利活用を促進していくことが必須である。ICT機器・端末の低価格化や、第3節で紹介するクラウドサービスの進展等を背景に、企業のICTの導入や利活用に係る障壁は低減しており、またAI・IoT等新たなICTが実際のビジネスに応用できるようになった結果、人手への依存度が高いサービス・製品や、差別化が難しくなりつつあるサービスや製品等においても、ICTによる業務の省力化やプロダクトの高付加価値化の可能性が広がっている。

このような環境変化も相俟って、政府が2017年に公表した「未来投資戦略 2017 ―Society 5.0の実現に向けた改革―」(以降、未来投資戦略2017)において、従来生産性が低いと指摘されてきた我が国サービス産業の活性化・生産性向上を掲げている。具体的には、「サービス産業の労働生産性の伸び率が2020年までに2.0%となることを目指す」ことをKPIとして設定し、その施策としてIT化・ロボット導入、データ利活用等を掲げている。

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