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第1部 特集 デジタルで支える暮らしと経済
2 ICT分野の主要製品・サービスの市場規模

(2)IoTデバイスの急速な普及

IoTデバイス数は、「医療」、「コンシューマー」、「産業用途」及び「自動車・宇宙航空」で高成長が見込まれている

パソコンやスマートフォンなど、従来のインターネット接続端末に加え、家電や自動車、ビル、工場など、世界中の様々なものがネットワークにつながるようになっている。

世界のIoTデバイス16数の動向をカテゴリ17別にみると、2020年時点で稼動数が多いカテゴリは、スマートフォンや通信機器などの「通信」となっている(図表0-2-2-29)。ただし、既に市場が飽和状態であることから、他のカテゴリと比較した場合、相対的に低成長が予想されている。

図表0-2-2-29 世界のIoTデバイス数の推移及び予測18
(出典)Omdia

対照的に高成長が予想されているのは、デジタルヘルスケアの市場が拡大する「医療」、スマート家電やIoT化された電子機器が増加する「コンシューマー」、スマート工場やスマートシティが拡大する「産業用途」(工場、インフラ、物流)、コネクテッドカーの普及によりIoT化の進展が見込まれる「自動車・宇宙航空」である(図表0-2-2-30)。

図表0-2-2-30 分野・産業別の世界のIoTデバイス数及び成長率予測
(出典)Omdia

コラムCOLUMN 1 新興国のリープフロッグ型発展を支えるスーパーアプリ

新しいデジタル技術やデジタルサービスの登場等を背景に、世界各国では急速にデジタル化が進展しているが、先進国のみならず、新興国においても、新しいデジタル技術やデジタルサービスが急速に普及し、リープフロッグと呼ばれる一足飛びの発展が実現するようになっている。

1 リープフロッグ型の発展が生じる背景

新興国でリープフロッグ型の発展が生じる背景としては、社会インフラの未成熟という社会的課題(ニーズ)と、スマートフォンやインターネットの普及(シーズ)の2つの側面がある。

社会的課題としては、例えば、医療体制が不十分、銀行口座の保有率が低い、交通インフラが十分に整備されていないといった問題がある。こうした課題に対し、医師数や銀行口座開設数の大幅な増加や、交通インフラを網羅的に整備することが解決手段となるが、このような対応には必要な負担も多く、それらの環境整備にも時間もかかる。

他方、新興国においては、平均所得が増加するとともに、スマートフォンやインターネットサービスが低廉化しており、より多様な国民がスマートフォンを介したインターネットサービスを利用できるようになっている。

こうした2つの要素が組み合わさること等19を背景として、伝統的な医療、金融や交通等のサービスにこだわらず、社会インフラが未成熟であっても利用できる新たなデジタルサービスが新興国で出現しており、こうした生活を一変させる可能性を有するサービスの利用者は爆発的に増加している。

図表1 リープフロッグ型発展のイメージ
(出典)みずほ情報総研(2021)「新興国で急速に普及するデジタル技術の現状に関する調査研究」

2 リープフロッグ型の発展を支えるデジタル技術を活用したサービス

リープフロッグの例となるデジタル技術を活用したサービスとしては、各国で普及するスーパーアプリ、ケニアにおけるモバイルマネーサービス、ルワンダにおける医療分野でのドローンの活用(血液のドローン配送)、インドにおける生体認証を活用した身分証明システムなどがあるが、大きくは①スーパーアプリ型と、②先端技術活用型に分類できる。

①スーパーアプリ型は、多種多様なアプリ群(メッセージング、SNS、決済、送金、タクシー配車、飛行機・ホテル予約、電子商取引など)を統合した一つのアプリであり、特に、人々の生活を支える基盤として機能する。1つのアプリ上で多様な生活サービスを提供することで、生活を効率化・高度化することができる。

②先端技術活用型は、AI、ドローン、ブロックチェーン、IoTなどの先端技術を活用したサービスであり、特に産業、分野等(ドメイン)を活性化することが期待される。

図表2 リープフロッグ型の発展を支えるデジタル技術を活用したサービス
(出典)みずほ情報総研(2021)「新興国で急速に普及するデジタル技術の現状に関する調査研究」

ここでは、リープフロッグ型の発展を支えるデジタル技術の中でも、生活を大きく変える可能性があるスーパーアプリ20について取り上げることとする。

スーパーアプリの特徴は、複数の機能を持つ1つのアプリであり、多くの場合は特定企業の決済システムを利用する。スーパーアプリ内の機能は、ユースケースによって様々であるが、生活者向けのサービスであることから、生活で必要となる機能を内包することが一般的である。

