総務省トップ > 政策 > 白書 > 令和3年版 > 「誰一人取り残さない」デジタル・ガバメントの実現に向けて必要な取組
第1部 特集 デジタルで支える暮らしと経済
第3節 公的分野におけるデジタル化の現状と課題

(3)「誰一人取り残さない」デジタル・ガバメントの実現に向けて必要な取組

ア ユーザー体験志向

グランドデザインでは、「ユーザー体験志向」においては、ペルソナを活用した「利用者」の解像度の高度化、民間サービスと融合した個人に適したUI/UX提供、行政サービスの検索性の向上と継続的なUI/UXの改善など、「サービス設計12箇条」の実践と方法論の確立を推進することが必要であることが示された。また、利用者が日常的に使用しているスマートフォンやアプリのUI/UXを活用することで、総合的に利用者にとって満足度の高いサービスを提供することが求められるとしている。

こうした「ユーザー体験志向」を政府及び地方公共団体において実現する際には、行政における業務を俯瞰的に捉えたうえで、ユーザーの利便性を徹底的に追及することが不可欠となる。現状の行政サービスは、各組織の役割と業務プロセスがマニュアル上で固定化され、本来の価値提供に基づいた俯瞰的な発想が生まれにくいことが指摘されている。組織をまたいだサービス改革を実現していく際には、民間等からの人材登用など、行政外部の目線からの気づきやアイデアが重要な契機となる。

イ データファースト

グランドデザインでは、「データファースト」について、ワンスオンリーを実現する基盤として、行政の保有する、行政サービスや社会活動の基本となるデータ(ベース・レジストリ)の整備が必須であると示した。行政機関はベース・レジストリを保有し、デジタル社会の新たな基盤を担うとともに、長期にわたり、業務の流れの中で、安価に安定的に収集・活用できる持続可能なデータのエコシステムが重要としている。

こうしたデータ活用環境の実現に向けて、各省庁及び地方公共団体は、データマネジメントを推進していく必要がある。現状では、住民に関するデータをはじめとする各種行政データは、部署ごと、システムごとに収集・管理され、組織横断的に活用、分析等ができる状態になっていないことが多い。データの利活用戦略からデータ設計や開発、さらにデータ運用、利用に至るまでの連続的、継続的なデータ品質と信頼性の向上及び維持活動を行う「データマネジメント」を推進することで、行政内部及び企業・国民等においてデータの利活用を促進するとともに、データを活用した行政サービス改革を実現していくことが求められる。

ウ 政府情報システムのクラウド化・共通部品化

グランドデザインでは、「政府情報システムのクラウド化・共通部品化」においては、クラウド・バイ・デフォルトの原則に基づき、行政機関で共通的に利用する機能を共通部品として整備・利用し、APIを通じて呼び出すことでビルディング・ブロックのように組み合わせて情報システムを構成する、次世代アーキテクチャの採用を進めることが必要であると示した。このようなアーキテクチャの採用を進めることで、ニーズの変化・技術変化に柔軟に対応し、新たなサービスの実験的試行をおこないやすくなるだけでなく、重複投資の排除やコスト削減、信頼性や性能、情報セキュリティの最適な確保といった利点も得られるとしている。

改定された実行計画では、政府の情報システムについて、共通的な基盤・機能を提供する「ガバメント・クラウド」を整備すること、また、地方公共団体の主要な基幹系システムの標準化・クラウド化を推進することが定められている。これにより、政府と地方公共団体におけるサービス連携等の強化や、社会環境の変化への迅速で柔軟な対応、また情報システムの運用経費等削減などの効果が期待される。ただし、現場での運用次第では十分な効果を発揮できないことも懸念されるため、標準化を契機に既存の業務プロセスを見直すなど、効果を最大にする運用の徹底が求められる。

エ 政府のスマート化

グランドデザインでは、「政府のスマート化」においては、新たなシステム・データ整備の考え方に合わせて、調達・開発手法や人材育成の考え方等もアップデートしていく必要があると示している。

