我が国の主な公共機関は、各々の業務に特化した無線システムを個別に整備、運用しているため、機関の枠組みを超えた相互通信が容易ではなく、また、そのシステムは割当可能な周波数や整備費用の制約等から、音声を中心としたものとなっている。諸外国においては、デジタル移動通信方式であるTETRA3やAPCO P-254等を採用する公共機関もあるが、こちらも音声中心のシステムであり、データ通信を行う場合は数十kbps程度と低速である点が課題となっている。
このような中で、諸外国では消防、警察等、公共安全業務を担う機関において、携帯電話で使用されている通信技術であるLTE(Long Term Evolution)を利用し、音声のほか、画像・映像伝送等の高速データ通信を可能とする共同利用型の移動体通信ネットワークの構築に向けた検討が進められている。このようなLTEを用いた公共安全(Public Safety)のためのネットワークは、「公共安全LTE(PS-LTE)」と呼ばれ、テロや大災害時には、公共安全機関の相互の通信を確保し、より円滑な救助活動に資すると期待されており、また、世界的に標準化された技術を利用することから、規模の経済による機器の低コスト化が可能となる等のメリットがあるとされている。
総務省では2017年(平成29年)11月から開催された「電波有効利用成長戦略懇談会」において、公共用周波数の有効利用の観点から、公共機関が共同で利用できる「公共安全LTE(PS-LTE)」の導入に向けた検討を行ってきた。2018年(平成30年)8月に取りまとめられた同懇談会の報告書を受け、今後、周波数有効利用に資する「公共安全LTE」(PS-LTE)の実現(図表5-3-2-4)に向けて、PS-LTEに求められる技術的要件や運用体制の在り方等の検討を行うこととしている。
その中で、2019年度(令和元年度)においては、特に我が国におけるPS-LTE実現に向けて、関係省庁・関係機関が参画する場を設け、PS-LTEに具備すべき機能要件の整理や、PS-LTEの一機能となる災害時において迅速に通信カバレッジを補完・拡大する技術として、デバイス間通信技術の検討や可搬型装置による中継回線システム等の技術的要件の検討を行った。2020年度(令和2年度)においては、前年度において得られた検討結果を基に、我が国における公共安全LTEの基本機能について実証システムを構築し、関係機関と連携して実フィールドにおける機能検証等を実施するとともに、社会実装を見据えた運用面の課題と対応の検討を行った。2021年度(令和3年度)においては、基本機能について先行的な運用を開始しつつ、安全性・信頼性向上のための実証を引き続き実施し、2022年度(令和4年度)からの運用本格化を目指すこととしている。
3 TETRA は欧州で規格化された公共安全用のデジタル移動通信システムであり、世界各国で警察、消防、交通機関、公益業務等に利用。
4 APCO P-25 は米国で規格化されたデジタル移動通信システムであり、北米、オーストラリア等で利用。