図表3 スーパーアプリの機能の一例
(出典)みずほ情報総研(2021)「新興国で急速に普及するデジタル技術の現状に関する調査研究」

3 スーパーアプリの事例

(1)諸外国における主なスーパーアプリ

スーパーアプリは、アジア、アフリカ、中南米などの世界中の新興国でも普及しているが、医療・銀行・交通等のインフラが不十分であるといった各国の抱えている課題や社会的特性を背景に、様々なスーパーアプリが存在している。スーパーアプリは、特定の国のみでサービス展開されるわけではなく、機能の増加や利便性の向上等の様々な取組を通じて、様々な国や地域で展開されているスーパーアプリもあり、より多くのユーザを確保しようと熾烈な競争が行われている。一方で、宅配サービス等の普及による渋滞の深刻化、未成年等による不法就労の発生など、スーパーアプリの提供により新たな課題が生じている場合もある。

図表4 諸外国の主なスーパーアプリ21
(出典)みずほ情報総研(2021)「新興国で急速に普及するデジタル技術の現状に関する調査研究」を基に総務省作成

(2)スーパーアプリの具体例

以下では、アジア(中国・東南アジア・インド)、アフリカ及び中南米で普及している5つのスーパーアプリを具体例として取り上げる。

ア 平安好医生(中国)

中国には、既にメッセージングサービスを中心としたWeChat、決済サービスを中心としたAlipayやEC・口コミサービスを中心とした美団があるが、それらのサービスだけではなく、ヘルスケア(保険)サービスを中心としたスーパーアプリである平安好医生が普及している。

中国のヘルスケア産業は、市場規模が拡大傾向にあり、2016年時点では4.6兆元(約77兆円)であったが、2026年には11.4兆元(約190兆円)にも達すると見込まれている。一方で、医師資源の不足と偏在、医療サービス体験の不十分さ(診療までの長時間の待ち時間等)、基礎的な社会医療保険の赤字といった課題を抱えている。

図表5 アプリのイメージ(平安好医生)
(出典)みずほ情報総研(2021)「新興国で急速に普及するデジタル技術の現状に関する調査研究」

このような課題や市場が見込まれる中、中国平安保険のグループ会社である平安健康医療科技は、ワンストップ型のヘルスケアポータル及びアプリ「平安好医生(Ping An Good Doctor)」を展開している。平安好医生は、2015年4月に、医療機関と患者を結びつけるアプリとしてサービス提供を開始し、アプリ経由の問診を起点に、オンライン医療や健康管理サービス等を開始している。

具体的には、専門的な社内医療チーム、質の高い医療サービスプロバイダーのネットワークを構築する他、多彩なサービス及び製品等を基盤として医療エコシステムを構築している。その上で、健康な人や患者が利用可能なワンストップポータル「平安好医生」を立ち上げ、主に4つのサービス(ヘルスケア22、医療サービス23、ヘルスモール24及び健康管理25)を提供している。

図表6 エコシステム(平安好医生)
(出典)みずほ情報総研(2021)「新興国で急速に普及するデジタル技術の現状に関する調査研究」
図表7 サービスの全体像(平安好医生)
(出典)みずほ情報総研(2021)「新興国で急速に普及するデジタル技術の現状に関する調査研究」

2015年のサービス開始後、2020年現在の登録者数は約3.7億人(2017年から約2倍)、月間アクティブユーザ数は約7,300万人で、登録者の約20%が1か月に何らかのサービスを利用している。また、利用できるサービスの内、オンライン診療利用者数も増加傾向にあり、一日当たり約90万人がオンライン診療を受けている。オンラインで完結できる仕組みということもあり、新型コロナウイルス感染症の流行後もユーザを着実に伸ばしている。

イ Gojek(インドネシア)

Gojekは2015年にスマートフォンアプリGojekを正式にサービス提供を開始した。配車・デリバリーサービスを中核サービスとし、フード・ショッピング、エンタメやビジネス等の生活者を支援するサービスを20以上提供しており、アプリのダウンロード回数は2021年3月時点で1億9,000万回26を超えている。

図表8 アプリで提供する主要サービス(Gojek)
(出典)みずほ情報総研(2021)「新興国で急速に普及するデジタル技術の現状に関する調査研究」

Gojekでは、決済サービスも提供しているが、インドネシアを含む東南アジアでは、多くの国民は信用力が不足しており、金融機関の口座保有率が低く、口座を開設できない人が多い。金融サービスを扱うことができず、貯蓄や借入ができない状況のため、貧困から抜け出すことが困難な状況となっている。

