総務省トップ > 政策 > 白書 > 令和3年版 > デジタル・トランスフォーメーションに取り組む上で必要な変革
第1部 特集 デジタルで支える暮らしと経済
第2節 企業活動におけるデジタル・トランスフォーメーションの現状と課題

5 デジタル・トランスフォーメーションに取り組む上で必要な変革

本節の締めくくりとして、企業がデジタル・トランスフォーメーションに取り組む上で必要な変革について、アンケート調査及び事例調査を基に検討に際してのポイントをまとめた。第3項で述べたのと同様に、企業が直面する状況によって、変革すべきポイントも変わるものであることから、企業自身で必要な変革について検討することが重要である。

ア 社内の意識改革

デジタル化の波が押し寄せる中、デジタル企業が既存企業等を脅かすデジタル・ディスラプションが国内外で既に発生している。それにもかかわらず、我が国の企業は、デジタル化による影響を認識しながらも、デジタル・トランスフォーメーションの実施に踏み切れていない。必要性を認識する人間が経営層や社員の一部にとどまり、社内全体で危機意識の共有が図られていないことも考えられる。コロナ禍を契機としてデジタル化が加速する中、社内の意識を改革し、デジタル・トランスフォーメーションの必要性を共有することが何よりも重要である。加えて、手段から入るのではなく、自社の事業や製品/サービスが抱える問題やその改善の機会を探索し、自社の問題を明確化することから取り組むべきであろう35

イ 組織の改革、推進体制の構築

デジタル・トランスフォーメーションは、業務を単にデジタルに置き換えるのではなく、ビジネスモデルや組織、文化の変革を伴うものである。したがって、最初は特定の部署に限定した取組であっても、企業全体を巻き込んだ取組に発展する可能性がある。

そこで、デジタル・トランスフォーメーションを推進するための体制構築が重要となる。日本は米国・ドイツと比べて経営層(社長、CIO、CDO等)の関与が少ないとの結果が出ていたが、全社的な取組になるほど上層部による主導が重要と考えられる。また、専門組織を設置して主導する場合には、企業全体に関与できるだけの権限の付与も必要となってくるであろう。

ウ 実施を阻害する制度・慣習の改革

デジタル・トランスフォーメーションの実施を阻害するものとして規制・制度や文化・業界慣習の存在を挙げる企業は多い。法令に定められた規制・制度や業界横断的な慣習を一社の力で変えることはなかなか難しいが、社内に限定した制度・慣習の変革は、上層部の判断一つで変革することが可能である。例えば、業務をデジタルで完結できない手続き(書面・対面・押印など)、リモートでの勤務を認めない就業規則、端末やデータの社外持ち出しを全面的に禁止するセキュリティポリシーなど、見直すべきポイントは随所に存在している。

エ 必要な人材の育成・確保

デジタル人材の不足を指摘する意見は特に我が国では多い。デジタル・トランスフォーメーションの推進に必要な人材は、デジタル技術に詳しい人材だけでなく、ビジネスを理解する人材や、最近では、デザイン思考の重要性が指摘されるなど、UI/UXを意識したデジタルデザインができる人材も必要と言われている。これらを全て兼ね備えた人材が社内に存在することが理想であるが、現実には難しいと言わざるを得ない。

また、日本はデジタル・トランスフォーメーションの実施に必要な人材について、内部での育成を志向する様子がうかがえる。他方、米国やドイツでは、外部からの人材登用等で対応する傾向にある。今後、我が国でも外部のリソースを活用しながら取組を進める「オープン志向」が重要となるであろう。

また、高度なデジタル人材が育つような環境作りも重要となる。社会人になってから学び直すことでより高度な知識を獲得する「リカレント教育」も手法の一つとして有用であろう。

オ 新たなデジタル技術の導入・活用によるビジネスモデルの変革

デジタル企業がデジタル技術を活用することで新たなコスト構造に適したビジネスモデルを構築することは、既存企業にとって大きな脅威となる。それに対抗するには、既存企業の側も新たなデジタル技術を導入・活用することでビジネスモデルを変革させることが重要となる。日本企業はアンケート結果からは米国やドイツの企業と比べると、デジタル活用は不十分と言わざるを得ない結果となっている。他方、新興国ではデジタルの普及が急速に進んだ結果、新たなデジタル企業が相次いで登場し、世界への進出を図っている。市場がグローバル化する中、国内外を問わず出現するディスラプターに対抗するには、デジタル技術を導入・活用することで新たな付加価値を付与する取組を進める必要がある。

カ その他

アンケート結果ではレガシーシステムの存在がデジタル・トランスフォーメーションを進める上での障壁との意見もみられる。従来の業務の進め方を前提に構築されたレガシーシステムを刷新し、クラウド等のウェブ上に存在するリソースの活用を前提とした業務への改革が重要である。従来のレガシーシステムの代わりに導入したシステムがまたレガシーとなることのないよう注意すべきである。



35 塩谷・小野﨑(2021)「日本における情報サービス業の変遷と今後の展望−時系列整理とDXへの取り組みを中心に」情報通信総合研究所, InfoCom Economic Study Discussion Paper Series, No. 17では、ユーザ企業において実践する上で重要な点について、ベンダー企業との関係、経営層、人材から整理している。ベンダー企業との関係において自社の課題や対応方針を論理的に伝え、ベンダー企業への丸投げの状態を改善し、システムのブラックボックス化等の阻害要因を取り除くことが重要である点を指摘している。

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