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第1部 特集 デジタルで支える暮らしと経済
第2節 コロナ禍における公的分野のデジタル活用

(2)海外における取組事例

海外ではコロナ禍において、行政分野でのデジタル活用はどのように行われたのか、ここではデンマーク、韓国及び台湾における事例を紹介する。

ア デンマーク
(ア)給付や支援の手続き

デンマークでは、企業への補償や生活保護受給者に対する給付金の支給が行われた。法人については、電子私書箱であるデジタルポストで連絡が行われ、ポータルサイトである「Virk.dk」からオンライン上で手続きを行った。また、デンマークでは労働者が「休暇金」を積み立てる制度があるが、半年分の「休暇金」を前倒しで受け取る措置が実施された。具体的には、法人と同様にデジタルポストで連絡が行われ、メール本文内のリンクから開ける政府ポータルサイトである「Borger.dk」の該当ページにおいて、オンライン上で手続きを行う手段が取られた。実際の給付金や補助金の受け取りについては、法人、個人共に、事前に登録した政府との連絡口座であるネム・コントに入金が行われ、一連の手続きがオンラインで完結している。

(イ)感染者情報の管理

デンマークでは、国民患者医療登録システム(NPR)と呼ばれる医療記録システムが構築されており、個人の既往症や受診歴のデータを時系列順に管理している。1994年からメドコム(MedCom)と呼ばれる医療電子通信システムが利用されており、診察の際に市民の医療データをMedComからNPRに記録することとなっている。以上のようにコロナ前から医療情報を一元管理していたため、コロナ発生時の初期段階から、リアルタイムの患者数の把握が可能であったため、種々のコロナ対応施策を実行することが出来た。例えば、一部の自治体においてのみレストランの営業禁止措置が行われたり、一部の自治体の教育機関のみ登校を可能にするなど、フレキシブルな施策を実行している。

(ウ)行政職員のテレワーク

2014年までにデジタル導入が着実に進められ、公共手続きの多くがデジタルに移行した。そのため、テレワークについてはコロナ禍以前から積極的に進められており、2018年にはデンマーク国民の3人に1人は、月に一度テレワークを行っているなど13、テレワークを実施する土壌が既にあった。そのため、コロナ禍においては首相発表から2日の準備期間で、公務員はテレワークに移行している。

イ 韓国
(ア)給付や支援の手続き

韓国では、コロナ関連の給付金は3回実施されており、初回の給付は2020年の5月に行われた。クレジット会社や銀行と連携し、各社サイト等から国民IDである住民登録番号を入力し申請する方法を採ったことにより、5月4日の支給開始から5月31日までに、オンラインで98.2%の支給が完了した14。また、生活保護受給者などの場合は、申請無しで登録されている口座に振り込みが行われたほか、口座登録がない世帯には現金手渡しで給付が行われている。

2回目の給付は小規模事業者などを対象に実施され、政府が保有する行政情報を活用して、受給の資格がある対象者にはSMSを自治体から送り、そこからオンライン申請サイトで申請することで、申請翌日の支給を可能としている。

(イ)感染者情報の管理

韓国では2013年に感染症予防管理のため情報化戦略計画を策定し、それに基づき、7つの領域(患者モニタリング、病原体・媒介体モニタリング、病原体診断、疫学調査、予防接種、患者・接触者管理、防疫管理)の統合機能、及び他部署と連携したデータを一目で把握できる現況ボードなどを搭載した「感染病管理統合情報支援システム」を構築している。このシステムを活用し、コロナ感染者発生状況を、リアルタイムで、医療機関、保健所、中央政府・地方自治体間で共有している。

また、通信会社が提供した携帯電話のGPS情報から、感染者状況の把握を行っている。2015年に発生した中東呼吸器症候群(MERS)発生時の対応遅れを背景に、感染症予防及び管理に関する法律を改正することで、保健福祉部は、国民の命と安全にかかわる事案の場合は、携帯電話使用者本人の同意なくGPS情報を活用できるよう法制度化されている15

(ウ)行政職員のテレワーク

公務員の在宅勤務の基盤となるGVPNシステム(Government Virtual Private Network)を2005年に導入している。GVPNシステムによって、事務所以外の場所から安全に行政システムに接続し、事務所にいるときと同様の業務を行うことが出来る環境が整備されている。同システムを利用する職員数の増加は低調であったが、韓国政府が2020年に「公務員対象フレキシブルワーク移行指針」を策定したことで、利用する職員数が急増し、全職員のおよそ半数が利用している16

ウ 台湾(マスクの需給対策)

