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第1部 特集 人口減少時代のICTによる持続的成長
第5節 ICTの進化によるこれからのしごと

第4章まとめ

この章では、人口減少社会における我が国の社会参加・労働参加促進のために、ICTが創るつながりを活用する可能性について考察した。

社会参加については、従来型の地縁などのコミュニティだけでなく、ソーシャルメディアなどの利用を通じて形成されるつながりから他者との新しい関係が築ける可能性や、地域内のつながり構築にICTが活用できることを説明した。

また、労働参加については、テレワークやクラウドソーシングなどにより場所や時間などの制約を軽減することで、これまで労働参加が難しかった人々の労働参加を実現できる可能性があることを説明した。このような職場でのICT利活用は1つの企業のみに勤務し収入を得る従来型の就業形態から、副業・兼業の利用が進んだ複属型の就業形態への変化を促すものであるといえよう。

さらに、人生100年時代においては従来型の教育、仕事、老後の3ステージがはっきりと分かれた単線型の人生から、基礎的な教育を受けた後、仕事と並行して新しいスキルを身につけるためのリカレント教育を受講しながら可能な限り働き続けるマルチステージの人生への転換が必要となる。このような変化は、各個人の複属化が進展することによって実現するといえるだろう。

しかし、この章で示したICTによる社会参加・労働参加の促進には課題もあることが調査の結果から読みとれる。ソーシャルメディアの利用の際に、他人とのコミュニケーションのすれ違いにより、トラブルが生じることはまれではない。多様な働き方の実現についても、テレワーク実施のためには、従業員が社会的な環境の整備や社内のルール整備などの課題を感じていることが明らかになった。また、今後クラウドソーシングで業務を請け負う個人事業主は、副業や兼業が一般化するにつれて増えていくであろうが、個人事業主は業務の発注者に比べて立場が弱い場合が多いため、彼らを保護する制度整備が重要になると考えられる。

総務省では、IoT、AI時代の人材育成、就業構造の成長産業への転換、高齢者・障害者も含め国民全員が豊かな人生を享受できるインクルーシブ社会の実現といった政策と、その実現に資する「人づくり」に向けた施策パッケージを含む「スマートインクルージョン構想」6をまとめている。

全ての人々が社会において活躍できる環境を整備し、各個人の複属化によって社会参加、労働参加の機会を増やしていくことは人口減少社会における持続的成長を実現するために必要なことである。ICTが創る人と人のつながりは、社会や職場への参加を促進するために活用できる一方で、時として分断やトラブルを引き起こすこともある。しかし、その負の影響を軽減する制度の整備と、ICTによる結びつきの効果を最大限活用し全ての人のインクルージョンを実現するためのICT利活用のあり方を、今後も継続して検討していくことが必要であるといえるだろう。

コラムCOLUMN 5 多様な人々の働き方を支えるテレワーク

ICTを活用した場所にとらわれない柔軟な働き方であるテレワークは、場所の移動や時間の制限が多い人たちの労働参加の可能性を広げる。ここでは、テレワークを活用することによって障害者と女性の労働参加のチャンスを広げた企業・団体の事例を見ていく。

OKIワークウェル(雇用型テレワーク(在宅勤務)、障害者)

元々、沖電気工業株式会社の社会貢献推進室によるテレワークによる障害者の雇用促進の取組として、1998年に3名の車椅子使用者を正式雇用して「OKIネットワーカーズ」がスタートした。その後、2004年に13名のネットワーカーズを中心に障害のある社員20名が結集し特例子会社、株式会社沖ワークウェル(通称:OKIワークウェル)が設立された。下図に示す通り、取組開始直後は、コーディネーターが仕事を受けてプロジェクトを取りまとめていたが、在宅勤務者の中からリーダーとしてディレクターが選ばれ、ディレクターがプロジェクトの取りまとめを行うようになった。