(ア)政府情報システムの調達方法の見直し

クラウドサービス等の新たな利用形態、契約形態のITサービスが広まっている中、グランドデザインでは、このような新しいサービスを利用することについて現行の調達制度が追い付いていないことにも触れ、こうした課題を解決し、民間企業等で効果的に活用されているITサービスを政府においても十分に活用できるように、調達改革を進める必要があると示した。

今回インタビューを実施した有識者は共通して、現状の調達ルールでは、行政側・事業者側の双方において「より良い行政サービスを追求する」ための取組に結び付けることが困難な状況にあることを指摘している。ユーザー視点に基づいたサービス改革の実現、また外部環境やニーズの変化への迅速で柔軟な対応のためには、行政と事業者が一つのチームとして成果を出すような、新たな協業の仕組みの確立が必要となる。

(イ)新しい開発手法やツールの導入によるデジタル化の加速

グランドデザインでは、社会環境や行政機関、職員を取り巻く業務の環境やニーズの変化は速くなっており、行政サービスのリリースも迅速性を求められることを踏まえ、調達手法の見直しと併せて、こうした変化に柔軟に対応可能なアジャイル開発、ローコーディングツール、オープンソースといった新しい開発手法やツールの導入を進めることの必要性も示された。

コロナ禍を契機に新しい開発手法やオープンデータ活用などの取組が実施されてきたこと自体については、今回インタビューを実施した有識者は共通して「今後のデジタル・ガバメント推進に向けて良い流れである」と捉えている。そのうえで、特に運用面における課題も顕在化したとして、今後の改善と定着化に向け、行政職員のプロジェクトマネジメント力の向上、またサービス開始後にも改善し続けるサイクルや、そのための効果検証の仕組みの確立が必要との指摘を行っている。

(ウ)横断的なデジタル人材の育成と政府の実施体制の整備

デジタル・ガバメントを取り巻く環境がこの数年大きく変貌しつつあり、官民を問わない「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」の必要性、サービスデザイン、データ活用、クラウドサービスなどの新たな技術や手法の台頭、官民データ活用推進法やデジタル手続法等の制定などにより、新たなスキルが求められるようになっている。こうした変化を踏まえ、グランドデザインでは、従来型の人材の拡充と併せ、政府のIT人材に求められる素養やスキル・専門性等を継続的に検討・見直すことが重要と示している。中長期的に育成・採用を進めるための全体像を検討し、人材確保方法論を具体化するとともに、民間からの参画・交流を通じて、民間の知見の共有などを推進する取組や、先進各国のように特定領域に対して専門チームを作ることも求められるとしている。

「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」では、デジタル庁の業務の一つとして「デジタル人材の確保」を挙げ、優秀な人材が民間、自治体、政府を行き来しながらキャリアを積める環境を整備し、行政と民間のデジタル人材が効果的に連携して業務を進める組織文化を醸成すると示した。加えて、今回インタビューを実施した有識者からは、産官学の協力による中長期的な人材育成、また行政組織で活躍するデジタル人材の職務内容や必要なスキルの可視化が必要との示唆を受けた。また、行政職員によるサービス改革を促進するためには、人事評価等におけるインセンティブの仕組みの整備も求められる。

(エ)働き方改革

グランドデザインでは、行政サービスとして、使い易いサービスを安全・効率的に提供していくのはもちろんのこと、政府内の業務・活動にもテレワークやデジタル化を積極的に取り入れることで、行政内部における業務・審査等の迅速化や効率化、自動化を進めていく必要があると示している。