そこで、Gojekでは「GoPay」という独自の決済サービスを提供するほか、各種保険サービスも提供しており、結果、インドネシア社会全体の経済発展に貢献している。

Gojekは、インドネシア以外にもベトナム、タイ、シンガポールにサービスを展開しているが、シンガポールに本社を置くユニコーン企業であり、Gojekと同じく配車・デリバリーサービスを手掛けるGrabとの間で、東南アジアにおける配車・デリバリー市場の覇権争いが激化している。そして、Grabなどの競合企業の参入も相次ぎ、新たな課題として値下げ競争が発生している。その結果、配車やデリバリーを担うドライバーは多数の仕事を行うため、長時間労働や健康被害が出てきている。また、ドライバー増加による交通量増加、渋滞の深刻化という問題も浮き彫りとなっている。

図表9 海外展開の状況
(出典)みずほ情報総研(2021)「新興国で急速に普及するデジタル技術の現状に関する調査研究」

ウ Paytm(インド)

インドでは、中間所得層の拡大や所得の増加に伴い、携帯電話やスマートフォン、タブレットの普及が拡大している。また、インドは農村人口が多く、銀行口座を保有していない層が多いことから、インド政府はデジタルインディア政策等により国民が金融サービスを利用できる環境の整備を進めていた。

図表10 アプリのイメージ(Paytm)
(出典)みずほ情報総研(2021)「新興国で急速に普及するデジタル技術の現状に関する調査研究」

そのような中、2010年に設立されたPaytm社は、当初は単純なQRコード決済サービスを提供してきたが、近年、買い物、保険、資産運用、ゲームといったサービスをアプリ上で提供する他、金融サービスや小規模店舗向けのオンライン・ディスカバリー・プラットフォームから、Eコマースやチケット販売プラットフォームまで、幅広く手掛けており、インド初のスーパーアプリとも言われている。

Paytmの月間アクティブ利用者は約2億人、登録済み利用者は4億人超に上る27。小売店だけではなく、路上で野菜や果物などを売る露天商もPaytmのQRコードを掲げているところが多く、インドのモバイル決済といえばPaytmが事実上の標準となっている。

エ ayoba(南アフリカ)

アフリカでは、モバイルブロードバンドの増加と、スマートフォン価格の低廉化が進み、インターネット利用者が急速に増えているものの、現在の携帯電話利用者は、正規労働者や一部の学生、インターネットカフェでインターネットを利用する人々など、一部の人々に限られている。

そのような中、アフリカ最大のデジタル通信事業者の一つであるMTNは、デジタルディバイド是正に向けた取組を行っており、その一環として、2019年5月にメッセージング機能を中心としたayobaと呼ばれるスーパーアプリの提供を開始した。

同アプリの月間アクティブユーザ数は240万人28を誇る。また、アフリカで使われている22の言語29をサポートするとともに、アフリカ大陸及び中東の16か国30で展開している。

図表11 アプリのイメージ(ayoba)
(出典)みずほ情報総研(2021)「新興国で急速に普及するデジタル技術の現状に関する調査研究」

オ Rappi(コロンビア)

中南米では、スマートフォンの普及が進み、モバイルインターネットやEコマースの利用が活発化している。また、銀行口座を持っていない人が多い他、交通インフラが未整備である等、インフラ整備は大きな課題である。

そのような中、2015年にRappiは自転車やバイクを活用した宅配サービスを開始したが、以降スーパーアプリ化を進め、現在は宅配できる商品(食事の他、食料品、酒、ドラッグストアの薬品、電気製品等)やサービス(電子決済、航空券等の予約、ライブストリーミング等)を拡大している。また、現金の宅配やおつかい代行31など、他のスーパーアプリには見られない特徴的なサービスも行っている。

図表12 アプリのイメージ(Rappi)
(出典)みずほ情報総研(2021)「新興国で急速に普及するデジタル技術の現状に関する調査研究」

Rappiは、コロンビアだけではなく、中南米で関係の深い国32でも展開されており、ユーザ数は360万人(2018年12月現在)にものぼる。

また、従来の宅配サービスは時間がかかる他、荷物を紛失される可能性があったが、本サービスではこうしたトラブルも少ない。従来のサービスで発生するトラブルに起因した不安や不満の大きさが同サービスの普及のきっかけとなった。