〈1998年の取組開始直後〉
〈現在の姿〉
(出典)OKIワークウェル提供資料

また、取組開始直後は電子メールや電話など1対1のやり取りが中心であったが、一斉指示など、チーム全体への連絡が困難であったり、チーム・ミーティングが困難であったり、非効率であることが課題となっていた。こうした課題を解消するため、常時接続型多地点コミュニケーションシステム「ワークウェルコミュニケータ」を開発した。「ワークウェルコミュニケータ」は簡単な操作でプロジェクトチームごとに仮想会議室で打ち合わせをすることができるなどバーチャルオフィスを実現するとともに、在宅勤務者どうしのグループワークを支援することで、通勤できる社員と同等の仕事ができる環境を構築した。

〈ワークウェルコミュニケータ〉

〈ワークウェルコミュニケータの主な機能〉

①プレゼンス表示

②共用ルーム

③個別会議室

④マイクON/OFFボタン

⑤チャット機能

⑥音量調節

(出典)OKIワークウェル提供資料

さらに、グループウェア内に業務管理システムを構築することで、社員の出勤在席状況や仕事の繁忙状況、通院・ヘルパー受入等の連絡事項を表示できるようにした。また、在宅勤務者が事務所やユーザ打合せに参加できるように簡易な映像配信システムも導入した。

これによって、現在では、全社員81名のうち通勤の困難な重度障害者49名が、完全在宅勤務の状態になっている。

さらに、OKIワークウェルは、2011年から肢体不自由特別支援学校を対象としたキャリア教育の出前授業を開始した。出前授業では、実際に在宅勤務をしている重度障害のある社員が学校を訪問し講師を務めている。出前授業は、2018年4月時点で全国40校に実施している。

また、肢体不自由特別支援学校に対して、毎年遠隔職場実習を行っている。2018年4月時点で連続14年間、全国38校106人が実習を受けている。現在では、OKIワークウェルでは、本実習を修了した特別支援学校生を中心に採用を行っており、育成した人材が実際に活躍できる場を提供している。

チルドリン徳島(自営型テレワーク(グループ型)、女性)

NPO法人チルドリン徳島は、ICTを活用した子育て世代の女性の就労機会の創出に取り組んでいる。子育て中の女性にICT技術を学んでもらい、チルドリン徳島が受注した業務をシェアして、自営型テレワークでこなしてもらう事業を進めている。

取組が始まったきっかけは、チルドリン徳島理事長 野田由香さんが、女性は育児に専念してしまうと社会から完全に孤立してしまうことに問題意識を持つようになり、孤立感を和らげることを目的に育児中の女性による交流イベント「ママまつり」を開催したことである。ママまつりに集まった女性は皆、可能であれば働きたいという思いを持っていたが、子供の面倒を見なければならない時間とパートのニーズがある時間が合わずに働けない女性が多いことが分かった。野田さん自身も、2014年に第2子を出産した際に保育園の待機児童の問題に悩まされ、子供が保育園に通うようになってからも、仕事を探したり遂行したりするのが大変だったという経験をした。

また、徳島ではマルチプレーヤーが求められ、専門に特化した人のニーズは少ない一方で、首都圏では専門的な業務が高い料金で発注されている。このことから、野田さんは首都圏と徳島県をつなげるのは意味があると思うようになった。

こうした問題意識から、野田さんや理事の泉さんなどが中心となり、ICT技術を持つ母親を通じたテレワーク事業を2014年11月から開始した。設立の際は、東京の非営利型株式会社Polarisの活動などを参考にした。

チルドリン徳島では、女性たちがチームを組みテレワークやクラウドソーシングを行うことを、「ICTママ」と名付けている。2015年からは徳島県より事業を受託して、1週間に1〜2回、全8日間のICTママの養成講座を、年に1〜2回開催している。

テレワークは、初めから稼げるわけでない。ICTママを通じたテレワーク事業の説明会に参加する人数は多いが、現実を伝えると参加者は半分に減る。研修に参加した人には確実に業務をしてもらいたいと思っているので、養成講座の募集は、年間10名(例外として2016年度は20名)と人数を絞っている。