(オ)エマージング・テクノロジーへの対応

政府情報システムにおいては信頼性や継続性が引き続き重視されるため、以前より存在する、いわゆる「枯れた」技術を利用することに注力しがちである。一方、デジタル技術の進展は目まぐるしく、日々新しい技術が開発され、より便利な応用サービスが提供されている。グランドデザインでは、このような先進的な技術やサービスを適切に行政サービスへと取り込むことは、利用者向けサービスの向上には欠かせないだけでなく、市場の動向や将来性を顧みずに旧来の技術に固執することで、むしろ継続性や競争性を失うリスクを回避できる側面もあるとして、こうした専門的な技術の導入について、積極的に議論に参加する能動的な活動が必要と示している。

コラムCOLUMN 2 デジタルツイン

近年、IoT等を活用して現実(フィジカル)空間の情報を取得し、サイバー空間内に現実(フィジカル)空間の環境を再現するデジタルツインが注目されている。デジタルツインを活用することで、リアルタイムで取得した情報をもとにサイバー空間上で現実空間の状況を把握すること、また、サイバー空間上で現実空間の分析やシミュレーションを行い、その結果を現実空間にフィードバックすることなどが可能になる。

このように様々な効果が期待されるデジタルツインは、製造業やエネルギー・インフラ業などの様々な分野で活用が進められている。

1 デジタルツインの概要

(1)デジタルツインの仕組み

デジタルツインは2002年に米ミシガン大学のマイケル・グリーブスによって広く提唱された概念であり、現実世界と対になる双子(ツイン)をデジタル空間上に構築し、モニタリングやシミュレーションを可能にする仕組みである。

デジタルツインは、現実空間とデジタル空間、そして両者の情報連携の3要素によって構成されている。狭義では、現実世界とデジタル空間のリアルタイムかつ双方向の情報交換によって、利用者に現状の分析や将来予測の機会を与える動的なモデルがデジタルツインとされている(図表1)。一方、広義では、現実世界とデジタル空間の間に情報交換が無い静的な3Dモデル等もデジタルツインと呼称される場合がある。

図表1 デジタルツインの概念図(都市のデジタルツインの場合)
(出典)東京都57

(2)基盤となる技術

デジタルツインは現実世界の状態を継続的に感知するためのセンサー、通信のためのネットワーク、データを集約・管理・活用する情報基盤が技術要素となる。

デジタルツインにおいてセンサーから取得されるデータは、活用方法によって取得頻度や詳細度合いが異なる。常時モニタリングが求められる場合はリアルタイムデータが取得されるが、定期的にモニタリングすればよい設備や備品について、データの取得頻度は日次や週次などでも十分な可能性がある。また、デジタルツインはバーチャルセンサーと呼ばれるデジタル空間固有の仮想センサーを具備しており、デジタル空間でのシミュレーションを行う際にはバーチャルセンサーの計測値に基づいて将来予測等を行うことができる。

センサーデータの多くは無線通信を介して情報基盤にデータ送信される。センサーデータによるモニタリングの仕組みはIoTの思想と同様であり、デジタルツインはIoTの概念を拡張したものと考えることができる。近年ではIoTに特化した無線通信技術として、LPWAやLoRaWAN等の方式が利用されている。また、エッジコンピューティングなど、センサー側で情報処理を行った後に情報基盤にデータを伝送するケースも想定される。通信規格は各国・各団体による標準化が進んでいるが、今後デジタルツインが組織や国境を跨いで利用される際には、こうした標準化の活動が重要になることが想定される。

情報基盤は各種センサーから取得した時系列データを統合する機能を持つ。統合されたデータは情報基盤において機械学習・人工知能等の解析技術によってモデル構築・データ処理がなされ、時系列変化の予測等に活用される。こうしたリアルタイムデータや将来の予測データによってデジタル空間の状態を更新することで、一般的にデジタルツインとして認識される動的なモデルを表示・シミュレーションする機能を実現している。

(3)期待される効果

ア 業務効率化

デジタルツインによって現実世界のリアルタイムなモニタリング、及びシミュレーションが可能になることで、デジタルツインのユーザーは業務効率化の効果を得ることができる。