台湾では、2019年12月に中国武漢市で原因不明の肺炎が出現した情報を把握すると、12月31日以降、武漢市からの渡航者に対する検疫を実施。その後、2020年1月下旬から出入国制限を開始した。迅速な初動と水際対策、徹底した隔離対策などが功を奏して、台湾では新型コロナウイルス感染症の感染者数、死者数が抑えられている17

また、マスクの需給対策として、政府が一元的に管理運営する全民健康保険(NHI)との連携により、マスクの実名購入制を早期に確立し、公平な販売と品薄による価格高騰の防止を実現した。併せて健康保険を担当する「中央健康保険庁」がマスクを販売する薬局の30秒ごとの在庫データをCSV形式でネット公開することにより、企業やシビックテックコミュニティによる在庫マップアプリ等がシビックテックのサイトである「g0v(ガブゼロ)」上に次々と公開され18、マスク不足に対する市民の不安や混乱を軽減した(図表2-2-1-9)。

図表2-2-1-9 台湾のシビックテックにより公開されたマスク購買マップの例
出典:中央健康保險署「口罩供需資訊平台」

2020年2月6日から始まったマスクの実名購入制19では、市民はICチップ内蔵の「全民健康保険カード(NHIカード)」を薬局に示せばマスクを購入できた。当初は全国6,500店舗あまりの健保特約薬局でのみ対応していたが、薬局の営業時間内に買いに行けない人からの苦情に対応し、同年3月16日にはスマートフォンで購入予約しコンビニで受け取れるシステムに移行した。行政院にネットで苦情を受ける窓口があるため、こうした迅速な改善にも対応可能であったといえる。

マスク実名購入制と在庫状況の公開を迅速に実現できた背景には、1995年に導入された全民健康保険制度と2001年から整備されてきた医療デジタルネットワークがある。2001年から整備が進められてきた全民健康保険ネットワーク網により、全国の病院と健保特約薬局が衛生福利部のネットワークにオンラインで結ばれるようになり、更に2004年に「全民健康保険カード(保険証)」が紙からICチップ入りカードに変更されたことで、現在では、国民のほぼ全員がこの「全民健康保険ICカード」を保有しており、保険加入者(国民)の情報と医療機関(病院、特約薬局)などの情報がつながり、衛生福利部中央健康保険署で一括管理されるようになっている。マスクの「実名販売制」は、保険加入者のデータと健保特約薬局のマスク販売データを活用し、個人の購入履歴が全国の特約薬局の端末で共有されることで、二重購買などの不正を防ぐことを可能とした20



13 「Danskerne elsker at arbejde hjemmefra」(Berlingske 2018.9.10)
https://www.berlingske.dk/oekonomi/danskerne-elsker-at-arbejde-hjemmefra別ウィンドウで開きます

14 「긴급재난지원금 신용·체크카드 신청 현황 (5.31. 24시 기준)」(行政安全部 2021.3.30閲覧)
https://www.mois.go.kr/frt/bbs/type010/commonSelectBoardArticle.do?bbsId=BBSMSTR_000000000008&nttId=77567別ウィンドウで開きます

15 「분단위로 쫙 나온 확진자 동선···추적자는 카드 아닌 통신사 [출처:중앙일보] 분단위로 쫙 나온 확진자 동선···추적자는 카드 아닌 통신사」(中央日報 2020.1.30)
https://news.joins.com/article/23692994別ウィンドウで開きます

16 「코로나19 계기로 공공분야 비대면 업무 시스템 활용 폭증」(行政安全部 2020.3.20)
https://www.mois.go.kr/frt/bbs/type010/commonSelectBoardArticle.do?bbsId=BBSMSTR_000000000008&nttId=77355別ウィンドウで開きます

17 澤田裕子「台湾の奇跡――世界が注目する防疫対策」(2020.08.31、独立行政法人日本貿易振興機構 アジア経済研究所)
https://www.ide.go.jp/Japanese/Library/Column/2020/0831.html別ウィンドウで開きます

18 g0v口罩供需資訊平台(https://g0v.hackmd.io/@kiang/mask-info別ウィンドウで開きます

19 マスク実名購買制度は、台湾内でのマスク需要逼迫が解消されたため、現在は稼働していない。

20 公益財団法人日本台湾交流協会「台湾コロナ対策で判った台湾のデジタル健康保険の凄さ」(2021.2.25、台湾NOW vol.5)
https://www.koryu.or.jp/Portals/0/images/publications/magazine/2021/2%E6%9C%88/2102_04fuji.pdfPDF

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