チルドリン徳島では、発注側の企業や自治体とテレワーカーの間をつなぐ仕組みとして、テレワークコーディネーターを設置している。コーディネーターたちは全員「ICTママ養成講座」を受講、修了しており、テレワーカーとして必要なICT技術の他にテレワーカーを管理するコーディネーターの技術、ノウハウを備えている。いずれのコーディネーターも会社勤務を経て、出産・育児を経験し、様々な視点から網羅的にコーディネートを行っている。

〈テレワークコーディネーターの役割〉
(出典)チルドリン徳島提供資料

チルドリン徳島から業務を依頼したテレワーカーには、業務完了後に請求書を発行させるようにして、自分でお金を稼いでいる感覚を身に着けてもらっている。また、業務完了後に必ず顧客、コーディネーター、他のメンバーからのフィードバックを提供している。感謝や慰労のコメントとともに、こうした方がよかったなどの意見をもらっている。顧問として、弁護士、社労士、税理士がいる。テレワークで働く女性を守るために、彼女たちの法律的なリテラシーを高めるようにしている。

また、2015年に徳島県が旧徳島テクノスクール理・美容科棟跡地に設置し、チルドリン徳島が運営業務を受託している「テレワークセンター徳島」は、部屋も広く、手洗いの場所が多いので、子供の面倒を見ながら働くには良い場所である。

チルドリン徳島の業務実績としては、ホームページのページ移行(Web2.0やアクセシビリティ対応)、マニュアルや書類の電子化、大型ページのリニューアル、自治体の講演等の文字起こしなどがある。人材不足で困っている企業からは、チルドリン徳島に発注したことで、全体の作業が楽になったとの感想をもらっている。

テレワーカーが女性であることによって、誰かを助けるという女性ならではのチームワークが発揮できる。例えば、宮崎市のホームページ作成の事例は、1月や2月にインフルエンザで寝込む人がいたが、コーディネーターが調整しなくても、メンバーが自分たちで寝込んだ人の遅れた作業を分担して納期通りに仕上げた。野田さんは、このような思いやりの連鎖をさらに広げたいと考えている。

さらに、ICTママになって社会との繋がりができると、誰かの役に立ちたいという社会への関わりの意欲が増すことが明らかになってきた。ICTママとして活動する女性が徳島市や阿南市の推進委員になったり、PTAの役員になるなど、別の場所で活躍している。チルドリン徳島の取組は、女性の社会参加を加速させることにも繋がっている。

コラムCOLUMN 6 シニアの社会参加を促すICT教育

第4章2節で見たように、シニアはスマートフォンの利用率が低く、ICTを活用したサービスの利用も進んでいない。シニアがICTをより活用するためには、利用を促すような仕掛けや、ICT教育を行うような仕組みが必要である。シニアに対するICT教育は様々な地域で行われている。NPO法人静岡ICT教育21の「アクティブシニア向けネット安全講座」や特定非営利活動法人アクティブSITA「シニアのためのタブレット講座」、シニア SOHO普及サロン・三鷹「パソコン講習」、「タブレット講座」などNPO等によるパソコンやタブレット講座も開催されている。

そのようなICT教育のひとつとしてプログラミング教育がある。その取組のひとつに高齢者のプログラミング学習を支援するコミュニティであるシニアプログラミングネットワーク7がある。シニアプログラミングネットワークは、シニアプログラマー育成を目的に、プログラミングを勉強しているもしくはこれから勉強したい高齢者を集めてプログラミングの勉強会を年に数回開催したり、アプリ等のアイデアを出しあうハッカソンなどを開催している。