例えば、飛行機のエンジンは事前に故障を防ぐため、一定期間毎に生産設備の点検を行って、故障やその兆候を確認する必要があった。飛行機のエンジンの状態をデジタルツインによって継続的にモニタリングすることで、故障の予兆がない場合はメンテナンスの回数を減らすことができる。必要な時に、必要な部分のみメンテナンス等の対応ができることから、デジタルツインのユーザーは業務の効率化が期待できる。

デジタルツインによって、ビジネスモデルを変革した企業もある。米GEの伝統的なビジネスモデルは物理的な製品の売り切りモデルであったが、自社のエンジンにデジタルツイン技術を導入することで、故障直前の事前メンテナンスなどのサービス提供によるビジネスモデルへの変革を実現している。

イ 付加価値向上

デジタルツインによってリードタイムの縮小などの付加価値向上の可能性もある。デジタル空間上に、バーチャルセンサーと呼ばれる現実世界には存在しない仮想のセンサーを構築することで、現実世界での振る舞いを仮定することができる。

例えば、製造業や建築業の企画・設計プロセスについて、従来は設計図面に基づいたプロトタイプを製作して各種試験を行っていたが、試験結果によっては図面の引き直しやプロトタイプの再製作が必要であった。デジタルツインを企画・設計プロセスに導入することで、デジタル空間上でのシミュレーションが可能になり、実際にプロトタイプを製作しなくても各種試験の実施が可能になったことで、コスト削減だけでなく製品開発のリードタイム縮小効果が期待される。

(4)普及に向けた課題

デジタルツインは実用化が進みつつある技術の集合体であり、単純な構成であれば技術的な障壁は大きくないが、実用的に活用する上では多くの課題がある。

デジタルツインは対象物のセンサーデータを基にシミュレーションを行うが、モニタリングされていない周辺環境との相互関係を観測・予測することは難しい。実際の現実世界では何かしらの資産に対して、周辺のモノ、ヒト、その他の外部環境が影響し合って、時系列的な変化が起こっていくが、全ての要素を漏れなくシミュレーションすることは困難である。こうした問題に対して、デジタルツインではバーチャルセンサーという機能によって対処している。バーチャルセンサーは物理的なセンサーを伴わず、デジタル空間上で想定される挙動や時系列的な変化をセンシングする機能であり、現実空間に設置が必要なセンサーの数の減少に寄与する。

また、デジタルツインはIoT等のテクノロジー活用を前提としたソリューションであり、導入効果はユーザー側の体制・導入方法に依存する。デジタルツインの技術とその使い方を理解できるテクノロジー人材の充足が課題となる可能性がある。現実問題として、IoT等を専門とする技術者は多くのユーザーにおいて不足感が強い。

最後に、とりわけ街のデジタルツインなどの個人情報を取り扱う可能性のある構想においては、個人情報保護に関する法令順守、及び住民理解の醸成が必要になる。米グーグルは2017年に加・トロントをスマートシティとして再開発することを発表したが、2020年5月7日に不安定な経済情勢と不動産市場に起因する収益性の悪化を理由にプロジェクトの中止を発表した。プロジェクト中止の背景には、上記のような経済的な理由だけでなく、同国自由人権協会によって訴訟されるなど、個人情報の取得・活用に関する住民理解が得られなかったことが指摘されている58

2 デジタルツインの活用事例

デジタルツインは航空産業や製造ラインなど、製造業のユーザーを中心に活用が始まったが、現在では幅広い分野での活用が始まっている。現時点でデジタルツインの活用が最も進んでいるのは、製造業、プラントエンジニアリング、国土計画・都市計画の3分野である。デジタルツインの導入目的は分野によって異なるが、現時点では業務効率化やコスト削減を目的としたソリューション及び導入事例が中心である。以下に各分野における活用事例を紹介する。