16 Omdiaの定義では、IoTデバイスとは、固有のIPアドレスを持ちインターネットに接続が可能な機器及びセンサーネットワークの末端として使われる端末等を指す。

17 各カテゴリの範囲は以下のとおり。
 「通信」:固定通信インフラ・ネットワーク機器、2G・3G・4G各種バンドのセルラー通信及びWi-Fi・WiMAXなどの無線通信インフラ及び端末。
 「コンシューマー」:家電(白物・デジタル)、プリンターなどのパソコン周辺機器、ポータブルオーディオ、スマートトイ、スポーツ・フィットネス、その他。
 「コンピューター」:ノートパソコン、デスクトップパソコン、サーバー、ワークステーション、メインフレーム・スパコンなどのコンピューティング機器。
 「産業用途」:オートメーション(IA/BA)、照明、エネルギー関連、セキュリティ、検査・計測機器などのオートメーション以外の工業・産業用途の機器。
 「医療」:画像診断装置ほか医療向け機器、コンシューマーヘルスケア機器。
 「自動車・宇宙航空」:自動車(乗用車、商用車)の制御系及び情報系においてインターネットに接続が可能な機器、軍事・宇宙・航空向け機器(例:軍用監視システム、航空機コックピット向け電装・計装機器、旅客システム用機器など)。

18 Omdiaにおいて、「通信」からIPアドレスでの処理を行わないスイッチを除外したこと、「通信」から超低価格携帯端末を除外し「通信」及び他のカテゴリから当該端末に接続する機器を除外したこと、一部の機器でIoT化率の見直しを行ったことに伴い、令和2年版情報通信白書に掲載した各カテゴリの数値から2019年以前の数値を修正している。

19 令和元年版情報通信白書で述べたとおり、先進国では、新たな技術やサービスが登場しても、既存サービスとの摩擦が生じる場合や、法制度の改正が必要となる場合には、普及までに一定の期間を要することがあるが、新興国ではこのような制約が少ないこともある。

20 伊藤亜聖(2020)「デジタル化する新興国 〜先進国を超えるか、監視社会の到来か〜」では、スーパーアプリを「数億人以上のユーザ数を有し、特定のサービスのみならず、様々なサービスへと縦横無尽に誘導する『ユーザの導線』として機能し、さらに他の事業者がサービスを提供する土台となるようなアプリケーション」と説明している。

21 各スーパーアプリのサービス提供段階は、サービス構築中のもの、サービス公開済みのものあれば、既にサービス停止中と報道されているもの(ナイジェリアのOpay)も含まれている。

22 健康診断、遺伝子検査、美容ケアなど、消費者の予防的・健康関連ニーズを満たすため、医療機関のサービスを統合して提供。

23 オンラインでの相談、病院の紹介と予約、入院患者の手配とセカンドオピニオンサービスを提供。

24 ネット通販を介し、医薬品、健康補助食品、医療機器などのヘルスケア製品、フィットネス機器、ウェルネス製品などを提供。

25 様々なウェルネスプログラム、ツール、アクティビティを考案し、パーソナライズ化されたコンテンツを提供。

26 Gojek tech Blog記事(https://www.gojek.io/blog/gojek-pledges-to-achieve-zero-emissions-zero-waste-zero-barriers-by-2030-in-first-annual-sustainability-report別ウィンドウで開きます)(2021年5月7日閲覧)

27 日本経済新聞「Facebook鳴らす 印「スーパーアプリ」競争の号砲」(2020年4月29日記事)(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58541700X20C20A4FFE000/別ウィンドウで開きます

28 GSMA “GAMA Thrive Africa: White Paper -Building Africa’s largest digital community using Ayoba-”(https://www.gsmathrive.com/wp-content/uploads/2020/09/GSMA-White-paper-on-Ayoba_final.pdfPDF)(2021年5月7日閲覧)

29 ズールー語、ダリ語、コサ語、ピジン語、ヨルバ語、スワヒリ語、ハウサ語、アラビア語、仏語、英語等。

30 カメルーン、コートジボワール、コンゴ共和国ブラザヴィル、ナイジェリア、ガーナ、ルワンダ、ベニン、リベリア、スーダン、南アフリカ等。

31 現金の宅配は、宅配員が代わりにATMで出金し、現金を届ける機能。おつかい代行は、犬の散歩、公共料金の支払いの依頼等。

32 ブラジル、メキシコ、コロンビア、アルゼンチン、チリ、ウルグアイ、ペルー

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