シニアプログラミングネットワークの立ち上げ

シニアプログラミングネットワークを運営している小泉勝志郎さんは、若宮正子さんと2011年に知り合い、何度かイベントで会う中で、若者に勝てるアプリを作りたいという若宮さんからの意見を聞き、若宮さんの友人と一緒にアイデア出しを行った。その後、若宮さんはiPhoneアプリ「hinadan」を開発した。その経験の中で、小泉さんはシニアのICT教育の重要性を感じ、博士課程の研究テーマとするなど本格的な活動を開始した。シニアプログラマーを探し、活動範囲を広げるためシニアプログラミングネットワークを立ち上げた。

立ち上げ時の参加者は100人程度であり、10代から80代まで幅広い年齢層が参加した。反響はとても大きく、Twitterの写真のリツイートは2万2000回まで達し、NHKのケニア支局からも取材を受け、取材の結果は後日18か国で放送された。

シニアプログラミングネットワークは、毎月「もくもく会」というイベントを渋谷と仙台で開催している。プログラミングを自習する会であるが、分からない参加者がいたら、分かる参加者が教えている。65歳以上と65歳未満とに分けて参加者を募集をしており、参加者の多くが65歳以上で女性が多く、女性同士活発に教えあっており、完成に至るのも女性の方が多い。シニア女性の場合、一度参加した人が友達を誘って次の会に参加することが多いため、大々的には宣伝していないが徐々に広がりを見せている。

シニアに対するICT教育

シニアのICT教育で重要なのが、若い人に教わることに抵抗がある人もいることから、シニアがシニアに教えられるような場づくりである。シニアプログラミングネットワークに参加している鈴木さんは80歳を超えており、誰にも気兼ねなく教えられる位置にいて、もくもく会でも活躍している。

また、シニアに限ったことではないが、プログラミングには英語の知識が欠かせない。英語がわからなくてプログラミングをあきらめる人もいる。英語を自分で検索したり、根気が必要になるが、何か前に進んだら外部の人が褒めてあげて、プログラミングを続けられるように励ますことが必要である。

シニアと若者の交流の場

シニア同士の学び合いによりICT教育を進める一方で、「もくもく会」は、若者との交流の場として、世代を超えたつながりを創出している。鈴木さんが手回し式の計算機の体験を話すと、若者はそうした機械を知らないので、面白く感じてくれる。また、パンチカードを入力に使っていた初期のコンピューターの話題も若者にとっては新鮮である。

現在、高齢者の孤立などが問題になっているが、ICT教育の場は、単にICTの技術を教えるという効果だけでなく、高齢者と若い世代をつなぐ効果が期待できる。

〈高齢者と若者の交流の様子〉
(出典)シニアプログラミングネットワーク提供

ICTによる課題の解決

シニアの課題をICTで解決するために、課題を明確にし、解決策を考える場として、2018年2月にはシニアプログラミングハッカソンを開催した。

ハッカソン参加者が、シニアプログラミングネットワークに参加することで、ICTによって課題を解決できるようになる可能性もある。シニアがアプリケーションを開発すると、苦手な操作方法、例えばドラッグ&ドロップを採用しなくなり、シニアに利用しやすいようなアプリケーションが自然と開発できる。

〈ハッカソンの様子〉
(出典)シニアプログラミングネットワーク提供

つながりをさらに広げるために

シニアプログラミングネットワークの活動をもっと広げていきたいが、そのためにはネットワーク作りが重要になる。イベント参加者が友達を誘って次のイベントに参加するので、広がりが出てくる。

公的な支援も重要である。大規模なイベントを開催するには、ボランティア的に費用を負担するだけでは限界がある。ハッカソンのイベントなどは、復興庁の「共創力で進む東北プロジェクト」の支援を受けている。また、復興庁の支援を受けて、シニアプログラミングのポータルサイトを構築中である。プログラミングだけでなく、広くICTの分野で頑張っている人の成果を広めたいと考えている。



6 情報通信審議会 情報通信政策部会 IoT新時代の未来づくり検討委員会(第4回)配布資料4-4
http://www.soumu.go.jp/main_content/000549838.pdfPDF

7 シニアプログラミングネットワーク公式サイト https://senior-programming.net別ウィンドウで開きます

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