(1)製造業:GE

米GEが提供するGE90エンジンは大型ジェット機に採用される世界最大級のエンジンであるが、デジタルツインのコンセプトを示す事例といえる。GEはエンジンブレードをデジタルツインで再現することで、時間経過によるエンジンブレードの損傷を予測することを可能にしている。

GEのデジタルツインは、AWSやMicrosoft Azureなどのクラウド環境で動作する。デジタルツイン上に仮想センサーを設置することで、現実の資産が時間経過によってどのように変化していくかシミュレーションを行うことができる(図表2)。また、GEのデジタルツインは使い続けることによって、アルゴリズムの学習が促され、精度向上が期待できるようになっている。

図表2 GE製の航空機エンジン
(出典)Ian Abbott59

飛行機のエンジンはその巨大なサイズから、交換等の対応が困難であるためにメンテナンスコストが高止まりになっていた。ボーイング等のGE90のユーザーは、デジタルツインを活用することで過剰なメンテナンスを削減することが可能になり、メンテナンスサービスに要するコストを数千万ドル削減することができた。

米GEは飛行機エンジン以外にも、デジタルツインの適用範囲を拡大させている。代表的なところでは、発電所、鉄道、風力発電等の発電設備向けの製品にデジタルツインを組み込んで提供することで、顧客のコスト削減を支援している。

(2)プラントエンジニアリング:三井海洋開発

三井海洋開発はDigital EPCI(Engineering, Procurement, Construction & Installation)及びDigital O&M(Operations & Maintenance)と呼ばれるシステムを開発し、自社のFPSO(Floating Production, Storage and Offloading system)への導入と、対外的なシステム販売を進めている(図表3)。

図表3 三井海洋開発のDigital & Analytics
(出典)三井海洋開発株式会社60

同システムは各洋上設備に1万個以上設置されるセンサーによって、圧縮機やガスタービン、ポンプを流れる気体や液体の流量・温度・振動などのデータを取得・集約している。こうしたデータの分析によって、部品の劣化時期の予測や異常値を検知することができるため、故障前のメンテナンスが可能になり、設備のダウンタイムの縮小を可能にしている。

同社がブラジルのプラントで行った試験導入では、1年間の稼働停止時間が従来比65%に削減された。また、従来はプラントの監視を行う従業員は住み込みで業務に従事する必要があったが、同システムを利用することで、現場から離れた陸上から操業を監視することができる可能性がある。

2020年1月の世界経済フォーラムにおいて、同システムを実装したFPSOは石油・ガス業界のデジタライゼーションをけん引する事例として高く評価され、第四次産業革命をリードする世界で最も先進的な工場に認定されている。今後、三井海洋開発は自社が保有・運転する施設に順次導入を進める他、三井物産と共同で新会社を設立して、石油大手などを対象にシステムの外部販売を進める予定である。

(3)国土計画・都市計画:シンガポール国立研究財団

バーチャルシンガポールプロジェクトは、シンガポール国立研究財団(NRF)、首相府、シンガポール土地管理局(SLA)、およびシンガポール政府技術庁(GovTech)によって支援された国家プロジェクトである。交通経路や日照等のシミュレーションによる都市計画や太陽光発電能力の分析ツールを行政、民間企業、研究機関に提供することで、シンガポールを対象とした実証実験・サービスの企画や社会課題を解決するための学術研究を可能にしている(図表4)。

図表4 仮想化されたシンガポール
(出典)The National Research Foundation61

バーチャルシンガポールは、仏ダッソー・システムズの「3DEXPERIENCity」と呼ばれるシステムを利用している。同システムは、仏レンヌがシンガポール同様の都市の3D化に関するプロジェクトを実施している他、日本では大成建設が銀座エリアの3Dモデル化のために同システムを利用している。3DEXPERIENCityは都市レベルの大規模な3Dデータとリアルタイムデータ等のフローを適切な詳細度で統合する機能を持つため、シミュレーションに活用されるだけでなく、設備等のライフサイクル管理に用いることができる。

シンガポールでは、都市の持続可能な発展を目指す研究開発プログラムを通じて、最先端のビルではエネルギー消費量を最大で60%削減するなどの成果が出ている。今後はこれらの活動と組み合わせてバーチャルシンガポールが活用されることが期待されている。

バーチャルシンガポールは静的な3Dモデルとして構築されるが、外部のリアルタイムデータと連携することで、動的な3Dモデル・シミュレーターとして活用されることを狙っている。シンガポールでは個人が持ち歩くセンシングデバイスから都市環境データを取得して、気候や人流のリアルタイムデータを組み合わせた分析を進めている。

3 今後の見通し

従来は製造業を中心に業務効率化を中心に活用されてきたデジタルツインだが、今後は街づくりなどより広範な領域の付加価値向上に活用されていく可能性がある。また、デジタルツインの適用範囲が広がることで、行政機関や民間事業者を含めた組織を跨いだデータ統合・活用のニーズが増加していくことが想定される。

国内の官公庁主導の動きとして、デジタル・ガバメント閣僚会議が令和2年12月21日に決定した「データ戦略タスクフォース第一次とりまとめ」では、データ戦略のビジョンとして「フィジカル空間(現実空間)とサイバー空間(仮想空間)を高度に融合させたシステム(デジタルツイン)を前提とした、経済発展と社会的課題の解決を両立(新たな価値を創出)する人間中心の社会」を目指すことが示された。

データ戦略によって期待する効果として、新たな価値の創出と業務改革の2つが示されている。新たな価値の創出の具体例としては、データ分析を基にパーソナライズされた医療行為等の高度なサービスや、政策の効果測定・Evidence-Based Policy Makingを実現するとしている。こうした新たな価値を創出するために、これまでの業務やビジネスデザインをゼロベースで徹底的に見直す業務改革の必要性を強調している。Society5.0と呼ばれる一連の取組を実現させるための基盤として、デジタルツインが位置付けられている。

Society5.0の実現に向けた課題として、政府は次の課題を挙げている。喫緊に取り組むこととして、データ利活用の土台となる「ベース・レジストリなどの基盤となるデータ」を整備すること、これらの起点に関連する「データを連携するプラットフォームの構築」、そして国際整合性を確保したデータ利活用に関する「トラストの枠組みの整備」の3項目があげられる。また、引き続き検討すべき事項として、「データ利活用の環境整備」、「民間保有データ活用の在り方」、「デジタルインフラの整備・拡充」があげられている。前述以外の事項では、人材面・国際連携に関する検討課題があげられている。

Society5.0や都市のデジタル化に代表されるように、これからデジタルツインが適用されていく領域は、広範で多数のデータが存在している。前述の通り、組織や国境を跨いだ多次元・多頻度のデータをセキュアに統合・活用するために、情報基盤の整備や各種制度への適合が求められる。



57 東京都「デジタルツイン実現プロジェクト」(https://www.digitalservice.metro.tokyo.lg.jp/society5.0/digitaltwin.html別ウィンドウで開きます

58 内閣府が進める「スーパーシティ構想」では、こうした問題に対して住民の代表が参画する「区域会議」を設定することで、利便性の高い街づくりと、安心して生活できる都市を両立させることを目指している。

59 Ian Abbott「GE90 Engine」(https://www.flickr.com/photos/ian_e_abbott/50017857571別ウィンドウで開きます
 Ian Abbottによる「GE90 Engine」は、Creative Commons表示−非営利−継承2.0一般License.によってライセンスされています。
 c Ian Abbott 2019(https://creativecommons.org/licenses/by-nc-sa/2.0/別ウィンドウで開きます

60 三井海洋開発「Digital & Analytics」(https://www.modec.com/jp/business/digital_analytics/別ウィンドウで開きます

61 The National Research Foundation「Virtual Singapore」(https://www.nrf.gov.sg/programmes/virtual-singapore別ウィンドウで開きます

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